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ISSN 2187-4115
LRGライブラリー・リソース・ガイド 第9号/2014年 秋号
発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社
Library Resource Guide
特別収録 第2回 OpenGLAM JAPANシンポジウム
オープンデータ化がもたらす
アーカイブの未来
生貝直人・日下九八・高野明彦
司書名鑑 No.5 大向一輝(国立情報学研究所)
特集 嶋田綾子 図書館100連発 3
LRG Library Resource Guide
ライブラリー・リソース・ガイド
第9号/2014年 秋号
発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社
特別収録
第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム
オープンデータ化がもたらす
アーカイブの未来
生貝直人・日下九八・高野明彦
特集 嶋田綾子
図書館100連発 3
司書名鑑 No.5 大向一輝
(国立情報学研究所)
2 巻頭言  ライブラリー・リソー ス ・ ガ イ ド 2 0 1 4 年 秋号
さまざまな出来事があった 2014 年の年の瀬に、『ライブラリー・リソース・
ガイド』の第 9 号を刊行します。2014 年は前回の第 8 号で特集したように教育
委員会の制度改革が法制化されるなど、図書館をめぐる状況にも重要な変化が
押し寄せています。また、学校図書館をめぐっては図書館利用を促進すると思
われる法制化が実現した点も記憶に新しいところです。新しく始まる 2015 年
は図書館、ひいては情報と知識をめぐる環境はどうなっていくのか、本誌とし
ても注視しつつ、また継続的な刊行を通した誌面による問題提起を図っていき
たいと思います。
さて、今回は、
● 第2回OpenGLAM JAPANシンポジウム
  オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来
  生貝直人×日下九八×高野明彦
● 特集 図書館100連発3
● 羊の図書館めぐり第3回「京都府立総合資料館」水知せり
● 司書名鑑No. 5「大向一輝」(国立情報学研究所)
という構成となっています。
「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」は、2014 年 9 月 27 日(土)
に開催された第 2 回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム(主催:OpenGLAM JAPAN、
協力:アカデミック・リソース・ガイド株式会社)の内容をベースに登壇者であ
る生貝直人さん(東京大学大学院情報学環特任講師/東京藝術大学総合芸術アー
カイブセンター特別研究員)、日下九八さん(Wikipedia 日本語版管理者・編集者
/ User:Ks aka 98)、高野明彦さん(国立情報学研究所コンテンツ科学研究系教授)
が手を加えて記事にしたものです。
巻頭言
変化の中で、未来を見つめるライブラリー雑誌
3巻 頭 言     ラ イ ブラリー・リソース・ガイド 2014 年 秋号
昨今ほうぼうで聞かれるようになったオープンデータやオープンガバメント
という言葉の、文化芸術方面でのあり方について重要な示唆が得られるでしょ
う。なお、OpenGLAM JAPAN シンポジウムはその後、2014 年に第 3 回が開催され、
2015 年も複数回の開催が見込まれていることを書き添えておきます。
特集「図書館 100 連発 3」(嶋田綾子)は、これで 3 回目の掲載となる本誌の代
表的コンテンツです。「図書館 100 連発」は、これまで創刊号(2012 年 11 月発行)、
第 4 号(2013 年 8 月発行)に掲載してきましたが、今回は 1 年ぶりの特集となり
ます。この間、本誌スタッフは数百の図書館を見学し、また数々の事例もお寄せ
いただきました。特に今回は、2014 年 11 月に、秋田県の市町村図書館・公民館
図書室職員研修会で行われた秋田版の図書館 100 連発をつくるという取り組み
から数多くの事例を採用しています。
本誌が日本各地の図書館における良い事例やその手法を「図書館 100 連発」で
紹介し、提案することで、さまざまな図書館でも真似をしてもらい、そこから新
たな良い事例が生まれ、「図書館 100 連発」が何百連発にも連鎖していくことを
願っています。
連載 5 回目を迎える司書名鑑では、国立情報学研究所(NII)の准教授であり、
論文検索エンジンである CiNii の企画・開発・運用にもあたる大向一輝さんにご
登場いただきました。大向さんは、いわゆる図書館で働く司書ではありませんが、
むしろ現代における司書のありようの一つを示す存在ではないかと思います。大
向さんのメッセージにぜひ耳を傾けてください。
最後は、恒例のお願いです。本誌は少なくともオンリーワンの存在として一定
の価値を発揮しているという自負はあります。しかし、その自負もやはり一定部
数の購読による編集・発行のための経済的基盤の確立があってこそ、維持できる
ものです。引き続き、本誌のご購読をお願い申し上げます。
編集兼発行人:岡本真
資料提供の工夫 …………………………… 40
[File201] 本の帯のコンテスト
[File202] 積ん読大賞
[File203] 青空文庫の表紙コンテスト
[File204] サンタのおたのしみ袋
[File205] 誰も読んでいない本フェア
[File206] 新入学生向け富山ビギナー講座
[File207] おすすめ本を利用者から募集し、ポスターに
[File208] 書庫の本を「蔵出し」で展示
[File209] 全国読書川柳コンクール
[File210] シリーズ本はPOPでも案内
[File211] 新聞コーナーでオンラインも案内
[File212] 被災前の住宅地図を案内
[File213] 英語の本にシールで難易度を表示
[File214] 学習室に辞書や大学案内などを配架
[File215] 別置ラベルの説明を掲示
[File216] 行政とのコラボ企画展示
[File217] 全国地方紙正月特集号を展示
[File218] 配架資料に合わせた装飾や現物展示
[File219] 硬軟取り混ぜた行政資料展示
[File220] 大型絵本の見本に小型絵本をまとめて展示
[File221] 「よい絵本」の選定絵本をまとめて展示
[File222] 全集は開架に1冊、1巻目以降は書庫へ
[File223] 図書紹介コーナーのPOP。貸出時にも対応
[File224] 展示資料を地域の団体に貸出
[File225] CiNii停止時に、ほかの検索サービスを案内
[File226] 例規のウェブ版を紹介
[File227] 入り口に観光パンフレット
[File228] 貸出時の図書情報展示
巻 頭 言 変化の中で、未来を見つめるライブラリー雑誌[岡本真] …………………………… 2
第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム
オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来[生貝直人×日下九八×高野明彦]……………… 7
特  集 図書館100連発 3[嶋田綾子] …………………………………………………………… 39
LRG CONTENTS
Library Resource Guide
ライブラリー・リソース・ガイド 第9号/2014年 秋号
南相馬市立中央図書館(File218)
撮影:嶋田綾子 撮影日:2014年3月4日
[File229] 色分けによる区政行政情報コーナー
[File230] ライトノベルと知識本を同じコーナーに
[File231] 市役所職員のスキルアップになる資料提示
[File232] 地域資料を地図で案内
[File233] 図書館で調べよう!を開架に
[File234] 町の歴史を年表で掲示
[File235] 読みたい本、面白かった本に投票
[File236] 全国津々浦々、図書館の本棚数珠つなぎ
[File237] 高校生による読書活動アシスト
[File238] 職場体験生が本の紹介
[File239] 吟行コーディネート
[File240] 読み語り隊
[File241] ぬいぐるみのおとまり会を実況中継
[File242] ひだまりの小さな図書室
資料収集の工夫 ………………………… 82
[File243] 新聞の地域情報を利用者に
[File244] カタログでの選書会
[File245] 自治体誌を交換で収集
[File246] 人生の記念日に図書館へ本を
[File247] 各国大使館などにパンフレット寄贈のお願い
[File248] 通信制大学の参考図書をまとめて提供
[File249] 機内誌、車内誌を所蔵
[File250] 借りぐらしBOOKS
環境の改善 ………………………………… 90
[File251] カゴを使って文庫本を整理
[File252] 椅子コンテスト
[File253] スクール・サービスデイ
[File254] 貸切図書館
[File255] 梱包材を返却ポストで提供
[File256] これいいね!学校図書館の工夫
[File257] 学校図書館100連発
[File258] 返却ポスト用ドライブスルー
[File259] しきりを外すとグループで使用できるキャレル
[File260] ブラックライトで星空を演出
[File261] 別置ラベルと合わせた掲示
[File262] 天井から有線LANを配線
[File263] 薄い本はラベルをタテ貼り
[File264] 一輪挿し運動
[File265] 床に目的地への案内を掲示
[File266] 地元学校の寄贈作品を使用
[File267] 新着図書に栞を挟んで目印に
[File268] PCのデスクトップに伝えたいこと
[File269] チラシを吊して提供
[File270] 寄付による袋を提供
PRの工夫 ………………………………… 125
[File286] 作業用ブックトラックでPR
[File287] キャラクター普及のための取り組み
[File288] コミュニティバスで図書館案内
[File289] 図書館クイズラリー
[File290] 図書館探検ツアーすごろく
[File291] 図書館の活動をファイリングして展示
[File292] サービスの案内を要所要所に掲示
[File293] 新館計画を館内で掲示
[File294] 図書館ミッションのPR
[File295] 視覚障害者サービスの一般向けポスター
[File296] 「図書館の自由宣言」の詳細パネル
[File297] オンラインに誘導するレファレンスコーナー
[File298] オンラインデータベースの案内をPCの壁紙に
[File299] テーマ展示に大きなポスター
[File300] レファレンス事例を展示
司書名鑑 No.5 大向一輝(国立情報学研究所)
羊の図書館めぐり 第3回 京都府立総合資料館[水知せり]
アカデミック・リソース・ガイド株式会社 業務実績 定期報告
定期購読・バックナンバーのご案内
次号予告
………………………………………………… 140
…………………………………… 146
…………………………………… 148
………………………………………………………………… 153
……………………………………………………………………………………………… 154
[File271] 書庫内での避難指示を床に
[File272] 床の傷つき音防止にテニスボール
[File273] デスク横にミニ本棚
[File274] 閲覧中の雑誌もフォロー
[File275] 目録架を展示架として活用
[File276] 子ども用のブックバスケット
[File277] ポスターの下に持ち帰り用フライヤー
[File278] 簡単な掲示で貸し借りをスムーズに
[File279] 名称の工夫
[File280] CD・DVD付属の資料にラベルを貼り付け
[File281] 美しく、分かりやすいチラシの掲示
[File282] 整然とした張りもの管理
[File283] 廃棄した新聞でブックカバー
[File284] 新聞エコバッグで福袋
[File285] 自動貸出機の分かりやすい説明
第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム
オープンデータ化がもたらす
アーカイブの未来
生貝直人×日下九八×高野明彦
生貝直人(いけがい・なおと)
1982年生まれ。博士(社会情報学)。慶應義塾大学総合政策学部卒業、
東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。東京大学附属図書館新
図書館計画推進室・大学院情報学環特任講師。東京藝術大学総合芸
術アーカイブセンター特別研究員、科学技術振興機構さきがけ研究
員(兼任)など。専門分野は日米欧の情報政策(著作権、プライバシー、
セキュリティ、表現の自由、イノベーション)、文化芸術政策(デジタ
ルアーカイブ、電子図書館)。単著に『情報社会と共同規制』(勁草書
房)など。
日下九八(User:Ks aka 98=くさか・きゅうはち)
ウィキペディア日本語版の参加者。管理者、ビューロクラット、チェック
ユーザー、オーバーサイト、OTRSメンバー。ウィキメディア・ジャパン・
カンファレンスのスタッフ。本業は非公開。
高野明彦(たかの・あきひこ)
東京大学数学科卒。博士(理学)。電機メーカーに20年間勤務の後、
2001年より国立情報学研究所。2002年より東京大学大学院コン
ピュータ科学専攻教授併任。NPO連想出版理事長。専門は関数プロ
グラミング、プログラム変換、連想情報学。研究成果を活用して、
Webcat Plus、新書マップ、想-IMAGINE Book Search、Book Town
じんぼう、文化遺産オンライン、闘病記ライブラリーなどの公開
サービスを展開する。
8 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
岡本:OpenGLAM JAPAN の事務局長で、アカデミック・リソース・ガイド株式
会社の岡本真です。OpenGLAM JAPAN は、2013 年に横浜で開催された第 15 回図
書館総合展内のシンポジウムで結成されました。 文化機関が拓く、文化機関を拓
く をミッションにしています。どういうことか端的にいいますと、ギャラリー
やライブラリー、アーカイブやミュージアムといった文化機関をオープンにして
いくということです。日米の比較論が必ずしも意味をもつわけではありませんが、
欧米に行くと文化機関のオープンさにおいて、日本とは温度差を感じます。例え
ば、海外の博物館や美術館では写真撮影が大抵の場合は許されており、それをブ
ログなどで使うのも基本的には自由です。日本ではなかなかそういう環境は実現
していません。
私たちとしては、まず文化機関の方自身の意識を尊重しながら、環境を拓いて
いくプロセスをお手伝いしていきたいと考えています。そのときに博物館や美術
館、図書館、あるいは日本の場合は公民館も含まれると思いますが、それらの機
関が足並みを揃えて何かをしていくのは極めて難しい。この際に有効なのが、良
い事例を積み上げていくということだろうと思います。一つの良い事例が風穴と
第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム
オープンデータ化がもたらす
アーカイブの未来
生貝直人 × 日下九八 × 高野明彦
[いけがい なおと]        [くさか きゅうはち]      [たかの あきひこ]
司会:岡本真
そ の 動 向 が 世 界 的 に 期 待 さ れ、 注 目 さ れ る GLAM(Galleries、Libraries、
Archives、Museums)のオープンデータ化は、いまどのような状況にあるのか。実
践から、思考から、日本における OpenGLAM の最前線で活躍する 3 人の登壇者が、
その展望と提案、GLAM がもたらす社会の可能性を議論する。
GLAMのデジタルアーカイブの状況──日本から、世界から
9第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
なって大きな動きにつながっていくということは、この世の中で少なからず存在
します。
OpenGLAM は、「自分もこの活動に参画します」とコミットしていただければ、
順次、メンバーとして名を連ねていただけます。現在、参加表明をしてくださっ
ている方は、例えばリンクト・オープン・データ・イニシアティブや国立情報学
研究所の方々といった研究者や技術者のほか、これからご登壇いただく日下九八
さんのようなウィキペディア編集者もいますし、私のような民間企業の人間も
います。また図書館、博物館、資料館といった文化機関で働いている方も参画し
ているのが大きな特徴かと思います。また、法人の協賛を 3 社頂戴しております。
一社がまず、本日この会場を提供してくださった株式会社リクルートテクノロ
ジーズ様です。そして、資料のデジタル化などで皆さんご存知かと思いますが株
式会社国際マイクロ写真工業社様、最後に私が経営しますアカデミック・リソー
ス・ガイド株式会社も名を連ねさせていただいております。私たちは、この活動
に組織の単位でコミットしていただくことを歓迎しております。文化機関、ある
いは大学という単位でも構いませんが、組織的に OpenGLAM にコミットしたい
左から岡本真、日下九八、生貝直人、高野明彦 撮影:嶋田綾子
10 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
方がいらっしゃれば、私どものところまで、ぜひご相談ください。
では、さっそくシンポジウムに入りたいと思います。まず、ウィキペディア日
本語版の編集者・日下九八さんから、オープンという言葉の概念整理、論点整理
をしていただきたいと思います。
日下:ウィキペディア日本語版の編集者の日下です。日下という名前はアカウン
ト名の Ks aka 98 から付けたもので、そのアカウントで全ての原語版、全てのプ
ロジェクトに参加できます。ウィキペディアというのは、自由にテキストや写真
を使っていい、つまりオープンコンテントの百科事典です。ウィキペディアには
色々な言語版があって、言語ごとに百科事典以外にもプロジェクトがあるのです
が、僕は日本語版ウィキペディアで、管理者ほか幾つかの権限をもっていて、い
ろんなことができます。そうした権限は、立候補してコミュニティの信任を得る
仕組みで、職員ではなく、ボランティアです。ただ、権限をもっているからといっ
て、コミュニティ内で決定権があるわけではなく、代表する立場にあるわけでも
ありません。
僕はウィキペディアに参加して 7、8 年ほどですが、ウィキペディアというの
は オープンコンテントの百科事典 ということでつくっているので、当然、オー
プンについて、いろいろなフェーズで議論が起こります。今日はそうした議論を
通して培った経験なり知識なりで、昨今の GLAM におけるオープンアクセスとか、
オープンデータについて話す役回りになるかと思います。
では、オープンという言葉の概念整理ということでお話すると、もともとフ
