SlideShare une entreprise Scribd logo
1  sur  13
秦 正樹 2015年度日本選挙学会・社会心理部会2@崇城大学ホール
非有権者における政治関心の形成メカニズム
:政治的社会化の再検討を通じて
秦 正樹
神戸大学大学院法学研究科 博士課程後期課程
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構 主任研究員
hatam@dri.ne.jp
2015年 5月 17日(日)
秦 正樹 2015年度日本選挙学会・社会心理部会2@崇城大学ホール
● ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
問題の所在
 若年層における慢性的な政治的不活性
 3つの「低」:低投票率・低関心・低信頼
 公職選挙法改正による選挙権年齢の引き下げ
 2016参院選より18・19歳にも選挙権が付与される見込み
 若者の低投票率=シルバーデモクラシーの温床?
◯ はじめに
◯ 先行研究の整理・検討
◯ 理論と仮説
◯ 実験デザイン
◯ 実験結果
◯ 知見のまとめ
31.5%
43.3%
32.8%
46.7%
33.7% 35.3%
57.2%
67.9%
58.9%
70.2%
58.2% 58.7%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
2004年(参) 2005年 2007年(参) 2009年 2010年(参) 2012年
出典:明るい選挙推進協会「年齢別階層投票率」より
  20-24歳
  25-29歳
  平均
秦 正樹 2015年度日本選挙学会・社会心理部会2@崇城大学ホール
リサーチクエスチョン
 非有権者は,いかにして政治関心を形成するのか?
 年齢によって,初期or後期社会化の影響力はどのように異なるのか?
 非有権者群(18-19歳)と有権者群(20-79歳)を対象とした2つの
サーベイ実験の結果を比較する
若年層の政治意識をめぐるパズル
 「若年層=政治的無関心」は真か?
 20歳になるまでに関心喚起に強い影響を与える?
 初期社会化 vs 後期社会化:今でも後期社会化に軍配があがる?
 政治的社会化による若年層の政治関心の形成
 特定の職業利益のない非有権者が,いかにして政治関心を形成するの
かについての実証研究は少ない
● ● ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
◯ はじめに
◯ 先行研究の整理・検討
◯ 理論と仮説
◯ 実験デザイン
◯ 実験結果
◯ 知見のまとめ
秦 正樹 2015年度日本選挙学会・社会心理部会2@崇城大学ホール
年代ごとの政治的社会化の機能
 規範形成としての初期社会化
 エイジェント(親・学校)のフレーミング(Greenstein 1968)
 「規範の内面化」(Easton 1960; Dawson et al., 1988)
 利益ネットワークとしての後期社会化
 日本における職業利益団体編成モデル(三宅 1985;1988;1996)
 「利益民主主義への参入」(Wolfinger 1980; Prior 2010)
政治意識の安定性
 ミシガンモデルを前提とする意識の安定性と規定性
 若い時期に生じた関心は,その後も安定的に継続(Jennings and
Niemi 1974; 1981; Shani 2009)
 業績判断に伴う短期的変動(Fiorina 1980)
● ● ● ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
◯ はじめに
◯ 先行研究の整理・検討
◯ 理論と仮説
◯ 実験デザイン
◯ 実験結果
◯ 知見のまとめ
秦 正樹 2015年度日本選挙学会・社会心理部会2@崇城大学ホール
先行研究の検討
 理論における課題
 非有権者(18-19歳)が受ける影響は,初期社会化だけなのか?
 有権者になって以降の「規範の内面化」の効果はどうなるのか?
 実証における課題
 被説明変数と説明変数の距離:トートロジー?
 因果の不在:「社会化→関心」?「関心→社会化の記憶」?
先行研究の問題への対応
 理論的課題への対応
 有権者 vs 非有権者における「規範/利益」に関する比較モデル
 方法論的課題への対応
 サーベイ実験の導入:「社会化→関心」の方向で因果関係を検討
● ● ● ● ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
◯ はじめに
◯ 先行研究の整理・検討
◯ 理論と仮説
◯ 実験デザイン
◯ 実験結果
◯ 知見のまとめ
秦 正樹 2015年度日本選挙学会・社会心理部会2@崇城大学ホール
潜在的に与えうる社会化の効果
 規範;初期社会化により,政治制度への信頼を通じて関心を高める
 利益;後期社会化により,利益の追求を通じて関心を高める
● ● ● ● ● ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
◯ はじめに
◯ 先行研究の整理・検討
◯ 理論と仮説
◯ 実験デザイン
◯ 実験結果
