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『PAC分析研究』第2巻

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PAC 分析研究 第 2 巻
目次
第2巻の発刊にあたって.................................................................................................................... 内藤哲雄 1 【原著】 人々の図書館に対するイメージ調査 PAC 分析とテキストマイニングを用いて ...................................................................................................................三島 悠希、末岡 真里奈、松村 敦 2 日本人妻と共に子育てをしている欧米人夫の態度構造-PAC 分析を通して ..................................................................................................................................................... 蔵本 真紀子 14 【2017 年度第 11 回大会発表抄録】 就職や進学などの「実益」に直結する/しない日本語学習の意味 -中国とグアテマラの日本語学習者に PAC 分析を用いて- .........................................................................................................................................................新井 克之 28 母語話者日本語教師の教授不安の変容の一過程-PAC 分析のインタビューから- .........................................................................................................................................................布施 悠子 32 発達障害当事者と PAC 分析の関係についての一考察 .........................................................................................................................................................今野 博信 36 PAC 分析による人々の図書館に対するイメージ調査の試み ......................................................................................................................................... 三島 悠希、松村 敦 38 一般病棟に勤務する看護師のスピリチュアリティについての個人別態度構造分析 ........................................................................................................................生田 奈美可、いとう たけひこ 42

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『PAC分析研究』第2巻

  1. 1. PAC 分析研究 2018 第 2 巻 Journal of PAC Analysis Vol.2 ISSN 2432-9355
  2. 2. PAC 分析研究 第 2 巻 目次 第2巻の発刊にあたって.................................................................................................................... 内藤哲雄 1 【原著】 人々の図書館に対するイメージ調査 PAC 分析とテキストマイニングを用いて ...................................................................................................................三島 悠希、末岡 真里奈、松村 敦 2 日本人妻と共に子育てをしている欧米人夫の態度構造-PAC 分析を通して ..................................................................................................................................................... 蔵本 真紀子 14 【2017 年度第 11 回大会発表抄録】 就職や進学などの「実益」に直結する/しない日本語学習の意味 -中国とグアテマラの日本語学習者に PAC 分析を用いて- .........................................................................................................................................................新井 克之 28 母語話者日本語教師の教授不安の変容の一過程-PAC 分析のインタビューから- .........................................................................................................................................................布施 悠子 32 発達障害当事者と PAC 分析の関係についての一考察 .........................................................................................................................................................今野 博信 36 PAC 分析による人々の図書館に対するイメージ調査の試み ......................................................................................................................................... 三島 悠希、松村 敦 38 一般病棟に勤務する看護師のスピリチュアリティについての個人別態度構造分析 ........................................................................................................................生田 奈美可、いとう たけひこ 42
  3. 3. 第2巻の発刊にあたって 私事ですが、東日本大震災が発生した 2011 年の 10 月に赴任した臨床心理士養成校の福島学 院大学を退職し、本年 4 月から明治学院大学国際平和研究所の研究員に異動。学部から大学院 時代は実験社会心理学と産業心理学を専攻。信州大学医療技術短期大学部で臨床心理学を担 当。その後信州大学人文学部で社会心理学を担当。福島学院大学で再び臨床心理学を担当。螺 旋階段のように、社会心理学と臨床心理学の担当を行き来していました。今度の国際平和分野は 従来担当したことがありませんが、授業も会議もない気楽さもあり、伊達市霊山町の掛田で田舎暮 らしを始めました。 庭の賑わいに、釈迦がその下で悟りを開いたという夏椿(シャラ)を植えました。ところが花数が少 なく、物足りません。そこで槿(ムクゲ)を数本追加しました。槿は夏に咲く花で、原産は東南アジア のようです。韓国では国花でムグンファ(無窮花)と呼ばれますが、その名のように、散っても、散っ ても、次から次と咲いて尽きることがありません。品種改良で花の色や形も多様となり、挿し木で増 やせるので、日本でも、奈良時代から全国に広まったようです。 PAC 分析による研究は、槿の挿し木栽培に似て、取っつきやすさもあり、多くの分野で利用され ています。統計を利用したことがなくても、対話式の簡便さで、研究者が気づいていなかった変数 や要因の発見が可能です。国際学会の MMIRA やその日本支部の MMR をはじめとして、量的研 究と質的研究を混合することの価値が広く知られるようになったことも、PAC 分析の隆盛をもたらし ています。PAC 分析での、検査者が被検査者とともにイメージや意味を探っていく了解的解釈技 法(現象学的データ解釈技法)での解釈プロセスは、第三者にとっても被検者の潜在意識の構造 や意味を了解するためのプロセスになります。別言すれば、コンサルテーションのツールとなって いるのです。事例を操作的、客観的に第三者である読者が了解できることから、博士論文での利 用が急増してきました。今日の PAC 分析を用いた研究は、多くの学問分野に浸透し、多種多様に 発展しています。そうした背景事情のなかで、投稿された個々の研究成果を、PAC 分析研究として の技法上の有効性や研究成果の価値を裏付ける学会誌として刊行されたのが本機関誌です。第 2巻の刊行が個々の研究のさらなる発展に繋がり、多くの研究論文や博士論文が陸続することを願 っています。 ただ、PAC 分析は入門しやすく、奥が深い。PAC 分析は、実験心理学と臨床心理学の統合、境 界から生まれたものです。日常事例を帰納法と演繹法を循環させながら、研究テーマを見いだし、 インフォーマント(被検者)とともに探索していく。研究テーマの発見とインフォーマントの選別。被 検査者の内的世界を同行しながら探索するための多くの技術、統計データの全体構造を読み解く 感性と、繰り返される解釈によるケースの意味や学問的価値の発見。継続は力。PAC 分析の研究 を幾度も繰り返しながら、その利用技術や理論的背景の知識をさらに深めて頂きたい。 終わりに、第 2 巻の刊行に関して、機関誌編集担当者、審査に関わって下さった皆様に、心よりお 礼申し上げたい。 2018 年 7 月吉日 「PAC 分析研究」編集委員長 内藤 哲雄 PAC分析研究 第2巻 1
