作成日：2023/02/04
研究概要：
-地域の持つ様々な属性とそれらのつながりの構造を眺めながら、その地域で発生し伝承されている文化と呼ばれる祭礼の役割を複合重層的に
観察することで、その地域の持つ特性（強味や弱み）、あるいは歪（社会課題の核の可能性もある）が浮き上がることを試みる。
-不揃いで込み入ったつながり構造の地域は、血縁・地縁で結ばれている単純なつながり構造の地域と較べ、内・外からの社会課題に対して耐性
があり対応能力も高いことを証明する。
-つながりを構成する人と人、人と社会の構成格子の内容と結節の形態を調査する。 格子の内容は、それぞれの関係性を重視した要素を調べる。
結節については、要素同士のつながり（ネットワーク）の属性と質を類型化し形態を調べる。
-地域構造のつながりの相関をみるため、聞き取り調査情報をテキストマイニングする予定でいる。
研究調査対象地域は、青森市油川：
‐北海道が蝦夷と呼ばれていた頃から、本州とをつなぐ街道の交差点とも云える場所にある青森市油川の地域の構造を眺めつつ、そこで長く伝承
されている伝統文化(地域ねぶた）の伝承にかかわる、この地の社会構造的とそのつながりを観察し、研究目的である地域構造と伝統文化伝承を
議論する。
-青森市築木館の津川家に伝わる古文書「築木館留帖」に、享保515年（1732年）6月4日に、大浜十三森で、ねぶたを観たという記録が残っている
ことが伝わっている。「築木館留帖」は、現在のところ、行方不明であり記述の根拠がない。もし、これが発見されると、諸説あるネブタ起源説は、
ねぶたの起源は油川にあり、となる。この町名は、以下の表にあり、この町会は羽州街道につながる松前街道筋にあり、史実と合致することは、
興味深い。
油川町会ロケーションMap/情報出典：青森市町会連合会北部第1区（18）PDFマップ （検索日：2022/09/24） 油川の町会毎の世帯数/情報出典：住民台帳 （令和元年5月時点）
(羽州及び松前街道情報を加筆）
-油川の総世帯数は、令和元年時点で、約5,000人。
-油川は、松前街道を挟み、むつ湾に沿って街は広がっている。松前街道は平泉を経由し、鎌倉へぬける羽州街道とつながりっており中世の人々
の往来の街となっていた。現在においても、松前街道沿いに、多くの人々が住んでいる。この表では、薄青色抜きの油川下町（世帯数：530）、舘
町（世帯数：410 2022年の地域ねぶたを唯一町会単位で運行）、茶屋町（世帯数：96）、寺町（世帯数：96）、十三森町会（世帯数：449）である。
-一方、薄紫色抜きの新井田町会も世帯数が584と多い。この町会は、青森市街に最も近い町会である。
-この表からわかることは、油川は、街道沿いの古い世帯同士の一次的関係に近いつながり構造となっている。 一方、新井田町会のような青森
市街地への移動拠点となるベットタウン的構造もみえる。
油川幼稚園ねぶた実施体制/質問票回答から
-油川幼稚園ねぶたは、昭和50年～令和4年の48年間続いている。（令和2
と3年は、新型コロナのため中止）
-執行部(年寄衆にあたると考える）は、左記の3名。団体責任者と運行責任
者とも祭に参加するきっかけは、お子さんが園児だったこと。しかし、現在、
二人は、油川に住んでいない。
-運営・運行支援は、園児PTA、地縁の人たちのような一次的関係の人たち。
そして、関係自治体、地域活動団体、地域企業団体のような二次的関係の
団体がそれぞれ支援している。
-今年のねぶた本体の製作は立田龍宝氏。以前は、ねぶたこさえ（=地元の
ねぶた師）が、骨組みを作っていた。（他の町会では、諸事情で、前年のね
ぶたの骨組みにすこし手を加え、製作・運行した年もあったとの事）。
-囃子方は、大型ねぶた出陣団体の青年会議所の囃子方が応援に入って
いた。また、青森公立大ねぶた囃子同好会と青森中央学院大学の学生た
ちも支援に入っていた。