リーという言葉がありました。リチャード・ストールマン(1953 ∼ アメリカ合衆国
のプログラマー、フリーソフトウェア活動家)のオープンソフトウェア運動というのが
あって、これは開発者側のところから生まれた言葉です。プログラムなどに対し
て使われる言葉でした。そのうちに、自由なのか無料なのかという言葉の曖昧さ
や、ストールマンのキャラクターへの反発もあって、フリーはオープンという言
葉に変わります。やがてフリーであったり、オープンであったりするものは、プ
ログラムだけではなくて、テキストとか写真などに広がっていきます。こうした
動きに関わる人は、自発的なボランティアやクリエイターで、その中で主に創作
的な作品についてクリエイターが「自分がつくったものを、条件を事前に示して、
それを守るなら自由に使ってもよい」とあらかじめ提示するライセンスであるク
11第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
リエイティブ・コモンズが生まれてきました。ところが、学術論文を対象とした
オープンアクセスや、主に公共データを対象としたオープンデータになると、そ
こに関わる人たちは、それまでのプログラマー、ボランティア、クリエイターと
は価値観がだいぶ違うし、オープンの対象とするものの創作性の強さも違います。
そういったところで複雑な議論が起こっているわけです。
こうした流れの中でオープンという言葉はただ開放する、公開するというのと
は違う意味になっています。 オープンデータのオープンというのは、一種の専門
用語みたいなもので定義もありますが、それとは別に、文化的、社会的な情報や
知識、体験を全ての人に分け隔てなく公開していくという思想的な立場として使
われる場合もあります。オープンの概念というのは、使い方や捉え方で混同され
ているように思います。例えばオープンアクセスという言葉があります。日本で
は論文などの学術情報を公開してアクセスできればオープンアクセスといわれて
いますが、ブタペスト宣言(オープンアクセスの定義を述べ、その後の OA 運動の方向性を
示したと位置づけられている宣言)で確認されたのは、再利用まで含めた意味だったは
ずです。日本で胸を張ってオープンアクセスにしている、といえる大学図書館の
レボジトリというのは、僕が知る限りでは CC BY(著作権者表示、改変時は改変内容の
明記を条件として、改変や商用も含めた複製や再配布の事前許諾)でライセンスしている九
州女子短期大学の紀要だけです。「非営利のみ」とか「改変禁止」のライセンスを
付けているところは幾つかありますが、それらはオープンと呼ばないほうがいい。
一方、オープンガバメント、オープンデータの文脈では、国や地方自治体の行
政の透明性を高め、公的機関の情報を市民や民間企業が活用できるようにするこ
とで経済的な効果を期待して、情報を公開し、自由に使えるようにしようという
動きがあります。この文脈では、オープン・ナレッジ・ファウンデーション(OKF)
による「オープンの定義」があります *1
。もう一回配ってもいいとか、もう一回
使ってもいいとか、改変してもいいとか、使う人を差別してはいけないとか、そ
ういうものを全て守らないとオープンではないということになっています。
今日、私たちがオープンというとき、著作権者、あるいはデジタル化をした人
がクリエイティブ・コモンズでいうところの CC BY のライセンスを付けたもの
をオープンと言いましょう。そして、追加で「そのほかの制約を課さない」という
条件を付けましょう。それが、今日、僕が言いたいことです。オープン化について
は機械可読性、コンピューターで扱いやすいようにすることも大事とされている
12 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
んですが、とりあえずは、そのようなライセンスを付けて、ネットで公開すると
ころまでアクセシビリティを上げましょう。
美術館や博物館などの学や産がもっているコンテンツに意識が向けられるよう
になったのは、オープンアクセスの流れにおいてです。やや重なりますが、オー
プンガバメントやオープンデータの流れからも、地域の公文書や歴史資料もオー
プンになったほうがいいんじゃないかという話になってきました。そして、オー
プンになった資料を利活用する入口として公共図書館や学校図書館、それから大
学図書館などラーニングコモンズ的なものが、OpenGLAM の動きに加わるかた
ちになっています。公共図書館や学校図書館は、地域資料などをもつところもあ
ますが、独自の、自前のコンテンツをもっているとは限らないですよね。もって
いる図書というのは、自分たちでどうこうできるような権利をもっているわけで
はないのですが、そういう意味で、同じ図書館であっても、機関リポジトリを運
用して紀要などを公開する大学図書館とは役回りが変わってきています。
国会図書館では、近代デジタルライブラリーで古い時代の図書・雑誌などの画
像を公開していますが、以前はそれを利用する場合、許諾を得る必要がありまし
た。つまり著作権上は権利が切れているのに、国会図書館に許諾をとらなければ
いけない条件になっていた。そうなると「表示 - 継承」(CC BY-SA)というライセン
スに取り込めないので、ウィキペディアでその画像を使うことができないんで
す。これが今年 2014 年になってから「著作権の保護期間が切れているものは許
諾なしに使ってよい」と変わった。ここで初めてオープンになったんですね。また、
CiNii の総合目録データベースが CC BY による公開となりました。
また、慶應大学は 42 行聖書をデジタル化しています。グーテンベルクによる
活版印刷術の発明により刷られた聖書ですね。歴史的な価値がある。しかし慶應
はオープンにしていません。一方、ウィキペディアのウィキペディア・コモンズ
という画像レボジトリには、42 行聖書の画像があって、誰でも自由に使えるよう
になっている。あと、これも今年になってからだと思いますが、オーストラリア
連邦化学産業研究機構がもっている化学に関する写真が全部だったかどうかは覚
えていないのですが、ウィキペディア・コモンズにアップロードされて、オープ
ンになりました。
北摂アーカイブス(豊中市と箕面市による地域の映像情報を収集するアーカイブサイト)
13第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
などは、インターネットでの公開という意味ではとても早い段階からデジタル
アーカイブで検索して使えるようにしてくれていたのですが、今日使われる意味
でのオープンにはなっていませんでした。これを CC BY にして、改変禁止とか非
営利とかいう条件を外してもらえると、オープンになる。そっちに向かいましょ
うよ、と言っているわけです。
では OpenGLAM で何ができるか、GLAM でオープンに、というのはどういう
ことかというと、一つは目録やカタログのオープンデータ化です。それから、所
蔵品のデジタルアーカイブ化が一番分かりやすいと思います。それからオープ
ンガバメント的な意味では、 自分たちのこと をオープンにするということも
可能だと思います。例えば、神奈川県立近代美術館が取り壊しになるという話が
出ていますが、取り壊しをされたら、この歴史的建物の外観が撮れなくなる。
Google で調べるといろいろな写真が出てくるので写真はあると思いますが、再
利用が許可された画像ということで制限をかけると、この建物の画像はほとん
どない。撮影者を探して許諾を得なければ、使えない写真ばっかりなんです。オ
フィシャルなかたちで自分の館、自分の機関のものだけでも写真をオープンにし
てくれれば、将来にわたって使える写真が残っていくということになります。ま
た武雄市図書館を問題視する皆さんが情報公開で引き出した分類別蔵書統計表と
いう資料があります。こういう内部資料があるのなら、最初からオープンにして
もらえると、透明性も高まるし、おもしろい統計もとれるかもしれない。
こういうものをオープンにしましょうと言うと、「かつて部落差別があった地
名の入っている古地図をオープンにしていいのか」とか、美術館の方だと「全ての
作品について、作家にコンタクトして許諾を取るのは無理です」といった話にな
るのですが、そういうのはとりあえず考えずに、できるものからやっていこうと
いうことで、保護期間が切れた資料、それから自分たちで許諾を出せる著作物に
ついて考えることにすればいい。まずは、そこから始めましょう。
岡本:オープンという言葉が、かなり多義的に使われているということが分かっ
たと思います。どれが正しいと今すぐいうよりは、同じ言葉でも多義的に使われ
ていることを踏まえて聞き進めていただければと思います。次の登壇者は多方面
でご活躍の方ですが、最近では東京大学の新図書館の準備にも携わっている生貝
直人さんです。文化芸術方面のアーカイブ政策に関しては、注目の若手中堅の一
人ではないかと思います。
14 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
生貝:今日は僕の目下の研究テーマでもある、「日本版ヨーロピアナをつくるた
めには何が必要か」ということを、主に法制度や公共政策の観点からお話させて
いただきます。論点は大きく 2 つです。まず日本における全ての GLAM のデータ
を連結させ、それを統合的なポータル・プラットフォームで閲覧・利用できるよ
うするためには何が必要か。次にそれを使って、どのような価値が創出できるか
を考えることです。
ヨーロピアナは、ゴッホでもモネでもターナーでも、あるいは 70 年くらい前
に亡くなったミュシャでも、全欧州 2,300 以上の文化施設が提供する 3,000 万件
以上のデジタルオブジェクトを統合的に検索することのできるポータルです。さ
らにそれらのデジタルオブジェクトの多くは、著作権保護の有無やクリエイティ
ブ・コモンズなどのパブリック・ライセンスがメタデータ(文学作品をデータと考
えた場合、例えば作者名、刊行日時、ページ数、ジャンル、要約、さらにクリエイティブ・コモン
ズなどの補助的な内容のこと)として付記してあるので、オープンに再利用可能かど
うか、検索結果から一括で確認することができます。日本でもここ十年来デジタ
ルアーカイブの構築は進んできており、例えば文化庁の文化遺産オンラインでは
10 万点以上の作品を見ることができ、国立国会図書館のデジタルコレクション
では一般公開されているものだけでも 30 万冊以上、NDL 東日本大震災アーカイ
ブでは様々なメディアを集めて、震災のアーカイブを統合的に検索できるように
しています。さらに例えば、私の勤務先の東京大学には図書館だけで 30 館以上
あって、それぞれがデジタルアーカイブをつくって個別に公開していますし、兼
務先の東京藝術大学でも総合芸術アーカイブセンターでオーケストラの映像など
を次々と公開し始めています。また、今や日本の文化の中核ともいうべきマンガ
やアニメなどについても、絶版になった作品をネットで公開する絶版マンガ図書
館などの新たな構想も出てきていますが、そういうものをヨーロピアナのように
つなげられないかなと思うのです。
しかしアーカイブというのは、公開してつなげて見られるようにしても、上手
く使われないと寂しいです。そこで考えたいのが、アーカイブの利活用です。例
えばヨーロピアナとアメリカの DPLA(Digital Public Library of America 米国各地の図書
館・博物館・文書館などが有するデジタルコンテンツを統合的に検索することができる電子図
書館ポータルサイト)は、それぞれに登録された数千万のコンテンツを組み合わせて
キュレーションした共同エキシビジョンをつくったりしています。ヨーロピアナ
でクリエイティブ・コモンズの条件で公開されたアーカイブを使ったアプリケー
15第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
ションや教育コンテンツなども、多く生みだされ始めています。また Google では、
Google Cultural Institute(世界の美術館、博物館、オンラインアーカイブなどから集めた数
百万もの遺物、文化遺産を公開するバーチャルの美術館、博物館)という文化施設向けのデ
ジタルアーカイブ・プログラムを提供しており、ヨーロピアナもここに参加して
第一次大戦 100 周年のエキシビジョンを公開しています。それから大学でも、最
近の MOOCs(大規模オープンオンライン講座)の拡大の中で、さまざまなアーカイブ
を利用した文化・歴史分野のオンライン講義などもつくり始めています。こうい
うときに GLAM のもっているアーカイブを利用できるとありがたいのですが、実
際にやろうとすると、保有する機関から再利用の許諾を取るだけでもすごく大変
な場合が多く存在します。こうしたデジタルアーカイブを利用した価値創出のた
めの取り組みを、個人やベンチャー起業などが含めた幅広い主体が行えるように
するためにも、なんとかして GLAM のオープン化を進めていきたいところです。
こういう利活用モデルをつくっていかないと、アーカイブを構築・公開してもそ
の価値は十分に発揮されないような気がします。
では、なぜ日本版ヨーロピアナ、つまり全国的なデジタルアーカイブの基盤が
必要なのかということを考えてみます。その理由として一つに、若者が iPhone
や Google、Facebook といったデジタルツールでしか文化的な生活を送らなく
なっていることがあります。今後さらに逼迫する経済状況を生きる若い世代に、
美術館や博物館、図書館を税金で維持していくことの必要性をどう説得するのか。
これは大学で教えていても、相当な難しさを感じるわけです。そんな時に、それ
らが所蔵する膨大な文化資源がどこからでもネットで統合的に見られるというの
は、文化施設の価値を次の世代に伝えていく上での前提的な基盤になってくると
思います。二つ目に、文化施設に来られない人たちにも役に立つということです。
現在、東京オリンピックに数千万人が来るという想定のもと、彼ら向けにどうい
う文化プログラム、イベントなどをやるかという検討が国や自治体でも進められ
ていますが、本当に目を向けなければいけないのは、2020 年にネットを通じて日
本の文化に興味を抱いてくれる 80 億人なのです。そんなときに、横山大観や葛
飾北斎といった日本文化のキーワードを Google で探して、分散したアーカイブ
にたどり着くしかないという状況が続いていたら寂しいですよね。このような状
況を 2020 年までになんとかしたい。またデジタルアーカイブになれば、美術館
や博物館に行くのが難しい歩行困難者でも作品を見ることができ、視覚障害者で
16 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
も音声読み上げで本を読むことができるという点も極めて重要です。
その実現のために何が必要かというと、オープンデータをある程度法律で義務
づけることが根幹になると思うのです。EU では 2013 年の指令改正から、公的な
MLA もほかの公的機関と同じく税金で運営されていることには変わりないので、
公開されたデータは原則として再利用可能にしないといけないことになり *2
、現
在 EU 加盟各国で国内法化作業が進められています。ヨーロピアナとしてもそう
いう流れの中で、現在のデジタルアーカイブ閲覧のためのポータルから、再利用・
創造的利用のためのプラットフォームになっていくことに、非常に力を入れてい
ます。
米国オバマ政権でもオープンデータのアクションプランで、税金で運営してい
る連邦立の文化施設もオープンデータにしていくということで、スミソニアン機
構の文化施設もその対象に含まれることになりました *3
。このような世界的な流
れが日本に押し寄せているなか、僕は文化施設のオープン化のための基盤法制を
そろそろ整備しなければならないと考えているのですが、実際にオープンを法律
で定めようとすると、文化施設独自の色々な事情をよく考える必要が出てきます。
まず図書館でも、美術館でも、博物館でも、所蔵している作品は自分たちでつ
くったものではありません。著作権法は、原則として著作者の死後 50 年間、勝手
に再利用することを禁止していますが、著作権保護期間が満了したからといって、
文化施設の側が作品をデータ化して誰でも自由に二次利用していいと許諾するこ
とは、果たしてなんの権限に基づいて言えるのだろうと、実際の文化施設の方た
ちは違和感をもつこともあると思います。僕たちは法の規則だけではなく、価値
観や道徳によっても動いているわけですから、そこに照らし合わせながら 現実
的なオープンとは何か を考えていかないと、オープン化は進んでいかないので
す。例えば、東寺百合文書 Web(京都府立総合資料館による、京都の東寺に伝えられた日本
中世の古文書を公開するインターネット上の電子資料館)の完全な CC BY 化はすばらしい
例ですが、同文書は元々公的な性質が強く、時期的にもかなり昔のもので、こう
なると倫理的、道徳的な問題が発生しづらい部分もあると思います。こうした資
料の特性なども考えながら、ヨーロピアナ水準のオープン化を徐々に目指してい
く道筋をつくる必要があると思います。
もう一つ重要な論点としては、文化施設の運営やデジタルアーカイブの構築に
はお金がかかるということです。当然、公的な文化施設というのは、そもそも税
17第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
金で運営されているのですが、日本はもとより、欧米でも非営利な学術利用は無
償利用を許す一方、営利利用については許諾や対価が必要な場合が多いです。こ
れは日下さんのいうところのオープンとは違いますよね。
この点、例えば日本の図書館法 17 条では、お金を取ってはいけないとなって
いる一方 *4
、博物館法 23 条では、入場料をとってもいいとされています *5
。公的
な文化施設がどこまで無償であるべきかは難しい問題ですが、美術館や博物館な
どの入場料等を通じた財源確保の努力こそが、豊かで多様なキュレーションを生
みだす部分はあるでしょうし、なによりもキュレーションというのは表現行為で
す。全てを公的な資金に頼り、いちいち国に「このキュレーションをやってもい
いですか」と聞かなくてはならないとしたら、表現の自由としては危ういのです。
デジタルアーカイブでも、自主財源というのは、公的文化施設が国家からの距離
を保つという意味で必要な側面かと思います。
とはいえ、それでも文化施設のデジタルアーカイブはオープンにしていかざる
を得ないと思うのです。その一つの象徴的な事例が、2013 年に起こった国立国会
図書館の大蔵経問題をめぐる一連の動きだったと思います *6
。この問題は、著作
権が切れた作品であっても、それによって商業的な利益を得ている運営主体がい
る限り、無償でのデジタル公開は避けられるべきなのか否かという議論を呼び起
こしたものです。この議論はとてもセンシティブなのですが、特にデジタル時代
の文化施設というのは、著作権が切れた作品が自由に利用可能であることを本質
的に必要とするのです。ですが実際には、多くの日本の美術館、博物館、図書館が、
著作権が切れた作品のデータを自分自身で再利用不可能にしてしまっているのは、
論理的な整合性の問題としてよく考えなくてはならないと思います。この点、国