  4. 4. 人々の図書館に対するイメージ調査 PAC分析とテキストマイニングを用いて 三島 悠希、末岡 真里奈、松村 敦 1.はじめに 1.1. 背景 図書館とは図書館法によると「図書、記録その他 必要な資料を収集し、整理し、保存して一般公衆の 利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーショ ン等に資することを目的とする施設」(文部科学省 1999)のことを指している。図書館は各自治体や学校 に設置されており、身近な公共施設の一つとして 人々に認知されている。 しかしながら、国立国会図書館(2015)のアンケー ト調査によると公共図書館や移動図書館を1年以内 に利用した人は全体の39.6%しかいない。さらに、利 用しなかった残りの60.4%の人のうち約36%の人がそ の理由として「図書館に行く必要を感じない・興味 がない」という回答をしている。このように図書館 を利用している人は全体の一部に限られており、図 書館に対する必要性や興味を感じていない人が多く いることが示されている。 1.2. 先行研究と課題 より多くの人が利用したいと考える図書館のあり 方を知るために、図書館のイメージに着目した研究 が行われている。図書館のイメージに関する研究と して、庄司・小島(2012)、長谷川(2015)の研究があ る。これらの調査は対になる形容詞、形容動詞を段 階分けして数値を出す、SD(Semantic Differential) 法を用いて図書館のイメージ調査が行われている。 その結果、図書館の利用頻度が低い人が図書館への 苦手意識として「かたい」イメージを持っている(庄 司・小島 2012)、図書館を利用していない人は図書 館に対して好意的ではない(長谷川 2015)と示され た。 SD法を用いた先行研究の場合、調査協力者は図書 館に対するイメージを有限の選択肢の中で固定され た表現でしか回答できない。また、個々の言葉のニ ュアンスを上手く汲み取れない場合があり、本来は より多様なイメージが存在しているにもかかわら ず、多くの見落としが生じる可能性がある。この場 合は質的調査も行うことで、個々の図書館に対する イメージの掘り下げが可能ではないかと考えた。イ ンタビュー調査であれば、自分で品詞を問わず、自 由にイメージに合った言葉を選ぶことが可能であ る。ただし、質的調査は定性的なデータを元に解釈 や考察を行うことができる反面、研究者の見方と技 術力の差が入りやすい。そこで、手続きに沿って定 性的なデータを得た上で、定量化したデータを得る ことができれば、質的調査の良さを活かしつつ、新 たな解釈や考察の発見を行うことができ、さらに、 複数の対象との比較がしやすくなると考えられる。 また、質的なデータを定量的に分析する手法とし て、テキストマイニングが注目されている。稲葉・ 抱井(2011)はインタビュー調査で得たテキストデー タを質的解釈した上で、グラウンデッドなテキスト マイニングアプローチで分析している。 以上のことから、図書館のイメージ調査において 量的・質的調査法、双方のメリットを取り入れた混 合研究法の使用が有用であると言える。 1.3. 本研究の位置づけと目的 本研究ではPAC分析とテキストマイニング、この2 つの分析手法を用いて個人の尺度から人々が持つ図 書館の多様なイメージをすくい上げることを目的と し、人々が図書館に対し興味・関心を持っている部 分、持っていない部分に着目して分析を行う。 PAC分析を用いることで調査協力者が連想した多 様なイメージをインタビューでさらに掘り下げるこ とが可能となり、図書館に対するイメージを調査す るには適していると考えた。そして、PAC分析に加え て、PAC分析で得たデータを元にテキストマイニング を行うことで、どのような単語がイメージとして挙 がるのかを頻出回数から具体的な数値で示すことが できると考えた。 2.手法 2.1. PAC分析 【原著】 原稿受理 2018 年 1 月 8 日 掲載決定 2018 年 4 月 12 日 PAC分析研究 第2巻 2
  5. 5. 本研究では内藤(1997)によって考案されたPAC分析 を用いる。PAC分析は自由連想から態度やイメージの 個人内構造を測定、分析する技法である。PAC分析に は以下のようなメリットがある。 1. 通常のインタビュー調査に加え、定量的なデー タを得ることが可能 2. 質的調査に慣れていない人でも手続きに沿っ て調査が可能 これらのメリットを踏まえて、PAC分析を用いるこ とで図書館に対するイメージから、人々が図書館に 対し興味を持っている部分、興味を持っていない部 分を明らかにすることを目指す。 2.2. テキストマイニング テキストマイニングとは「異なる文書による情報 源から情報を自動的に抽出することによって、今ま で知られていなかった新しい情報をコンピュータに よって発見すること」(Hearst 2003)である。 PAC分析では個人ごとに連想を自由に行ってもら う。そこで、本研究では各調査協力者が連想する連 想語に着目した。その理由は、この連想語を多数の 調査協力者と比較すると共通点や相違点が見えてく るのではないかと考えたからである。以上のことか ら、テキストマイニングを用いて、連想語の単語出 現回数を算出することを目指す。 3.PAC分析を用いたイメージ調査 3.1. 調査協力者 本調査では、図書館利用頻度を問わず、20代から 70代の男性2名、女性12名、計14名を対象とした。対 象者の選定はスノーボールサンプリングをベースに して行った。調査協力者の概要は表1の通りである。 表1 調査協力者の属性と内訳 3.2. 手続き 手続きは以下のようにした。調査の所要時間は1人 あたり1時間から1時間40分程度だった。 1. 調査協力者に同意書を提示して、研究の概要と 目的データの使用・記録、いつでも調査を中止 することができる旨を説明して同意を得た。 2. 連想刺激文と連想項目を記入するための欄を 設けた紙を用意し、紙に記載してある連想刺激 文を調査協力者に提示、かつ読み上げを行い、 内容の確認を行った。 3. 連想刺激文を元に自由連想を行ってもらい、連 想項目を想起順に紙に書いてもらった。時間指 定はせずに考えてもらった。 連想刺激文 「あなたは図書館にはどんなイメージがあり ますか。今までの経験も踏まえて、頭に浮かん できたイメージや言葉を記入して下さい。」 4. 次に、連想項目に対してプラスのイメージ(+) を持っているか、マイナスのイメージ(−)を持 っているか、どちらでもない(0)か尋ねた。最後 に連想項目全体と比較してどれがイメージと して強いか重要度を数字で記入してもらった。 同時進行で調査者がパソコンを用いてPAC- Assist2(土田、2017)に連想語、イメージ、重要 度の入力を行った。 5. PAC-Assist2を用いて連想項目間の評定を行っ た(図1)。PAC-Assist2の場合は10段階のスケー PAC分析研究 第2巻 3
  6. 6. ルが付与されているが、数値処理上は1000段階 に分かれている。評定結果は非類似度行列とし て出力される。評定の際には調査協力者に直接 システムを操作してもらった。 図1 類似度評定画面(PAC-Assist2) 6. Rを用いてクラスタ分析を行いデンドログラム の作成を行った。クラスタ分析にはウォード法 を用いた(図2)。 7. 作成したデンドログラムを元に半構造化イン タビューを行った。インタビューの際にはデン ドログラムを印刷したものを調査協力者と調 査者に1部ずつ用意した。インタビューの際に は、デンドログラムに触れる前に「最近、図書 館には行きますか」という調査協力者が回答し やすい、導入の質問をしてから、クラスタごと に各項目の詳細とクラスタごとが持つ印象に ついて尋ねた(図2)。 3.3. 結果 3.3.1. クラスタの解釈 PAC分析の結果から得られた各調査協力者の図書 館の利用頻度、イメージした図書館、クラスタの解 釈は表2の通りである。イメージした図書館は、近所 の公共図書館が、14名中9名と多かった。また、クラ スタの解釈では、「平日は毎日近い図書館に行って、 休日は遠い図書館に行ってた。遠い方はおばあちゃ んの家が近かった。17時に閉館だったから時間の区 切りが良かった。宿題をしていた(ID2)」、「(「くつ ろげる」、「明るい」といった連想語に対して)ほとん どがその(地元の公共)図書館のイメージなんです よ。そこが過ごしやすくて、そこが新しくなったの が確か10年前だった気がするんですけど。そのくら いの時期から図書館によく行くようになって、夏休 みとか宿題をよくやりにいってたからそんなイメー ジがあるのかな (ID6)」という報告から子どもの頃 によく図書館を利用していた調査協力者は、よく利 用していた公共図書館、学校図書館を中心に図書館 のイメージを持っていることがわかった。 クラスタの比較 クラスタ同士の比較では、自らの図書館利用経験 に関わる言葉、もしくは図書館にあるものやサービ スを直接的に挙げている人(ID3)、大人向けのサービ スと子ども向けのサービスの違いをクラスタの比較 から述べている人がいた(ID1,ID9,ID10)。 3.3.2. 図書館へ興味・関心がある部分 インタビューから人々は図書館のどのような部分 に興味・関心があったかを示す。 まず、「地元の図書館は明るくて、子ども向けのコ ーナーがあって、絵本がある。畳で読むことができ る(ID10)」の報告から図書館の居心地の良さが挙げ られた。 ただし、「静かな図書館が好き(ID4)」、「多少の雑 音があって、音楽がかかってて、でも一人の空間で いられるところに行く。誰にも邪魔されない。だか ら、図書館の静寂は静かすぎる(ID2)」という報告か ら、図書館の居心地の良い静かさは調査協力者ごと に好みに違いがあることがわかった。 さらに、「無料の要素は大きい。冷房きいてるし。 公共財だから使わないともったいない(ID3)」と無料 で使えるという点が挙げられていた。 図 2 デンドログラムの例 PAC分析研究 第2巻 4
  7. 7. 表 2 図書館の利用頻度・イメージした図書館・クラスタの解釈 PAC分析研究 第2巻 5
  8. 8. 表 3 連想語一覧 PAC分析研究 第2巻 6
  9. 9. また、「子どもがいなかったら図書館行かなかった かもしれないですね。本を読みなって教えてあげた いですよね。自分が読んでると子どもが見て読むか な。そんな環境にしたいな。ネットでも良いんです けど、質感とかそれをみんなで話しあうとか、共有 したい。自分も思うんですけど、小さい時に読んだ 本のことを思い出すことがあって、それを子どもた ちにも体験させてあげたい。自分が小中学校で読ま なかったから反面教師かな。私自身が読んでないと 本の良さに気づいてもらえない(ID14)」という報告 から、子育て中の調査協力者は図書館への興味・関 心というよりも、子どもに本を読んでもらいたいと いう子どもへの意識から、自分も図書館に行き、本 を読んでいることがわかった。 他にも、「司書」や「レファレンス」のように図書 館の職種やサービス名を具体的に述べていた調査協 力者がいた(ID3,ID6,ID8)。これは図書館に関する知 識を持っていることを指している。インタビューの 中でも図書館に関して学んだ経験があるから、もし くは図書館の仕事に関わっている知り合いがいるか らと述べていた。しかし、サービスは知っていても 自分で使う場面や、必要がなくて利用をしたことが ないと言う人もいた。 3.3.3. 図書館へのポジティブな印象と実際の利用 PAC分析を行った結果、全体的に図書館の存在自体 に関しては良い印象を持っていた。しかし、「他にや りたいことがあるから図書館に行こうとは思わない (ID9)」と、図書館利用の優先度が低く、利用につな がらない場合もあった(ID2,ID7,ID9)。 次に、図書館へポジティブな印象を持っていても、 「家から歩いて行ける場所じゃないと行こうと思わ ない(ID1)」、「足がないから行くのが大変(ID5)」と いう報告から図書館へ行くというハードルが高い場 合があることもわかった。特に物理的な距離が図書 館の利用へ大きな影響を与えていて、特に、ID5のよ うな高齢者はバスもなく徒歩しか移動手段がないた め、余計に図書館に行くハードルが高い様子だった。 さらに、移動手段があっても「車じゃないと図書 館に行かないけど、駐車場が1時間しか無料じゃな い、無料だったらずっといたいのに(ID12)」という 報告から図書館の周辺環境の影響で、図書館が好き でもなかなか滞在できない部分に不満を持っている 調査協力者もいることがわかった。 また、ID5の調査協力者は子どもの頃に図書館に触 れる機会がなく、図書館に初めて行ったのが70歳の 時で図書館の使い方がわからないと述べていた。図 書館の使い方を尋ねようにも「図書館職員が忙しそ うで声をかけにくいから、いいかと思ってしまう (ID5)」と、図書館の利用をためらってしまう場面が あることも報告から明らかになった。 4.連想語のテキストマイニング 次に調査協力者全体の連想語(表3)のテキストマ イニングを行い、連想語にはどのような単語が多く 挙げられているのかを単語出現回数として具体的な 数値を算出した。テキストマイニングには樋口 (2004)によって開発されたKH Coderを使用した。 4.1. 結果 4.1.1. 連想語全体 KH Coderを用いて、調査協力者が挙げた連想語148 個を全て品詞ごとに分け、単語の出現回数を算出し た(表4)。 表4 連想語全体の単語出現回数(2回以上) PAC分析研究 第2巻 7
