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未来技術推進協会主催 東工大 西森教授講演 REPORT | 取材・構成・文:西野大介(SOMPOシステムズ株式会社) 未来技術推進協会主催 東工大 西森教授講演 REPORT | 取材・構成・文:西野大介(SOMPOシステムズ株式会社)P.1 P.2
東工大 西森教授講演(未来技術推進協会主催 第3回講演会)
量子コンピュータが
変える未来と、変えられない未来
機械学習や人工知能の実現に欠かせない量子コンピュータ。その基礎理論である「量子アニーリング方式」を考案した西森教授自ら、
初学者に向けて解説するという貴重な講演が、11/15にTECH PLAY SHIBUYAにて開催されました。その内容は、量子力学の基礎から
数式一切なしで説明がなされ、全く予備知識がない人でもしっかり学ぶことができる、極めて貴重なものでした。解説の対象は、量
子力学や量子コンピュータの概要から現状、事例、未来予測といった多岐にわたっており、この講演ひとつでほぼ全容をつかむこと
ができるものとなっています。このレポートが、量子コンピュータについての知識を深めていただく一助となれば幸いです。
(SOMPOシステムズ株式会社 西野大介)
写真はシリアスな雰囲気のものが多いですが、冒頭から「久しぶ
りに夜の渋谷に降り立って気持ちが悪い(笑)」なんて話し始め
るきさくな西森教授。ちなみに普段は田舎で蝉のような(?)生
活をしてらっしゃるとのこと(わかるようなわからないような...)。
教授でもわからない量子力学
量子コンピュータは量子力学の原理を動作原理と
したコンピュータです。わたしは量子力学について
大学で教鞭をとっており、そこでは全部分かったよ
うな顔で難しい話をしていますが、実はこの量子力
学、いつまで経ってもわかりません(笑)。
何がわからないかを説明するために、「超伝導」
という量子力学の現象について話しましょう。円筒
型に加工した超伝導体(超伝導リング)というもの
を作ると、右回りの電流と左回りの電流が同時に存
在する状態になります。これが超伝導です。子供の
頃、豆電球に電池をつなげて明かりをつける実験、
やったことありますか?右回りと左回り、二つの電
流が流れたら、普通は打ち消しあって消えてしまう
ものですが、超伝導は違う。消えないんです。なぜ
か?それは聞かないでください(笑)。
観測すると状態が変わる「鶴の恩返し」
その電流の状態をどうやって観測するのでしょう
か。電流が回ると電磁石となることは学びましたね。
回る向きによって、一方にはS極、他方にはN極が
できます。その電流に磁石を近づけ、引きあうか反
発しあうかを見てみる。そうすると、どちら回りに
電流が流れているかを確認できますよね。
ある実験で超伝導の状態に対して磁石を近づける
と、磁石が引き寄せられ、右回りとなっていること
が確認できました。あれ、本当かなと思ってもう一
度近づけると磁石が反発し、次は左回りであること
が確認されたりします。これ、1万回やると、右回
りと左回りで5000回ずつ半々、という結果が出るん
ですね。今回どちらとなるか、それは観測されるま
でわかりません。観測されるまでは両方の状態が共
存しており、観測することで確定する。観測自体が
結果に影響するという、つまり「鶴の恩返し」とい
える現象であるのです。 原理は分かっていません。
先ほど、なぜかは聞かないでくださいと言いまし
たが、量子力学を学ぶ前提として、物理学とは事実
を確認するものであり理由は考えない、言い換える
とHowの学問でありWhyの学問ではないということ
は理解しておいてください。ニュートンはリンゴが
落ちたことを観測しましたが、なぜ物体が引き合う
か、彼はそれを「神」によるものだとしていました。
わたし自身、この超伝導の謎を解くということは、
自然科学を超え、神の領域へ足を踏み入れることだ
と思っています。
量子コンピュータ の現在
量子コンピュータの中には「超伝導回路」と呼ば