立国会図書館は翌 2014 年 5 月から、近代デジタルライブラリーなどの著作権が
切れた 26 万冊を利用許諾不要としましたが、これは大蔵経問題と直接的な関係
性のある出来事ではないながら、「著作権保護期間が満了した作品は自由に利用
できるべきか」という問題設定から見れば、文化施設としての論理必然的な、適
切な対応だと考えています。以上簡単ですが、文化施設のアーカイブをオープン
にするというのはどういうことかについてお話をさせていただきました。
岡本:生貝さんのお話で、諸外国の事例というのも見えてきたのではないかと思
います。次にお話いただく高野明彦さんは、文化庁が行っている文化資源のデジ
タルアーカイブである文化遺産オンラインやいわゆる連想検索のエンジンで、皆
18 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
さんよくご存知かと思います。
高野:高野です。先月、いま話題に出ていたヨーロピアナ本部や、ドイツ、フラン
スの国立図書館を訪問して最新状況を聞いてきました。日本から見ると、ヨーロ
ピアナは理想的に進んでいるような印象ですが、実際はそうでもないことが分か
りました。今日は海外の話を評論するのはやめて、われわれの関係しているプロ
ジェクトをご紹介することで、日本の現状を考えることにつながればと思ってい
ます。
昨年 3 月までの 7 年間、国立情報学研究所(NII)内に連想情報学研究開発セン
ターを立てて活動してきましたが、そのセンターのホームページに書いてある活
動のコンセプトが、僕のテーマでもあります。つまり文化的な記録を預かる組織
が蓄えてきた記憶を一般に開いていくということです。このときいきなりオープ
ンになることはまずないので、まずは小さい範囲でもいいので開いてもらう、そ
のお手伝いをずっとしてきました。
20 年ほど勤めた日立製作所から国立情報学研究所に私が移動したのが 2001
年ですが、まず立ち上げたのが、Webcat Plus(江戸期前から現代までに出版された膨大
な書物を対象に、そこに記憶された知の集積を自由に探索できる情報サービス)です。Webcat
Plus には、僕たちが研究している連想検索の機能を付けています。連想検索とい
うのは、文書と文書の言葉の重なり具合をもとに、ある文書(検索条件)に近い文書
(検索結果)を探しだす検索技術のことで、例えば興味のある本を何冊か指定すると、
その興味に近い本を探してくれます。これがそれなりに評判になって外部の研
究ファンドも取れたので、新書マップと文化遺産オンラインをつくりました。文
化遺産オンラインは文化庁の依頼でつくったもので、今も維持しています。それ
から神保町古書店連盟から声が掛かり、神田神保町のオフィシャルサイト、Book
Town じんぼうをつくりました。
連想の仕組みを付けた検索システムが幾つかできたところで、それらを束ねた
横断検索がしたいということでつくったのが、想 -IMAGINE(さまざまなジャンルの情
報源から関連する情報を連想計算で収集して一覧表示する書籍検索サイト)です。単なる横断
検索ではなく、束ねた情報源が互いに影響し合って新しい情報源ができるという
のが特徴です。
ここまでやってそれぞれのサイトで PV は増えたのですが、果たしてユーザに
本当に喜んでもらっているのか実感がなかったので、できるだけ現場に出て行く
19第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
ことにしました。例えば神保町の真ん中に「本と街の案内所」というのを常設し
て、65 インチ液晶タッチパネルやパソコンで、僕たちがつくった検索システムを
使えるようにしました。バイトの子が使い方を教えたり、PC が苦手な人には代わ
りに調べてあげたりもします。神保町に来るのが楽しみのような人には、ウェブ
なんて使ったこともないという人も多いので、これも一つの開き方だと思います。
それから 2007 年に千代田図書館がリニューアルオープンしたときには、オン
ラインの検索システムである新書マップと想 -IMAGINE が利用できるレファレン
スコーナーをつくりました。新書を 3,000 冊並べた書棚をつくって、利用者が興
味のある新書を数冊選んで専用の書見台に置くと、それに関連した本や古書店や
観光地情報を教えてくれるというものです。それを見た小布施町のまちとしょテ
ラソの花井裕一郎館長(当時)が「うちでもこういうものをやりたい」と声を掛け
てくれて、今もテラソでは同じシステムが動いています。 残念ながら千代田図書
館はメンテナンス費の問題があって、引き上げてしまいました。
文化遺産オンラインではそれなりにデータは集まったのですが、増えれば増え
るほどどうでもいいデータも増えてくるのです。これはヨーロピアナが直面して
いる困難でもあります。本当に見たいものを見つけるのがどんどん難しくなって
いくのです。そこでキュレーションした結果を提供する方法を考えようというこ
とで、文化遺産オンラインの素材の中から、常設展というかたちでは美術館があ
まり見せることのない作品を整理して、仮想のリーフレットとして見せる仕組み
(遊歩館)をつくったりもしました。
さきほど紹介した小布施は歴史的な遺産を生かした町づくりをしていますが、
江戸末期の文化人・高井鴻山が生まれた地ということで記念館があったり、地域
にゆかりの日本画家・中島千波さんの作品を集めたミュージアムなどがあります。
このような小布施の文化や芸術を横断的に紹介できるサイトがほしいという依頼
を受けて、小布施正倉というサイトをつくりました。僕はこれもオープン化だろ
うと思うわけです。例えば、小布施正倉で公開している中島千波さんの高画質の
作品は、文化庁から文化遺産オンラインに掲載したいとお願いしても、なかなか
提供されないものです。しかし、「小布施が盛り上がるのなら」ということで許諾
していただきました。こういう活動は非常に重要で、中央でお金を使って無理矢
理に進めるよりは、権利をもっている人と信頼関係にある人や組織が主体的に進
めていくほうが自然だと思うのです。
20 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
文化遺産オンラインでは、文化財情報を「時代から見る」「分野から見る」「地図
から見る」というカテゴリーから検索できます。 例えば「時代から見る」のカテ
ゴリーから「安土・桃山時代」を選ぶと、安土桃山の作品が見られます。一覧で見
ると遺跡とか屏風とか様々なものがランダムに出てきますが、その中から「お面」
が気になり画像をクリックすると、そのお面の情報を眺められます。情報の中に
「有形文化財登録」とあるので、これは文化庁の登録情報から取ってきたものだと
分かりますね。大きい写真や、違う角度からの写真が提供されている場合もあり
ますが、この情報だけで研究ができる品質ではありません。まずはどこにどのよ
うなものがあるのか、それが分かるようにしておく。そうすれば、そこに足を運ぶ
ことにつながります。こういうサイトの存在意義はそこにあるだろうと思います。
さて、文化遺産オンラインへの登録件数はまだ 10 万件くらいです。なぜか国
立博物館などはこういう公開に消極的で、結果的にはバランスを欠いたコレク
ションになっています。でも、こうしたインフラのプレゼンスが高まって、考え
の異なる人も「このぐらいは出してもいいか」と少しづつでも情報が集まってく
る場をうまくデザインできれば、生貝さんが仰っていた日本版ヨーロピアナみた
いなものが実現できるのではないかと期待しています。
岡本:では、これからパネル討論に入る前に、OpenGLAM という活動の社会的な
背景についてお話します。2013 年の G8 サミットで、首脳宣言にオープンデータ
の推進が盛り込まれ、行政がもっているあらゆる情報をオープン化していくこと
が合意されています *7
。ここでいうオープンとは機械で可読可能なかたち、要す
るにコンピュータ処理ができるようなかたちにし、二次利用に関する敷居を極限
まで下げる、営利も含めて、活発な利用を促進していくということで、厳密に定
義されています。こういう背景の中で、文化機関がもっているデータも行政情報
とみなして積極的な活用を進めていこうという流れがアメリカ、EU 諸国におい
て出てきています。
これからのセッションではまず、このような世界的なオープンデータ時代にお
いて、文化機関が果たすべき役割とは何か、皆さんのお考えをうかがいたいと思
います。ご経験やお立場によってお三方とも考え方に差があろうかと思います。
GLAMはいかにして拓かれるべきか
21第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
結論はまだ現時点において一つでなくていいと思うのですが、いかがでしょうか。
日下:一つは、今を生きるわれわれと未来の人々に向けて、文化機関がもってい
る財産を保存するというのが大きい役割だと思います。でも保存するだけで、そ
れが見られない状態ではおそらく問題があるので、現物でなくていい、写真でい
いので、多少見せてもらえないだろうかと思っています。ネットに上げてもらえ
れば仕事が終わった後でも見られますし、高解像度でなくてもいので、できれば
無料で見せてほしい。厳密な意味での「オープンにする、しない」という以前に、
少なくとも公費でデジタル化されて公開されているパブリックドメインになった
資料はパブリックドメインとして使いたい。
あと、もう一つ文化機関が果たしていくべき役割でいうと、それこそ足が弱っ
たお年寄りの方でも、例えば病院のベッドの上からでも見られるようにしてほし
い。どのような状況下にある人でも、興味をもったときに、それを確認できる環
境がつくられるようになったらいいなと思っています。
生貝:文化機関が果たすべき役割について、幾つか問題提起をさせていただ
きます。一つは、文化施設というときに抜け落ちがちなのが大学で、僕自身は大
学もしっかりとオープン化を進めていくべきだと考えています。大学は著作権法
35条で自由に著作物を使わせてほしいと言うわりには、自らの情報や研究成果
をしっかりとオープンにできていない現状があります。社会や政府、文化施設に
オープンを求めるならば、自分たちの情報をオープンにしていかなければ何も変
わらないと思います。さらに重要なのは、文化施設が公開するデジタルアーカイ
ブの利活用のモデルをつくることだと思います。資料を利用して研究・教育する
ことを本来的な使命にしてきた大学のようなところが、オープンなデジタルアー
カイブを利用した価値創出の仕組みを継続的につくる役割を果たしていかないと、
OpenGLAMの価値はなかなか社会に伝わっていかないのではないかと思います。
もう一つはライブラリーの役割です。図書館法 2 条には、「資料を収集し、整理
し、保存して、一般公衆の利用に供」するという図書館の役割が書かれていますが、
今のデジタル社会においては、資料を収集する、提供するというような言葉の意
味をもう一度再定義していく必要があると思います。今までは本を購入して集め、
それを体系的に整理して提供することが重要でしたが、物理的な本という形態以
外のデジタル知識が加速度的に増大している現代では、「デジタルで公開される
22 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
世界中の様々な知識を整理して、利用者が使えるようにしていくこと」が図書館
にとって非常に重要になってくるはずです。自分たちで物理的に知識を もつ
必要がなくなってきている時代の、知識の収集と提供のあり方を考えることこそ
が、僕は OpenGLAM における「L」の役割ではないかと思っています。
高野:今日、僕は L や M の代表みたいな顔で来ていますが、普段、僕はたぶん日
下さんのような立場です。つまり各機関の個別の事情はあまり考えずに、技術的
な合理性を優先してサービスをつくっていかざるを得ないので、文化機関からは
嫌われる側なんです。僕たちが Webcat Plus を立ち上げたとき、目次と概要を本
の情報に追加したのですが、こういうものは図書館の専門家からすれば書誌では
ないのだそうです。そんなものを国立情報学研究所、もと学情(国立情報学研究所の
前身となる学術情報センターの略称)ともあろうものが提供するのはいかがなものかと
いう議論があったのですが、僕たちの研究している連想の仕組みは、言葉の重な
りで近さを判定するので、タイトルや著者名が似ているということだけで、本の
近さを計っても意味がないのです。それで強引に目次や概要を入れることにしま
した。
また、Webcat Plus では書影も出していますが、著作権法上、完璧に OK などと
いう書影のセットはこの世の中に存在しないと思います。マンガやタレントの写
真が載っていたらやめたほうがいいというような世界なわけで、クレームが来た
ときに適切に対応するということで割り切ってやっています。ですから NII の事
業部としては危なっかしくて責任をもてないということもあり、Webcat Plus は
今年の 4 月から、私の研究室が運営するサービスになりました。さきほど「まず
は小さい範囲でも開かせることをずっとやってきた」なんて、バランスを取りな
がら慎重に進めてきたような言い方をしましたが、かなり冒険的に進めてきたの
です。このぐらいのことをやっても既存の M とか L とか A からはまともに相手
にされないというのが現状だと思います。
たまたま小布施の図書館や千代田図書館を企画した方々が「面白いことをや
りたい」と声を掛けてくださったので、「ではいい事例をつくりましょう」とい
うことで協力を惜しまずにやってきました。でも、歴史あるメモリーインスティ
チュートの人たちが、自分たちの組織が預かってきた情報を社会へ拓いていくこ
とを本気で考えているとは僕は思っていません。岡本さんが全国を行脚されてい
23第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
るのも、まさに啓蒙活動かと思いますが、最初は「お金がついたから、仕方がない
からやる」ということでもいいので、少しづつ前に進めることが必要かなと思い
ます。
ヨーロピアナは 5 年間で、メタデータとはいえもう 3,000 万件が集まっていま
す。一方、文化遺産オンラインは 10 年やっても 10 万件です。先日、話を聞いた
ときに「どうしてそんなに集められたのですか」と聞いたら、彼らは「お金です」
と答えていました。EU は非常に戦略的です。「ヨーロピアナに協力するプロジェ
クトにはファンディングしますよ」ということをヨーロッパ全土に対して呼び掛
けています。ですから日本でも、上手く回るところまでいくには、政策的な努力
も必要だろうと思います。
岡本:今のデジタルアーカイブのブームは、電子書籍ブームと同じくらい繰り返
されてきていて、また収束するというある種のシナリオも感じざるをえない部分
もあります。ただ期待するのは、冒頭でも言いましたが、オープンデータという
ある種の大合唱が強くなってきている部分ですね。 国際的な公約に近いような
かたちで国の政策として銘打たれています。また、政権に対する賛否はそれぞれ
お考えがあると思いますが、現実的な問題として、今の内閣はそれなりに強いだ
ろうと。総理大臣が変わると、全てやり直しというのがこの国の行政制度ですの
で、そういう意味では風が吹いているといえるでしょう。風が吹いているという
認識も、ビュービューなのか、そよそよなのかは、それぞれの立ち位置から感じ
方が違うと思いますが、少なくとも無風ではない。それを前提とした上で、これ
から先の話を進めたいと思います。
高野さんが仰ったように、開いていこうとしないメモリーインスティチュート
がたくさんあるというのはそのとおりだと思うのですが、それらを拓いていく
として、その場合の方法論というのはどういうアプローチであるべきでしょう
か。日下さんは、オープンデータの定義を明確にして進めるべきであるという考
え方ですね。これは決して悪い考え方だとは思いません。曖昧さが物事の進展を
遅らせたり、進展させたくない派へのエクスキューズを与えることになるからで
す。ただ一方で、段階的に一歩ずつ踏み出していくほうが現実的じゃないかとい
う考えも当然あるでしょう。この判断は、おそらく結果論でしかないと思います
が、そう言ってしまうと虚無的になってしまうので、それぞれお立場からお考え
をお話いただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
24 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
日下:先ほど説明したような意味でのオープンにしなければならない、という
ことではないです。オープンデータ、オープンアクセスという文脈でオープンと
いう言葉を使うのであれば、国内でそれに深く関わっている人、あるいは国際的
に決められた用法があるので、明確にしたほうがいいと言っているのです。以前、
東京メトロがオープンデータ活用コンテストというのを開催するということで、
オープンデータ界隈で話題になりました。しかし、コンテストで使われるデータ
は、「オープン」なものではなかった。オープンデータと銘打たなければ、段階的
な第一歩を踏み出したことを良い試みですねと言えたのに、それは違うと言わな
ければいけなくなってしまう。見過ごせないわけです。ですから、そういう言葉の
使い方はちゃんとしましょうと言っている。また、すでにそのデータやコンテン
ツがある機関の運営に重要な収入になっているものや、自分たちでお金なり名誉
なり、実績なりに変えていけているものは、オープンにしなくても、適切な対応に
よって、できるだけ使えるようにしてくれているのならそれでいいと思います。
ただ、所蔵機関では手に負えないものもあるのですね。古い写真の中には、い
つ頃のもので、何が写っているのかを調べようと思ったら、すごく手間がかかる。
そういうのは公開して情報を集めたほうがいい。ただし、どこまでは公開したほ
うがよく、どこからがいけないのか、その境目というのは、具体的な取り組みの
中で考え、事例が増えていく中でつかんでいくことになります。なので、無理に
でもすぐやりましょうというような考えは、僕はもっていません。
それから、さきほど高野先生がかなり振り切って進めているというニュアンス
のことを仰ってましたが、ウィキペディアはものすごく慎重にやっていて、プラ
イバシーに関わる記述だとか、著作権侵害にあたるものなど、何万件と削除して
いますし、以前のメディアウィキの仕様の都合で、100k の侵害のないテキスト
が巻き込まれて吹き飛ぶようなこともありました。僕たちは、ここまでならたぶ
ん大丈夫というだいぶ前のところで削除のラインをつくっているんです。ですか
らオープン化において現実的にやっていく、つまり抑えながら進んでいく方向で
も、僕はそんなに文句を言う立場ではない。オープンの定義にうるさく、ウィキ
ペディアに参加していることで、急進的な意見が期待されているところもありそ
うなんですが、たぶん僕はすごく逆の位置にいるような気がしてきました。
生貝:僕自身はクリエイティブ・コモンズ・ジャパンを運営してきたこともあり、
もともとオープン性を強く重視する立場なので、オープンの定義をリジットにす
25第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
べきということには基本的に賛成です。ただあまりに本来の定義を強調しすぎる