  10. 10. この出現回数から連想語では「場所」という単語 が多く挙げられていることがわかった。それに続い て「本」、「人」の出現回数が多いことがわかる。連 想語だけでも人々が図書館という言葉を聞いた時に 考えるイメージが「本」、「人」、「場所」に関わるも のであることがわかる。 次に連想語全体の単語がどのように共起している か、単語同士の繋がりをネットワーク図にした(図 3)。ネットワーク図では円の色が赤く、大きくなる ほど、語と語のつながりで中心になっている単語で あることが示されている。このネットワーク図では 「場所」、「本」、「人」が他の単語に繋がる中心の単 語となっており、図書館のイメージの中でも関係性 が強い単語であることがわかる。さらに、線の太さ は太いほど共起関係が強い単語である。ここでは、 「興味―知る」、「聞かす―読む」と言った単語の共 起関係が強いことが挙げられる。 図3 連想語全体のネットワーク図 4.1.2. 重要度が高い連想語 さらに、ここでは各調査協力者が挙げた連想語の 中でも重要度が高かった上位3個も先程と同様に単 語の出現回数を出し、それらを元にネットワーク図 を作成した(表5、図4)。 先程挙げた連想語全体の単語の出現回数、ネット ワーク図とそれぞれ比較すると、「人」の単語出現回 数が少なくなり、「本」と「場所」が中心になってい る。このことから図書館のイメージの中でも「本」 と「場所」という単語が中心に挙げられた。そして、 線の太さから「人―場所」、「本―沢山」、「情報―沢 山」の部分の共起関係が強いことがわかった。 表5 重要度が高い連想語の単語出現回数(2回以上) 図4 重要度が高い連想語のネットワーク図 4.1.3. 属性別の連想語 今回の調査では学生、社会人、子育て中等の様々 な調査協力者に調査を行った。属性ごとに連想語に 違いがあるのかどうかを検証するため、学生、社会 人(子育て中除く)、子育て中の3つの属性に調査協力 者を分け、連想語の分析を試みた。 学生 ID2,3,4,6,10の5名が挙げた連想語を対象に分析 を行った(表6,図5)。 PAC分析研究 第2巻 8
  11. 11. 表6 連想語の単語出現回数(学生・2回以上) 図5 連想語のネットワーク図(学生) 学生が挙げた連想語の単語出現回数の上位に、「場 所」、その次に「本」が多く挙げられた。形容詞では 「明るい」という単語が挙げられた。共起ネットワ ーク図では「場所」と「行く」という動作を表す単 語が中心に挙げられた。線の太さから「トイレ―行 く」の共起関係が強いことがわかった。実際の連想 語でも「トイレに行っている間にお財布を盗まれた らどうしよう(ID2)」が挙げられている。 社会人(子育て中の人除く) ID1,7,8,9,11,12の6名が挙げた連想語を対象に分 析を行った(表7,図6)。 表7 連想語の単語出現回数(社会人・2回以上) 図6 連想語のネットワーク図(社会人) 社会人が挙げた連想語の単語出現回数の上位に 「場所」、「人」、「本」、「図書館」、「利用」といった 名詞が多く挙げられた。動詞では「借りる」、形容動 詞では「静か」という単語が多く挙げられた。共起 ネットワーク図では「人」、「場所」が中心に挙げら れた。線の太さから「子ども―利用」、「場所―静か」、 「人―多い」、「人―返却」、「学生―勉強」等の共起 関係が強いことがわかった。実際の連想語でも、「静 かな場所(ID7)」「図書館の仕事は貸出、返却だけだ と思っている人が多い(ID8)」が挙げられている。 PAC分析研究 第2巻 9
  12. 12. 子育て中の人 ID10,13,14の3名が挙げた連想語を対象に分析を 行った(表8,図7)。 表8 連想語の単語出現回数(子育て中・2回以上) 子育て中の人が挙げた連想語の単語出現回数の上 位に「場所」、「子ども」、「勉強」、「本」といった単 語が挙げられた。共起ネットワーク図では「場所」 を中心に「子ども」、「得る」という単語が挙げられ た。線の太さから「聞かす―読む」の共起関係が強 いことがわかった。 図7 連想語のネットワーク図(子育て中) 5.考察 5.1. 全体の図書館へのイメージ まず、PAC分析を用いたインタビューや連想語か ら庄司・小島(2012)の研究で挙げられた図書館に対 するネガティブなイメージは本調査ではほとんど出 てこなかった。むしろ、図書館を利用しない人でも 図書館に対し、良いイメージを抱いていた。これは 特定の図書館に対して不便な面は感じているもの の、図書館の存在そのものに対して良い印象を持っ ている人が多かったことが考えられる。しかし、イ ンタビューで「足がないから行くのが大変(ID5)」、 「他にやりたいことがあるから図書館に行こうとは 思わない(ID9)」という声があった。このことから 図書館を利用しない要因にはイメージ以外の「場所 的要因」や「優先度」といった他の要素が深く関わ っていることが考えられる。また、長谷川(2015)の 研究では図書館の利用者は「静かな」イメージを強 く持つにも関わらず、「にぎやかな」イメージも強 く持つという相反する結果が示されている。この原 因は形容詞対の作り方によってとらえ方が異なって しまった結果である。これに対して、本調査から 「静か」のように形容詞で表現されたイメージは、 人によってニュアンスが異なることをとらえること ができた。この点は質的調査の良さが活かされたと 考える。 次に、テキストマイニングの結果から実空間的な 図書館へのイメージや本に対してのイメージが多く 挙げられていることがわかった。一方、図書館で使 えるデータベースや電子書籍、コンピュータに関す るキーワードが連想語やインタビューの中でもあま り出て来ず、ID9の調査協力者が連想語の中に「パソ コンが使える」と挙げているだけだった。このこと から図書館の機能やサービスとしてそれらの電子媒 体のコンテンツが一般的に認知されていない、もし くは興味を持っていないため、使用されていない現 状があるのではないかと推測される。 5.2. 属性別の図書館に対するイメージの差 本調査では学生、社会人、子育て中の方等様々な 方に調査を行った。全体的にインタビューをしてい て、学生は娯楽よりも勉強や研究のために図書館に 行き、子育て中の調査協力者は子どもの学習や娯楽 で図書館に訪れる様子だった。属性別のテキストマ イニングでは社会人や子育て中の人は「借りる」と いう動詞が連想語の中に含まれているのに対し、学 生は「行く」という単語は多く出現したが「借りる」 という単語は2回以上出現しなかった。学生の中でも イメージした図書館の館種は様々だが、図書館の利 用の仕方に違いがあることが推測される。 PAC分析研究 第2巻 10
  13. 13. 6.おわりに 本研究では人々が持つ多様な図書館のイメージを すくい上げるため、PAC分析を用いて調査を試み た。特に、図書館へ興味・関心がある部分、ない部 分に着目して分析を行った。その結果、全体的に調 査協力者は図書館の居心地の良さに興味・関心があ ることがわかった。そして、図書館そのものに対し て、悪いイメージは持っていないが、実際の利用ま で結びついてはいない様子だった。その理由は「図 書館へ行く必要性を感じない」という優先順位の低 さと、「家から遠い」という物理的距離の問題が挙げ られた。また、今回はPAC分析に加え、KH Coderを用 いて連想語の単語出現回数と共起ネットワークから 連想語で多く挙げられる単語の関係を明らかにし た。その結果、実空間に関する図書館のキーワード は多く挙げられたが、インターネット上で使えるデ ータベースや電子媒体に関するキーワードはあまり 挙げられていなかった。 今後の課題は本研究の結果を踏まえて、人々が図 書館に対して興味・関心が向いていなかった部分に 対し焦点を絞って検討を行い、図書館に興味・関心 を持ってもらう方法を提案することである。特にイ ンターネットや電子媒体に関しては図書館の物理的 距離の問題を解決するための手段の一つと考えられ るため、さらなる調査を行う必要がある。 参考文献 文部科学省(1999). 「図書館法」. http://www.mex t.go.jp/a_menu/sports/dokusyo/hourei/cont_0 01/005.htm (閲覧日 : 2017年10月23日). 国立国会図書館(2015).「図書館利用者の情報行動の 傾向及び図書館に関する意識調査-集計レポート -」.http://dl.ndl.go.jp/view/download/digid epo_9111358_po_03_report.pdf?contentNo=27&a lternativeNo= (閲覧日: 2017年07月18日). 庄司名奈恵,小島隆矢(2012).「公共図書館の利用阻 害要因となるネガティブな印象に関する研究」 『日本建築学会環境系論文集』 Vol.77 ,No.67 1 ,p.829-836 . 長谷川幸代(2015).「公共図書館の利用・非利用に関 わる要因の分析と考察」.博士論文,中央大学.ht tp://ir.c.chuo-u.ac.jp/repository/search/it em/md/rsc/p/7369/ (閲覧日:2018年2月20日). Hearst,M(2003).「What Is Text Mining」. http:/ /www.jaist.ac.jp/~bao/MOT-Ishikawa/FurtherR eadingNo1.pdf (閲覧日:2018年4月3日). 稲葉光行, 抱井尚子(2011).「質的データ分析にお けるグラウンドデッドなテキストマイニング・ア プローチの提案―がん告知の可否をめぐるフォ ーカスグループでの議論の分析から―」『政策科 学』, Vol.18, No.3, pp.255-276. 内藤哲雄(1997).『 PAC分析実施法入門 : 「個」を 科学する新技法への招待』 ナカニシヤ出版, 14 8p. 土田義郎(2017). PAC-Assist2. http://wwwr.kanaz awa-it.ac.jp/~tsuchida/lecture/pac-assist.h tm (閲覧日 : 2017年07月27日). 樋口耕一(2004). 「テキスト型データの計量的分析 : 2つのアプローチの峻別と統合」『理論と方法』 Vol.19, No.1, pp.101-115. PAC分析研究 第2巻 11
  14. 14. 人々の図書館に対するイメージ調査 PAC分析とテキストマイニングを用いて A study on the images of libraries: using PAC analysis and text mining 【執筆者】 三島 悠希 MISHIMA Yuki 筑波大学大学院 図書館情報メディア研究科 末岡 真里奈 SUEOKA Marina 筑波大学大学院 図書館情報メディア研究科 松村 敦 MATSUMURA Atsushi 筑波大学 図書館情報メディア系 助教 【要旨】 本研究は PAC 分析とテキストマイニングを用いて人々が図書館に対して興味・関心がある部分、ない部分を明らかに することを目的としている。調査は普段から図書館を利用する人、しない人、20 代から 70 代までの男性 2 名、女性 12 名を対象にして行った。その結果、人々は利用経験や印象から図書館の空間に関して関心を持ち、図書館に対して、基本 的にポジティブなイメージを持っていることがわかり、連想語のテキストマイニングから実空間に対する図書館に対す るキーワードが多く挙がっていることが明らかになった。しかし、それ以外の図書館の電子化に関連したキーワード(オ ンライン蔵書目録、データベース等)は挙がらなかった。本研究から、人々が持つ図書館のイメージは利用経験と実空間 での図書館を中心にしたものであることがわかった。今後の課題はこの結果を元に人々への図書館へ興味・関心を持っ てもらう方法を検討することである。 The purpose of this study is to determine the parts of libraries that interest people using PAC analysis and text mining. The partici- pants are 2 males and 12 females, aged from 20 to 70 years old. The results showed that people were interested in the library space from experience and impressions, and found that they have positive images of the library. From the text mining of associated words, keywords relating to the real space were revealed. However, other keywords related to computerization of the library (online public access catalogs, database, etc.) were not raised. From this study, it was found that the image of the library that people hold is based on the utilization experience and real library. I would now like to consider ways to increase people's interest in the library based on these results. PAC分析研究 第2巻 12