れる心臓部があります。コンピュータの世界は0と1
で表現されますが、そのどちらかではなく、この回
路によって0と1を同時に存在させているんですね。
それはつまり、通常のコンピュータと比べて1ビッ
トで表現できる数が指数関数的に増えるということ
です。1000ビットと1000量子ビットでは数字の大
きさが全く違います。
「D-Wave Systems」というカナダのベンチャー
企業が量子コンピュータを作っています。1台で3
平方メートルくらいある、非常に巨大なマシン。し
かし実はその中心部に親指の爪くらいの超伝導回路
があるだけで、中はほとんどスカスカ。それで15
億円です。2013年にGoogleとNASAが購入し、
共同で運営しています。他にも、例えばUSCという
航空機製造会社など、数社が購入を公表しています。
ウケなかった論文
量子力学に関する論文を書いたのが1998年。当人
としては非常に面白いと思って書いたんですが、ウ
ケませんでした。しかし、2001年に同じ考えの論文
をMITが出して、そちらはウケました。我々とは違
D-Waveマシンの外観
P.3 P.4
い、「計算量」という要素に着目して書いたの
がその理由ですね。発表当初からかなりの期間、
われわれの論文は無視されていましたが、D-
Wave社が出した2017年の論文には、わたし
たちが考案した方式を使用しているという一文
が入っています。
昨今は最適化問題や機械学習(人工知能)な
どが騒がれ、量子力学は社会的影響度の大きい
テーマとなりました。これはD-Wave社にとって
うれしい情勢変化であったでしょう。わたしは
一円ももらっていませんが。あ、会社訪問の際
に記念でボールペンをもらいましたね(笑)。
これまでに100個以上論文を書き、どれも面白か
ったんですが、ウケたのは今のところこれだけ
です。残りはまだウケる機会を待っている状態
です。
量子コンピュータが変える未来
量子コンピュータにはゲート模型方式と量子
アニーリングという二つの方式があります。
(注:詳細はColumn参照)
実例を紹介しましょう。まず2017年3月、
Volkswagen社が交通量に関するある実験結果を
公開しました。2枚のイメージをお見せします
(右写真)。この左のイメージのような、一部
に密集してしまう交通渋滞を解消するために量
子コンピュータを用いています。一台一台の車
西森 秀稔
にしもり ひでとし
Column - 量子計算、二種類の方式
量子計算は「ゲート模型方式」
と「量子アニーリング方式」に分
かれる。
ゲート模型方式は現在のコンピ
ュータと同じことができる。しか
し社会に接点があるポイントは右
記表の強みに挙げた3点のみ。既
存のコンピュータを置き換える存
在ではなく、この3点を劇的に速
くするという使われ方がされる。
量子アニーリング方式は組み合
わせ最適化問題とサンプリングに
特化している。通常のコンピュー
タと組み合わせて使用する「ハイ
ブリッド」という手法がここ数年
のキーワードになっている
(Volkswagen社の事例もこの量子
アニーリング方式と通常のコンピ
ュータのハイブリッドを活用)。
をどの道に誘導すれば「交通全体として」最適
なルートとなるか、量子コンピュータによって
計算した数値を用いたところ、結果は右のイメ
ージの通り、渋滞が解消されました。通常のコ
ンピュータでは30分かかるところが、D-WAVE
のマシンなら数秒で出来たといいます(ただし、
全ての計算に量子コンピュータを使用している
わけではなく、一台一台の車をどう迂回させる
かはまず通常のコンピュータで検討させ、その
たくさんの案の中からどれが一番いいかという
選択のみを量子コンピュータに任せるというハ
イブリッド方式です)。
今現在、世の自動運転車は、その自動車単体
での安全性を追求していますが、Volkswagen社
はその一歩先の未来をにらんでいるのでしょう。
たくさん普及した自動運転車を全体としてどう
最適化するか。5年後10年後の覇権を狙うための
実験でしょうね。
また、他に研究を進められているのは、分子