ことは、僕たちが、GLAM という歴史的な存在をオープンなものに変えていこう
とすることと、少なからず矛盾してくる部分があるのではないかとも考えていま
す。GLAM のそれぞれの主体、つまり美術館や図書館、文書館、博物館では、何百
年もの間、その本来的なミッションとして守り続けてきたものがあります。それ
と同様に、ここでいう「オープン」にしてもこの数十年間、その概念で守ってきた
ものがあり、いずれもその正統的な立場から逸脱することはおいそれとは受け入
れがたい。でも、概念というのは、定義の進化の繰り返しの中でこそ強くなると
思います。営利企業が新しくオープンの世界に参入しようとすると、非営利中心
で育てられてきたオープンの概念とは異なる部分が出てくることはどうしても避
けられませんが、だからといって「それは正統的なオープンとは異なる」として
排除的に見てしまうことには、僕はどうしても躊躇を覚えます。GLAM もオープ
ンも、本来の意味を大事にしながらも、変動する環境の中で少しずつ異質なもの
を受け入れ、定義を進化させ続けなくてはならない。進化というのは、優れたも
のが生き残るのではなく、もっとも環境に適応したものが生き残るのです。僕た
ちは、その概念の進化を止めてはいけないと考えています。
日下:図書館法という規定や、何千年という図書館の歴史を理解した上で、これ
からの図書館はこうだと戦うならかまいませんが、そうした歴史を無視して、俺
はこの定義で図書館をやるんだと言っても、普通は通用しないでしょう。オープ
ンの定義はバージョン 2 が出て、邦訳も下訳が出てきています。それはオープン
の定義について、これまで一生懸命考えてきた人が考えたものです。それに対し
てオープンの定義を変えたいのなら、それこそその伝統と戦わないといけない。
それだけの話です。
それと、アーカイブスの方がいらしたら、「文書」という言葉は似ているかもし
れません。オープンという言葉は日常で普通に使われるものなので、それに特別
な意味を付与させすぎというのはあります。だからこそオープンデータに関わる
人たちは、オープンの意味を何度でも説明しないと現実的には通用しない。僕は
Facebook で、公共オープンデータに取り組む人たちに、何度も、何度もオープン
の定義を説明しています。
高野:僕は言葉の定義にはあんまり興味がないです。僕が図書館の定義をしたら
26 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
大変なことになるだろうし、分かっているはずもないのですが、ユーザー側、あ
るいはユーザーにサービスを提供する側にいる立場としては、図書館が大切に
守ってきた価値を、違うかたちでも使うことができるんじゃないかと思うわけな
のです。ただ、こういうことを図書館の中の人に求めるは、たぶん今は酷なんで
すね。図書館のミッション・ステートメントから外れるし、そうしたトレーニン
グを受けてない人が雇われているのだし、あるシステムを外注したくても世界相
場の 3 倍くらいは払わないと、日本だと満足につくってもらえないというような
状況がある。だから、NII みたいなところがそれをする。私たちのミッションはそ
こです。彼らの予算や中の人の自由度ではできない事例をつくってあげることで、
それを指して、「ああいうものがうちの図書館にもできたらいいのにね」と言って
もらうこと。そこから少しずつ変わっていくのではないかと思います。 変えてい
きたいというユーザー視点をもった中の人でも、組織の中でのオフィシャルプロ
ジェクトだけではなくて、少し柔軟に外との関係性の中で良い事例をつくってい
くこともできるはずです。
日下:旧弊的な図書館みたいな内側があるとして、その外側に高野先生みたいな
組織があるとします。すると僕たちウィキペディアだとか、オープンストリート
マップというのは、そこよりもっと外側にいるんです。もし、僕たちがいなくて
もすでに 100 万項目あるような、オープンな百科事典を誰かがつくってくれてい
たら、別にウィキペディアはなくてもいい。内側と外側ではできないものがある
ので、さらに外側の人たちがいる。一番外側にいる人は、内側の人と直接交渉す
るのは難しくて、いろいろな壁があります。オープンな百科事典をつくってくだ
さいと、どこに言ったらいいのか分からない。そこでオープンの概念が生まれて、
まだできていないことを、みんなで可能にしようとしているという、そういう流
れだと思うのです。
高野:ウィキペディアの中の人というのは、オープンデータなり GLAM のプロ
ジェクトなりが望んでいるというのを話されるのに、NIIのナントカ教授よりはよ
ほど説得力や交渉能力があると僕は思いますよ。ですから僕たちが開かせるとき
は、オープンの定義を守らないと僕らはピックアップしませんというのではなく、
自分たちがセレクティブなポジションにいるということを自覚しつつ、僕たちだ
からこそ、その突破口を開けるようなものもあるんじゃないかと思っています。
27第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
生貝:確立した定義や伝統を再考するにあたって、歴史を知ることが重要だとい
う点には完全に賛同します。歴史を勉強しさえすれば、歴史ある概念にも挑戦で
きる。僕はそういう挑戦のためのアクセシブルな知識基盤こそが、デジタルアー
カイブだと思っているんです。そういう物事の歴史を、世界中の誰もが意欲さえ
あれば勉強できるようにするためにこそ、OpenGLAM の取り組み、そしてそれに
基づくオープンなデジタルアーカイブの構築は重要だと考えています。
岡本:知を再生するプロセスに誰もが参画でき、オープンデータの構築に関わっ
ていけるという面で、ウィキペディアというのは非常に大きな功績があると思い
ます。しかし、ウィキペディアって役に立つけど、信用に欠けるので授業とかで
は認めてなくて……という状態だとこの先の議論的に困るので、ウィキペディア
の編纂過程やウィキペディアタウンのような試みを知っていただきたく、日下さ
んからのショートプレゼンテーションをお願いします。
日下:2 年前のインターナショナルオープンデータデイで、ウィキペディアタウ
ンというイベントを、横浜市中央図書館を拠点にしてやりました。 町歩きをし
て横浜の歴史的建造物をめぐった後、図書館に帰ってきて、その建物について調
べてウィキペディアの記事にするんです。今日はそのときの資料をそのままお見
せします。まずウィキペディアの説明をしました。誰でも編集できるということ。
自分が著作権者であるかぎり、そのテキストをどう扱うか決められるので、それ
ぞれの投稿者が、誰でも自由に編集できるライセンスに同意して、オープンな百
科事典をつくっています。信頼性について、ウィキペディアには検証可能性とい
う方針があって、何を見て書いたかを書かなくてはいけません。ウィキペディア
なんて信用できないものを鵜呑みにしてはいけませんから、ウィキの参考文献を
見てパブリッシュされている情報にたどり着くことができる仕組みとなっていま
す *8
。こうした文献を提供してもらう環境というのがウィキペディアの編集者に
とって、図書館であったり、美術館であったり、博物館であったり、大学図書館で
あったり、機関リポジトリであったりということになります。
ウィキペディアは、自由に使っていいことになっているので、データとして落
として、統計処理もできますし、項目間のリンク構造を使って、グラフィックス
日本におけるOpenGLAM その課題と提案
28 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
にしている方もいます。Google で検索したときに右側に出てくる情報はウィキ
ペディアからのものが多いです。著作権を気にしなくていいから、圧倒的に使い
やすい。それから、例えば横浜の記事を書いて、それを翻訳すれば、その翻訳した
言語版ができます。こちらでやらなくても、興味をもった人がいれば、写真や図な
ど翻訳しなくていいものだけでも、とりあえず項目ができます。スウェーデン語
版のチューリップの写真は、僕が家族で遊びに行った公園で撮ったもので、ロシ
ア語版ほかでも使われています。こういう写真でもオープンにすると、どんどん
広まっていくんですよね。
日本ではウィキペディアタウンが定着しつつありますが、海外では GLAM-WIKI
という言葉が使って、GLAM の皆さんとのコミュニケーションがされています。
また、自分たちの町の写真を撮って提供する Wikipedia takes[your city]というプ
ロジェクトも立ち上がっています。図書館や博物館、美術館などの場所で、だれ
それが所蔵している作品についてみんなで記事を書いて一気に編集するエディッ
トソンというのも、海外では事例があります。バックステージで学芸員や司書の
説明を聞きながら、それを記事に反映させていくというようなことをやっている
ところもあります。横浜でも、横浜能楽堂に入れてもらって、舞台などの写真を
撮らせていただきました。
GLAM が出した資料をどういうふうに使うのがいいのかということも今日、こ
れから議論されるべきことだと思いますが、その一つの答えとして、ウィキペ
ディアの記事で取り上げることができます。例えばウィキペディアで「地方病」
という言葉を検索すると、ものすごい量の資料が使われています。資料を公開し、
オープンにしていただけると、こういうふうに使われるようになる。
ウィキペディアタウンはこれまで横浜で 3 回、二子玉川で 2 回、京都が 3 回、
山中湖で 1 回、これから自分たちのところでも開催したいという話が僕の耳に届
いているところであと 5 ヶ所くらいあります。地域ごとでやりやすいというのが
皆さんに興味をもって頂ける理由だと思いますが、文化資源の活用、あるいはそ
の施設からつながるコミュニティということで、ウィキペディアタウンという試
みを知っていただければ幸いです。
岡本:日下さん、ありがとうございます。ではこれまでの話をふまえ、オープン
データや OpenGLAM を促進していくために、何ができるのかを考えていきます。
その前に、先日 NHK のクローズアップ現代が「公共データは宝の山 ∼ 社会を変
29第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
えるか?オープンデータ∼」(2014 年 9 月 17 日放送)と題してオープンデータのいま
を特集していたのですがご覧になった方はいらっしゃいますか。番組の放映後、
とあるネットのメディアサイトで「海外に比べて、日本は本当に遅れている」と
いうトーンの記事が反響としてありましたが、何事につけても海外に参照基準を
置く日本のメディアらしい捉え方だと思いました。私は決して日本の取り組みが
遅れていると思っていません。現実社会に対する法律の適用面など、ある角度に
おいては、後れをとっている部分はあるでしょう。しかし一方で、国立国会図書
館がこの数年にわたり進めてきた大規模な書籍の電子化は、それがすぐにオープ
ンと呼べるものでなくても、その素地になりうるものとして、日本はかなり先を
行っているといえます。あるいは国宝の 1,000 年間分の文書を一気に電子化して、
かつCC BYで提供した京都府立総合資料館が実施した東寺百合文書Webも、大き
なインパクトをもっています。ですから進んでいる、遅れているではなく、日本
で課題となっているのはどの部分なのかということを明確にしながら、これから
望まれる取り組みについて議論を進めていければと思います。
生貝:分野による違いも大きでしょうし、一概に進んでいるか遅れているかを評
価するのは慎重でなければなりませんが、もし日本の公的な GLAM のオープン化
が遅れているとしたら、それはなぜなのか。制度学者であれば、制度的配置環境
がそうなっているからと答えます。僕たちは制度が変わらないことにも、変わる
ことにも理由があると考えています。なぜなら一つの制度というのは、相互に関
係し合うさまざまな制度の全体的な配置の中でもっとも適合したかたちが選ばれ
ているからです。というふうに考えたとき、日本はアメリカや EU と比べてやは
り制度的配置が違うと思います。例えばアメリカは、日本とくらべて若年層人口
が比較的多い。しかも Google や Facebook など、若年層が立ち上げたデジタル企
業が経済的にも社会的にも影響力をかなりもち始めているので、美術館や博物館
がプレゼンスを上げていこうと思ったら、オープン化していく必要が広い意味で
の制度の中に強く存在するんです。一方でヨーロッパでは、ギリシャやイタリア
の経済状況を見るまでもなく、このままでは公的な文化施設の継続自体が危うい
という危機感があると同時に、Google が情報社会の文化・情報の覇権を握る中
で、西洋言語世界への圧力がものすごくかかっているのです。そしてその圧力こ
そが、ヨーロピアナの原動力になったというのは、元フランス国立図書館長の書
いた『Google との闘いーー文化の多様性を守るために』(2007 年、岩波書店)とい
30 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
う本にも詳しく書かれています。
こうした内在的・外在的なオープン化の要因が、日本ではまだ相対的に少ない
状況にあるといえます。このような背景を踏まえた上で、日本で GLAM をオープ
ンにしていくための道筋を考えなくてはならないのですが、僕はある程度悠長に
考えている部分があります。今の若い人たちは明らかにオープンなインターネッ
トの世界に文化的生活の舞台を移しているなか、その傾向は時間をへるにつれ今
後も強まり続けることは間違いありません。そういった人々が日本社会の大勢を
占めるようになってくれば、遅かれ早かれ日本の GLAM はデジタルに、オープン
に変わってくるはずです。制度的環境の変化というのは時代に任せるしかない部
分が大きい。その変化がいつ本格化するかは定かではありませんが、今から考え
ておけば、来るべき時が来たときに困らないのではないかというのが僕の考えで
す。
岡本:高野先生に今までの経験に基づいてうかがいます。例えば日本版のヨーロ
ピアナを想像した場合、もちろん NDL サーチというような仕組みもありますが、
NDL サーチというのはいわばメタなサーチの仕組みにすぎない一面があります。
そのときに、先生がお取り組みになられている文化遺産オンラインには、日本を
代表するような文化遺産、文化資源が集まっていると思うのですが、それを開い
ていくことが可能だとした場合、ここでいう 拓く というのはオープンデータの
形式にするということですが、何がネックになるのでしょうか。またそのネック
を解消するには、何がインセンティブとして有効に機能するとお考えでしょうか。
高野:文化庁というのは縦割りで、隣の課と連携するようなことは予算のレベル
で分断されているので、横断的なプロジェクトをするのは非常に難しい。そうい
う構造の中で文化遺産オンラインは幾つかの課が協力して維持しているので稀有
な例ですが、結局は伝統文化課が主たる予算を取り、その範囲内でやることになっ
ています。例えば県立の美術館群に呼び掛けるのでも教育委員会を経由しなけれ
ばならないとか、役所から各文化組織へいたる伝達経路が非常に複雑怪奇なんで
す。現場の人たちが集まる会に行くと、「そんなシステムがあるんですか。知りま
せんでした。館長のところで止まっているのですかね」というような話になって
います。そもそもの協力要請が上手く現場に届かない。届いたとしても予算もつ
かないのに、自分たちの仕事を増やすような協力要請をピックアップしたくない
31第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
ということで、特別にお願いしたところを除いては、非常に難しい状況です。
また文化庁がフォーマルに集める情報ですから、違うかたちで公開をするため
には、集める際の許諾利用同意書のルールを完全に見直して、許諾も含めて取り
直す必要があります。こういうのでがんじがらめになって、ここ 5 年間くらいは
あまりデータも増えないというような状況だったのです。文化庁がもっている
データは追加できるので、文化庁がもっている何万件かのデータを追加すること
で件数を増やすということもやってきました。でも限界があるし、ちっとも日本
を代表するようなものでないことも多い。
こうした実践を踏まえた上で、文化遺産オンラインを仕切り直すべきだろうと
いう議論が文化庁の中で上がっていて、有識者会議をやっています。文化庁とし
てはマンガやアニメなども集めたデジタルアーカイブをしていますし、今後はデ
ザインのアーカイブもしようとしていますので、文化遺産オンラインを一度リ
セットして、そういう情報がより多く集まるプラットフォーム、倉庫のようなも
のをつくりましょうというような再定義に向かっています。デジタルのデータ
を預けたい人は預けることもできますと。文化庁が預かりきれないものは、今後、
国会図書館の協力が得られるようになれば、大きいデータを送ってもらって構い
ませんというようなことです。キュレーションの機能を充実させて、共通プラッ
トフォームの上にそれぞれのジャンルを発信するポータルをつくってもらう。で
も、下支えしている仕組みは一つという状況をつくりたいと考えています。
そのときに文化遺産オンラインの失敗を踏まえ、データを集めるときに、オー
プンに向かう条件を踏まえた許諾をもらう知恵をつけることですね。少なくとも
ヨーロピアナにはその知恵がある。こうした収集の手順を踏まえて、ファインダ
ビリティを保証するためにどんな情報を集めればいいかを考えなくてはならない。
同時に文化機関には、彼らの財産を文化庁が吸い上げるようなことはしませんと
いう説得をし続けないといけません。
さて、岡本さんの問い掛けの答えとしては……いま公開できるものはない! 
ほとんどないのです。文化遺産オンラインのメタデータはまだまだ発信して維持
していくクオリティではありません。例えば著者名みたいなものも精査されてい
ないし、典拠ファイルのようなものすらないのですから。それでもよければ一部
使ってもらってもたぶん構わないのですが、発信するクオリティになっていない
だろうという内部の判断で、許諾を認めていないのだと思います。ただそれにつ
32 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
いては、今後 2、3 年以内に公開する方向で努力を続けると思いますし、僕が関
わっている間はそれをやり続けようと思います。
日下:震災のときに、いろいろなところが写真を集めましたよね。あの時も似た
ような 失敗 がありました。いわゆるまとめサイト、自治体などが集めたものも、
許諾を取ってないと権利的には再利用できない。yahoo! は二次使用まで意識した
独自のライセンスで集めましたが、あのやり方だと、非営利や学術目的というの
は曖昧なものなので、自分たちで提供していいかどうか判断しないといけなくな
る難しさがあります。結局、再許諾を取りにいくか、提供を受けた機関がキュレー
ションから展示まで全部しないといけなくなってしまいます。それは今後、市民
のような、後からもう一度、許諾を取り直すことが難しくなるところから情報や
コンテンツを集めるときは大変になってくると思います。
ところで生貝さんに聞きたいのですが、文化遺産オンラインのメタデータを
ネットから引き抜いて勝手に使うってできないのですか?