  15. 15. PAC分析研究 第2巻 13
  16. 16. 日本人妻と共に子育てをしている欧米人夫の態度構造-PAC 分析を通して 蔵本 真紀子 1. 問題と目的 はじめに簡単にわが国の国際結婚の動向ならび に異文化間夫婦に関する先行研究を示す。次に,異 文化間夫婦の子育てについて概説する。最後に本研 究のサンプリング戦略と採用した PAC 分析につい て説明する。 1.1 国際結婚の動向と異文化間夫婦に関する先行研 究 80 年代以降、日本人の婚姻件数は減少傾向にある (厚生労働省、2016)。その一方で国際結婚は、 1965 年には 4,156 件であったのが、2005 年には 4 万件を超え、顕著に増加したことがわかる。その数 は 2010 年をピークに下降に転じているとはいえ、 50 年余りで大幅に増加していることに変わりはな い。同統計によれば今日の国際結婚の組み合わせは アジア人妻と日本人夫が 8 割である。しかし 1960 年代までは国際結婚の 7 割を超えていた日本人妻と 欧米人夫の結婚が、2010 年より再び増加傾向に転 じている。背景に近年の日本人女性の国際結婚志向 の高まりが指摘されている(開内、2012)。また人 口動態統計には反映されていないが、欧米に渡った 日本人女性が現地の男性と結婚するケースが増加し ている(開内、2012;嘉本,2008)。全体的に日本 人女性と欧米人夫の結婚はますます増えていくだろ う。 異文化間夫婦は、同一文化間夫婦が直面する課 題に加えて、互いの文化のすり合わせが必須とな り、「二重の文化折衝」であるとされる(矢吹、 2011)。それゆえに異文化間夫婦は同一文化間夫婦 以上にストレスを感じやすく関係性破綻に陥りやす いことが示されている(Bhugra & De Silva,2000; Romano,2008 など)。 国際結婚並びに異文化間カップルに関する研究 についていくつか課題が挙げられる(蔵本、 2017b)。まずは、研究量の圧倒的な少なさである。 海外においても、カップル及び夫婦に関する報告の 中で異文化・異民族間カップルに焦点を当てた研究 はわずか1%である。グローバル化に伴い、世界中 で国際結婚並びに異人種異民族間カップルが加速度 的に増えている現状を踏まえると、追いついていな いと言わざるを得ない。次に、研究の蓄積が乏しい テーマとして、子育て期への適応や異文化間カップ ル臨床などが挙げられている。また、国内での調査 対象についてであるが、日本人夫とアジア人女性の 結婚に関する研究は蓄積がある程度進んでいる一方 で (早川・山崎、2015;松本、 2001 など)、日本 人妻と欧米人夫を扱った研究は限られている(滝 川、 2006;矢吹、2011 など)。日本人妻と欧米系 夫の結婚の増加を踏まえ、この組み合わせに焦点を 当てた研究の蓄積が望まれる。 1.2 異文化間夫婦の子育て 文化の差は子育ての場面で最も顕著になると言 われている通り(Romano, 2008;Perel, 2000),子育 てをめぐる問題は異文化間夫婦の結婚満足度を規定 する大きな要因である。子どもが成長するにしたが って,文化によって節目節目での発達目標,習慣や 儀式が異なり,葛藤の火種となりやすく,夫婦の親 密度が低下したり,葛藤を顕在化させたりする例は 枚挙にいとまがない(Crippen, 2007; Gonzales & Harris, 2013 など)。国内の国際結婚夫婦を対象に行った調 査(竹下、2000;Yamamoto , 2010)では,子どもの 教育方針の違いにより,夫婦双方の結婚満足度が低 下し,その傾向は夫が欧米人の場合に特に強かった。 このように子育て期が異文化間夫婦にとって危機的 時期であることは確かめられているが、どのように その危機を乗り越えているのか、どのような要因が プロテクターとなるのかといったことを探索した研 究は見受けられない。 1.3 サンプリングと PAC 分析採用について 1.1 で示した通り,近年増加傾向にあるにもかか わらず,これまで学術的関心があまり向けられてこ なかった日本人妻と欧米人夫の組み合わせ(蔵本、 2017b)に焦点を当てる。 PAC分析を採用したのは以下の三つである。まず、 面接調査では、研究者の聞き方や微妙な言葉のニュ アンスによって、協力者から得られる回答が左右さ 【原著】 原稿受理 2018 年 1 月 17 日 掲載決定 2018 年 4 月 12 日 PAC分析研究 第2巻 14
  17. 17. れる可能性が指摘されている(Antaki, Houtkoop- Steenstra, & Rapley, 2000)。また一般的な質的分析 は、カテゴリ間の関係について研究者のバイアスが かかりやすく研究者自身の枠組みから意識的・論理 的に決定されるリスクについての批判がある(内藤、 2002)。PAC 分析を行い、面接研究を照らし合わせる ことで、より精緻な理解を得られると考えられる。 二つ目は、異文化間で子育てをするという曖昧かつ 言語化しにくい概念を深掘りするには、PAC 分析は 効果的なツールになりうるということである。先行 研究では、異文化間夫婦は子育て期に危機を迎える ことが示されているが、互いの子育て観が異なるこ とですれ違いを経験している可能性も大きい。した がって、まず異文化間で子育てをしていることは自 分にとってどのような意味を持っているのか、自分 がどのような信念を持っているのかについて、参加 者が PAC 分析というツールの助けを得ながら自己 理解を深めることは有用と考えられる。三つ目であ るが、内藤(2002)が“PAC 分析が威力を発揮する のは、少数者の質的分析においてである”(p.29)と述 べている通り、そして青木(2013)PAC 分析は深層 の意識が現れやすいため,少人数の結果からでも, 普遍的な要素を一定程度取り出すことが出来ると論 じている通り、量的調査に向かないマイノリティに 光を当てる手法としても PAC 分析は最適と考える。 蔵本(2017c)では、欧米人夫と結婚している日本人 妻がどのような態度や視点を持って、異文化のパー トナーと共に子育てしているのか、深い洞察を得る ことを目的とし、欧米人夫と結婚し、子育て中であ る日本人妻 4 名に対し Personal Attitude Construct(以 下 PAC)分析を行っている。今回は夫側に焦点をシ フトし、同じ手法を用いて彼らの暗黙裡の子育て観 を浮き彫りにすることを狙いとした。蔵本(2017c)同 様、研究の意義を説明し関係満足度が高いことを確 認した上で参加を依頼することで、危機とされる子 育て期にうまく行っている手掛かりを得ることも狙 いとした。 2. 方法 2.1 参加者と実施期間 参加者数について,蔵本(2017c)にならい、質的 研究のサンプリングにおいては経験の多様性を描く ことができるとされる「4±1人」を参考に4名とし た(サトウ・安田・佐藤・荒川, 2011)。在日年数が 10 年以上であり,また,長子が7~8 歳である比較 的子育て期初期に,統一した。面接は 2017 年 1 月~ 2 月の間に参加者及び著者の自宅で行った。プロフ ィールは表1の通りである。 表1参加者のプロフィール 2.2 倫理的配慮と実施の流れ 研究参加者には、研究協力同意書を渡し、調査に 影響しない程度の研究主旨と調査手続きの流れをあ らためて説明した。①個人情報は十分に管理するこ と、②面接時には答えたくない質問は答えなくても よいこと、③途中で中断・中止することも可能であ ること、④IC レコーダーに録音させてもらうこと、 ⑤語りを一部論文などで引用する可能性があること を伝え、同意書を交わした。合計所要時間の平均は 約 2.5 時間であった。尚、日本人とほぼ同等の日本 語能力があるフランソワとは日本語で、その他の参 加者とは英語で面接を行った。翻訳は著者が行った。 2.3 手続き 内藤(2002)に従いデータ収集及び分析を行った。 ①自由連想に用いた教示文は蔵本(2017c)と同様、 「あなたが異文化出身のパートナーと共に子育てを 行ってきた、そして現在も行っている中でどのよう なことを体験されたり感じたりしてきましたか。頭 に浮かんできた言葉やイメージを思い浮かんだ順に 番号をつけてカードに記入してください。文でも名 詞でも形容詞でもなんでも構いません。」とした。な お、教示文は、PAC 分析に詳しい専門家から意見を 得て作成した。教示文を口頭と文面で呈示し、連想 した言葉などを思いつかなくなるまで書き出しても らった後、「あなたにとって重要と思われる順に番号 を付けてください」と教示した。②項目を対にして ランダムに読み上げ、項目間の類似度を 7 段階で評 定させ、距離行列を作成した。③SPSS(ver.24)を用 いてクラスター分析(Ward 法)を行った。同時に多 PAC分析研究 第2巻 15
  18. 18. 次元尺度法(ALSCAL)から布置図を作成した。④ 析出されたデンドログラムと布置図に連想項目を記 入したものを呈示し、見方を説明した。どちらか一 方及び両方を、参加者が解釈しやすいように参照す るよう教示した。⑤それぞれの項目がまとまった理 由や共通するイメージなどを聞き、参加者の洞察過 程を適宜援助しながら、まとまりがあるとされたク ラスターについて、基本的に著者との共同作業で命 名した。続いて、CL 同士の関係について共通点や相 違点、そして全体としてのイメージを語ってもらっ た。⑥項目単独としてのイメージを+、-、どちら でもない場合は0で評定させた。尚、参加者のイメ ージの変容に合わせて、CL の分割や併合の変更を 柔軟に行った。解釈が難しかった項目や CL や CL 間 の関係についてなど、適宜補足質問を行った。また、 それぞれの項目が併合されていくプロセスにも目を 配り参加者の内界探索を促した。⑤、⑥では、回答 を急かさずゆっくり時間をかけ、参加者のペースに 合わせた。⑦オリビエとフランソワに対しては、CL 名を記した紙を白紙の上に置き、自由に配置を変え たり矢印を記入したりしながら、自身が納得するよ うな図を作成してもらった。その際、枠線や関係を 表す矢印の太さを思いの強弱に応じて変えるようお 願いした。得られた結果を踏まえ、著者が総合的に 解釈した。概念図を書けなかったマイケルとグレゴ リーには、クラスター間の比較と全体的な感想を口 頭で求めた。 類似度評定について、短期間で変化しないという 一定の再現性を確認するため、オリビエとマイケル に了解を得て 1 か月の間隔を置き、2 回目の類似度 の評定をしてもらった。その結果、ほぼ同等のクラ スター構造が得られたため、この結果をもって一定 程度の再現性及び信頼性があることを確認した。 3. 結果 以下、オリビエから順に結果を説明し、最後に全 体的な考察を述べる。項目や CL 名を<>、参加者 の発言は「」、そして著者からの補足は( )で示し た。紙幅の限界より、残りの 3 名については距離行 列などを割愛する。 3.1 オリビエの場合 3.1.1 クラスター構造と解釈 オリビエの類似度評 定に基づく連想項目間の距離行列を表 2、クラスタ ー分析から得られたデンドログラムを図 1 に示す。 オリビエの場合、デンドログラムを好んだため、布 置図は用いなかった。最終的に3個の CL がまとま った。 表 2 非類似度距離行列(オリビエ) 図 1 オリビエによる CL 構造 CL1:8 <文化的行事を祝う>と 9 <食べ物>の2 項目。「僕らは両方の文化を重んじていて節目節目 でいろいろなことをやる。クリスマスはもちろんだ し、初詣も、ガレットデロワもやる。豆まきも楽し いね。こういうイベントを楽しく経験することが文 化を学ぶいい機会だ。・・・中略・・・食べ物は、 文化によって当然違うものだし・・・ 例えば日本 食しか慣れていなくて、フランスに来た時にフラン スの料理が食べられないということは、その国には 住めないということ。子どもが僕の国の料理を食べ られないのは、受け入れられない。いろんな文化を 知って、いろんな食べ物を食べられる。子どもには オープンマインドで、好奇心を持ってほしい。何も トライしないうちに、あれ食べたくない、これやり たくない、なんて言わないで、いろいろとチャレン ジしてもらいたい。つまり世界の学習・・・発 PAC分析研究 第2巻 16