◯ 知見のまとめ
秦 正樹 2015年度日本選挙学会・社会心理部会2@崇城大学ホール
本稿の仮説
 仮説1
非有権者は,初期社会化と後期社会化の影響を相互に受けるため,規
範・利益のいずれの情報にも反応して,関心を高める
 仮説2
有権者は,後期社会化の影響が相対的に大きくなるため,利益に関す
る情報にのみ反応して,関心を高める
● ● ● ● ● ● ○ ○ ○ ○ ○ ○
◯ はじめに
◯ 先行研究の整理・検討
◯ 理論と仮説
◯ 実験デザイン
◯ 実験結果
◯ 知見のまとめ
秦 正樹 2015年度日本選挙学会・社会心理部会2@崇城大学ホール
サーベイ実験の概要
 非有権者群
 被験者;関西大学法学部・現代政治論(1回生向け授業)の受講生
221名(ただし20歳未満に限定するため,分析ではn=214)
 実施時期;2014年1月19日
 調査方法;質問紙・ランダム化は手作業
 有権者群
 被験者;ファストアスク社のパネルサンプル(20歳以上)の333名
 実施時期;2014年3月10〜11日
 調査方法;WEB調査・ランダム化はコンピュータ上で実施
 いずれも,規範群・利益群・統制群の3実験群を用意.
◯ はじめに
◯ 先行研究の整理・検討
◯ 理論と仮説
◯ 実験デザイン
◯ 実験結果
◯ 知見のまとめ● ● ● ● ● ● ● ○ ○ ○ ○ ○
秦 正樹 2015年度日本選挙学会・社会心理部会2@崇城大学ホール
リード文
2014年12月の衆議院総選挙における投票率は,戦後最低の52.7%でした。
とくに,若い世代の投票率は大変低いものでした。一般的に,政治家は,
投票に行ってくれない若者の意見よりも,絶対に投票してくれる老人や年
長の世代の意見の方に耳を傾けていると言われます。またその結果,さま
ざまな政治の結果に影響があると言われています。
実験群1:規範
たとえば,若者の低投票率が続くと,若者
世代と年長世代の利益を調整することが出
来ず,ひいては民主主義をうまく運営でき
なくなる可能性があります。
つまり,世代間の投票率格差は,今後の日
本の民主主義を維持する上で悪い形で影響
しているのです。
実験群2:利益
たとえば,大学生の就職支援や子育て支援
など,若者に利益のある(得をする)政策
への予算が減る可能性があります。
つまり,世代間の投票率格差は,若者が実
質的に損をする形で影響しているのです。
↓ ↓
◯ はじめに
◯ 先行研究の整理・検討
◯ 理論と仮説
◯ 実験デザイン
◯ 実験結果
◯ 知見のまとめ● ● ● ● ● ● ● ● ○ ○ ○ ○
秦 正樹 2015年度日本選挙学会・社会心理部会2@崇城大学ホール
質問文
上の内容を読んで,あなたは,政治のできごとに,どの程度,興味を持ち
ましたか。あなたの正直なお気持ちをお答え下さい。
1. 興味をもった 〜 4. 興味をもたなかった(4件法;逆転尺度)
検証方法
 従属変数
 関心喚起量= 実験後の政治関心 − 実験前の政治関心
 関心が高まった層=1,関心変動なし or 低下層=0
 分析手法
 母比率の差の検定
 サンプルサイズの小ささを考慮するため
◯ はじめに
◯ 先行研究の整理・検討
◯ 理論と仮説
◯ 実験デザイン
◯ 実験結果
◯ 知見のまとめ● ● ● ● ● ● ● ● ● ○ ○ ○
秦 正樹 2015年度日本選挙学会・社会心理部会2@崇城大学ホール
実験群ごとの関心喚起量
◯ はじめに
◯ 先行研究の整理・検討
◯ 理論と仮説
◯ 実験デザイン
◯ 実験結果
◯ 知見のまとめ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ○ ○
秦 正樹 2015年度日本選挙学会・社会心理部会2@崇城大学ホール
◯ はじめに
◯ 先行研究の整理・検討
◯ 理論と仮説
◯ 実験デザイン
◯ 実験結果
◯ 知見のまとめ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ○
実験群ごとの関心喚起量
 規範:2.9% ↑
 利益:9.4% ↑
 規範:14.6%↑
 利益:6.1% ↑
秦 正樹 2015年度日本選挙学会・社会心理部会2@崇城大学ホール
知見のまとめ
 リサーチクエスチョン
 非有権者における政治関心はどのような条件で高まるのか?
 政治的社会化が想定する機能が,年齢によって異なるかを検証
 初期社会化による「規範」 v.s. 後期社会化による「利益」
 職業利益がない非有権者 →「規範」と「利益」のいずれも大事?
 経験的検証:規範・利益フレームを与えるサーベイ実験
 非有権者の実験群 → 規範フレームのみ関心↑
 有権者の実験群 → 利益フレームのみ関心↑
 (相対的に)非有権者群の利益フレームも一定の効果がみられる
 結論
 年長世代は「利益」にしか反応しないが,非有権者(若年世代)は
民主主義の規範的側面に反応する:「規範の内面化」機能は◯
 個人の利益に絡む「年長世代」vs 国全体を見渡した「若者世代」?
◯ はじめに
◯ 先行研究の整理・検討
◯ 理論と仮説
◯ 実験デザイン
◯ 実験結果
◯ 知見のまとめ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