生貝:再利用ポリシーも存在しないようなので、明確なことは言いがたいのが現
状です。一方、ヨーロピアナには現在 2,300 くらいの文化施設が参加しています
が、参加の際にメタデータには CC0 というマークを適用して、完全に権利を放棄
するというデータ共有協定を交わしています。同じく DPLA にも 1,000 くらいの
文化施設が参加していますが、最初からメタデータは完全に権利放棄することを
条件にしています。作品データ自体のオープン化に関しては、まだ議論があると
思うのですが、メタデータの完全な権利放棄に関しては、相当程度国際的に共有
された規範になりつつあると理解しています。
日下:いや、聞きたいのは、文化庁が許諾していなくても、文化遺産オンライン
のファクトデータセットを引っこ抜いて使って訴えられたら、<俺たちは絶対負
けるのか?>ということなんですが。
生貝:そこは極めて難しい問題です。いわゆるデータベース権を独立して保護す
るEUなどとは異なり、日本では基本的にファクトデータ、事実情報には著作権な
どの権利が発生しないと考えられます。ただひと言でメタデータといっても、著
作権が発生しうるような凝ったメタデータも少なからず存在するかもしれず、そ
33第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号
ういうリスクをどう考えるかという問題があるというのが一つ。さらに、著作権
が発生しなかったとしても、利用規約で再利用を禁止しているウェブサイトのメ
タデータを勝手に使ったときに法律的にどう解釈されるかは、その規約への利用
者の同意の取り方にも依存するため、各分野の業界慣行的な部分を含め、かなり
複雑な問題になってきます。
日下:ありがとうございます。
生貝:やはりそろそろ、この OpenGLAM のような集まりにおいては、具体的な戦
略、政策提言を考えなくてはならないと思うのです。先ほど僕は悠長に世代が変
わるのを待てばいいというようなことを言ったのですが、今は色々な意味でチャ
ンスなのも事実です。一つにはやはりオリンピックは大きいです。日本に来る
1,000 万人だけではなく、色々な理由で日本に来ない、来られない、しかしオリン
ピックを契機に日本に関心をもってくれるであろう 80 億人に、オープンなデジ
タルアーカイブというかたちで日本の文化を伝える基盤をつくることは、これか
らのソフトパワーなどの政策課題の中で極めて高い価値をもつはずです。こうし
た価値を、文化庁や経産省にしっかりと具体的な提言として伝えていく必要があ
ります。
二つ目に、先ほど若い人が増えればオープンな GLAM が増えるのではないか
というシンプルなお話をしましたけれど、これからの高齢化社会、歩いて美術館
や博物館に行けなくなる人、視力が落ちて紙の本を読めなくなる人たちは、僕達
全員を含めて確実に増えてきます。そういう人たちが文化的生活から遠ざけられ
ないようにするためにも、GLAM のオープン化が重要だということを、厚生労働
省などに届ける議論をしていかなくてはいけない。3 つ目としては、やはりオー
プンデータの法制度化です。これはこれまで培ってきた文化施設の生態系との兼
ね合いを含めて、これからしっかりと OpenGLAM JAPAN で議論してもらいたい
というのが僕の要望の一つであります。現実的な話として、地域の文化施設とい
うのはどうしても保守的な部分はありますし、なぜうちだけが先立ってオープン
化をしていかなければいけないのですか、という部分も現状ではあると思うので
すよね。そこで法律のスタンダードとしてメタデータをつけましょう、CC BY か、
あるいはせめて CC BY-NC(非営利のみ)は付けましょうといった共通のルールをつ
くったほうが、現場の人たちにとってもやりやすいはずです。このようなことを、
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  • 1. ISSN 2187-4115 LRGライブラリー・リソース・ガイド 第9号/2014年 秋号 発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社 Library Resource Guide 特別収録 第2回 OpenGLAM JAPANシンポジウム オープンデータ化がもたらす アーカイブの未来 生貝直人・日下九八・高野明彦 司書名鑑 No.5 大向一輝(国立情報学研究所) 特集 嶋田綾子 図書館100連発 3
  • 2. LRG Library Resource Guide ライブラリー・リソース・ガイド 第9号/2014年 秋号 発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社 特別収録 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム オープンデータ化がもたらす アーカイブの未来 生貝直人・日下九八・高野明彦 特集 嶋田綾子 図書館100連発 3 司書名鑑 No.5 大向一輝 (国立情報学研究所)
  • 3. 2 巻頭言  ライブラリー・リソー ス ・ ガ イ ド 2 0 1 4 年 秋号 さまざまな出来事があった 2014 年の年の瀬に、『ライブラリー・リソース・ ガイド』の第 9 号を刊行します。2014 年は前回の第 8 号で特集したように教育 委員会の制度改革が法制化されるなど、図書館をめぐる状況にも重要な変化が 押し寄せています。また、学校図書館をめぐっては図書館利用を促進すると思 われる法制化が実現した点も記憶に新しいところです。新しく始まる 2015 年 は図書館、ひいては情報と知識をめぐる環境はどうなっていくのか、本誌とし ても注視しつつ、また継続的な刊行を通した誌面による問題提起を図っていき たいと思います。 さて、今回は、 ● 第2回OpenGLAM JAPANシンポジウム   オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来   生貝直人×日下九八×高野明彦 ● 特集 図書館100連発3 ● 羊の図書館めぐり第3回「京都府立総合資料館」水知せり ● 司書名鑑No. 5「大向一輝」(国立情報学研究所) という構成となっています。 「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」は、2014 年 9 月 27 日(土) に開催された第 2 回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム(主催:OpenGLAM JAPAN、 協力:アカデミック・リソース・ガイド株式会社)の内容をベースに登壇者であ る生貝直人さん(東京大学大学院情報学環特任講師/東京藝術大学総合芸術アー カイブセンター特別研究員)、日下九八さん(Wikipedia 日本語版管理者・編集者 / User:Ks aka 98)、高野明彦さん(国立情報学研究所コンテンツ科学研究系教授) が手を加えて記事にしたものです。 巻頭言 変化の中で、未来を見つめるライブラリー雑誌
  • 4. 3巻 頭 言     ラ イ ブラリー・リソース・ガイド 2014 年 秋号 昨今ほうぼうで聞かれるようになったオープンデータやオープンガバメント という言葉の、文化芸術方面でのあり方について重要な示唆が得られるでしょ う。なお、OpenGLAM JAPAN シンポジウムはその後、2014 年に第 3 回が開催され、 2015 年も複数回の開催が見込まれていることを書き添えておきます。 特集「図書館 100 連発 3」(嶋田綾子)は、これで 3 回目の掲載となる本誌の代 表的コンテンツです。「図書館 100 連発」は、これまで創刊号(2012 年 11 月発行)、 第 4 号(2013 年 8 月発行)に掲載してきましたが、今回は 1 年ぶりの特集となり ます。この間、本誌スタッフは数百の図書館を見学し、また数々の事例もお寄せ いただきました。特に今回は、2014 年 11 月に、秋田県の市町村図書館・公民館 図書室職員研修会で行われた秋田版の図書館 100 連発をつくるという取り組み から数多くの事例を採用しています。 本誌が日本各地の図書館における良い事例やその手法を「図書館 100 連発」で 紹介し、提案することで、さまざまな図書館でも真似をしてもらい、そこから新 たな良い事例が生まれ、「図書館 100 連発」が何百連発にも連鎖していくことを 願っています。 連載 5 回目を迎える司書名鑑では、国立情報学研究所(NII)の准教授であり、 論文検索エンジンである CiNii の企画・開発・運用にもあたる大向一輝さんにご 登場いただきました。大向さんは、いわゆる図書館で働く司書ではありませんが、 むしろ現代における司書のありようの一つを示す存在ではないかと思います。大 向さんのメッセージにぜひ耳を傾けてください。 最後は、恒例のお願いです。本誌は少なくともオンリーワンの存在として一定 の価値を発揮しているという自負はあります。しかし、その自負もやはり一定部 数の購読による編集・発行のための経済的基盤の確立があってこそ、維持できる ものです。引き続き、本誌のご購読をお願い申し上げます。 編集兼発行人:岡本真
  • 5. 資料提供の工夫 …………………………… 40 [File201] 本の帯のコンテスト [File202] 積ん読大賞 [File203] 青空文庫の表紙コンテスト [File204] サンタのおたのしみ袋 [File205] 誰も読んでいない本フェア [File206] 新入学生向け富山ビギナー講座 [File207] おすすめ本を利用者から募集し、ポスターに [File208] 書庫の本を「蔵出し」で展示 [File209] 全国読書川柳コンクール [File210] シリーズ本はPOPでも案内 [File211] 新聞コーナーでオンラインも案内 [File212] 被災前の住宅地図を案内 [File213] 英語の本にシールで難易度を表示 [File214] 学習室に辞書や大学案内などを配架 [File215] 別置ラベルの説明を掲示 [File216] 行政とのコラボ企画展示 [File217] 全国地方紙正月特集号を展示 [File218] 配架資料に合わせた装飾や現物展示 [File219] 硬軟取り混ぜた行政資料展示 [File220] 大型絵本の見本に小型絵本をまとめて展示 [File221] 「よい絵本」の選定絵本をまとめて展示 [File222] 全集は開架に1冊、1巻目以降は書庫へ [File223] 図書紹介コーナーのPOP。貸出時にも対応 [File224] 展示資料を地域の団体に貸出 [File225] CiNii停止時に、ほかの検索サービスを案内 [File226] 例規のウェブ版を紹介 [File227] 入り口に観光パンフレット [File228] 貸出時の図書情報展示 巻 頭 言 変化の中で、未来を見つめるライブラリー雑誌[岡本真] …………………………… 2 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来[生貝直人×日下九八×高野明彦]……………… 7 特  集 図書館100連発 3[嶋田綾子] …………………………………………………………… 39 LRG CONTENTS Library Resource Guide ライブラリー・リソース・ガイド 第9号/2014年 秋号 南相馬市立中央図書館(File218) 撮影:嶋田綾子 撮影日:2014年3月4日 [File229] 色分けによる区政行政情報コーナー [File230] ライトノベルと知識本を同じコーナーに [File231] 市役所職員のスキルアップになる資料提示 [File232] 地域資料を地図で案内 [File233] 図書館で調べよう!を開架に [File234] 町の歴史を年表で掲示 [File235] 読みたい本、面白かった本に投票 [File236] 全国津々浦々、図書館の本棚数珠つなぎ [File237] 高校生による読書活動アシスト [File238] 職場体験生が本の紹介 [File239] 吟行コーディネート [File240] 読み語り隊 [File241] ぬいぐるみのおとまり会を実況中継 [File242] ひだまりの小さな図書室
  • 6. 資料収集の工夫 ………………………… 82 [File243] 新聞の地域情報を利用者に [File244] カタログでの選書会 [File245] 自治体誌を交換で収集 [File246] 人生の記念日に図書館へ本を [File247] 各国大使館などにパンフレット寄贈のお願い [File248] 通信制大学の参考図書をまとめて提供 [File249] 機内誌、車内誌を所蔵 [File250] 借りぐらしBOOKS 環境の改善 ………………………………… 90 [File251] カゴを使って文庫本を整理 [File252] 椅子コンテスト [File253] スクール・サービスデイ [File254] 貸切図書館 [File255] 梱包材を返却ポストで提供 [File256] これいいね!学校図書館の工夫 [File257] 学校図書館100連発 [File258] 返却ポスト用ドライブスルー [File259] しきりを外すとグループで使用できるキャレル [File260] ブラックライトで星空を演出 [File261] 別置ラベルと合わせた掲示 [File262] 天井から有線LANを配線 [File263] 薄い本はラベルをタテ貼り [File264] 一輪挿し運動 [File265] 床に目的地への案内を掲示 [File266] 地元学校の寄贈作品を使用 [File267] 新着図書に栞を挟んで目印に [File268] PCのデスクトップに伝えたいこと [File269] チラシを吊して提供 [File270] 寄付による袋を提供 PRの工夫 ………………………………… 125 [File286] 作業用ブックトラックでPR [File287] キャラクター普及のための取り組み [File288] コミュニティバスで図書館案内 [File289] 図書館クイズラリー [File290] 図書館探検ツアーすごろく [File291] 図書館の活動をファイリングして展示 [File292] サービスの案内を要所要所に掲示 [File293] 新館計画を館内で掲示 [File294] 図書館ミッションのPR [File295] 視覚障害者サービスの一般向けポスター [File296] 「図書館の自由宣言」の詳細パネル [File297] オンラインに誘導するレファレンスコーナー [File298] オンラインデータベースの案内をPCの壁紙に [File299] テーマ展示に大きなポスター [File300] レファレンス事例を展示 司書名鑑 No.5 大向一輝(国立情報学研究所) 羊の図書館めぐり 第3回 京都府立総合資料館[水知せり] アカデミック・リソース・ガイド株式会社 業務実績 定期報告 定期購読・バックナンバーのご案内 次号予告 ………………………………………………… 140 …………………………………… 146 …………………………………… 148 ………………………………………………………………… 153 ……………………………………………………………………………………………… 154 [File271] 書庫内での避難指示を床に [File272] 床の傷つき音防止にテニスボール [File273] デスク横にミニ本棚 [File274] 閲覧中の雑誌もフォロー [File275] 目録架を展示架として活用 [File276] 子ども用のブックバスケット [File277] ポスターの下に持ち帰り用フライヤー [File278] 簡単な掲示で貸し借りをスムーズに [File279] 名称の工夫 [File280] CD・DVD付属の資料にラベルを貼り付け [File281] 美しく、分かりやすいチラシの掲示 [File282] 整然とした張りもの管理 [File283] 廃棄した新聞でブックカバー [File284] 新聞エコバッグで福袋 [File285] 自動貸出機の分かりやすい説明
  • 7.
  • 8. 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム オープンデータ化がもたらす アーカイブの未来 生貝直人×日下九八×高野明彦 生貝直人(いけがい・なおと) 1982年生まれ。博士(社会情報学)。慶應義塾大学総合政策学部卒業、 東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。東京大学附属図書館新 図書館計画推進室・大学院情報学環特任講師。東京藝術大学総合芸 術アーカイブセンター特別研究員、科学技術振興機構さきがけ研究 員(兼任)など。専門分野は日米欧の情報政策(著作権、プライバシー、 セキュリティ、表現の自由、イノベーション)、文化芸術政策(デジタ ルアーカイブ、電子図書館)。単著に『情報社会と共同規制』(勁草書 房)など。 日下九八(User:Ks aka 98=くさか・きゅうはち) ウィキペディア日本語版の参加者。管理者、ビューロクラット、チェック ユーザー、オーバーサイト、OTRSメンバー。ウィキメディア・ジャパン・ カンファレンスのスタッフ。本業は非公開。 高野明彦(たかの・あきひこ) 東京大学数学科卒。博士(理学)。電機メーカーに20年間勤務の後、 2001年より国立情報学研究所。2002年より東京大学大学院コン ピュータ科学専攻教授併任。NPO連想出版理事長。専門は関数プロ グラミング、プログラム変換、連想情報学。研究成果を活用して、 Webcat Plus、新書マップ、想-IMAGINE Book Search、Book Town じんぼう、文化遺産オンライン、闘病記ライブラリーなどの公開 サービスを展開する。
  • 9. 8 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 岡本:OpenGLAM JAPAN の事務局長で、アカデミック・リソース・ガイド株式 会社の岡本真です。OpenGLAM JAPAN は、2013 年に横浜で開催された第 15 回図 書館総合展内のシンポジウムで結成されました。 文化機関が拓く、文化機関を拓 く をミッションにしています。どういうことか端的にいいますと、ギャラリー やライブラリー、アーカイブやミュージアムといった文化機関をオープンにして いくということです。日米の比較論が必ずしも意味をもつわけではありませんが、 欧米に行くと文化機関のオープンさにおいて、日本とは温度差を感じます。例え ば、海外の博物館や美術館では写真撮影が大抵の場合は許されており、それをブ ログなどで使うのも基本的には自由です。日本ではなかなかそういう環境は実現 していません。 私たちとしては、まず文化機関の方自身の意識を尊重しながら、環境を拓いて いくプロセスをお手伝いしていきたいと考えています。そのときに博物館や美術 館、図書館、あるいは日本の場合は公民館も含まれると思いますが、それらの機 関が足並みを揃えて何かをしていくのは極めて難しい。この際に有効なのが、良 い事例を積み上げていくということだろうと思います。一つの良い事例が風穴と 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム オープンデータ化がもたらす アーカイブの未来 生貝直人 × 日下九八 × 高野明彦 [いけがい なおと]        [くさか きゅうはち]      [たかの あきひこ] 司会:岡本真 そ の 動 向 が 世 界 的 に 期 待 さ れ、 注 目 さ れ る GLAM(Galleries、Libraries、 Archives、Museums)のオープンデータ化は、いまどのような状況にあるのか。実 践から、思考から、日本における OpenGLAM の最前線で活躍する 3 人の登壇者が、 その展望と提案、GLAM がもたらす社会の可能性を議論する。 GLAMのデジタルアーカイブの状況──日本から、世界から
  • 10. 9第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 なって大きな動きにつながっていくということは、この世の中で少なからず存在 します。 OpenGLAM は、「自分もこの活動に参画します」とコミットしていただければ、 順次、メンバーとして名を連ねていただけます。現在、参加表明をしてくださっ ている方は、例えばリンクト・オープン・データ・イニシアティブや国立情報学 研究所の方々といった研究者や技術者のほか、これからご登壇いただく日下九八 さんのようなウィキペディア編集者もいますし、私のような民間企業の人間も います。また図書館、博物館、資料館といった文化機関で働いている方も参画し ているのが大きな特徴かと思います。また、法人の協賛を 3 社頂戴しております。 一社がまず、本日この会場を提供してくださった株式会社リクルートテクノロ ジーズ様です。そして、資料のデジタル化などで皆さんご存知かと思いますが株 式会社国際マイクロ写真工業社様、最後に私が経営しますアカデミック・リソー ス・ガイド株式会社も名を連ねさせていただいております。私たちは、この活動 に組織の単位でコミットしていただくことを歓迎しております。文化機関、ある いは大学という単位でも構いませんが、組織的に OpenGLAM にコミットしたい 左から岡本真、日下九八、生貝直人、高野明彦 撮影:嶋田綾子
