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Plus de Fusaji Hayasaka (20)
2010要旨(酒井)(改)
- 1. 放射線の人体への影響
Effects of Ionizing Radation to Human Body
放射線医学総合研究所 酒井一夫
Kazuo Sakai
放射線はどんなに微量であっても有害であると言われることがあるが、ここでは人体へ
の影響が線量や線量率(単位時間あたりに与えられる線量)に大きく依存することにつき
検討を加えたい。
1. 影響の分類
放射線防護の分野では、放射線の生体への影響を線量との関係の観点から2種類に分類
する。
(1) 確定的影響:細胞が失われることによって起こる影響
人間の体はさまざまな組織・臓器から構成されている。さらに、それぞれの組織・臓器
は数多くの細胞で構成されている。放射線を受けると組織・臓器を構成している細胞がダ
メージを受け、失われることがあるが、失われる細胞がわずかなうちは周囲の細胞がこれ
を補うので、障害として現れることはない。しかしながら、線量が高くなり、失われた細
胞を補うことができなくなったときに、障害が生じる(図1)。
図 1:組織の回復力のために「しきい値」が生じる仕組み
組織の回復能力を越えて障害が現れはじめる線量を「しきい線量」あるいは「しきい値」
と呼ぶ。
- 3. に比べてその影響が小さいことが知られている。
4.生体防御機能—線量・線量率効果の背後にある仕組み
生体には放射線に限らず、さまざまな「ストレス」に対応するための防御機能が備わっ
ている。1) 体内に生じた反応性の高い物質を除去するための「抗酸化機能」、2) DNA の
上に生じた損傷を修復する仕組み、3)DNA 損傷が蓄積した細胞を除去するアポトーシス
と呼ばれる機構、4) がん化した細胞を除去する免疫機能などである。
このような何重もの防御機能が放射線による障害の発生に抑制的にはたらいており、こ
の能力で対応できなかった部分がリスクの増加につながるとすると、線量が低い場合の障
害の現れ方は、単純に線量に比例したものではないと考えられる(図2左図)。また、
一挙に受けた場合に防御能力を越える損傷を与える線量であっても、何回か(図2中図で
は 4 回)に分けて与えられた場合には、その時点、その時点で対処することができる分だ
けリスクの増加の程度は小さくなる。さらに、長期間にわたる低線量率の場合にも、各時
点で防御能力が機能するためにリスクの増加が一層小さくなることも考えられる(図2右
図)。
図2:時間的線量配分とリスクの増加
5.放射線防護と放射線生物作用
放射線防護の分野では、確定的影響の発生を防止することと確率的影響の発生を容認で
きるレベルまで低減することが目標とされる。この中で確率的影響の発生に関しては、
「そ
の発生にはしきい値はなく、リスクは線量に対して直線的に増加する」との考え方(直線
しきい値なしモデル Linear No-Threshold Model)が採用されている。これは、放射線