  19. 19. 見。」 (何の発見だと思いますか?)「新しい世界 だよね。」 CL2: 2 <第2言語の学習>から 5 <子どもにとっ て様々な文化や言語を学ぶ機会>の4項目。「第2 言語の学習も、国際的視野を身に着けることも、学 校教育でいろいろ習うことも、子どもにとってオー プンマインドを身に着けるいい機会だと思う。」(こ の 2、 3、 4 が非常に近いですね、その後この 5 番 が併合されていることは、どう思いますか?)「言 語学習、国際的視野、教育イコール子どもにとって の素晴らしいチャンス。我々の子どもはとてもラッ キーだと思う。日本語とフランス語を身につけ、両 方の文化を理解している。新しい世界への適応能力 が備わるはずだし、その他の人よりオープンマイン ドな人間に成長すると思っている。」これらを包括 する概念として、CL2 は<国際的な教育>と名付け られた。 CL3: 1 <オープンネスと妥協>から 7 <異なった マナーは・・・>までの3項目。「これもさっきと 同じで、この 7 の葛藤がマイナスで後から合わさっ ているのは、妥協する心を持っていなかったり、両 家族とのコミュニケーションがうまく取れていなか ったら、葛藤の原因になるだろうってことかな。も う一方の文化を理解しようとするオープンネスや、 折り合おうとする気持ちが大切。例えば、食事の時 日本人はいただきますという。もし僕が、食事の時 は、こうしてパンを持って、ナイフで十字に切り込 んでお祈りしなければだめだと言い張ったとしたら ケンカになるだろう?僕らの家族ともリンクしてい て、もし子どもが一方の家族としかコミュニケーシ ョン取れないのだとしたら、それは大きな問題とな る。家族はとても大事なもの。」オリビエは、この 三つを包括する概念として、バランスを挙げた。 「つまり、学習にしても、家庭内の文化にしても、 家族とのコミュニケーションにしても、うまくバラ ンスを取るってことが大事。」 3.1.2 概念図 オリビエは、まず、CL1 と CL2 をつ なぎ囲った。そして、その両方に影響を与えた要因 として CL3 から矢印を引いた(図2)。 図 2 オリビエの概念図 「僕らの子どもはインターナショナルスクールに行 っている。どちらの言語も文化も学ばせたいのな ら、日本にいる以上、この学校に通わせるのがいい と考えたから。そこでは二言語を学んで、多様な人 種の子どももいる。子どもを早いうちからそうした 多様な文化や人達に触れさせておくことは、意味が あると思う。」オリビエは、教育と新しい世界はつ ながっていると考え、うまくバランスを取ること が、子どもたちがこれから生きていくうえで大事な 能力であると認識していた。 3.1.3 補足 教示文には、自分の国ではない、異文 化出身のパートナーと子育てをすることについて、 イメージを求めたにも関わらず、パートナーを直接 想起させるような項目はなかった。これについてオ リビエは、「僕の中ではすべてに妻が入っていた。 僕らチームのアウトプットだから。僕らも、もめる ことはあるけど、そして子どもたちはそれを目の当 たりにするけれど、必ず折り合いをつけることも見 ている。そういうことも、彼らが妥協することやバ ランスを取ること、違ったもの同士が理解しあうこ とを学ぶきっかけになっているはずだ。」 3.1.4 考察 7 <異なったマナーは時に葛藤の原因と なる>が唯一のマイナス項目で、他はすべてプラス となっている通り、子育てについて肯定的な態度を 持っていることがわかった。オリビエは、幼いうち から多言語多文化に触れることは、ますますグロー バル化する社会の中で、優れた適応能力や寛容性を 育むと捉えている。図2にも現れている通り、そこ で鍵となるのはバランス能力である。この均衡能力 こそが、今後の学習場面、そして新しい世界を経験 する際の原動力となるのかもしれない。さらに、オ リビエの子育て観には常に妻が含有されていた。オ リビエから得られた示唆であるが、均衡能力と夫婦 の一体感が、異文化間夫婦において特に重要である PAC分析研究 第2巻 17
  20. 20. と推察される。 3.2 マイケルの場合 3.2.1 クラスター構造と解釈 マイケルの類似度評 定に基づいて、クラスター分析から得られたデンド ログラムを図 3 に示す。マイケルの場合も、デンド ログラムを選択し最終的に3個の CL がまとまった。 図 3 マイケルによる CL 構造 CL1:6 <日本語の宿題・・・>から 8 <時々子ど もとの・・・>までの 3 項目。「僕の試練だよね。 言語に、宿題に、学校の文化に。」(最初に 6 宿題の 難しさと 7 の教育システムが理解しにくい、がまと まってから、8 子どもとの日本語の会話についてい けなくなる、が組み込まれていますね。)「子どもた ちの日本語が上達しすぎて、僕が追い付かない。昔 は簡単な会話ならできていたけれど、難しくなって いるよ。」 CL1 は、協議の上、<試練>と名付けら れた。 CL2: 3<時々(夫婦で)子どもに対する期待 が・・・>と 9 <娘と漢字の・・・>の2項目。「名 前をつけるとしたらサプライズかな。僕と妻で子育 てについての考え方や教育についてのこだわりが違 うこともある。驚くこともあるけれど、聞いてみる と、なるほどと思ったりもする。子育ては、自分に とって未知との出逢いの連続。」 CL3: 2 <子どもが時々日英の・・・>から 5 <バ イリンガル>までの5項目。「これは言語と文化か な。アメリカに帰省しても、あっという間に子ども は言葉も文化も吸収する。」協議の結果、CL3 は< 言語と文化>と命名された。 マイケルは 2、 10、 4 と 1、 5 が併合していった過程についてはよくわ からないと回答した。 3.2.2 クラスター同士の比較 CL1 と CL2:「試練とサプライズは表裏一体。僕 が日本に来て直面している問題や試練は、裏を返せ ば、サプライズの連続。漢字学習も試練と言えば試 練。でも、新しいことを学ぶのは楽しいことだ。」 (CL1 はマイナスで集まっていて、対照的に CL2 はプラスとマイナス両方ですね。) 「この3つ (6、7、8)にマイナスをつけたのは、僕のフラス トレーションを表しているから。会話していてもわ からないこともある。子どもが宿題で何をするべき かもわからない。学校のやり方も、僕が受けた教育 とは異なるから混乱もする。理解不足というのは大 きな試練でもある。でも裏を返せば、知らないこと を経験できることはいいこと。漢字も娘と学べてう れしい。妻に対してもそうで、妻の子どもへの期待 や、やり方に驚くこともあるけれど、なるほどとも 思う。」 CL2 と CL3:(2がニュートラルで、他はすべて ポジティブですね)「いろんな言語や文化に触れる ことは楽しいからね。子どもたちをいきなり新しい 世界に放り込んでも、彼らはその文化の子どもたち とすぐ交流できるし、全て吸収する。そこで得た新 しいアイデアや言葉をすぐ取り込んで持ち帰る。そ ういう意味でもサプライズ。」 CL1 と CL3:「これは僕個人の試練と子どもの成 長への思いの違いかな。だからネガティブ対ポジテ ィブになっている。」 3.2.3 全体的な感想:「こうして特に考えてもなか った自分の信念のようなものを浮き彫りにされる と、自分が大切にしていたことや抱えている難しさ が、客観的に捉えられて面白い。基本僕は好奇心が 旺盛だし、言語、文化、食べ物が好き。だから、全 体的にポジティブに捉えているんだろう。」 3.2.4 考察 マイケルは子どもが成長するにつれ、 子どもの日本語能力が自身の能力を上回り、日本語 での複雑な会話が難しい、小学校の教育方式が自身 が慣れ親しんだものと違うなどの、一定の困難さを 感じている。一方で、“試練とサプライズは表裏一体” と捉え、試練を自身の学びに転換できている。総じ るとマイケルから何が示唆されるだろうか。それは、 バイリンガル子育てに付随する試練を自分自身の新 しい学びのチャンスとみる好奇心と現状を前向きに 捉える冷静さではないだろうか。 PAC分析研究 第2巻 18
  21. 21. 3.3 グレゴリーの場合 3.3.1 クラスター構造と解釈 グレゴリーの類似度 評定に基づいて、クラスター分析から得られたデン ドログラムを図 4 に示す。グレゴリーの場合も、デ ンドログラムを選択した。最終的に3個の CL がま とまった。 図 4 グレゴリーによる CL 構造 CL1: 1 <多文化間子育ては・・・>から 5 <多 文化間子育てによって・・・>までの 5 項目。「子 どもの育ちに影響を与えるもの・・・。子どものパ ーソナリティや発達にだよね。」CL1 の名前は<子 どものパーソナリティと発達への影響>となった。 CL2: 9 <僕と妻の・・・>と 10 <父と母の貢 献・・・>の2項目。「アクティブペアレンティン グ。二人とも内容は違うけれど、平等に子育てに貢 献している。50/50。」 CL3: 6 <子どもは親が・・・>から 8 <父母と も・・・>までの3項目。「これは、多文化間の子 育て・・かな。」(6 と 8 がとても近く結ばれてい て、その後すぐ 7 が併合されていますね。どういう ことを指すのでしょうね。)「たぶん、これらが子ど もの将来に繋がるってことだから。」CL3 は、<子 どもの将来の機会>と命名された。 3.3.2 クラスター同士の比較 CL1 と CL2: 「イメージとしては CL2 があっ て CL1 の効果があるみたいな。僕らが積極的に、 平等に子育てに貢献して、両文化に子どもを触れさ せることで、その子の成長にいい影響を与える。」 CL2 と CL3:「正直この比較は難しい。」 CL1 と CL3: 「CL1はもっと展望的、抽象的 で、CL3 はもっと具体的なイメージ。」 3.3.3 全体的な感想:(すべてポジティブに評定さ れていることについて、どう思いますか?)「僕は 20 年以上日本に住んでいるから、大変だった時期 はもう過ぎている。まだ苦労はあるけれど、そうい うストレスも楽しんでいるからかな。」(やってみて どうでしたか。)「僕の多文化間の子育ての価値とい うものがよく出ていると思う。一つの文化の中で育 てるより、複数の文化の中で育つことは、子どもに とって素晴らしい機会だと再認識した。」 3.3.4 考察 “僕と妻”、“僕ら”、“夫婦間でバリアー がない”や”父と母の貢献“など、夫婦の一体感が 協調されている。グレゴリーの中では夫婦間で共通 目標が共有されており、役割が明確化していること がわかる。またグレゴリーは、両方の文化や言語に 触れることで、早いうちから異文化間コミュニケー ション能力を会得し、成熟したパーソナリティを育 み、あらゆる環境への順応性も促進されると信じて いる。こうした能力を引き出すためにも、夫婦で一 体となって、教育に関わることが重要だという信念 が浮かび上がっている。グレゴリーから示されてい る異文化間子育ての手掛かりは、夫婦が互いの貢献 を認め合い目標を一致させ足並みを揃えることであ る。 3.4 フランソワの場合 3.4.1. クラスター構造と解釈 フランソワの場合、 布置図を選択した(図 5)。但し、著者の手元にはデ ンドログラムも用意し各項目の併合過程にも目を配 るようにした。当初 4<柔軟性>はどこにも属さなか ったが、下記の語りに出てくるように最終的には CL4 にまとめられた。 図 5 フランソワによる CL 構造 PAC分析研究 第2巻 19