Contenu connexe

Similaire à 非有権者における政治関心の形成メカニズム:政治的社会化の再検討を通じて

Similaire à 非有権者における政治関心の形成メカニズム:政治的社会化の再検討を通じて (20)

政治的無関心の構造ー政治イメージ・不信・世代ー
政治的無関心の構造ー政治イメージ・不信・世代ー政治的無関心の構造ー政治イメージ・不信・世代ー
政治的無関心の構造ー政治イメージ・不信・世代ー
 
リサフェ発表用レジュメ配布用
リサフェ発表用レジュメ配布用リサフェ発表用レジュメ配布用
リサフェ発表用レジュメ配布用
 
2019地域連携調査研究発表会資料
2019地域連携調査研究発表会資料2019地域連携調査研究発表会資料
2019地域連携調査研究発表会資料
 
20151205 本番用pp
20151205 本番用pp20151205 本番用pp
20151205 本番用pp
 
20140529毎日新聞社メディアカフェ講演「インターネットは政治を変えるか?―立命館大、毎日新聞共同研究が明らかにした可能性」
20140529毎日新聞社メディアカフェ講演「インターネットは政治を変えるか?―立命館大、毎日新聞共同研究が明らかにした可能性」20140529毎日新聞社メディアカフェ講演「インターネットは政治を変えるか?―立命館大、毎日新聞共同研究が明らかにした可能性」
20140529毎日新聞社メディアカフェ講演「インターネットは政治を変えるか?―立命館大、毎日新聞共同研究が明らかにした可能性」
 
20150321豊橋市青年会議所「ネット選挙と若年世代にとっての可能性と課題」
20150321豊橋市青年会議所「ネット選挙と若年世代にとっての可能性と課題」20150321豊橋市青年会議所「ネット選挙と若年世代にとっての可能性と課題」
20150321豊橋市青年会議所「ネット選挙と若年世代にとっての可能性と課題」
 
20190119mitaka
20190119mitaka20190119mitaka
20190119mitaka
 
2014日本公共政策学会報告資料「ネット選挙運動解禁の成果と課題 ――競合する『動員』と『透明化』」
2014日本公共政策学会報告資料「ネット選挙運動解禁の成果と課題 ――競合する『動員』と『透明化』」2014日本公共政策学会報告資料「ネット選挙運動解禁の成果と課題 ――競合する『動員』と『透明化』」
2014日本公共政策学会報告資料「ネット選挙運動解禁の成果と課題 ――競合する『動員』と『透明化』」
 