  • 11. 10 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 方がいらっしゃれば、私どものところまで、ぜひご相談ください。 では、さっそくシンポジウムに入りたいと思います。まず、ウィキペディア日 本語版の編集者・日下九八さんから、オープンという言葉の概念整理、論点整理 をしていただきたいと思います。 日下:ウィキペディア日本語版の編集者の日下です。日下という名前はアカウン ト名の Ks aka 98 から付けたもので、そのアカウントで全ての原語版、全てのプ ロジェクトに参加できます。ウィキペディアというのは、自由にテキストや写真 を使っていい、つまりオープンコンテントの百科事典です。ウィキペディアには 色々な言語版があって、言語ごとに百科事典以外にもプロジェクトがあるのです が、僕は日本語版ウィキペディアで、管理者ほか幾つかの権限をもっていて、い ろんなことができます。そうした権限は、立候補してコミュニティの信任を得る 仕組みで、職員ではなく、ボランティアです。ただ、権限をもっているからといっ て、コミュニティ内で決定権があるわけではなく、代表する立場にあるわけでも ありません。 僕はウィキペディアに参加して 7、8 年ほどですが、ウィキペディアというの は オープンコンテントの百科事典 ということでつくっているので、当然、オー プンについて、いろいろなフェーズで議論が起こります。今日はそうした議論を 通して培った経験なり知識なりで、昨今の GLAM におけるオープンアクセスとか、 オープンデータについて話す役回りになるかと思います。 では、オープンという言葉の概念整理ということでお話すると、もともとフ リーという言葉がありました。リチャード・ストールマン(1953 ∼ アメリカ合衆国 のプログラマー、フリーソフトウェア活動家)のオープンソフトウェア運動というのが あって、これは開発者側のところから生まれた言葉です。プログラムなどに対し て使われる言葉でした。そのうちに、自由なのか無料なのかという言葉の曖昧さ や、ストールマンのキャラクターへの反発もあって、フリーはオープンという言 葉に変わります。やがてフリーであったり、オープンであったりするものは、プ ログラムだけではなくて、テキストとか写真などに広がっていきます。こうした 動きに関わる人は、自発的なボランティアやクリエイターで、その中で主に創作 的な作品についてクリエイターが「自分がつくったものを、条件を事前に示して、 それを守るなら自由に使ってもよい」とあらかじめ提示するライセンスであるク
  • 12. 11第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 リエイティブ・コモンズが生まれてきました。ところが、学術論文を対象とした オープンアクセスや、主に公共データを対象としたオープンデータになると、そ こに関わる人たちは、それまでのプログラマー、ボランティア、クリエイターと は価値観がだいぶ違うし、オープンの対象とするものの創作性の強さも違います。 そういったところで複雑な議論が起こっているわけです。 こうした流れの中でオープンという言葉はただ開放する、公開するというのと は違う意味になっています。 オープンデータのオープンというのは、一種の専門 用語みたいなもので定義もありますが、それとは別に、文化的、社会的な情報や 知識、体験を全ての人に分け隔てなく公開していくという思想的な立場として使 われる場合もあります。オープンの概念というのは、使い方や捉え方で混同され ているように思います。例えばオープンアクセスという言葉があります。日本で は論文などの学術情報を公開してアクセスできればオープンアクセスといわれて いますが、ブタペスト宣言(オープンアクセスの定義を述べ、その後の OA 運動の方向性を 示したと位置づけられている宣言)で確認されたのは、再利用まで含めた意味だったは ずです。日本で胸を張ってオープンアクセスにしている、といえる大学図書館の レボジトリというのは、僕が知る限りでは CC BY(著作権者表示、改変時は改変内容の 明記を条件として、改変や商用も含めた複製や再配布の事前許諾)でライセンスしている九 州女子短期大学の紀要だけです。「非営利のみ」とか「改変禁止」のライセンスを 付けているところは幾つかありますが、それらはオープンと呼ばないほうがいい。 一方、オープンガバメント、オープンデータの文脈では、国や地方自治体の行 政の透明性を高め、公的機関の情報を市民や民間企業が活用できるようにするこ とで経済的な効果を期待して、情報を公開し、自由に使えるようにしようという 動きがあります。この文脈では、オープン・ナレッジ・ファウンデーション(OKF) による「オープンの定義」があります *1 。もう一回配ってもいいとか、もう一回 使ってもいいとか、改変してもいいとか、使う人を差別してはいけないとか、そ ういうものを全て守らないとオープンではないということになっています。 今日、私たちがオープンというとき、著作権者、あるいはデジタル化をした人 がクリエイティブ・コモンズでいうところの CC BY のライセンスを付けたもの をオープンと言いましょう。そして、追加で「そのほかの制約を課さない」という 条件を付けましょう。それが、今日、僕が言いたいことです。オープン化について は機械可読性、コンピューターで扱いやすいようにすることも大事とされている
  • 13. 12 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 んですが、とりあえずは、そのようなライセンスを付けて、ネットで公開すると ころまでアクセシビリティを上げましょう。 美術館や博物館などの学や産がもっているコンテンツに意識が向けられるよう になったのは、オープンアクセスの流れにおいてです。やや重なりますが、オー プンガバメントやオープンデータの流れからも、地域の公文書や歴史資料もオー プンになったほうがいいんじゃないかという話になってきました。そして、オー プンになった資料を利活用する入口として公共図書館や学校図書館、それから大 学図書館などラーニングコモンズ的なものが、OpenGLAM の動きに加わるかた ちになっています。公共図書館や学校図書館は、地域資料などをもつところもあ ますが、独自の、自前のコンテンツをもっているとは限らないですよね。もって いる図書というのは、自分たちでどうこうできるような権利をもっているわけで はないのですが、そういう意味で、同じ図書館であっても、機関リポジトリを運 用して紀要などを公開する大学図書館とは役回りが変わってきています。 国会図書館では、近代デジタルライブラリーで古い時代の図書・雑誌などの画 像を公開していますが、以前はそれを利用する場合、許諾を得る必要がありまし た。つまり著作権上は権利が切れているのに、国会図書館に許諾をとらなければ いけない条件になっていた。そうなると「表示 - 継承」(CC BY-SA)というライセン スに取り込めないので、ウィキペディアでその画像を使うことができないんで す。これが今年 2014 年になってから「著作権の保護期間が切れているものは許 諾なしに使ってよい」と変わった。ここで初めてオープンになったんですね。また、 CiNii の総合目録データベースが CC BY による公開となりました。 また、慶應大学は 42 行聖書をデジタル化しています。グーテンベルクによる 活版印刷術の発明により刷られた聖書ですね。歴史的な価値がある。しかし慶應 はオープンにしていません。一方、ウィキペディアのウィキペディア・コモンズ という画像レボジトリには、42 行聖書の画像があって、誰でも自由に使えるよう になっている。あと、これも今年になってからだと思いますが、オーストラリア 連邦化学産業研究機構がもっている化学に関する写真が全部だったかどうかは覚 えていないのですが、ウィキペディア・コモンズにアップロードされて、オープ ンになりました。 北摂アーカイブス(豊中市と箕面市による地域の映像情報を収集するアーカイブサイト)
  • 14. 13第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 などは、インターネットでの公開という意味ではとても早い段階からデジタル アーカイブで検索して使えるようにしてくれていたのですが、今日使われる意味 でのオープンにはなっていませんでした。これを CC BY にして、改変禁止とか非 営利とかいう条件を外してもらえると、オープンになる。そっちに向かいましょ うよ、と言っているわけです。 では OpenGLAM で何ができるか、GLAM でオープンに、というのはどういう ことかというと、一つは目録やカタログのオープンデータ化です。それから、所 蔵品のデジタルアーカイブ化が一番分かりやすいと思います。それからオープ ンガバメント的な意味では、 自分たちのこと をオープンにするということも 可能だと思います。例えば、神奈川県立近代美術館が取り壊しになるという話が 出ていますが、取り壊しをされたら、この歴史的建物の外観が撮れなくなる。 Google で調べるといろいろな写真が出てくるので写真はあると思いますが、再 利用が許可された画像ということで制限をかけると、この建物の画像はほとん どない。撮影者を探して許諾を得なければ、使えない写真ばっかりなんです。オ フィシャルなかたちで自分の館、自分の機関のものだけでも写真をオープンにし てくれれば、将来にわたって使える写真が残っていくということになります。ま た武雄市図書館を問題視する皆さんが情報公開で引き出した分類別蔵書統計表と いう資料があります。こういう内部資料があるのなら、最初からオープンにして もらえると、透明性も高まるし、おもしろい統計もとれるかもしれない。 こういうものをオープンにしましょうと言うと、「かつて部落差別があった地 名の入っている古地図をオープンにしていいのか」とか、美術館の方だと「全ての 作品について、作家にコンタクトして許諾を取るのは無理です」といった話にな るのですが、そういうのはとりあえず考えずに、できるものからやっていこうと いうことで、保護期間が切れた資料、それから自分たちで許諾を出せる著作物に ついて考えることにすればいい。まずは、そこから始めましょう。 岡本:オープンという言葉が、かなり多義的に使われているということが分かっ たと思います。どれが正しいと今すぐいうよりは、同じ言葉でも多義的に使われ ていることを踏まえて聞き進めていただければと思います。次の登壇者は多方面 でご活躍の方ですが、最近では東京大学の新図書館の準備にも携わっている生貝 直人さんです。文化芸術方面のアーカイブ政策に関しては、注目の若手中堅の一 人ではないかと思います。
  • 15. 14 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 生貝:今日は僕の目下の研究テーマでもある、「日本版ヨーロピアナをつくるた めには何が必要か」ということを、主に法制度や公共政策の観点からお話させて いただきます。論点は大きく 2 つです。まず日本における全ての GLAM のデータ を連結させ、それを統合的なポータル・プラットフォームで閲覧・利用できるよ うするためには何が必要か。次にそれを使って、どのような価値が創出できるか を考えることです。 ヨーロピアナは、ゴッホでもモネでもターナーでも、あるいは 70 年くらい前 に亡くなったミュシャでも、全欧州 2,300 以上の文化施設が提供する 3,000 万件 以上のデジタルオブジェクトを統合的に検索することのできるポータルです。さ らにそれらのデジタルオブジェクトの多くは、著作権保護の有無やクリエイティ ブ・コモンズなどのパブリック・ライセンスがメタデータ(文学作品をデータと考 えた場合、例えば作者名、刊行日時、ページ数、ジャンル、要約、さらにクリエイティブ・コモン ズなどの補助的な内容のこと)として付記してあるので、オープンに再利用可能かど うか、検索結果から一括で確認することができます。日本でもここ十年来デジタ ルアーカイブの構築は進んできており、例えば文化庁の文化遺産オンラインでは 10 万点以上の作品を見ることができ、国立国会図書館のデジタルコレクション では一般公開されているものだけでも 30 万冊以上、NDL 東日本大震災アーカイ ブでは様々なメディアを集めて、震災のアーカイブを統合的に検索できるように しています。さらに例えば、私の勤務先の東京大学には図書館だけで 30 館以上 あって、それぞれがデジタルアーカイブをつくって個別に公開していますし、兼 務先の東京藝術大学でも総合芸術アーカイブセンターでオーケストラの映像など を次々と公開し始めています。また、今や日本の文化の中核ともいうべきマンガ やアニメなどについても、絶版になった作品をネットで公開する絶版マンガ図書 館などの新たな構想も出てきていますが、そういうものをヨーロピアナのように つなげられないかなと思うのです。 しかしアーカイブというのは、公開してつなげて見られるようにしても、上手 く使われないと寂しいです。そこで考えたいのが、アーカイブの利活用です。例 えばヨーロピアナとアメリカの DPLA(Digital Public Library of America 米国各地の図書 館・博物館・文書館などが有するデジタルコンテンツを統合的に検索することができる電子図 書館ポータルサイト)は、それぞれに登録された数千万のコンテンツを組み合わせて キュレーションした共同エキシビジョンをつくったりしています。ヨーロピアナ でクリエイティブ・コモンズの条件で公開されたアーカイブを使ったアプリケー
  • 16. 15第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 ションや教育コンテンツなども、多く生みだされ始めています。また Google では、 Google Cultural Institute(世界の美術館、博物館、オンラインアーカイブなどから集めた数 百万もの遺物、文化遺産を公開するバーチャルの美術館、博物館)という文化施設向けのデ ジタルアーカイブ・プログラムを提供しており、ヨーロピアナもここに参加して 第一次大戦 100 周年のエキシビジョンを公開しています。それから大学でも、最 近の MOOCs(大規模オープンオンライン講座)の拡大の中で、さまざまなアーカイブ を利用した文化・歴史分野のオンライン講義などもつくり始めています。こうい うときに GLAM のもっているアーカイブを利用できるとありがたいのですが、実 際にやろうとすると、保有する機関から再利用の許諾を取るだけでもすごく大変 な場合が多く存在します。こうしたデジタルアーカイブを利用した価値創出のた めの取り組みを、個人やベンチャー起業などが含めた幅広い主体が行えるように するためにも、なんとかして GLAM のオープン化を進めていきたいところです。 こういう利活用モデルをつくっていかないと、アーカイブを構築・公開してもそ の価値は十分に発揮されないような気がします。 では、なぜ日本版ヨーロピアナ、つまり全国的なデジタルアーカイブの基盤が 必要なのかということを考えてみます。その理由として一つに、若者が iPhone や Google、Facebook といったデジタルツールでしか文化的な生活を送らなく なっていることがあります。今後さらに逼迫する経済状況を生きる若い世代に、 美術館や博物館、図書館を税金で維持していくことの必要性をどう説得するのか。 これは大学で教えていても、相当な難しさを感じるわけです。そんな時に、それ らが所蔵する膨大な文化資源がどこからでもネットで統合的に見られるというの は、文化施設の価値を次の世代に伝えていく上での前提的な基盤になってくると 思います。二つ目に、文化施設に来られない人たちにも役に立つということです。 現在、東京オリンピックに数千万人が来るという想定のもと、彼ら向けにどうい う文化プログラム、イベントなどをやるかという検討が国や自治体でも進められ ていますが、本当に目を向けなければいけないのは、2020 年にネットを通じて日 本の文化に興味を抱いてくれる 80 億人なのです。そんなときに、横山大観や葛 飾北斎といった日本文化のキーワードを Google で探して、分散したアーカイブ にたどり着くしかないという状況が続いていたら寂しいですよね。このような状 況を 2020 年までになんとかしたい。またデジタルアーカイブになれば、美術館 や博物館に行くのが難しい歩行困難者でも作品を見ることができ、視覚障害者で
  • 17. 16 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 も音声読み上げで本を読むことができるという点も極めて重要です。 その実現のために何が必要かというと、オープンデータをある程度法律で義務 づけることが根幹になると思うのです。EU では 2013 年の指令改正から、公的な MLA もほかの公的機関と同じく税金で運営されていることには変わりないので、 公開されたデータは原則として再利用可能にしないといけないことになり *2 、現 在 EU 加盟各国で国内法化作業が進められています。ヨーロピアナとしてもそう いう流れの中で、現在のデジタルアーカイブ閲覧のためのポータルから、再利用・ 創造的利用のためのプラットフォームになっていくことに、非常に力を入れてい ます。 米国オバマ政権でもオープンデータのアクションプランで、税金で運営してい る連邦立の文化施設もオープンデータにしていくということで、スミソニアン機 構の文化施設もその対象に含まれることになりました *3 。このような世界的な流 れが日本に押し寄せているなか、僕は文化施設のオープン化のための基盤法制を そろそろ整備しなければならないと考えているのですが、実際にオープンを法律 で定めようとすると、文化施設独自の色々な事情をよく考える必要が出てきます。 まず図書館でも、美術館でも、博物館でも、所蔵している作品は自分たちでつ くったものではありません。著作権法は、原則として著作者の死後 50 年間、勝手 に再利用することを禁止していますが、著作権保護期間が満了したからといって、 文化施設の側が作品をデータ化して誰でも自由に二次利用していいと許諾するこ とは、果たしてなんの権限に基づいて言えるのだろうと、実際の文化施設の方た ちは違和感をもつこともあると思います。僕たちは法の規則だけではなく、価値 観や道徳によっても動いているわけですから、そこに照らし合わせながら 現実 的なオープンとは何か を考えていかないと、オープン化は進んでいかないので す。例えば、東寺百合文書 Web(京都府立総合資料館による、京都の東寺に伝えられた日本 中世の古文書を公開するインターネット上の電子資料館)の完全な CC BY 化はすばらしい 例ですが、同文書は元々公的な性質が強く、時期的にもかなり昔のもので、こう なると倫理的、道徳的な問題が発生しづらい部分もあると思います。こうした資 料の特性なども考えながら、ヨーロピアナ水準のオープン化を徐々に目指してい く道筋をつくる必要があると思います。 もう一つ重要な論点としては、文化施設の運営やデジタルアーカイブの構築に はお金がかかるということです。当然、公的な文化施設というのは、そもそも税
  • 18. 17第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 金で運営されているのですが、日本はもとより、欧米でも非営利な学術利用は無 償利用を許す一方、営利利用については許諾や対価が必要な場合が多いです。こ れは日下さんのいうところのオープンとは違いますよね。 この点、例えば日本の図書館法 17 条では、お金を取ってはいけないとなって いる一方 *4 、博物館法 23 条では、入場料をとってもいいとされています *5 。公的 な文化施設がどこまで無償であるべきかは難しい問題ですが、美術館や博物館な どの入場料等を通じた財源確保の努力こそが、豊かで多様なキュレーションを生 みだす部分はあるでしょうし、なによりもキュレーションというのは表現行為で す。全てを公的な資金に頼り、いちいち国に「このキュレーションをやってもい いですか」と聞かなくてはならないとしたら、表現の自由としては危ういのです。 デジタルアーカイブでも、自主財源というのは、公的文化施設が国家からの距離 を保つという意味で必要な側面かと思います。 とはいえ、それでも文化施設のデジタルアーカイブはオープンにしていかざる を得ないと思うのです。その一つの象徴的な事例が、2013 年に起こった国立国会 図書館の大蔵経問題をめぐる一連の動きだったと思います *6 。この問題は、著作 権が切れた作品であっても、それによって商業的な利益を得ている運営主体がい る限り、無償でのデジタル公開は避けられるべきなのか否かという議論を呼び起 こしたものです。この議論はとてもセンシティブなのですが、特にデジタル時代 の文化施設というのは、著作権が切れた作品が自由に利用可能であることを本質 的に必要とするのです。ですが実際には、多くの日本の美術館、博物館、図書館が、 著作権が切れた作品のデータを自分自身で再利用不可能にしてしまっているのは、 論理的な整合性の問題としてよく考えなくてはならないと思います。この点、国 立国会図書館は翌 2014 年 5 月から、近代デジタルライブラリーなどの著作権が 切れた 26 万冊を利用許諾不要としましたが、これは大蔵経問題と直接的な関係 性のある出来事ではないながら、「著作権保護期間が満了した作品は自由に利用 できるべきか」という問題設定から見れば、文化施設としての論理必然的な、適 切な対応だと考えています。以上簡単ですが、文化施設のアーカイブをオープン にするというのはどういうことかについてお話をさせていただきました。 岡本:生貝さんのお話で、諸外国の事例というのも見えてきたのではないかと思 います。次にお話いただく高野明彦さんは、文化庁が行っている文化資源のデジ タルアーカイブである文化遺産オンラインやいわゆる連想検索のエンジンで、皆