  22. 22. CL1: 8 <愛国心>と 9 <人種差別>の 2 項目。 「それはなんとなくわかる。移民が来たときに、自 分に愛国心があることによって、差別的な感情もと かいろいろ起きてくる。だから関係は近いと思う。 イメージしていた時は、子どものことを思い浮かべ ていて、別々のはずだったはずだけど。子どもが二 つの国籍があって、愛国心を両方に感じられるのか ー、どっちかに偏ってしまうのか、そういう意味 で。人種差別は、子どもが両側から人種差別される んじゃないか、そういう可能性もあるかもと思い浮 かべた、元々。」(イメージしていた時は違う文脈で 考えていたけれど、こうして近い距離で、実は意識 にあったのですね。この二つについて、もう少し考 えてもらえますか。)「隣の国でも、人種が同じで も、結局、愛国心がありすぎることによって、問題 がおきることもある。そういう意味では、似ている のは人種差別だけど、歴史的に関係があるので。」 (お子さんが将来持つだろう愛国心というものにつ いて何か思いはありますか?)「ほどよく両方バラ ンスよく持ってほしい。でも、それは俺的にはでき るかどうかはわからない。」(これらが近いことはわ かりました。これらを包括するようなイメージ は?)「こういう国とか人種とか、自分で決めるこ とじゃないから。生まれたことによって、入れられ たカテゴリーみたいな・・・。だから、バイカルチ ュラルとして生まれたことで・・直面する・・・経 験。」 CL2: 5 <文化の理解>から 7 <親戚との距離感>の 3項目。「マナーは文化による決まりだから。親戚 の距離感っていうのは、結果として、距離を感じる ことになるかもしれないっていうこと。両方の家族 であったりするから。やっぱフランスの方(家族) が、距離感が大きい。時々しか会わないから。ずっ と日本のマナーの方が身についていて、そこは難し いところ。」(両方の国のマナーを身につけさせた い?)「僕的には、両方覚えてほしい。マナーは文 化の代表なので、両方を上手く合わせられるのがベ スト。それが出来ない限りは、親戚との距離感は生 まれるっていうか、子どもたちが感じなくても、相 手がやっぱり距離を感じるかもしれない。だからそ ういう距離感っていうのかな。日本とフランス文化 両方が身に付いたら、こういう問題は起きない。こ れは、異文化理解の重要性みたいな感じ。」 CL3: 10 <言語> と 11 <大学>の2項目。「大学は なんで書いたかっていうと、大学はやっぱり選択肢 で出てくるから。どの国にするかとそういう意味で 書いたけど。言語は、きちんと日本語も出来るよう に。だから教育だね。」(言語と大学がまとまったの はどういうイメージでしょうか。)「一緒になってい るのは、両言語できることによって、選択肢が広が るからかな。だから教育の選択肢かな。」 CL4: 1 <子どものアイデンティティ>から 4 <柔 軟性>の4項目。「アイデンティティは愛国心とも 似てる。どちらに偏るのか。」(<子どもの価値観> にはどんな思いが入っているのでしょうか。)「どっ ちかっていうと、文化に近い、だから間なんだろう けれど、文化によって価値観が違ったりするでし ょ。今は子どもだから、両方の文化を見てて感じ て、どういう価値観になるのかなぁって。」(アイデ ンティティは。)「アイデンティティは単に、お前は どこの子だとか聞かれたときに、どう思うのか。」 (何か思いはありますか?)「僕はどちらかという と柔軟性をもって両方感じてほしい。せっかく出来 ることだから、いいとこどりしてほしい。」(居場所 も同じ?)「日本にいるとフランス人、というか外 人に見える。フランスでは逆。そのことで、自分に は居場所はないって感じてほしくない。だから、日 本でもフランスでも、両方自分の居場所だよって思 ってほしい。だから、この柔軟性はこっちと一緒に してもいいかもしれない。結局、価値観、アイデン ティティ、居場所も、フランスの部分も日本の部分 もあって、両方をうまく使えるように、柔軟である こと。心理的にも考え方も。バランスが取れること が大切。」 3.4.2 概念図 フランソワの概念図を図 6 に示す。 彼は CL4 を最も重要であると捉え,CL 同士の概念 を矢印で結び、関連の強さを 0.5 と 1 で表した。フ ランソワは概念図を眺めて次のように語った。「自分 の持つ柔軟性で、自分のアイデンティティや価値観 が決まる。それによって、バイカルチュラルとして 直面する経験が変わってくる。直面する経験によっ て、選択肢も変わってくるかもしれない。例えば仮 にフランスへ行ったときにいつも差別されると、日 本で進学したいとか、日本語の学習に力を入れると PAC分析研究 第2巻 20
  23. 23. か。あとは、異文化を理解することによって、いろ いろな経験をした時に、どう感じるかが変わってく ると思う。背景を理解することによって、正しい判 断ができる。この両矢印は、双方向のフィードバッ クって感じ。バランス能力があるかないかで、経験 した時の気持ちや判断が変わる。そして経験がない とバランス能力も育たない。」 図 6 フランソワの概念図 3.4.3 考察 フランソワの結果で際立ったのは、バ ランスという概念であった。両言語を学び、慣れ親 しんだ国以外の国の文化を理解することで、バラン ス感覚は醸成される。そしてバランス力と経験は相 互影響関係にある。 内藤(2002)によるとプラス項目とマイナス項目 が拮抗するほど、葛藤状態が強いという。今回のケ ースにおいて、子どもの将来への期待やバランス能 力の育成といった肯定的態度がある一方、親戚との 距離感、我が子が両方の国から差別を受けるあるい は居場所を見失う可能性などの不安要素が葛藤しう ることが示された。 4. 総合考察 4.1 まとめ 本研究の目的は、日本人妻と結婚し子育てをして いる、国内在住の外国人夫 4 名を対象に PAC 分析を 用いて、異文化間での子育てをしていることについ ての態度がどのように構造化されているのかを理解 することであった。経験の多様性を描くことを目的 として設定した 4 名の個別性と共通性を整理した後、 蔵本(2017c)で報告された日本人妻との比較を行う。 まず、各参加者の個別性について述べる。オリビ エでは、多言語多文化教育の重要性が顕著に表れて いる。マイケルでは、異国で子育てをすることの試 練を学びの機会と捉えるポジティブな態度が表れて いる。グレゴリーでは、夫婦が平等に子育てに寄与 していることと、多文化間子育てが与える子どもへ のポジティブな影響が強く出ている。そしてフラン ソワでは、多文化教育の有効性を認める一方、多文 化間で育つわが子が将来経験するであろう試練に対 しての不安が現れていた。 次に共通性を整理する。参加者全員が自由連想の 際、バイリンガル教育を重要視していた。母国を離 れて日本人と結婚している外国人夫は、子どもが母 語を話さないことに孤独感を感じやすいことが Kuramoto(2016)で報告されているが、本研究でも 外国人夫にとって、子どもが自分の母語を話すこと は特に重要であることが、あらためて確認された。 次に,オリビエ、フランソワ、グレゴリーの3人 の語りに“バランス”や“いいとこどり”が多く登 場しており、子どもに様々な経験をさせることがバ ランス能力を育み、試練に直面した際にその能力が 発揮されるという彼らの子育て観が浮かび上がった。 次の共通点として、夫婦の協働感が挙げられる。 オリビエの「僕らはチーム。」という言及、グレゴリ ーの<僕と妻の子育てのゴールが一致している>な どから、2名が夫婦間連合を明示しているほか、マ イケルは、<夫婦で考えが異なることもあるが、妻の 考えを理解できる>という連想項目を挙げている。 これらは互いを尊重し補い合う夫婦関係を示唆する ものいえよう。 次に、日本人妻を対象に PAC 分析を行った蔵本 (2017c)の結果との比較検討を行う。主な共通点は、 第一に両群ともバイリンガル教育への志向性が高い こと、“いいとこどり”、“マナーをバランスよく身に つけさせたい”といったように、バイカルチュラリ ズム志向性が双方に認められた点がある。次に、両 群とも夫婦間連合を示す項目や語りが多く表れた点 が挙げられる。夫婦間葛藤が意識化される代わりに, 夫婦の一体感が現れたことの背景に,二文化・言語 を共存させるという難しい問題に共に取り組んでき たからこそ,絆が深まり,ポジティブなイメージが より生まれやすかった可能性がある。 大きな違いであるが、ニュートラルをつけた割合 において日本人妻群が 20%、外国人夫群が 3%と差 PAC分析研究 第2巻 21
  24. 24. が開いた。プラスを付けた割合においては、外国人 夫が若干日本人妻を上回った(75%対 60%)。項目を 振り返ると、日本人妻の場合は、マナーや作法につ いてといった、日常的な実践、夫家族への義務感や 経済事情など、現実的な連想項目が目立っていた。 さらに日本人妻の場合は、現実と理想の隔たり、好 奇な目で見られることへの不快感、ハーフとしてか らかわれるのではないかという恐れなど、多様な不 安要素を挙げていた。総じると、母親は主要養育者 として最も子どもの教育に関わるため、より情緒的 であり、現実的な問題意識が強い傾向にある。一方、 父親は俯瞰的、長期的な展望を持ちやすいことがわ かった。しかし、フランソワのように不安と肯定的 展望が葛藤するケースも多々あるだろう。特に異国 での子育てというハンデを持つ父親にとって、自身 のアイデンティティの延長である子どもの言語教育 や文化的アイデンティティの発達は不安を喚起する 要因ともなりうることは認識しておくべきである。 4.2 研究が与える示唆と限界 PAC 分析を用いて、漠として言語化しにくいが根 底に存在し、普段の行動に影響を及ぼす子育て観あ るいはその他態度構造を可視化したことで、4名全 員が自己への洞察を深め、感動を覚えたことは有意 義であろう。異文化間夫婦に関する調査は主に面接 法が使われているほか、葛藤要因と対処戦略に重き が置かれてきた(Bratter & King, 2008; Gonzales & Harris, 2013 など)。また面接法では、協力者が根底 にどのような子育て観を持っているかまでは踏み込 めていない。本研究は PAC 分析という手法を用いて、 一段落深い態度構造を包括的に浮き彫りにしたこと、 そして父母間でどのような共通点と違いが生じる可 能性があるかを示唆した点で先行研究とは一線を画 している。家族関係が不安定になりやすい子育て期 にある国際結婚夫婦を支援するためには、彼らがま ず、どのような内面的な葛藤を抱えやすいのか、子 育てにどのような意味付けを行っているのかといっ た、彼らの内界に一歩踏み込んだ研究の、さらなる 蓄積が必要である。 今回の研究で得られた、子育て中の国際結婚夫婦 のための実践への示唆を二つ挙げる。まず第一に、 両文化の“いいとこどり”が挙げられる。どちらか を取捨選択するのではなく、両文化を子育てに取り 込むことは良好な夫婦関係や子どもの安定したアタ ッチメント形成を予測するとされている(Gonzales & Harris, 2013 など)。 二つ目は、夫婦の一体感である。子育て期初期に は多くの夫婦間葛藤を経験した参加者も、二文化を 実生活に合わせてブレンディングし、バランス能力 のある子どもを育てる重要性と夫婦の一体感を想起 した。子育て期は同一文化間夫婦以上に家庭内不協 和が発生しやすいとされるからこそ(Hegar & Greif, 1994; Romano, 2008 など)、一般夫婦以上に共通のビ ジョンを持ち協働歩調を保つことが求められるだろ う。 また PAC 分析は研究者と参加者が寄り添い、共に 探索するという点で、家族療法におけるジョイニン グ(Minuchin, 1974)と通じている。今回、研究者が 参加者に寄り添い、共に探索することでラポートを 高め、参加者の洞察を促すことができた。また本研 究で、概念図を作成したことは、気付きと解釈のプ ロセスにさらに役立ったと参加者に認識されていた。 今後臨床場面での有益なアプローチの一つとして期 待できる。 次に研究の限界点を述べる。異なった課題を持つ であろう様々な文化圏の参加者を対象に行う必要が ある。また今後は、婚姻関係にある夫婦に実施して, 夫婦間でどのような共通点や違いが見られるのかを 検討することも有意義であろう。最期に、源家族や コミュニティは、子育てに影響を及ぼす重要な要素 であることから、これらの要因を教示文に取り入れ て PAC 分析を行い、相互作用を浮き彫りにすること も、効果的であろう。 引用文献 Antaki, C., Houtkoop-Steenstra, H., & Rapley, M. (2000). “Brilliant, next question…”: High-grade assessment sequences in the completion of interactional units. Research on language and social interaction, 33, 235-262. 青木 みのり (2013). 「心理療法によって問題の捉 え方はいかに変化するか」に関する質的研究 心 理臨床学研究, 31, 129-140. Bhugra,D.,& De Silva,P. (2000). Couple therapy across PAC分析研究 第2巻 22
