アーカイブズ資料記述および目録編成の一例 ～資生堂企業資料館所蔵資料を例に～
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Example: Description, Arrangement and Cataloging of an Archival Series in Shiseido Corporate Archives
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アーカイブズ資料記述および目録編成の一例 ～資生堂企業資料館所蔵資料を例に～
- 3. 1.はじめに アーカイブズに関心をもったきっかけ アーカイブズ実習(10日間)で取り組んだ資料整理 今回は自己の修士論文「企業資料におけるアーカイブズの存 在意義と国際標準適用による記述の試み－資生堂企業資料館 の昭和期資料を事例として－」の一部を発表 2
- 4. 2.資生堂資料の概要 資生堂の歴史 1872(明治5)年に福原有信が東京・銀座に日本初の洋風調剤薬局として創業。社名の由来は中国の 古典『易経』の一節「至哉坤元 万物資生」より。薬の調剤だけではなく、売薬、日用品も手掛け、 1897(明治30)年には化粧品業界へ進出。現在では化粧品、日用品、理・美容製品、美容食品、医薬品 の製造・販売、美容室、レストラン経営などを行っている。また、日本で現存する最古のギャラリーと 言われる資生堂ギャラリー(1919(大正8年)開廊)の運営等、文化芸術活動(メセナ活動)も活発な企業 としての一面もある。そして、かつて「東京・銀座・資生堂」というキャッチコピーを使用していたよ うに、創業の地である銀座を会社の一つのアイデンティティと認識している。 資生堂企業資料館とその収蔵資料の概要 創業120周年の1992(平成4)年に資生堂掛川工場の敷地内に開館した。本社、企業 文化部管轄。収蔵資料としては、文書、商品、宣伝制作物、音声映像、写真、商品 販 促物書籍、美術工芸品など約２４万点が保管されている。 資生堂文書資料について 上記収蔵資料の中の文書資料約1万2千点。資生堂企業資料館では文書資料分類が 作成されている。資料1 資生堂文書資料分類 「オイデルミン」(明治30年) 3
- 5. 3.ISAD(G)によるフォンド記述「資生堂」 フォンド サブフォンド サブサブ フォンド シリーズ ファイル 資生堂販売㈱ 人事部 広報部 人事規程 資生堂薬品㈱本 社 (以下略) ・ ・ ・ 刊行物 資 生 堂 図2 資生堂をフォンドとした出所別 階層構造イメージ 図1 資料階層構造イメージ 3.1 資生堂文書資料の構造について 4
- 6. 資 生 堂 生産(F3) フォンド サブフォンド 機能 1(=分類 A) (以下略) ・ ・ ・ (以下略) ・ ・ ・ ファイル サブサブフォンド 機能 2 (=分類 B) シリーズ (=分類 C) 関連情報・資料(F1-2) (以下略) ・ ・ ・ 短期商品計画 (F1-1-2) ファイル A (F1-1-1-0001) ファイル B (F1-1-2-0001) 長期商品計画 (F1-1-1) 計画・管理(F1-1) 商品(F1) 販売(F4)研究(F2) 図3 資生堂をフォンドとした機能別階層構造イメージ 5 3.2 ISAD(G)によるフォンド記述「資生堂」資料3 →上記理解で文書資料分類を階層に分けたもの 資料2 文書資料編成 「資料」を主語として表現する 書くことのない欄は空欄で良い
- 7. 4.「福原信三」資料の整理とISAD(G)項目による 目録作成 福原信三とは 福原信三は1883(明治16)年、創業者福原有信の三男として生まれる。千葉医学専門学校 （現・千葉大学医学部）を卒業後、米国・コロンビア大学薬学部に留学する。帰国後、資生 堂の経営を引き継ぎ、1927(昭和2)年に株式会社化した際の初代社長に就任。経営者、薬剤 師、調香師、デザイナー、写真家としても活躍し、多彩な才能を会社経営に活かした人物と いえる。資生堂のシンボルマークである「花椿マーク」も原案は彼によるもの。 なぜ資料整理が必要だったか ―「福原信三」資料は歴史＞創業・人物＞福原信三に分類されているものでアイテム数65点。 資料2 文書資料編成 ―既存の目録が利用し難いため、資料の内容を調査したうえで、利便性の高い目録を整えたい。 ⇒アーカイブズ実習として取りかかることに。 表1 文書管理目録＜抜粋＞ ※資生堂企業資料館作成 6