の性質解明です。現在、肥料にするためのアン
モニア合成に、「ハーバー・ボッシュ法」とい
う合成法が使われています。空気中に大量に存
在する窒素、これを定着化させてアンモニアに
し、肥料とする方法ですが、これによるエネル
ギー消費量は、世界中の全エネルギー消費の1%
に達するほどだそうです。分子の性質解明が進
めば、これを代替できる技術へとつながります。
省エネルギーという側面でいうと、電力消費
量が少ないという点も忘れてはいけない量子コ
ンピュータのメリットです。ITが消費する電力
は、世界の発電量の10%に及ぶと言います。こ
れは日本とドイツの総発電量の合計に相当する
ほど。量子コンピュータの発展は、この問題の
解決策にもなるでしょう。
他には、人間的な判断の分析。「非可換デー
タの例」がそれです。1997年のアメリカの調査
によると、「ビル・クリントンが信用できる
か?」という質問と「アル・ゴアが信用できる
か?」という質問、これらは、どちらを先に聞
くかで結果が変わったとされます(アル・ゴア
について先に聞いた方が、両方についてYESと
答える割合が、逆の場合よりずっと多かった)。
人間の頭をモデル化しようとした場合、普通の
統計学ではできません。量子力学ならそれがで
きる。人間的な反応をするAIなどの実現につな
がるでしょうね。
量子コンピュータが変えない未来
多くの課題を解決するであろう量子コンピュ
ータですが、できないこと、向かないこともあ
ります。
例えば暗号解析。よく、暗号をあっという間
に解けるようになるなんて報道されていますが、
それは嘘です。というか、あまりに楽観的な意
見というのが正確ですね。例えば1024ビットの
RSA暗号を破るには、1億量子ビット以上が必要
とされます。現在の量子コンピュータの量子ビ
ット数のレベルでは、まだまだ実現できません。
加えて、量子コンピュータやそのソフトの発
展は、それが経済的な利益につながるかに大き
く依存しています。暗号を破るという点で経済
的なモチベーションを持つ人は少なく、企業が
研究を進めることはないでしょう。どこかの公
的機関などはやるかもしれませんけどね。
「ムーアの法則」の終焉問題を解決に導くか
ということも聞かれます。これまで見てきたと
おり、適している問題解決に対してはそうです
が、他の問題に対しては、そうではありません。
他の技術とともに弱点を補い合いながら進んで
いかなければならない課題でしょう。
そして、通常のコンピュータに置き換わるこ
とはないですし、あくまで特殊用途に特化した
レーシングマシンのようなもの。普通の人は買
わないでしょう。なんだか話すごとに皆さんの
夢を壊しているような気がしますが(笑)、実
態はこうです。用途は限られていますが、適し
た問題解決には威力を発揮します。適切に理解
して活用することが重要です。
★聴講を終えて
こんなにエキサイトする講演は久しぶりでし
た。量子力学の持つ神秘性と、発展途上の状態
でも発揮する劇的な成果。そこにはテクノロジ
ーが持つプリミティブな夢が詰め込まれていて、
話を聞いたそばから、この近未来技術への憧憬
を持たずにはいられません。特定用途に特化し
ているという点も、まさにF1マシンのようなロ
マンが凝縮されていると感じます。
そして、時に冗談を織り交ぜながら、時に情
熱を持って語りながら、初学者に向けて分かり
やすくご説明いただけたことに感激しています。
冒頭、司会者の方から「西森先生はノーベル賞
候補だと思っている」なんてお言葉もありまし
たが、近い将来その日が来て、先生がより研究
に没頭できる未来を、今から期待してお待ちし
ています。
二つのイメージのうち、左は交通量が過密
している個所が赤くなっているのが見てと
れる。量子コンピュータの適用後は、右の
通り過密状態が大幅に解消されている。
東京工業大学教授。1954
年生まれ。82年東京大学
大学院物理学専攻博士課
程修了、米カーネギーメ
ロン大学などを経て96年
に東京工業大学教授。
2011年から同大理学部長。
2ショットを撮っていただきました!