  25. 25. cultures. Sexual and Relationship Therapy,15,183– 192. Bratter, J. L., & Eschbach, K. (2006). What about the couple? Interracial marriage and psychological distress. Social Science Research, 35, 1025-1047. Crippen, C. (2007). Intercultural Parenting and the Transcultural Family: A literature review. The Family Journal, 15, 107-115. Gonzales,A.,& Harris,T. M. (Eds.). (2013). Mediating cultures: Parenting in intercultural contexts. Lanham,MD: Lexington Books. 早川 武史・山崎 瑞紀 (2015). 「日本人と国際結 婚したフィリピン人女性が抱える問題:インタビ ュー調査を用いて」 『東京都市大学横浜キャン パス情報メディアジャーナル』16: 83-87. Hegar,R. L.,& Greif,G. L. (1994). Parental abduction of children from interracial and cross- national marriages. Journal of Comparative Family Studies,25,135–138. 開内 文乃 (2012). 「グローバル・ファミリーの出 現」『比較家族史研究』26:43-63. 嘉本 伊都子 (2008).『国際結婚論!?[現代編]」』 法律文化社 厚生労働省 (2016). 『人口動態調査』 厚生労働統 計一覧 Kuramoto, M. (2016). Living overseas as a foreign father in an intercultural marriage: Cultural Identity equilibrium acquisition. Journal of Intercultural Communication, 19, 27-50. Kuramoto, M. (2017a). How intercultural couples adjust to parenthood: A qualitative study of intercultural couples in Japan. Journal of Intercultural Communication, 20, 42-72. 蔵本 真紀子 (2017b). 異文化間夫婦に関する文献 レビューとこれからの展望 青山学院大学教育人 間科学部紀要, 8, 91-108. 蔵本 真紀子 (2017c). 国際結婚をしている日本人 妻の子育て期における態度構造―PAC分析を通し て 家族心理学研究, 31, 1-16. 松本 佑子 (2001) 「国際結婚における夫婦関係に 関する一考察:フィリピン妻の意識を中心に」『聖 徳大学第一分冊,人文学部』12, 17-22. Minuchin, S. (1974).Families and Family Therapy. C ambridge, MA: Harvard University Press. 内藤 哲雄 (2002)『PAC 分析実施法入門[改訂版] 「個」を科学する新技法への招待』 ナカニシヤ 出版 Perel,E. (2000). A tourist’s view of marriage: Cross- cultural couples— challenges , choices , and implications for therapy. In P. Papp (Ed.),Couples on the fault line: New directions for therapists (pp. 178- 204). New York,NY: Guilford Press. Romano,D. (2008). Intercultural marriage: Promises and pitfalls (3rd ed.). Yarmouth,ME: Intercultural Press, Inc. サトウ タツヤ・安田 裕子・佐藤 紀代子・荒川 歩 (2011). インタビューからトランスビューへ ―TEM の理 念に基づく方法論の提案 日本質的 心理学会第 8 回大会プログラム抄録集, 70. 竹下 修子 (2000). 国際結婚の社会学 学文社 滝川 禅 (2006). 「異文化間コミュニケーションに おける誤解の構造」 『大阪女学院大学紀要』3: 15-24 矢吹 理恵 (2011). 『国際結婚の家族心理学―日米 夫婦の場合―』 風間書房 Yamamoto, B. (2010). International Marriage in Japan: An Exploration of intimacy, family and parenthood. Proceeding of 18th Biennial Conference of theAsian Studies Association of Australia. Retrieved from https://www.researchgate.net/publication/282121752 _Inte rnatio zal_Marriage_in_Japan_An_Exploratio n_of_Intimacy_Family_and_Parenthood (October,15, 2 016.) PAC分析研究 第2巻 23
  26. 26. 日本人妻と共に子育てをしている欧米人夫の態度構造―PAC 分析を通して PAC Analysis of Western Husbands in the Child-Rearing Stage Who are Married to Japanese Wives 【執筆者】 蔵本 真紀子 KURAMOTO Makiko (青山学院大学大学院教育人間科学研究科心理学専攻) 【要旨】 本研究の目的は,日本人妻と子育てをしている外国人夫の態度構造を探索的に検討することであった。PAC 分析(Per sonal Attitude Construct 分析: 個人別態度構造分析)を,外国人夫 4 名に実施した。夫の国籍は,アメリカ(2名)とフ ランス(2名)であった。対象者による連想項目聞の類似度評定を元にクラスター分析を実施した。ツリー構造並びに多 次元尺度構成法による距離モデルを協力者に呈示した。その結果,質問紙やインタビュー調査では明らかにされにくい, 協力者の暗黙裡のスキーマや信念が浮かび上がった。協力者のイメージ構造は以下のような共通点と差異がみとめられ た。個別性を整理すると,国際的教育の重要性,個人が抱えるフラストレーション,試練をサプライズと捉える好奇心, 夫婦の平等感,多文化間子育ての子どもへのポジティブな影響,そして子どもが経験するかもしれない様々な試練への懸 念が抽出された。主な共通性は全員がバイリンガル教育と両文化の継承を重要視していること,夫婦間連合,両文化をバ ランスよく経験することで適応能力の育みといった子どもの将来にいい影響を与えるという信念であった。引き続き, 様々な文化圏や属性の組み合わせで継続して行っていくことが必要である。 The purpose of the present study was to reveal the attitude structure of western fathers who are raising their children with their Japanese wives in Japan. PAC Analysis was conducted on two French husbands and two American husbands. The participants were presented with the dendrogram based on a cluster analysis of the distance matrix derived from the participants’perception of the degree of similarity of the associated items as well as an Euclidean distance model generated from multi-dimensional scaling analysis. As for diversity, observed were importance of international education, personal challenges and frustration, the curiosity to convert frustration to good surprise, feeling of equality, effects of multicultural upbringing, and finally, concern for various challenges children may face. Major factor shared was that they all believed in bilingual education and cultural transmission. It was also observed in common that alliance-in-couple was internalized towards child-rearing and being able to balance was considered an essential ability for their children to adapt themselves to ever-changing world. PAC分析研究 第2巻 24
  27. 27. PAC分析研究 第2巻 25
  28. 28. PAC 分析学会 第 11 回 大会 発表抄録 会場 日本保健医療大学 幸手北キャンパス 日時 2017年12月9日(土) PAC分析研究 第2巻 26
  29. 29. PAC分析研究 第2巻 27