  • 19. 18 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 さんよくご存知かと思います。 高野:高野です。先月、いま話題に出ていたヨーロピアナ本部や、ドイツ、フラン スの国立図書館を訪問して最新状況を聞いてきました。日本から見ると、ヨーロ ピアナは理想的に進んでいるような印象ですが、実際はそうでもないことが分か りました。今日は海外の話を評論するのはやめて、われわれの関係しているプロ ジェクトをご紹介することで、日本の現状を考えることにつながればと思ってい ます。 昨年 3 月までの 7 年間、国立情報学研究所(NII)内に連想情報学研究開発セン ターを立てて活動してきましたが、そのセンターのホームページに書いてある活 動のコンセプトが、僕のテーマでもあります。つまり文化的な記録を預かる組織 が蓄えてきた記憶を一般に開いていくということです。このときいきなりオープ ンになることはまずないので、まずは小さい範囲でもいいので開いてもらう、そ のお手伝いをずっとしてきました。 20 年ほど勤めた日立製作所から国立情報学研究所に私が移動したのが 2001 年ですが、まず立ち上げたのが、Webcat Plus(江戸期前から現代までに出版された膨大 な書物を対象に、そこに記憶された知の集積を自由に探索できる情報サービス)です。Webcat Plus には、僕たちが研究している連想検索の機能を付けています。連想検索とい うのは、文書と文書の言葉の重なり具合をもとに、ある文書(検索条件)に近い文書 (検索結果)を探しだす検索技術のことで、例えば興味のある本を何冊か指定すると、 その興味に近い本を探してくれます。これがそれなりに評判になって外部の研 究ファンドも取れたので、新書マップと文化遺産オンラインをつくりました。文 化遺産オンラインは文化庁の依頼でつくったもので、今も維持しています。それ から神保町古書店連盟から声が掛かり、神田神保町のオフィシャルサイト、Book Town じんぼうをつくりました。 連想の仕組みを付けた検索システムが幾つかできたところで、それらを束ねた 横断検索がしたいということでつくったのが、想 -IMAGINE(さまざまなジャンルの情 報源から関連する情報を連想計算で収集して一覧表示する書籍検索サイト)です。単なる横断 検索ではなく、束ねた情報源が互いに影響し合って新しい情報源ができるという のが特徴です。 ここまでやってそれぞれのサイトで PV は増えたのですが、果たしてユーザに 本当に喜んでもらっているのか実感がなかったので、できるだけ現場に出て行く
  • 20. 19第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 ことにしました。例えば神保町の真ん中に「本と街の案内所」というのを常設し て、65 インチ液晶タッチパネルやパソコンで、僕たちがつくった検索システムを 使えるようにしました。バイトの子が使い方を教えたり、PC が苦手な人には代わ りに調べてあげたりもします。神保町に来るのが楽しみのような人には、ウェブ なんて使ったこともないという人も多いので、これも一つの開き方だと思います。 それから 2007 年に千代田図書館がリニューアルオープンしたときには、オン ラインの検索システムである新書マップと想 -IMAGINE が利用できるレファレン スコーナーをつくりました。新書を 3,000 冊並べた書棚をつくって、利用者が興 味のある新書を数冊選んで専用の書見台に置くと、それに関連した本や古書店や 観光地情報を教えてくれるというものです。それを見た小布施町のまちとしょテ ラソの花井裕一郎館長(当時)が「うちでもこういうものをやりたい」と声を掛け てくれて、今もテラソでは同じシステムが動いています。 残念ながら千代田図書 館はメンテナンス費の問題があって、引き上げてしまいました。 文化遺産オンラインではそれなりにデータは集まったのですが、増えれば増え るほどどうでもいいデータも増えてくるのです。これはヨーロピアナが直面して いる困難でもあります。本当に見たいものを見つけるのがどんどん難しくなって いくのです。そこでキュレーションした結果を提供する方法を考えようというこ とで、文化遺産オンラインの素材の中から、常設展というかたちでは美術館があ まり見せることのない作品を整理して、仮想のリーフレットとして見せる仕組み (遊歩館)をつくったりもしました。 さきほど紹介した小布施は歴史的な遺産を生かした町づくりをしていますが、 江戸末期の文化人・高井鴻山が生まれた地ということで記念館があったり、地域 にゆかりの日本画家・中島千波さんの作品を集めたミュージアムなどがあります。 このような小布施の文化や芸術を横断的に紹介できるサイトがほしいという依頼 を受けて、小布施正倉というサイトをつくりました。僕はこれもオープン化だろ うと思うわけです。例えば、小布施正倉で公開している中島千波さんの高画質の 作品は、文化庁から文化遺産オンラインに掲載したいとお願いしても、なかなか 提供されないものです。しかし、「小布施が盛り上がるのなら」ということで許諾 していただきました。こういう活動は非常に重要で、中央でお金を使って無理矢 理に進めるよりは、権利をもっている人と信頼関係にある人や組織が主体的に進 めていくほうが自然だと思うのです。
  • 21. 20 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 文化遺産オンラインでは、文化財情報を「時代から見る」「分野から見る」「地図 から見る」というカテゴリーから検索できます。 例えば「時代から見る」のカテ ゴリーから「安土・桃山時代」を選ぶと、安土桃山の作品が見られます。一覧で見 ると遺跡とか屏風とか様々なものがランダムに出てきますが、その中から「お面」 が気になり画像をクリックすると、そのお面の情報を眺められます。情報の中に 「有形文化財登録」とあるので、これは文化庁の登録情報から取ってきたものだと 分かりますね。大きい写真や、違う角度からの写真が提供されている場合もあり ますが、この情報だけで研究ができる品質ではありません。まずはどこにどのよ うなものがあるのか、それが分かるようにしておく。そうすれば、そこに足を運ぶ ことにつながります。こういうサイトの存在意義はそこにあるだろうと思います。 さて、文化遺産オンラインへの登録件数はまだ 10 万件くらいです。なぜか国 立博物館などはこういう公開に消極的で、結果的にはバランスを欠いたコレク ションになっています。でも、こうしたインフラのプレゼンスが高まって、考え の異なる人も「このぐらいは出してもいいか」と少しづつでも情報が集まってく る場をうまくデザインできれば、生貝さんが仰っていた日本版ヨーロピアナみた いなものが実現できるのではないかと期待しています。 岡本:では、これからパネル討論に入る前に、OpenGLAM という活動の社会的な 背景についてお話します。2013 年の G8 サミットで、首脳宣言にオープンデータ の推進が盛り込まれ、行政がもっているあらゆる情報をオープン化していくこと が合意されています *7 。ここでいうオープンとは機械で可読可能なかたち、要す るにコンピュータ処理ができるようなかたちにし、二次利用に関する敷居を極限 まで下げる、営利も含めて、活発な利用を促進していくということで、厳密に定 義されています。こういう背景の中で、文化機関がもっているデータも行政情報 とみなして積極的な活用を進めていこうという流れがアメリカ、EU 諸国におい て出てきています。 これからのセッションではまず、このような世界的なオープンデータ時代にお いて、文化機関が果たすべき役割とは何か、皆さんのお考えをうかがいたいと思 います。ご経験やお立場によってお三方とも考え方に差があろうかと思います。 GLAMはいかにして拓かれるべきか
  • 22. 21第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 結論はまだ現時点において一つでなくていいと思うのですが、いかがでしょうか。 日下:一つは、今を生きるわれわれと未来の人々に向けて、文化機関がもってい る財産を保存するというのが大きい役割だと思います。でも保存するだけで、そ れが見られない状態ではおそらく問題があるので、現物でなくていい、写真でい いので、多少見せてもらえないだろうかと思っています。ネットに上げてもらえ れば仕事が終わった後でも見られますし、高解像度でなくてもいので、できれば 無料で見せてほしい。厳密な意味での「オープンにする、しない」という以前に、 少なくとも公費でデジタル化されて公開されているパブリックドメインになった 資料はパブリックドメインとして使いたい。 あと、もう一つ文化機関が果たしていくべき役割でいうと、それこそ足が弱っ たお年寄りの方でも、例えば病院のベッドの上からでも見られるようにしてほし い。どのような状況下にある人でも、興味をもったときに、それを確認できる環 境がつくられるようになったらいいなと思っています。 生貝:文化機関が果たすべき役割について、幾つか問題提起をさせていただ きます。一つは、文化施設というときに抜け落ちがちなのが大学で、僕自身は大 学もしっかりとオープン化を進めていくべきだと考えています。大学は著作権法 35条で自由に著作物を使わせてほしいと言うわりには、自らの情報や研究成果 をしっかりとオープンにできていない現状があります。社会や政府、文化施設に オープンを求めるならば、自分たちの情報をオープンにしていかなければ何も変 わらないと思います。さらに重要なのは、文化施設が公開するデジタルアーカイ ブの利活用のモデルをつくることだと思います。資料を利用して研究・教育する ことを本来的な使命にしてきた大学のようなところが、オープンなデジタルアー カイブを利用した価値創出の仕組みを継続的につくる役割を果たしていかないと、 OpenGLAMの価値はなかなか社会に伝わっていかないのではないかと思います。 もう一つはライブラリーの役割です。図書館法 2 条には、「資料を収集し、整理 し、保存して、一般公衆の利用に供」するという図書館の役割が書かれていますが、 今のデジタル社会においては、資料を収集する、提供するというような言葉の意 味をもう一度再定義していく必要があると思います。今までは本を購入して集め、 それを体系的に整理して提供することが重要でしたが、物理的な本という形態以 外のデジタル知識が加速度的に増大している現代では、「デジタルで公開される
  • 23. 22 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 世界中の様々な知識を整理して、利用者が使えるようにしていくこと」が図書館 にとって非常に重要になってくるはずです。自分たちで物理的に知識を もつ 必要がなくなってきている時代の、知識の収集と提供のあり方を考えることこそ が、僕は OpenGLAM における「L」の役割ではないかと思っています。 高野:今日、僕は L や M の代表みたいな顔で来ていますが、普段、僕はたぶん日 下さんのような立場です。つまり各機関の個別の事情はあまり考えずに、技術的 な合理性を優先してサービスをつくっていかざるを得ないので、文化機関からは 嫌われる側なんです。僕たちが Webcat Plus を立ち上げたとき、目次と概要を本 の情報に追加したのですが、こういうものは図書館の専門家からすれば書誌では ないのだそうです。そんなものを国立情報学研究所、もと学情(国立情報学研究所の 前身となる学術情報センターの略称)ともあろうものが提供するのはいかがなものかと いう議論があったのですが、僕たちの研究している連想の仕組みは、言葉の重な りで近さを判定するので、タイトルや著者名が似ているということだけで、本の 近さを計っても意味がないのです。それで強引に目次や概要を入れることにしま した。 また、Webcat Plus では書影も出していますが、著作権法上、完璧に OK などと いう書影のセットはこの世の中に存在しないと思います。マンガやタレントの写 真が載っていたらやめたほうがいいというような世界なわけで、クレームが来た ときに適切に対応するということで割り切ってやっています。ですから NII の事 業部としては危なっかしくて責任をもてないということもあり、Webcat Plus は 今年の 4 月から、私の研究室が運営するサービスになりました。さきほど「まず は小さい範囲でも開かせることをずっとやってきた」なんて、バランスを取りな がら慎重に進めてきたような言い方をしましたが、かなり冒険的に進めてきたの です。このぐらいのことをやっても既存の M とか L とか A からはまともに相手 にされないというのが現状だと思います。 たまたま小布施の図書館や千代田図書館を企画した方々が「面白いことをや りたい」と声を掛けてくださったので、「ではいい事例をつくりましょう」とい うことで協力を惜しまずにやってきました。でも、歴史あるメモリーインスティ チュートの人たちが、自分たちの組織が預かってきた情報を社会へ拓いていくこ とを本気で考えているとは僕は思っていません。岡本さんが全国を行脚されてい
  • 24. 23第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 るのも、まさに啓蒙活動かと思いますが、最初は「お金がついたから、仕方がない からやる」ということでもいいので、少しづつ前に進めることが必要かなと思い ます。 ヨーロピアナは 5 年間で、メタデータとはいえもう 3,000 万件が集まっていま す。一方、文化遺産オンラインは 10 年やっても 10 万件です。先日、話を聞いた ときに「どうしてそんなに集められたのですか」と聞いたら、彼らは「お金です」 と答えていました。EU は非常に戦略的です。「ヨーロピアナに協力するプロジェ クトにはファンディングしますよ」ということをヨーロッパ全土に対して呼び掛 けています。ですから日本でも、上手く回るところまでいくには、政策的な努力 も必要だろうと思います。 岡本:今のデジタルアーカイブのブームは、電子書籍ブームと同じくらい繰り返 されてきていて、また収束するというある種のシナリオも感じざるをえない部分 もあります。ただ期待するのは、冒頭でも言いましたが、オープンデータという ある種の大合唱が強くなってきている部分ですね。 国際的な公約に近いような かたちで国の政策として銘打たれています。また、政権に対する賛否はそれぞれ お考えがあると思いますが、現実的な問題として、今の内閣はそれなりに強いだ ろうと。総理大臣が変わると、全てやり直しというのがこの国の行政制度ですの で、そういう意味では風が吹いているといえるでしょう。風が吹いているという 認識も、ビュービューなのか、そよそよなのかは、それぞれの立ち位置から感じ 方が違うと思いますが、少なくとも無風ではない。それを前提とした上で、これ から先の話を進めたいと思います。 高野さんが仰ったように、開いていこうとしないメモリーインスティチュート がたくさんあるというのはそのとおりだと思うのですが、それらを拓いていく として、その場合の方法論というのはどういうアプローチであるべきでしょう か。日下さんは、オープンデータの定義を明確にして進めるべきであるという考 え方ですね。これは決して悪い考え方だとは思いません。曖昧さが物事の進展を 遅らせたり、進展させたくない派へのエクスキューズを与えることになるからで す。ただ一方で、段階的に一歩ずつ踏み出していくほうが現実的じゃないかとい う考えも当然あるでしょう。この判断は、おそらく結果論でしかないと思います が、そう言ってしまうと虚無的になってしまうので、それぞれお立場からお考え をお話いただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
  • 25. 24 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 日下:先ほど説明したような意味でのオープンにしなければならない、という ことではないです。オープンデータ、オープンアクセスという文脈でオープンと いう言葉を使うのであれば、国内でそれに深く関わっている人、あるいは国際的 に決められた用法があるので、明確にしたほうがいいと言っているのです。以前、 東京メトロがオープンデータ活用コンテストというのを開催するということで、 オープンデータ界隈で話題になりました。しかし、コンテストで使われるデータ は、「オープン」なものではなかった。オープンデータと銘打たなければ、段階的 な第一歩を踏み出したことを良い試みですねと言えたのに、それは違うと言わな ければいけなくなってしまう。見過ごせないわけです。ですから、そういう言葉の 使い方はちゃんとしましょうと言っている。また、すでにそのデータやコンテン ツがある機関の運営に重要な収入になっているものや、自分たちでお金なり名誉 なり、実績なりに変えていけているものは、オープンにしなくても、適切な対応に よって、できるだけ使えるようにしてくれているのならそれでいいと思います。 ただ、所蔵機関では手に負えないものもあるのですね。古い写真の中には、い つ頃のもので、何が写っているのかを調べようと思ったら、すごく手間がかかる。 そういうのは公開して情報を集めたほうがいい。ただし、どこまでは公開したほ うがよく、どこからがいけないのか、その境目というのは、具体的な取り組みの 中で考え、事例が増えていく中でつかんでいくことになります。なので、無理に でもすぐやりましょうというような考えは、僕はもっていません。 それから、さきほど高野先生がかなり振り切って進めているというニュアンス のことを仰ってましたが、ウィキペディアはものすごく慎重にやっていて、プラ イバシーに関わる記述だとか、著作権侵害にあたるものなど、何万件と削除して いますし、以前のメディアウィキの仕様の都合で、100k の侵害のないテキスト が巻き込まれて吹き飛ぶようなこともありました。僕たちは、ここまでならたぶ ん大丈夫というだいぶ前のところで削除のラインをつくっているんです。ですか らオープン化において現実的にやっていく、つまり抑えながら進んでいく方向で も、僕はそんなに文句を言う立場ではない。オープンの定義にうるさく、ウィキ ペディアに参加していることで、急進的な意見が期待されているところもありそ うなんですが、たぶん僕はすごく逆の位置にいるような気がしてきました。 生貝:僕自身はクリエイティブ・コモンズ・ジャパンを運営してきたこともあり、 もともとオープン性を強く重視する立場なので、オープンの定義をリジットにす
  • 26. 25第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 べきということには基本的に賛成です。ただあまりに本来の定義を強調しすぎる ことは、僕たちが、GLAM という歴史的な存在をオープンなものに変えていこう とすることと、少なからず矛盾してくる部分があるのではないかとも考えていま す。GLAM のそれぞれの主体、つまり美術館や図書館、文書館、博物館では、何百 年もの間、その本来的なミッションとして守り続けてきたものがあります。それ と同様に、ここでいう「オープン」にしてもこの数十年間、その概念で守ってきた ものがあり、いずれもその正統的な立場から逸脱することはおいそれとは受け入 れがたい。でも、概念というのは、定義の進化の繰り返しの中でこそ強くなると 思います。営利企業が新しくオープンの世界に参入しようとすると、非営利中心 で育てられてきたオープンの概念とは異なる部分が出てくることはどうしても避 けられませんが、だからといって「それは正統的なオープンとは異なる」として 排除的に見てしまうことには、僕はどうしても躊躇を覚えます。GLAM もオープ ンも、本来の意味を大事にしながらも、変動する環境の中で少しずつ異質なもの を受け入れ、定義を進化させ続けなくてはならない。進化というのは、優れたも のが生き残るのではなく、もっとも環境に適応したものが生き残るのです。僕た ちは、その概念の進化を止めてはいけないと考えています。 日下:図書館法という規定や、何千年という図書館の歴史を理解した上で、これ からの図書館はこうだと戦うならかまいませんが、そうした歴史を無視して、俺 はこの定義で図書館をやるんだと言っても、普通は通用しないでしょう。オープ ンの定義はバージョン 2 が出て、邦訳も下訳が出てきています。それはオープン の定義について、これまで一生懸命考えてきた人が考えたものです。それに対し てオープンの定義を変えたいのなら、それこそその伝統と戦わないといけない。 それだけの話です。 それと、アーカイブスの方がいらしたら、「文書」という言葉は似ているかもし れません。オープンという言葉は日常で普通に使われるものなので、それに特別 な意味を付与させすぎというのはあります。だからこそオープンデータに関わる 人たちは、オープンの意味を何度でも説明しないと現実的には通用しない。僕は Facebook で、公共オープンデータに取り組む人たちに、何度も、何度もオープン の定義を説明しています。 高野:僕は言葉の定義にはあんまり興味がないです。僕が図書館の定義をしたら