ゲート模型(回路方式) 量子アニーリング
目的 現在のコンピュータの
上位互換
組み合わせ最適化問題と
サンプリング
強み 劇的な高速化が保証され
ているアルゴリズムがい
くつかある。
素因数分解(暗号解読)
量子シミュレーション、
機械学習など
ノイズに強い。
最適化問題は機械学習
(人工知能)など社会的
要素が大きい問題を含む
弱み ノイズに弱い。
ノイズに強くするには膨
大な規模要
劇的な高速化が保証され
ている社会的にインパク
トあるアルゴリズムがま
だない
開発の
現状
数十量子ビット 2000量子ビット
見通し 10年スケールでは本格実
用システムは?小規模な
問題なら数年で実現か
通常のコンピュータとの
組み合わせによる利用が
始まろうとしている
未来技術推進協会主催 東工大 西森教授講演 REPORT | 取材・構成・文:西野大介(SOMPOシステムズ株式会社) 未来技術推進協会主催 東工大 西森教授講演 REPORT | 取材・構成・文:西野大介(SOMPOシステムズ株式会社)

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量子コンピュータが変える未来と、変えられない未来(東工大 西森教授講演レポート)

  • 1. 未来技術推進協会主催 東工大 西森教授講演 REPORT | 取材・構成・文:西野大介(SOMPOシステムズ株式会社) 未来技術推進協会主催 東工大 西森教授講演 REPORT | 取材・構成・文:西野大介(SOMPOシステムズ株式会社)P.1 P.2 東工大 西森教授講演(未来技術推進協会主催 第3回講演会) 量子コンピュータが 変える未来と、変えられない未来 機械学習や人工知能の実現に欠かせない量子コンピュータ。その基礎理論である「量子アニーリング方式」を考案した西森教授自ら、 初学者に向けて解説するという貴重な講演が、11/15にTECH PLAY SHIBUYAにて開催されました。その内容は、量子力学の基礎から 数式一切なしで説明がなされ、全く予備知識がない人でもしっかり学ぶことができる、極めて貴重なものでした。解説の対象は、量 子力学や量子コンピュータの概要から現状、事例、未来予測といった多岐にわたっており、この講演ひとつでほぼ全容をつかむこと ができるものとなっています。このレポートが、量子コンピュータについての知識を深めていただく一助となれば幸いです。 (SOMPOシステムズ株式会社 西野大介) 写真はシリアスな雰囲気のものが多いですが、冒頭から「久しぶ りに夜の渋谷に降り立って気持ちが悪い(笑)」なんて話し始め るきさくな西森教授。ちなみに普段は田舎で蝉のような(?)生 活をしてらっしゃるとのこと(わかるようなわからないような...)。 教授でもわからない量子力学 量子コンピュータは量子力学の原理を動作原理と したコンピュータです。わたしは量子力学について 大学で教鞭をとっており、そこでは全部分かったよ うな顔で難しい話をしていますが、実はこの量子力 学、いつまで経ってもわかりません(笑)。 何がわからないかを説明するために、「超伝導」 という量子力学の現象について話しましょう。円筒 型に加工した超伝導体(超伝導リング)というもの を作ると、右回りの電流と左回りの電流が同時に存 在する状態になります。これが超伝導です。子供の 頃、豆電球に電池をつなげて明かりをつける実験、 やったことありますか?右回りと左回り、二つの電 流が流れたら、普通は打ち消しあって消えてしまう ものですが、超伝導は違う。消えないんです。なぜ か?それは聞かないでください(笑)。 観測すると状態が変わる「鶴の恩返し」 その電流の状態をどうやって観測するのでしょう か。電流が回ると電磁石となることは学びましたね。 回る向きによって、一方にはS極、他方にはN極が できます。その電流に磁石を近づけ、引きあうか反 発しあうかを見てみる。そうすると、どちら回りに 電流が流れているかを確認できますよね。 ある実験で超伝導の状態に対して磁石を近づける と、磁石が引き寄せられ、右回りとなっていること が確認できました。あれ、本当かなと思ってもう一 度近づけると磁石が反発し、次は左回りであること が確認されたりします。これ、1万回やると、右回 りと左回りで5000回ずつ半々、という結果が出るん ですね。今回どちらとなるか、それは観測されるま でわかりません。観測されるまでは両方の状態が共 存しており、観測することで確定する。観測自体が 結果に影響するという、つまり「鶴の恩返し」とい える現象であるのです。 原理は分かっていません。 先ほど、なぜかは聞かないでくださいと言いまし たが、量子力学を学ぶ前提として、物理学とは事実 を確認するものであり理由は考えない、言い換える とHowの学問でありWhyの学問ではないということ は理解しておいてください。