- 8. 4-1 目録項目の設定 資生堂企業資料館における文書資料目録の既存項目 分類A ／分類B ／分類C ／入力NO.／資料名／制作年／発行部門／収蔵棚NO. 3.1 個別情報のエリア 3.1.1 レファレンス・コード 3.1.2 標題 3.1.3 年代 3.1.4 記述レベル 3.1.5 記述単位の大きさと媒体(量、容積、または 寸法) 3.2 コンテクストのエリア 3.2.1 作成者名 3.2.2 組織歴 3.2.3 伝来 3.2.4 取得あるいは譲渡の直接の源泉 3.3 内容および構造のエリア 3.3.1 範囲と内容 3.3.2 評価・廃棄と日程計画の情報 3.3.3 追加受入 3.3.4 整理の体系 3.4 公開および利用条件のエリア 3.4.1 利用可能性〔/公開〕を規定〔/統制〕する条件 3.4.2 複製を規定〔/統制〕する条件 3.4.3 史料実体の言語/書体 3.4.4 物的特徴と技術的要件 3.4.5 検索手段 3.5 関連資料のエリア 3.5.1 オリジナル資料の有無 3.5.2 複製の有無 3.5.3 関係する記述単位 3.5.4 出版についての注記 3.6 注記のエリア 3.6.1 備考 3.7 記述管理のエリア 3.7.1 アーキビストの注記 3.7.2 準拠規則類 3.7.3 記述作成年月日 追加項目・・・数量／収蔵棚NO.／画像番号 ISAD（G）項目 ※二重取り消し線は今回採用していない項目 7
- 9. 表2 文書管理目録＜抜粋＞ ※資生堂企業資料館作成 分類A 分類B 分類C 入力NO. 資料名 制作年 発行部門 収蔵棚NO. 歴史 創業・人物 福原 信三 091022026M 福原信三伝 執筆文章，自筆原稿 Ｌ１５Ｃ 4-2 資料整理の結果・・・ 3.1.4 記述レ ベル 3.1.1 レファレンス・ コード 3.1.2 標題 3.1.3 年代 3.1.5 記述単位の大きさと媒体(量、容積、または 寸法) 数量 3.2.1 作成者名 収蔵棚NO. 3.4.2 複製 を規定〔/ 統制〕する 条件 3.4.4 物的 特徴と技 術的要件 3.5.4 出版につい ての注記 3.6.1 備考 ファイル 091022026M 福原信三伝 執筆文章，自筆原稿 1883～1972 福原信三の自筆原稿、書簡、出版物コピー、福 原信三伝編集員会資料、信三関連展覧会資料 139点 サブファイル 091022026M-0 福原信三 自筆原稿 1883～1941 ファイル091022026M内の主に福原原稿用紙に 自筆で書かれた執筆原稿 091022026M-1～50 50点 福原信三 Ｌ１５Ｃ 原 アイテム 091022026M-1 福澤全集第十巻 売薬論 1883 福原原稿用紙（自筆） 13枚 福原信三？ Ｌ１５Ｃ 原 現物未確認 アイテム 091022026M-2 福澤全集第十巻 通俗売薬論 通俗医術論 1883 福原原稿用紙（自筆） 8枚 福原信三？ Ｌ１５Ｃ 原 現物未確認 アイテム 091022026M-3 福澤全集第十巻 学者と町人 1886 福原原稿用紙（自筆） 17枚 福原信三？ Ｌ１５Ｃ 原 現物未確認 アイテム 091022026M-4 福澤全集第十巻 医薬分業行われ難し 1891 福原原稿用紙（自筆） 11枚 福原信三？ Ｌ１５Ｃ 原 現物未確認 アイテム 091022026M-5 「銀座」の編纂について 1921 福原原稿用紙（自筆） 13枚 福原信三 Ｌ１５Ｃ 原 『銀座』1921年 10月 アイテム 091022026M-6 （私は銀座で生まれましたもので） 1921 福原原稿用紙（自筆） 11枚 福原信三 Ｌ１５Ｃ 原 『銀座』1921年 10月 アイテム 091022026M-7 復興したい新家屋 アパートメントとアーケード 1924 福原原稿用紙（自筆） 15枚 福原信三 Ｌ１５Ｃ 原 『東京日日新聞』 1924年10/16， 17，27 アイテム 091022026M-8 銀座の新装 1925 福原原稿用紙（自筆） 7枚 福原信三 Ｌ１５Ｃ 原 『銀座』創刊号 1925年5月 アイテム 091022026M-9 川島理一郎君の事 1925 福原原稿用紙（自筆） 20枚 福原信三 Ｌ１５Ｃ 原 『アトリエ』第2巻 9号 アイテム 091022026M-10 写真の芸術上の考察 1925 福原原稿用紙（自筆） 20枚 福原信三 Ｌ１５Ｃ 原 『龍門雑誌』第 437号 アイテム 091022026M-11 写真芸術1年の回顧 1925～26 福原原稿用紙（自筆） 11枚 福原信三 Ｌ１５Ｃ 原 『日本写真年鑑』 大正14～15 アイテム 091022026M-12 魂の検査 1926 福原原稿用紙（自筆） 10枚 福原信三 Ｌ１５Ｃ 原 『アサヒカメラ』 1926年8月号 アイテム 091022026M-13 大自然への同化 1926 福原原稿用紙（自筆） 9枚 福原信三 Ｌ１５Ｃ 原 『アサヒカメラ』 1926年9月号 アイテム 091022026M-14 自然にかえるべきか 1927 福原原稿用紙（自筆） 8枚 福原信三 Ｌ１５Ｃ 原 『アサヒカメラ』 1927年3ノ6 アイテム 091022026M-15 印画面上の自然 1927 福原原稿用紙（自筆） 7枚 福原信三 Ｌ１５Ｃ 原 『アサヒカメラ』 1927年4ノ5 アイテム 091022026M-16 香水 匂いと香料 1927 福原原稿用紙（自筆） 16枚 福原信三 Ｌ１５Ｃ 原 『御婦人手帳』 アイテム 091022026M-17 外国での新年の思い出 1928 福原原稿用紙（自筆） 8枚 福原信三 Ｌ１５Ｃ 原 アイテム 091022026M-18 光と其の諧調の義解 1929 福原原稿用紙（自筆） 8枚 福原信三 Ｌ１５Ｃ 原 『日本写真会 会 報』 アイテム 091022026M-19 天稟か汗か 1929 福原原稿用紙（自筆） 9枚 福原信三 Ｌ１５Ｃ 原 『アサヒカメラ』第 7巻6月号 アイテム 091022026M-20 化粧品の容器の材質及び形状の最近の傾向 1929 福原原稿用紙（自筆） 11枚 福原信三 Ｌ１５Ｃ 原 『帝京工芸』第3 巻第5号 ・ ・ ・ 表3「福原信三資料ISAD(G)記述」0901022026Mの福原信三の自筆原稿部分＜抜粋＞(空欄の行は非表示)※清水作成 文書資料の情報量が飛躍的にUP！ 8
- 10. 文書資料の情報量UPが検索結果の充実にも 表4 既存の文書管理目録 歴史＞創業・人物＞福原信三の「香水」による検索結果・・・1件 分類A 分類B 分類C 資料名 制作年 発行部門 収蔵棚NO. 歴史 創業・人物 福原 信三 130421002N 「新装」第1巻第3号 福原信三「香水の話」コピー 1935 Ｌ１５Ｃ 表5「福原信三資料ISAD(G)記述」の「香水」による検索結果(空欄の行は非表示)・・・6件 3.1.4 記述レ ヴェル 3.1.1 参照記号；レファレン ス・コード 3.1.2 標題 3.1.3 年代 3.1.5 記述単位の大き さと媒体(量、容積、ま たは寸法) 数量 3.2.1 作成者名 収蔵棚NO. 3.3.1 範囲と内容 3.4.2 複製 を規定〔/ 統制〕する 条件 3.5.4 出版につい ての注記 3.6.1 備考 アイテム 091022026M-16 香水 匂いと香料 1927 福原原稿用紙（自筆） 16枚 福原信三 Ｌ１５Ｃ 原 『御婦人手帳』 アイテム 091022026M-28 香水雑話 1933 福原原稿用紙（自筆） 11枚 福原信三 Ｌ１５Ｃ 原 「セルパン』第7 号 アイテム 091022026M-47 香水銀座 不明 福原原稿用紙（自筆） 4枚 福原信三 Ｌ１５Ｃ 原 商品能書用？ アイテム 091027051M-1 その人の顔や姿で香水も変わる 福原信三氏談 1927 記事スクラップ 1点 (福原信三） Ｌ１５Ｃ その人の顔や姿で香水も変わる ここまで行か ねば本当ではない 段々目立つその個性化 原 『都新聞』3月1日 第14085号 アイテム 091027051M-2 春の香水には 植物性の匂い 福原信三氏談 1927 記事スクラップ 1点 (福原信三） Ｌ１５Ｃ 春の香水には 植物性の匂い 柔らかいもの がいい 東洋的になった外国の香水 原 『都新聞』3月2日 第14086号 アイテム 130421002N 福原信三「香水の話」コピー 1935 Ｌ１５Ｃ 複 『新装』第1巻第3号 社内見学にも活用 091022026M-20 「化粧品の容器の材質及び形状の最近の傾向」、091022026M- 16 「香水匂いと香料」の2点を生産技術関係（社内）の見学者が閲覧。（資生堂企 業資料館 中野さんより） 9
- 11. 4-3 「福原信三」資料の構造 シリーズ サブシリーズ サブサブシリーズ 10 「福原信三」資料 ―福原信三伝編集委員会資料―― 伝記『福原信三』のために1965年「福原信三伝編集委員会」が立ち上がり、 編集準備、執筆計画、関係者への聞き取り調査、本人関係資料の収集が開 始され1970年に無事刊行された。 「福原信三伝編集委員会」の活動とは別の文脈で、写真家、芸術家として スポットを当てた展覧会、回顧展や彼の業績を再評価した雑誌記事などの 資料の蓄積が「その他資料」である。 資料整理からわかったこと ① 福原信三関係資料（1905～1941頃） ―② 編集委員会資料（1965～1971） ③ その他資料（信三を対象とした展覧会、研究 雑誌記事など）（1970～） 図4
- 12. 5. ISSAR(CPF)による人物記述 ISAAR (CPF)とは何か “International Standard Archival Authority Record For Corporate Bodies, Persons and Families”の略でアーカイブズ資料の出所（団体・個人・家） に関する記述規則のこと。 ISAAR (CPF)による人物記述の紹介 資料4 ISSAR(CPF)記述 福原有信（創業者） 福原信三（初代社長） 松本昇（２代目社長） 11
- 13. 6.オーストラリア シリーズ・システムの 適用 組織変更による記述の重複 資料3 フォンド記述「資生堂」 F7(経営)-2(経営計画)-1(長期計画)シリーズを例に、ISAD （G）による記述とシリーズシステムによる記述の比較 資料2 資 料5 様々な作成者・・・松本昇(2代目社長) 伊与田光男(3代目社長)、伊藤隆男(4代目 社長)、大塚浩一(旧常務取締役)、企画部、企画課、経営企画 部、広報室、セールス室、技術部、外国部 組織改編による部門変更 企画部 → 役員室企画課 → 企画部 → 経営企画部 （1949～1951）（1951～1960） （1960～1989）（1989～現在） 12 図 5 シリーズ記述において組織歴が重複する場合のイメージ シリーズ１ 作成者：部門 a, 部門 b, 部門 c 組織歴：部門 a・・・ 部門 b・・・ 部門 c・・・ ＜以下省略＞ シリーズ 2 作成者：部門 b, 部門 c 組織歴：部門 b・・・ 部門 c・・・ ＜以下省略＞ シリーズ 3 作成者：部門 a, 部門 c, 部門 e 組織歴：部門 a・・・ 部門 c・・・ 部門 e・・・ ＜以下省略＞
- 14. 7.まとめ 目録作りの前提となる資料整理の大切さ 国際標準に企業資料も十分に適応可能 組織に合った目録作り 目録の内容が充実することで資料全体が活きる 13 会社の歴史、事業のコンテク スト（文脈）が正しく 理解でき、これからの会社経 営や事業運営に役立たせるこ とができる 眠ったままの資料が宝の山かもし れません！