左記図から、油川幼稚園ねぶた実施のための体制は、自治体、大学、地域
商店会、そして他の地域のような二次的関係とも複雑に絡むあう構造関係
で成り立っていることがみえてくる。
聞取調査01(抜粋） 語り手：油川幼稚園ねぶた A さん
-現在は、青森市三内里見にお住まい。三内の前は、油川
大浜、その後、油川野木和団地へと引越し、油川に長く住
んでいた。
-平成元年生まれの子供さんが、油川幼稚園に入園したこ
とから、油川幼稚園ねぶたとは、30年ほど関係している。
-ねぶた囃子は、岩木山小山参詣の囃子方ともつながり、
津軽一円の演奏者とも、つながっている。
-ねぶた祭は、下北のむつにもある。
聞取調査一部02(抜粋） 語り手：油川幼稚園ねぶた B さん
-ねぶたの送りに、星の絵が描いてあった。この部分の紙は、骨組の枠ごとに切り
取られ集められていた。 星々は、園児たちが描いたもので、ひとりひとりの名前
も書かれているとのこと、この星の紙は、工作時間に、特製団扇を作るそうだ。
-ねぶたを新城までもっていった話し: 新城からも園児が来ていたことから、幼稚
園では、ねぶたを油川岡町、そして新城下町をとおって、新城駅踏切近くの青森
西高校周辺まで運んだそうだ。 昔は、道路幅も狭く、急な上り坂（平和台団地周
辺）もあり、地域の人たちがロープをねぶたに結んで、その地域の園児たちもいっ
しゃになって引っ張り上げて新城まで、ねぶたを持って行って見せにいったものだ。
新城からの帰り道は、蛍がきれいだったな。。。
-作業をみんなでやるのが楽しかったよ。
1 今年で油川幼稚園ねぶたは、46年目とお聞ききしています。 始まった経緯を教えてください。
➡ 初代園長が、ネブタ好きで昭和４９年になくなり、翌年の昭和５０年から始める。
2 2022年の油川幼稚園ねぶたの代表者は以下のとおり。
➡ 【団体責任者：櫻田秀吉 運行責任者：釜萢専治 事務局：敦賀善博】
2-1 運営・運行支援の皆さんは、以下のとおり。
➡
2-2 主な製作支援者は、幼稚園職員の皆さん、以下のとおり。
➡ 【製作支援者：油川幼稚園ねぶた愛好会・在園児の親・卒園児】
2-3 主な囃子方は、以下のとおり。
➡ 【囃子方：在園児・在園児の親・卒園児・幼稚園の関係者】
3 台上げの時の、手伝い方は、以下のとおり。
➡ 【台上げ支援：油川幼稚園ねぶた愛好会・卒園児・幼稚園の関係者】
：一次的関係
：二次的関係
台上げ支援
油川幼稚園関係者
・油川幼稚園ねぶた愛好会
・卒園児・幼稚園の関係者
・在園児
・在園児の親
・卒園児
・幼稚園の関係者
油川幼稚園関係者 地域企業団体
・在園児の親
・卒園児
・油川幼稚園
ねぶた愛好会
（卒園児の親）
・油川商店会
油川幼稚園関係者
町会 自治体
油川幼稚園ねぶた (2022年）
団体責任者 運行責任者 事務局
・油川幼稚園
ねぶた愛好会
・在園児の親・卒園児
運営・運行支援
統括責任役
運行時の取りま
とめ役
内・外渉役、
財務・調達役
【在園児の親・卒園児・油川幼稚園ねぶた愛好会（卒園児の親）・油川連合町会・油川交通指導
隊・油川駐在所・油川観光協会・油川商店会・油川コミュニティ協議会】
囃子方
大学 外部団体
・青森中央学院大学の学
生
・青森公立大/ねぶた囃子
同好会
・青年会議所
囃子方
地域活動団体
・油川連合町会
・油川交通指導隊
・油川駐在所
・油川観光協会
・油川コミュニ
ティ協議会
ねぶた製作支援
油川幼稚園関係者
町会１８町会（油川連合町会）
No 町会名 住所（大字） 住所（字） 該当地区名 住所毎（字） 世帯数
1 油川下町 油川 浪返、中道、柳川 北部第1区 144+323+63=530 530
油川 大浜 北部第1区 96
羽白 沢田 北部第1区 314
3 油川茶屋町 油川 大浜 北部第1区 96
4 油川寺町 油川 大浜 北部第1区 96
5 油川仲町 油川 船岡 北部第1区 53