  30. 30. 口頭発表1 discursive consciousness practical consciousness unconscious motives/cognition 就職や進学などの「実益」に直結する/しない日本語学習の意味 ー中国とグアテマラの日本語学習者に PAC 分析を用いてー 新井克之 (九州大学大学院比較社会文化研究院 学術研究者) key words:海外日本語教育、実践的意識、PAC 分析 はじめに 海外での日本語教育は戦後、具体的な指針や理 念が表明されずに発展してきた(野津 1996 など)。 しかし 2010 年に発表された JF 日本語教育スタ ンダード(以下、JF スタンダード)はヨーロッパ 言語共通参照枠(以下、CEFR)を範として、この CEFR を生んだ欧州評議会の理念に共鳴している ことを表明した。また JF スタンダードは CEFR から、おもに言語を媒介としたコミュニケーショ ン行為の成否によって、「~ができる」という評価 を行う Can-do を移入しているが、この Can-do が 行動中心主義(An action-oriented approach)に よるコミュニカティブ・アプローチを基準として 評価する点とその理念や目的に対する議論がこれ までほとんどされていない(細川 2010)。 目的 そこで、新井(2014)は、JF スタンダードが海 外日本語教育現場においてこれまで築かれた「多 様な」日本語教授法・教室活動等の排斥に帰結す る可能性等を指摘した。実際には海外における日 本語教育現場では「多様な」活動が行われ(佐久 間 2006)、またその蓄積があるにもかかわらず、 その活動の効果・意味についての十分な検討がな されていないといえる。そうした現状に対して、 本研究の目的は、Can-do を基軸として JF スタン ダードが目指すコミュニケーションの成立では異 なり、日本語学習そのものが与える効果について 考察するものである。そのため日本語学習を行っ ても日本人とほぼ接触する機会が存在しない中米 グアテマラの日本語学習者と、その比較対象とし て日本語学習者が就職や進学に直結している中国 における日本語学習者を調査対象にして、PAC 分 析を実施し比較検討を行う。 理論と方法 日本語学習の効果について考察するために、日 本語動機という視点からの海外における研究には これまでに蓄積(縫部・狩野・伊藤 1995, 大西 2010 など)があるが、その調査対象のほとんどが、 大学等の教育機関における定量的研究である。本 研究では、これまでの日本語教育分野における学 習動機研究がおもに依拠している社会心理学領域 の統合的動機や道具的動機(Gardner & Lambert 1972 ) や 教 育 心 理 学 領 域 の 内 発 的 動 機 (Deci,E.L.1975)等に代表されている理論を基に 実験者側が設定した仮説を検証するという枠組み を設定せず、被験者の自由な意見を引き出すため に PAC 分析を用いる。また、そのため以下に述べ る理論に依拠する。 社会学者の Giddens(1984)の構造化理論によ れば、人々の「実践」こそが、社会構造を形成す る。この実践は意志を前提とした行為であるが、 言説化されていない。つまり、言説化された意識 (discursive consciousness)ではなく「実践的意 識(practical consciousness)」が存在し、この無 意識(unconscious motives/cognition)とは区別 された実践的意識こそが、社会において、社会構 造を再生産しうる主体的な基盤となる。つまり、 この実践的意識に基づく行動によって「社会」が 形成されていく。 図 1.ギデンズ(1984)による意識モデル (Giddens, 1984: 7) 構造化理論に依拠するならば、実践的意識に基 づく行為者の行動の反復によって、次第にその意 識が身体化・内面化される。また、その行為者に 与えられた役割や環境と相互規定的に作用する実 践的意識に基づいた相互行為によって社会が再構 成・形成される。つまり、海外における日本語教 室というひとつの空間・社会では、たとえ学習者 と教師が言説化されたある日本語学習の目的や指 針にそって日本語学習活動を行っていたとしても、 実践的意識に基づく行為が、当初は意図していな かった結果にたどり着く。つまり、日本語教育活 動の実相としては学習者が当初は思いもよらなか = PAC分析研究 第2巻 28
  31. 31. 口頭発表1 った事由に導かれて日本語学習を実践していると いえる。本研究では、この実践的意識という概念 に着目し、PAC 分析を使用する。 方法 日本語を学習しても日本企業への就職や進学 に直結しない、また日本語能力試験(以下、JLPT) が実施されない環境の中米グアテマラの日本語学 習者と、その反対の環境にある中国の日本語学習 者にそれぞれ調査を行った。属性は以下の通り。 被験者 A:グアテマラ人日本語学習者 30 代前 半(日本語学習歴約 4 年(以降独学約 6 年):グ アテマラの国立大学付属言語センターで日本語 学習、現在 IT 企業の会社員兼日本語教師) 被験者 B:中国人日本語学習者 30 代前半(日本 語学習歴約 4 年(以降独学約 6 年)中国の国立 大学の日本語学科で日本語学習後、日本留学、 博士号取得後、現在中国の大学にて日本語教師) 提示刺激:「あなたが日本語を勉強していたとき、 どう感じていたか、どんなイメージを持っていた か、その感じたことやイメージを言葉や短い文章 でこのカードに書いてください。」 手続き: PAC 分析(内藤 2002)の手順に倣い以 下の通りにインタビューを行った。 a)被験者に上記連想刺激文が与えられる。 b)被験者は思いつくままに連想した言葉や文章を ひとつずつ一枚のカードに書く。 c)被験者はカードを重要な順に並べる。 d)被験者はカードの組み合わせのイメージを各ペ アがどの程度類似しているかについて、「非常 に近い」から「非常に遠い」までの7段階で評 価を行い、実験者は類似度距離行列を作成する。 e)実験者によって類似度距離行列から作成された デンドログラムに基づき被験者はインタビュ ーを受ける。具体的にはまとまりをもつクラス ターとして解釈できそうなグループを被験者 が提示し、まとまりだと思う理由やクラスター 間の関係、各項目のイメージ(プラスかマイナ スかを)を評価する。 使用分析ソフト:SPSS ver. 20 なお、使用言語は、被験者 A は母語であるスペイ ン語を使用しスペイン語箇所の翻訳は実験者であ る筆者が行った。被験者 B は高度な日本語能力が あるため、日本語でインタビューを行った。 1 表は左から重要順、想起内容、想起順、image を表 す。表 4 も同様。 分析と結果 ■被験者 A(グアテマラ人学習者)の結果 表1.被験者 A の想起内容1 図 2.被験者 A のデンドログラム2 2 デンドログラムの数値は重要順を表す。図 2 も同 様。 1 Aspectos culturas que sentía que mi cultura no tenia 自文化が持っていなかったと感じる文 化の側面 11 + 2 Método de enseñanza muy interesante とても面白い教え方の方法 1 + 3 Actividades que servían para aprender 学ぶために使われたアクティビティー 5 + 4 Feliz de compartir con otros personas esas experiencias nuevas それらの新しい経験を他 の人たちと経験する喜び 12 + 5 Compañero de clase con gustos similares a los mios 好感の持てる自分に似たクラスの仲間 7 + 6 Todo es diferente (Escritura, fonetica, etc) 全部違う(つづり方、音声、その他) 2 + 7 La maestra era una persona interesante 先生は興味深い人だった 3 + 8 Historia japonesa 日本の歴史 8 + 9 Películas extraños pero interesante 奇妙な映 画、でも興味深い 10 + 10 Música diferente 異なった音楽 6 + 11 Uso de pallillos 箸を使う 9 + 12 Los libros eran bonitos 教科書は美しかった 4 + Cluster A: Sociedad 社会 Cluster B: Relaciones personales 人との関連 Cluster C: Estudio 勉強 Cluster D: Methodo 方法 PAC分析研究 第2巻 29
  32. 32. 口頭発表1 表 3.被験者 A の評定に基づく連想項目間の類似度距離行列 ■被験者Aのコメント (クラスターBについて)なぜなら、クラスに行 くのが好きだった。なぜなら、人々と集まるのが、 好きだった。そして、いつも大体自分にはとても 興味深いと感じる新しい物事を学ぶことを取り扱 った。行きたいという欲求があった。それで…(グ アテマラの)学校にいたときは、行かなくてはい けなかった。たぶんそんなに興味がなかった。で も、ある日、日本語クラスに行けなかったときは、 私はとても気分悪く感じた。 ■被験者 A についての総合的解釈: 全ての想起内容はポジティブなイメージを持っ ている。クラスターAは日本文化や日本事情に関 連する内容が集まり、「社会」と名付けられた。 クラスターBは、クラスメートや教師の日本語学 習をともにする人々にとっての集合であり、「人 との関連」と名付けられた。クラスターCは授業 内容に関する内容であり、勉強と名付けられた。 想起内容の全てがポジティブなイメージである。 被験者Aは友人に誘われて、特に意図せず日本 語学習を開始しているが、日本語学習を進めるに つれて、同時に日本文化や日本事情から学ぶこと によって、ポジティブに被験者A自身の意識、す なわち実践的意識を変容させている。また同じよ うに日本語、日本文化を学ぶコミュニティーに参 加することにポジティブなイメージを抱いている ことも明らかになった。このような実践的意識の 創発によって日本語学習が持続されているといえ よう。 ■被験者 B(中国人学習者)の結果 表4.協力者Bの想起内容 図 3.被験者 B のデンドログラム 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 0 2 5 0 3 5 2 0 4 2 4 3 0 5 2 4 5 1 0 6 4 1 2 4 4 0 7 3 2 2 3 5 5 0 8 1 2 3 4 5 2 3 0 9 6 4 5 5 3 4 5 3 0 10 5 5 3 4 3 3 4 4 4 0 11 5 4 3 5 4 3 4 3 6 6 0 12 6 3 4 4 5 4 5 6 7 6 6 0 1 2回目の能力試験が高得点 18 + 2 1 回目の能力試験(N1)に不合格 13 - 3 3 回目のバイト、日本人にほめられてうれしか った 19 + 4 初めてのバイトで通訳ができず、初日で首にな った。 17 - 5 三年生の前期、成績の優秀な彼女ができた 10 + 6 (彼女が帰国したあと)自分が惚れた女の子に 英語と日本語の両方を使ってメールをしていた 9 〇 7 日本人留学生の女の子に惚れた 7 + 8 日本人留学生とうまく交流できず焦っていた 6 - 9 彼女と一緒に勉強する 11 + 10 2 年生の時に留学生とよくご飯を食べたり、ス ポーツをしたりしていた。 8 + 11 AV の中の言葉がすこしずつわかるようになっ た感じ 4 + 12 朝、NHK のラジオを聞く 14 + 13 ことわざが難しい 5 - 14 なんでよりによって、日本という国の言葉を 2 - 15 日本の歴史が面白い 15 + 16 単語を覚えるのは難しい 3 - 17 日本のテレビドラマをよく見る 21 〇 18 興味のあるものやことの日本語表現を集めた 20 + 19 作文が難しい 16 - 20 日本語能力試験の準備 12 + 21 興味がないなあ 1 - Cluster C: 初期のモチベーション Cluster B: 挫折または妥協 Cluster A: 努力と成功 PAC分析研究 第2巻 30

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