  • 27. 26 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 大変なことになるだろうし、分かっているはずもないのですが、ユーザー側、あ るいはユーザーにサービスを提供する側にいる立場としては、図書館が大切に 守ってきた価値を、違うかたちでも使うことができるんじゃないかと思うわけな のです。ただ、こういうことを図書館の中の人に求めるは、たぶん今は酷なんで すね。図書館のミッション・ステートメントから外れるし、そうしたトレーニン グを受けてない人が雇われているのだし、あるシステムを外注したくても世界相 場の 3 倍くらいは払わないと、日本だと満足につくってもらえないというような 状況がある。だから、NII みたいなところがそれをする。私たちのミッションはそ こです。彼らの予算や中の人の自由度ではできない事例をつくってあげることで、 それを指して、「ああいうものがうちの図書館にもできたらいいのにね」と言って もらうこと。そこから少しずつ変わっていくのではないかと思います。 変えてい きたいというユーザー視点をもった中の人でも、組織の中でのオフィシャルプロ ジェクトだけではなくて、少し柔軟に外との関係性の中で良い事例をつくってい くこともできるはずです。 日下:旧弊的な図書館みたいな内側があるとして、その外側に高野先生みたいな 組織があるとします。すると僕たちウィキペディアだとか、オープンストリート マップというのは、そこよりもっと外側にいるんです。もし、僕たちがいなくて もすでに 100 万項目あるような、オープンな百科事典を誰かがつくってくれてい たら、別にウィキペディアはなくてもいい。内側と外側ではできないものがある ので、さらに外側の人たちがいる。一番外側にいる人は、内側の人と直接交渉す るのは難しくて、いろいろな壁があります。オープンな百科事典をつくってくだ さいと、どこに言ったらいいのか分からない。そこでオープンの概念が生まれて、 まだできていないことを、みんなで可能にしようとしているという、そういう流 れだと思うのです。 高野:ウィキペディアの中の人というのは、オープンデータなり GLAM のプロ ジェクトなりが望んでいるというのを話されるのに、NIIのナントカ教授よりはよ ほど説得力や交渉能力があると僕は思いますよ。ですから僕たちが開かせるとき は、オープンの定義を守らないと僕らはピックアップしませんというのではなく、 自分たちがセレクティブなポジションにいるということを自覚しつつ、僕たちだ からこそ、その突破口を開けるようなものもあるんじゃないかと思っています。
  • 28. 27第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 生貝:確立した定義や伝統を再考するにあたって、歴史を知ることが重要だとい う点には完全に賛同します。歴史を勉強しさえすれば、歴史ある概念にも挑戦で きる。僕はそういう挑戦のためのアクセシブルな知識基盤こそが、デジタルアー カイブだと思っているんです。そういう物事の歴史を、世界中の誰もが意欲さえ あれば勉強できるようにするためにこそ、OpenGLAM の取り組み、そしてそれに 基づくオープンなデジタルアーカイブの構築は重要だと考えています。 岡本:知を再生するプロセスに誰もが参画でき、オープンデータの構築に関わっ ていけるという面で、ウィキペディアというのは非常に大きな功績があると思い ます。しかし、ウィキペディアって役に立つけど、信用に欠けるので授業とかで は認めてなくて……という状態だとこの先の議論的に困るので、ウィキペディア の編纂過程やウィキペディアタウンのような試みを知っていただきたく、日下さ んからのショートプレゼンテーションをお願いします。 日下:2 年前のインターナショナルオープンデータデイで、ウィキペディアタウ ンというイベントを、横浜市中央図書館を拠点にしてやりました。 町歩きをし て横浜の歴史的建造物をめぐった後、図書館に帰ってきて、その建物について調 べてウィキペディアの記事にするんです。今日はそのときの資料をそのままお見 せします。まずウィキペディアの説明をしました。誰でも編集できるということ。 自分が著作権者であるかぎり、そのテキストをどう扱うか決められるので、それ ぞれの投稿者が、誰でも自由に編集できるライセンスに同意して、オープンな百 科事典をつくっています。信頼性について、ウィキペディアには検証可能性とい う方針があって、何を見て書いたかを書かなくてはいけません。ウィキペディア なんて信用できないものを鵜呑みにしてはいけませんから、ウィキの参考文献を 見てパブリッシュされている情報にたどり着くことができる仕組みとなっていま す *8 。こうした文献を提供してもらう環境というのがウィキペディアの編集者に とって、図書館であったり、美術館であったり、博物館であったり、大学図書館で あったり、機関リポジトリであったりということになります。 ウィキペディアは、自由に使っていいことになっているので、データとして落 として、統計処理もできますし、項目間のリンク構造を使って、グラフィックス 日本におけるOpenGLAM その課題と提案
  • 29. 28 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 にしている方もいます。Google で検索したときに右側に出てくる情報はウィキ ペディアからのものが多いです。著作権を気にしなくていいから、圧倒的に使い やすい。それから、例えば横浜の記事を書いて、それを翻訳すれば、その翻訳した 言語版ができます。こちらでやらなくても、興味をもった人がいれば、写真や図な ど翻訳しなくていいものだけでも、とりあえず項目ができます。スウェーデン語 版のチューリップの写真は、僕が家族で遊びに行った公園で撮ったもので、ロシ ア語版ほかでも使われています。こういう写真でもオープンにすると、どんどん 広まっていくんですよね。 日本ではウィキペディアタウンが定着しつつありますが、海外では GLAM-WIKI という言葉が使って、GLAM の皆さんとのコミュニケーションがされています。 また、自分たちの町の写真を撮って提供する Wikipedia takes[your city]というプ ロジェクトも立ち上がっています。図書館や博物館、美術館などの場所で、だれ それが所蔵している作品についてみんなで記事を書いて一気に編集するエディッ トソンというのも、海外では事例があります。バックステージで学芸員や司書の 説明を聞きながら、それを記事に反映させていくというようなことをやっている ところもあります。横浜でも、横浜能楽堂に入れてもらって、舞台などの写真を 撮らせていただきました。 GLAM が出した資料をどういうふうに使うのがいいのかということも今日、こ れから議論されるべきことだと思いますが、その一つの答えとして、ウィキペ ディアの記事で取り上げることができます。例えばウィキペディアで「地方病」 という言葉を検索すると、ものすごい量の資料が使われています。資料を公開し、 オープンにしていただけると、こういうふうに使われるようになる。 ウィキペディアタウンはこれまで横浜で 3 回、二子玉川で 2 回、京都が 3 回、 山中湖で 1 回、これから自分たちのところでも開催したいという話が僕の耳に届 いているところであと 5 ヶ所くらいあります。地域ごとでやりやすいというのが 皆さんに興味をもって頂ける理由だと思いますが、文化資源の活用、あるいはそ の施設からつながるコミュニティということで、ウィキペディアタウンという試 みを知っていただければ幸いです。 岡本:日下さん、ありがとうございます。ではこれまでの話をふまえ、オープン データや OpenGLAM を促進していくために、何ができるのかを考えていきます。 その前に、先日 NHK のクローズアップ現代が「公共データは宝の山 ∼ 社会を変
  • 30. 29第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 えるか?オープンデータ∼」(2014 年 9 月 17 日放送)と題してオープンデータのいま を特集していたのですがご覧になった方はいらっしゃいますか。番組の放映後、 とあるネットのメディアサイトで「海外に比べて、日本は本当に遅れている」と いうトーンの記事が反響としてありましたが、何事につけても海外に参照基準を 置く日本のメディアらしい捉え方だと思いました。私は決して日本の取り組みが 遅れていると思っていません。現実社会に対する法律の適用面など、ある角度に おいては、後れをとっている部分はあるでしょう。しかし一方で、国立国会図書 館がこの数年にわたり進めてきた大規模な書籍の電子化は、それがすぐにオープ ンと呼べるものでなくても、その素地になりうるものとして、日本はかなり先を 行っているといえます。あるいは国宝の 1,000 年間分の文書を一気に電子化して、 かつCC BYで提供した京都府立総合資料館が実施した東寺百合文書Webも、大き なインパクトをもっています。ですから進んでいる、遅れているではなく、日本 で課題となっているのはどの部分なのかということを明確にしながら、これから 望まれる取り組みについて議論を進めていければと思います。 生貝:分野による違いも大きでしょうし、一概に進んでいるか遅れているかを評 価するのは慎重でなければなりませんが、もし日本の公的な GLAM のオープン化 が遅れているとしたら、それはなぜなのか。制度学者であれば、制度的配置環境 がそうなっているからと答えます。僕たちは制度が変わらないことにも、変わる ことにも理由があると考えています。なぜなら一つの制度というのは、相互に関 係し合うさまざまな制度の全体的な配置の中でもっとも適合したかたちが選ばれ ているからです。というふうに考えたとき、日本はアメリカや EU と比べてやは り制度的配置が違うと思います。例えばアメリカは、日本とくらべて若年層人口 が比較的多い。しかも Google や Facebook など、若年層が立ち上げたデジタル企 業が経済的にも社会的にも影響力をかなりもち始めているので、美術館や博物館 がプレゼンスを上げていこうと思ったら、オープン化していく必要が広い意味で の制度の中に強く存在するんです。一方でヨーロッパでは、ギリシャやイタリア の経済状況を見るまでもなく、このままでは公的な文化施設の継続自体が危うい という危機感があると同時に、Google が情報社会の文化・情報の覇権を握る中 で、西洋言語世界への圧力がものすごくかかっているのです。そしてその圧力こ そが、ヨーロピアナの原動力になったというのは、元フランス国立図書館長の書 いた『Google との闘いーー文化の多様性を守るために』(2007 年、岩波書店)とい
  • 31. 30 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 う本にも詳しく書かれています。 こうした内在的・外在的なオープン化の要因が、日本ではまだ相対的に少ない 状況にあるといえます。このような背景を踏まえた上で、日本で GLAM をオープ ンにしていくための道筋を考えなくてはならないのですが、僕はある程度悠長に 考えている部分があります。今の若い人たちは明らかにオープンなインターネッ トの世界に文化的生活の舞台を移しているなか、その傾向は時間をへるにつれ今 後も強まり続けることは間違いありません。そういった人々が日本社会の大勢を 占めるようになってくれば、遅かれ早かれ日本の GLAM はデジタルに、オープン に変わってくるはずです。制度的環境の変化というのは時代に任せるしかない部 分が大きい。その変化がいつ本格化するかは定かではありませんが、今から考え ておけば、来るべき時が来たときに困らないのではないかというのが僕の考えで す。 岡本:高野先生に今までの経験に基づいてうかがいます。例えば日本版のヨーロ ピアナを想像した場合、もちろん NDL サーチというような仕組みもありますが、 NDL サーチというのはいわばメタなサーチの仕組みにすぎない一面があります。 そのときに、先生がお取り組みになられている文化遺産オンラインには、日本を 代表するような文化遺産、文化資源が集まっていると思うのですが、それを開い ていくことが可能だとした場合、ここでいう 拓く というのはオープンデータの 形式にするということですが、何がネックになるのでしょうか。またそのネック を解消するには、何がインセンティブとして有効に機能するとお考えでしょうか。 高野:文化庁というのは縦割りで、隣の課と連携するようなことは予算のレベル で分断されているので、横断的なプロジェクトをするのは非常に難しい。そうい う構造の中で文化遺産オンラインは幾つかの課が協力して維持しているので稀有 な例ですが、結局は伝統文化課が主たる予算を取り、その範囲内でやることになっ ています。例えば県立の美術館群に呼び掛けるのでも教育委員会を経由しなけれ ばならないとか、役所から各文化組織へいたる伝達経路が非常に複雑怪奇なんで す。現場の人たちが集まる会に行くと、「そんなシステムがあるんですか。知りま せんでした。館長のところで止まっているのですかね」というような話になって います。そもそもの協力要請が上手く現場に届かない。届いたとしても予算もつ かないのに、自分たちの仕事を増やすような協力要請をピックアップしたくない
  • 32. 31第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 ということで、特別にお願いしたところを除いては、非常に難しい状況です。 また文化庁がフォーマルに集める情報ですから、違うかたちで公開をするため には、集める際の許諾利用同意書のルールを完全に見直して、許諾も含めて取り 直す必要があります。こういうのでがんじがらめになって、ここ 5 年間くらいは あまりデータも増えないというような状況だったのです。文化庁がもっている データは追加できるので、文化庁がもっている何万件かのデータを追加すること で件数を増やすということもやってきました。でも限界があるし、ちっとも日本 を代表するようなものでないことも多い。 こうした実践を踏まえた上で、文化遺産オンラインを仕切り直すべきだろうと いう議論が文化庁の中で上がっていて、有識者会議をやっています。文化庁とし てはマンガやアニメなども集めたデジタルアーカイブをしていますし、今後はデ ザインのアーカイブもしようとしていますので、文化遺産オンラインを一度リ セットして、そういう情報がより多く集まるプラットフォーム、倉庫のようなも のをつくりましょうというような再定義に向かっています。デジタルのデータ を預けたい人は預けることもできますと。文化庁が預かりきれないものは、今後、 国会図書館の協力が得られるようになれば、大きいデータを送ってもらって構い ませんというようなことです。キュレーションの機能を充実させて、共通プラッ トフォームの上にそれぞれのジャンルを発信するポータルをつくってもらう。で も、下支えしている仕組みは一つという状況をつくりたいと考えています。 そのときに文化遺産オンラインの失敗を踏まえ、データを集めるときに、オー プンに向かう条件を踏まえた許諾をもらう知恵をつけることですね。少なくとも ヨーロピアナにはその知恵がある。こうした収集の手順を踏まえて、ファインダ ビリティを保証するためにどんな情報を集めればいいかを考えなくてはならない。 同時に文化機関には、彼らの財産を文化庁が吸い上げるようなことはしませんと いう説得をし続けないといけません。 さて、岡本さんの問い掛けの答えとしては……いま公開できるものはない!  ほとんどないのです。文化遺産オンラインのメタデータはまだまだ発信して維持 していくクオリティではありません。例えば著者名みたいなものも精査されてい ないし、典拠ファイルのようなものすらないのですから。それでもよければ一部 使ってもらってもたぶん構わないのですが、発信するクオリティになっていない だろうという内部の判断で、許諾を認めていないのだと思います。ただそれにつ
  • 33. 32 第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 いては、今後 2、3 年以内に公開する方向で努力を続けると思いますし、僕が関 わっている間はそれをやり続けようと思います。 日下:震災のときに、いろいろなところが写真を集めましたよね。あの時も似た ような 失敗 がありました。いわゆるまとめサイト、自治体などが集めたものも、 許諾を取ってないと権利的には再利用できない。yahoo! は二次使用まで意識した 独自のライセンスで集めましたが、あのやり方だと、非営利や学術目的というの は曖昧なものなので、自分たちで提供していいかどうか判断しないといけなくな る難しさがあります。結局、再許諾を取りにいくか、提供を受けた機関がキュレー ションから展示まで全部しないといけなくなってしまいます。それは今後、市民 のような、後からもう一度、許諾を取り直すことが難しくなるところから情報や コンテンツを集めるときは大変になってくると思います。 ところで生貝さんに聞きたいのですが、文化遺産オンラインのメタデータを ネットから引き抜いて勝手に使うってできないのですか? 生貝:再利用ポリシーも存在しないようなので、明確なことは言いがたいのが現 状です。一方、ヨーロピアナには現在 2,300 くらいの文化施設が参加しています が、参加の際にメタデータには CC0 というマークを適用して、完全に権利を放棄 するというデータ共有協定を交わしています。同じく DPLA にも 1,000 くらいの 文化施設が参加していますが、最初からメタデータは完全に権利放棄することを 条件にしています。作品データ自体のオープン化に関しては、まだ議論があると 思うのですが、メタデータの完全な権利放棄に関しては、相当程度国際的に共有 された規範になりつつあると理解しています。 日下:いや、聞きたいのは、文化庁が許諾していなくても、文化遺産オンライン のファクトデータセットを引っこ抜いて使って訴えられたら、<俺たちは絶対負 けるのか?>ということなんですが。 生貝:そこは極めて難しい問題です。いわゆるデータベース権を独立して保護す るEUなどとは異なり、日本では基本的にファクトデータ、事実情報には著作権な どの権利が発生しないと考えられます。ただひと言でメタデータといっても、著 作権が発生しうるような凝ったメタデータも少なからず存在するかもしれず、そ
  • 34. 33第2回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「オープンデータ化がもたらすアーカイブの未来」 ライブラリー・リソース・ガイド 2014年 秋号 ういうリスクをどう考えるかという問題があるというのが一つ。さらに、著作権 が発生しなかったとしても、利用規約で再利用を禁止しているウェブサイトのメ タデータを勝手に使ったときに法律的にどう解釈されるかは、その規約への利用 者の同意の取り方にも依存するため、各分野の業界慣行的な部分を含め、かなり 複雑な問題になってきます。 日下:ありがとうございます。 生貝:やはりそろそろ、この OpenGLAM のような集まりにおいては、具体的な戦 略、政策提言を考えなくてはならないと思うのです。先ほど僕は悠長に世代が変 わるのを待てばいいというようなことを言ったのですが、今は色々な意味でチャ ンスなのも事実です。一つにはやはりオリンピックは大きいです。日本に来る 1,000 万人だけではなく、色々な理由で日本に来ない、来られない、しかしオリン ピックを契機に日本に関心をもってくれるであろう 80 億人に、オープンなデジ タルアーカイブというかたちで日本の文化を伝える基盤をつくることは、これか らのソフトパワーなどの政策課題の中で極めて高い価値をもつはずです。こうし た価値を、文化庁や経産省にしっかりと具体的な提言として伝えていく必要があ ります。 二つ目に、先ほど若い人が増えればオープンな GLAM が増えるのではないか というシンプルなお話をしましたけれど、これからの高齢化社会、歩いて美術館 や博物館に行けなくなる人、視力が落ちて紙の本を読めなくなる人たちは、僕達 全員を含めて確実に増えてきます。そういう人たちが文化的生活から遠ざけられ ないようにするためにも、GLAM のオープン化が重要だということを、厚生労働 省などに届ける議論をしていかなくてはいけない。3 つ目としては、やはりオー プンデータの法制度化です。これはこれまで培ってきた文化施設の生態系との兼 ね合いを含めて、これからしっかりと OpenGLAM JAPAN で議論してもらいたい というのが僕の要望の一つであります。現実的な話として、地域の文化施設とい うのはどうしても保守的な部分はありますし、なぜうちだけが先立ってオープン 化をしていかなければいけないのですか、という部分も現状ではあると思うので すよね。そこで法律のスタンダードとしてメタデータをつけましょう、CC BY か、 あるいはせめて CC BY-NC(非営利のみ)は付けましょうといった共通のルールをつ くったほうが、現場の人たちにとってもやりやすいはずです。このようなことを、