6 油川横町 油川 船岡 北部第1区 54
7 新井田 油川 岡田、千刈、柳川 北部第1区 385+136+63= 584
8 羽白 羽白 富田 北部第1区 278
9 日の出 油川 沢田 北部第1区 314
油川 浪岸 北部第1区 144
羽白 沢田 北部第1区 314
11 油川あけぼの 羽白 沢田 北部第1区 314
羽白 野木和 北部第1区 119
羽白 池上 北部第1区 152
13 新油町 羽白
羽白 池上 北部第1区、東部第６区 153
羽白 沢田 北部第1区、東部第６区 314
15 伝馬町 羽白 大浜 北部第1区 96
16 ひばりの 羽白 沢田 北部第1区 314
17 新生町 羽白 沢田 北部第1区 315
18 のぎわ団地 羽白 北部第1区 315
4956
14 平和*
410
449
12 野木和
2 油川舘町*
10 十三森*
No. P-P-1-23
伝統文化を伝承する地域のつながり構造
～油川の地域ねぶた伝承の調査から～

伝統文化を伝承する地域のつながり構造
～油川の地域ねぶた伝承の調査から～
１．研究概要：
●地域の持つ様々な属性とそれらのつながりの構造を眺めながら、その地域で発生し伝承されている文化と呼ばれる祭礼の役割を複合重層的に
観察することで、その地域の持つ特性（強味や弱み）、あるいは歪（社会課題の核の可能性もある）が浮き上がることを試みる。
●不揃いで込み入ったつながり構造の地域は、血縁・地縁で結ばれている単純なつながり構造の地域と較べ、内・外からの社会課題に対して耐
性があり対応能力も高いことを証明する。
主な先行研究： ・有賀喜左衛門（1943）『日本家族制度と小作制度』-農村社会の研究-
・高橋統一（1994）『村落社会の近代化と文化伝統』-共同体の存続と変容―
・似田貝香門（2006）『地域社会学講座１/地域社会学の視座と方法』
・入山章栄（2019）『世界標準の経営理論/第24章』
▶地域の概念
ここでは地域を「人々が地表に位置空間を占めながら、様々な意味に
よって充填されている絶対空間を有する場所であり、そこに意味空間と
して生活環境の異なる人間が活動する境界が明確な空間範囲」と捉え
ることとする。
・絶対空間：地域の意味に因果関係を求めない地域を真空状態とみる。
単にフィールドとして家族、犯罪、産業などの意味に着目して因果関係
を求める。
・意味空間：地域の意味に着目し、因果関係を求める。
▶伝統文化（祭礼）の概念
ここでは、伝統文化を「祭礼と同義語とし、地域の守り神を儀式の核に
据えた規範や道徳の共有促進行為で、人と人とのと結びつきの強化行
為の一つでもあり、先人の知見を後人へと受け継ぐ機会と捉えることと
する。
伝統文化の伝承行為は、その地の人々の良好な人間関係(つながり）
に支えられた行為と捉えることができる。これを支えるコミュニティーは、
年寄衆、若者衆、小若衆の年齢階層構造組織と、これらを支援する
人々の内外的グループの４つで構成されることが多い。
２．地域と伝統文化の概念：
-一次接触的関係 → 家族内のつながりを典
型とし、親密な親戚、親密な近隣，親密な友
人とのつながり。
-二次接触的関係 → 役所の窓口の事務員
と住民やデパート店員と一見の客のような、
都市の中ではありふれたつながり。
-パーソナルネットワーク → 血縁や地縁のよ
うな密接なつながり。
-ソーシャルネットワーク → 人と人とのつな
がり、あるいは集団間や社会組織のつながり。
近代日本の地域社会形態 → 村落型社会
現代日本の地域社会形態 → 都市型社会
村落型社会は一次接触的関係構造が、主
な地域構造形態であり、現代的社会は、二
次接触的関係が増える傾向にある。
地域
構造の特徴 地域を形成する要素の関係性
伝統文化
関係性 役割
年寄衆⇒概ね45才以上の年齢の集団
伝統文化の伝承における指導者的層で、伝統文化伝承行為における伝承事項、問題発生時