ニュートンはリンゴが 落ちたことを観測しましたが、なぜ物体が引き合う か、彼はそれを「神」によるものだとしていました。 わたし自身、この超伝導の謎を解くということは、 自然科学を超え、神の領域へ足を踏み入れることだ と思っています。 量子コンピュータ の現在 量子コンピュータの中には「超伝導回路」と呼ば れる心臓部があります。コンピュータの世界は0と1 で表現されますが、そのどちらかではなく、この回 路によって0と1を同時に存在させているんですね。 それはつまり、通常のコンピュータと比べて1ビッ トで表現できる数が指数関数的に増えるということ です。1000ビットと1000量子ビットでは数字の大 きさが全く違います。 「D-Wave Systems」というカナダのベンチャー 企業が量子コンピュータを作っています。1台で3 平方メートルくらいある、非常に巨大なマシン。し かし実はその中心部に親指の爪くらいの超伝導回路 があるだけで、中はほとんどスカスカ。それで15 億円です。2013年にGoogleとNASAが購入し、 共同で運営しています。他にも、例えばUSCという 航空機製造会社など、数社が購入を公表しています。 ウケなかった論文 量子力学に関する論文を書いたのが1998年。当人 としては非常に面白いと思って書いたんですが、ウ ケませんでした。しかし、2001年に同じ考えの論文 をMITが出して、そちらはウケました。我々とは違 D-Waveマシンの外観
  • 2. P.3 P.4 い、「計算量」という要素に着目して書いたの がその理由ですね。発表当初からかなりの期間、 われわれの論文は無視されていましたが、D- Wave社が出した2017年の論文には、わたし たちが考案した方式を使用しているという一文 が入っています。 昨今は最適化問題や機械学習(人工知能)な どが騒がれ、量子力学は社会的影響度の大きい テーマとなりました。これはD-Wave社にとって うれしい情勢変化であったでしょう。わたしは 一円ももらっていませんが。あ、会社訪問の際 に記念でボールペンをもらいましたね(笑)。 これまでに100個以上論文を書き、どれも面白か ったんですが、ウケたのは今のところこれだけ です。残りはまだウケる機会を待っている状態 です。 量子コンピュータが変える未来 量子コンピュータにはゲート模型方式と量子 アニーリングという二つの方式があります。 (注:詳細はColumn参照) 実例を紹介しましょう。まず2017年3月、 Volkswagen社が交通量に関するある実験結果を 公開しました。2枚のイメージをお見せします (右写真)。この左のイメージのような、一部 に密集してしまう交通渋滞を解消するために量 子コンピュータを用いています。一台一台の車 西森 秀稔 にしもり ひでとし Column - 量子計算、二種類の方式 量子計算は「ゲート模型方式」 と「量子アニーリング方式」に分 かれる。 ゲート模型方式は現在のコンピ ュータと同じことができる。しか し社会に接点があるポイントは右 記表の強みに挙げた3点のみ。既 存のコンピュータを置き換える存 在ではなく、この3点を劇的に速 くするという使われ方がされる。 量子アニーリング方式は組み合 わせ最適化問題とサンプリングに 特化している。通常のコンピュー タと組み合わせて使用する「ハイ ブリッド」という手法がここ数年 のキーワードになっている (Volkswagen社の事例もこの量子 アニーリング方式と通常のコンピ ュータのハイブリッドを活用)。 をどの道に誘導すれば「交通全体として」最適 なルートとなるか、量子コンピュータによって 計算した数値を用いたところ、結果は右のイメ ージの通り、渋滞が解消されました。通常のコ ンピュータでは30分かかるところが、D-WAVE のマシンなら数秒で出来たといいます(ただし、 全ての計算に量子コンピュータを使用している わけではなく、一台一台の車をどう迂回させる かはまず通常のコンピュータで検討させ、その たくさんの案の中からどれが一番いいかという 選択のみを量子コンピュータに任せるというハ イブリッド方式です)。 今現在、世の自動運転車は、その自動車単体 での安全性を追求していますが、Volkswagen社 はその一歩先の未来をにらんでいるのでしょう。 たくさん普及した自動運転車を全体としてどう 最適化するか。5年後10年後の覇権を狙うための 実験でしょうね。 また、他に研究を進められているのは、分子 の性質解明です。現在、肥料にするためのアン モニア合成に、「ハーバー・ボッシュ法」とい う合成法が使われています。空気中に大量に存 在する窒素、これを定着化させてアンモニアに し、肥料とする方法ですが、これによるエネル ギー消費量は、世界中の全エネルギー消費の1% に達するほどだそうです。