2013公共政策関西支部大会スライド
2013公共政策関西支部大会スライド2013公共政策関西支部大会スライド
2013公共政策関西支部大会スライド
 
20161215 innnovetionnippon
20161215 innnovetionnippon20161215 innnovetionnippon
20161215 innnovetionnippon
 
無業社会とその問題系――若年無業者支援の現状と理論化に向けて
無業社会とその問題系――若年無業者支援の現状と理論化に向けて無業社会とその問題系――若年無業者支援の現状と理論化に向けて
無業社会とその問題系――若年無業者支援の現状と理論化に向けて
 
アーキテクチャによる統治と東アジアの市民社会 -現代中国からの視点-
アーキテクチャによる統治と東アジアの市民社会-現代中国からの視点-アーキテクチャによる統治と東アジアの市民社会-現代中国からの視点-
アーキテクチャによる統治と東アジアの市民社会 -現代中国からの視点-
 
論文紹介: Tweetment effects on the tweeted experimentally reducing racist harass...
論文紹介: Tweetment effects on the tweeted  experimentally reducing racist harass...論文紹介: Tweetment effects on the tweeted  experimentally reducing racist harass...
論文紹介: Tweetment effects on the tweeted experimentally reducing racist harass...
 
河野ゼミ紹介2014
河野ゼミ紹介2014河野ゼミ紹介2014
河野ゼミ紹介2014
 
政治的無関心の構造:人は「政治」の何を見ているのか?
政治的無関心の構造:人は「政治」の何を見ているのか?政治的無関心の構造:人は「政治」の何を見ているのか?
政治的無関心の構造:人は「政治」の何を見ているのか?
 
2015年度研究会企画とマネジメントセミナー
2015年度研究会企画とマネジメントセミナー2015年度研究会企画とマネジメントセミナー
2015年度研究会企画とマネジメントセミナー
 
Okumura
OkumuraOkumura
Okumura
 
20150605ゲンロンカフェ
20150605ゲンロンカフェ20150605ゲンロンカフェ
20150605ゲンロンカフェ
 
誰が選挙公報を見るのか―無党派性と政治的有効性感覚に着目した比較研究―
誰が選挙公報を見るのか―無党派性と政治的有効性感覚に着目した比較研究―誰が選挙公報を見るのか―無党派性と政治的有効性感覚に着目した比較研究―
誰が選挙公報を見るのか―無党派性と政治的有効性感覚に着目した比較研究―
 
筋トレ・ダイエット行動の心理的背景 〜大学生を対象としたアンケート調査より 〜
筋トレ・ダイエット行動の心理的背景 〜大学生を対象としたアンケート調査より 〜筋トレ・ダイエット行動の心理的背景 〜大学生を対象としたアンケート調査より 〜
筋トレ・ダイエット行動の心理的背景 〜大学生を対象としたアンケート調査より 〜
 

Plus de Masaki Hata (6)

Does "pork" attract voter?: Evidence from Survey Experiment
Does "pork" attract voter?: Evidence from Survey Experiment Does "pork" attract voter?: Evidence from Survey Experiment
Does "pork" attract voter?: Evidence from Survey Experiment
 
集団的自衛権はいかにして容認されるか?
集団的自衛権はいかにして容認されるか?集団的自衛権はいかにして容認されるか?
集団的自衛権はいかにして容認されるか?
 
集団的自衛権はいかにして容認されるか?
集団的自衛権はいかにして容認されるか?集団的自衛権はいかにして容認されるか?
集団的自衛権はいかにして容認されるか?
 
政治関心の測定尺度に関する再検討
政治関心の測定尺度に関する再検討政治関心の測定尺度に関する再検討
政治関心の測定尺度に関する再検討
 
いつ,イデオロギーは「活性化」するのか?
いつ,イデオロギーは「活性化」するのか?いつ,イデオロギーは「活性化」するのか?
いつ,イデオロギーは「活性化」するのか?
 
人はいつ「政治」を必要とするのか?:政策の利害に対する反応に注目して
人はいつ「政治」を必要とするのか?:政策の利害に対する反応に注目して人はいつ「政治」を必要とするのか?:政策の利害に対する反応に注目して
人はいつ「政治」を必要とするのか?:政策の利害に対する反応に注目して
 

非有権者における政治関心の形成メカニズム:政治的社会化の再検討を通じて