のアドバイスを担当し実施する。
若者衆⇒概ね16～45才の年齢の集団
小若衆⇒概ね15才以上の年齢の集団 伝統文化を担う大切な役割の集団で、ここが、育たないと伝統は途切れる。次世代の若者衆
伝統文化の伝承を実際に行うソサエティーで、伝統文化の種類にもよるが、お祭りの場合、運
営・管理、運行、お囃子を担当する。次世代の年寄衆
上記の三衆に関係町会が協働し、これに加え、地域商店街と警察を含む地方自治体が、伝統文化継続の大切な役割を担っている。
３．地域の特徴・関係性、そしてつながりの形態：
地域構造の特性を検討するための指標として、人と人の社会的つながりが、どのようなメカニズムで生まれるか」や「つながりは、人や組織にど
のような影響を与えるか」といった構造の仕組みや機能をエンベデッドネス理論(5つの法則）を用い検討する。
法則１：関係性の：一度つながった相手と関係性が安定化してゆく傾向
がある。
法則２:構造的埋め込み：つながっている相手が、その先でさらにつな
がっている他人がいる。
法則３：位置的な埋め込み：より多くの人とつながっている人ほど、情報
獲得・発信の面で有利である。
さらに、埋め込まれたつながりはつながっている人の意思決定や、交換
される情報の質にも影響を与える。
法則4：「埋め込まれたつながり」では、人は意思決定のスピードが早く
なる。
法則5：「埋め込まれたつながり」のアームス・レングスのつながりより私
的情報を交換しやすくなる。
４．地域構造の特性を検討するための指標：
５．調査概要：
▷人と人のつながりが地域を構成する要素のひとつと捉えることができる。このつながりの要素は、それぞれ同質の主義や目的毎に、多様な定義
で表現される様々なコミュニティー形態となり、このコミュニティーを支援する自治体や支援組織レベルでまた次のつながりがある。これらの層のつ
ながりが縦横無尽に張り巡らされ、自分たちの利益や弱点補強、時には課題解決体制強化、また有利な立ち位置確保の目的に向かいそれぞれ
のつながりが有効に機能するようになるが、ここに、伝統文化を伝承するためのこれまでとは異質のつながりを地域が持つことで、更に様々な内・
外圧への耐性のある地域組織となる。
▷具体的な調査項目として、これらのつながりを構成する人と人、人と社会の結節や格子状況、そしてこれらの構成状況を調査する。
結節状況については、地域に存在するコミュニティー(グループ）のつながりの構成を調べる。
格子状況については、構成の規模、形態を調べる、
そして、それぞれの強度を数値化、レベル分けし情報を分析する。
地域構造のつながり関係の相関については、聞き取り調査情報をテキストマイニングする予定でいる。
▷情報の収集方法
（１） 調査対象地域の地域構造を検討するための量的および質的資料を収集する。
（２） 調査対象地域の地域構造の変容を知る手掛かり資料の収集と、関係者への聞き取り調査による情報収集を行う。
（３） 伝統文化伝承行為に係る事項については、それぞれの属性（有形や無形）や時系列的変容に係る資料を収集し検討の資料とする。
文献などにあらわれない埋もれている情報を収集するため聞き取り調査を並行して行う。
（４） 人と人とのつながり具合（構成と機能）については、1次十2次資料の検討に加え、質問書による調査と、面談や聞き取り調査により質的情報
を含めた資料を収集する。
作成日：2023/02/04
６．今後の研究調査及び結論への方向性について：
-地域構造の属性、具合の検討・精査。
-2023年は祭礼行事の参与観察を行う。
-三次的接触関係ともいえるバーチャル空間でのつながりも、無視できない。今後の展開で、一部触れざるを得ないと考えている。
-これまでの研究調査から、地域構造は、金属組織構造のような自然界の規則性の結合へ帰結することは明白であることをあきらかにする。 以上
補足資料
つながりの形態
No. P-P-2-23