分子の性質解明が進 めば、これを代替できる技術へとつながります。 省エネルギーという側面でいうと、電力消費 量が少ないという点も忘れてはいけない量子コ ンピュータのメリットです。ITが消費する電力 は、世界の発電量の10%に及ぶと言います。こ れは日本とドイツの総発電量の合計に相当する ほど。量子コンピュータの発展は、この問題の 解決策にもなるでしょう。 他には、人間的な判断の分析。「非可換デー タの例」がそれです。1997年のアメリカの調査 によると、「ビル・クリントンが信用できる か?」という質問と「アル・ゴアが信用できる か?」という質問、これらは、どちらを先に聞 くかで結果が変わったとされます(アル・ゴア について先に聞いた方が、両方についてYESと 答える割合が、逆の場合よりずっと多かった)。 人間の頭をモデル化しようとした場合、普通の 統計学ではできません。量子力学ならそれがで きる。人間的な反応をするAIなどの実現につな がるでしょうね。 量子コンピュータが変えない未来 多くの課題を解決するであろう量子コンピュ ータですが、できないこと、向かないこともあ ります。 例えば暗号解析。よく、暗号をあっという間 に解けるようになるなんて報道されていますが、 それは嘘です。というか、あまりに楽観的な意 見というのが正確ですね。例えば1024ビットの RSA暗号を破るには、1億量子ビット以上が必要 とされます。現在の量子コンピュータの量子ビ ット数のレベルでは、まだまだ実現できません。 加えて、量子コンピュータやそのソフトの発 展は、それが経済的な利益につながるかに大き く依存しています。暗号を破るという点で経済 的なモチベーションを持つ人は少なく、企業が 研究を進めることはないでしょう。どこかの公 的機関などはやるかもしれませんけどね。 「ムーアの法則」の終焉問題を解決に導くか ということも聞かれます。これまで見てきたと おり、適している問題解決に対してはそうです が、他の問題に対しては、そうではありません。 他の技術とともに弱点を補い合いながら進んで いかなければならない課題でしょう。 そして、通常のコンピュータに置き換わるこ とはないですし、あくまで特殊用途に特化した レーシングマシンのようなもの。普通の人は買 わないでしょう。なんだか話すごとに皆さんの 夢を壊しているような気がしますが(笑)、実 態はこうです。用途は限られていますが、適し た問題解決には威力を発揮します。適切に理解 して活用することが重要です。 ★聴講を終えて こんなにエキサイトする講演は久しぶりでし た。量子力学の持つ神秘性と、発展途上の状態 でも発揮する劇的な成果。そこにはテクノロジ ーが持つプリミティブな夢が詰め込まれていて、 話を聞いたそばから、この近未来技術への憧憬 を持たずにはいられません。特定用途に特化し ているという点も、まさにF1マシンのようなロ マンが凝縮されていると感じます。 そして、時に冗談を織り交ぜながら、時に情 熱を持って語りながら、初学者に向けて分かり やすくご説明いただけたことに感激しています。 冒頭、司会者の方から「西森先生はノーベル賞 候補だと思っている」なんてお言葉もありまし たが、近い将来その日が来て、先生がより研究 に没頭できる未来を、今から期待してお待ちし ています。 二つのイメージのうち、左は交通量が過密 している個所が赤くなっているのが見てと れる。量子コンピュータの適用後は、右の 通り過密状態が大幅に解消されている。 東京工業大学教授。1954 年生まれ。82年東京大学 大学院物理学専攻博士課 程修了、米カーネギーメ ロン大学などを経て96年 に東京工業大学教授。 2011年から同大理学部長。 2ショットを撮っていただきました! ゲート模型(回路方式) 量子アニーリング 目的 現在のコンピュータの 上位互換 組み合わせ最適化問題と サンプリング 強み 劇的な高速化が保証され ているアルゴリズムがい くつかある。 素因数分解(暗号解読) 量子シミュレーション、 機械学習など ノイズに強い。 最適化問題は機械学習 (人工知能)など社会的 要素が大きい問題を含む 弱み ノイズに弱い。 ノイズに強くするには膨 大な規模要 劇的な高速化が保証され ている社会的にインパク トあるアルゴリズムがま だない 開発の 現状 数十量子ビット 2000量子ビット 見通し 10年スケールでは本格実 用システムは?小規模な 問題なら数年で実現か 通常のコンピュータとの 組み合わせによる利用が 始まろうとしている 未来技術推進協会主催 東工大 西森教授講演 REPORT | 取材・構成・文:西野大介(SOMPOシステムズ株式会社) 未来技術推進協会主催 東工大 西森教授講演 REPORT | 取材・構成・文:西野大介(SOMPOシステムズ株式会社)