8. The English and Romanian Adoptees(ERA) Study(1992~)
【目的】ルーマニアの施設ケア(全般的デプリベーション:剥奪)の下に あった子どもが英国家庭に国際養子縁組された時に何が起こるのか。
【対象】1990年2月~1992年9月ルーマニアからイングランドの家庭に 養子縁組され英国入国時に生後42か月またはそれ以下の子ども。 年齢と性別について無作為にサンプル収集。
ルーマニアの養子サンプルは全体で165人であり、144人は施設で育 てられた。この分析においては、施設でのケアが少なくとも生後6か 月まで続いた98人の子どもに特に焦点化。
【方法】6歳、11歳、15歳で評価。対象の90%を15歳までフォロー。
親、教師、子どもから情報収集。直接聞き取りと質問票を組み合わ せたものや心理テスト、身体検査、行動の系統的な観察を実施。16 歳時点での全国テストの成績結果も入手。
9. The English and Romanian Adoptees(ERA) Study
「ケア提供者の頻繁な交代と子どもが当然しているべき経験の欠 如・不足が(家庭と比べて)施設におけるデプリベーションの特徴」
【ルーマニアの施設でのデプリベーションに特異的な4つの傾向】
①疑似自閉症(Quasi-autism)
自閉症様の特徴が4~6歳で弱まる。社会性の程度、コミュニ ケーションにおける自発性と柔軟性の点で自閉症とは異なる。
②脱抑制型アタッチメント(Disinhibited attachment)
慣れない大人への不適切な接近、見知らぬ人に対する警戒心 の欠如、不慣れな場面でもケア提供者を頼りにしない。
③不注意・過活動(Inattention/overactivity)
ADHDと多くの類似性あり。
④認知機能障害(cognitive impairment)
☆特に、生後半年までに個別ケアに移行することが重要とされた
15. ケア水準の異なる里親養育での比較
•BEIP里親養育(高水準)と、政府による公的里親養育(低水準)が子 どもの精神科的問題の表れにどのような影響を与えるか比較
•ADHD徴候・・・高水準ケアで少ない
•外在化障害(反抗挑戦性障害、素行障害等)・・・明確な差はなし
→最も困難な問題に対応するには今回の高水準ケアでも不十分な可能性を指摘
•高水準ケア里親に委託された女児は、低水準ケア里親に委託され た場合に比較して、内在化障害(うつや不安障害、恐怖症、PTSDな ど)とADHD徴候のみられることは少なかった
→この男女差は女児における里母との安定的な愛着関係の築きやすさにその要
因があると分析
Tibu, F., Humphreys, K., Fox,N., et al. “Psychopathology in Young Children in Two Types of Foster Care Following Institutional Rearing” Infant Mental Health Journal, 35(2), 2014, p123-131.
20. 研究から施策・実践への示唆~脱施設化は正しい方向に?~
「一方で養子縁組の状況は良好であり、施設への逆戻りは少ない。 その理由の一つとして、養子縁組の対象はより年少の子どもであ り、したがって施設でのケア経験が少ないことが考えられる。」
「今後の家庭養護に必要なのは、子どもを引き受けるための十分 な準備と委託後引き続き実施されるスーパーヴィジョンであり、特 に生後18か月以降の子どもを委託される家族には注意が必要で、 実の親や親族等血縁関係にある家族が子どもを引き取る際にもリ スクは存在しており、このような家庭にも十分な準備とスーパー ヴィジョンが必要である。」
Muhamedrahimov,R.J., Agarkova,V.V., Palmov,O.I., et al. “Behavior Problems in Children Transferred from a SocioemotionallyDepriving Institution to St.Petersburg(Russian Federation) Families”
Infant Mental Health Journal,35(2), 2014, p.119.
22. 社会的養護における脱施設化の実践展開について
•The Child’s I Foundation
2012年設立の英国NGO。ソーシャルワークの充実によって子どもを 孤児院に送らないようにする(または短期間のみ孤児院を利用す る)という取り組みがウガンダで成功を収めている。
•FairstartGlobal
デンマークのクリニカルサイコロジストNielsPeter Rygaardが中心と なり、各国で子どもに必要な施設養護、家庭養護におけるケア水準 向上のための施設スタッフや里親を対象としたプログラムを展開。
•他にも世界各国に展開するSOS Children’s Villages International(SOS子どもの村JAPAN)やCore Assets(NPO法人キーアセット) の取り組みについて紹介されている。
23. 脱施設化の実践展開例
DE-INSTITUTIONALISATION OF CHILDREN’S SERVICES IN ROMANIA: A GOOD PRACTICE GUIDE (2004)
Georgette MulheirやKevin Browneらの実践活動をもとにまとめられ、 さらに、それまでの成果も取り込み、以下を作成。
DE-INSTITUTIONALISING AND TRANSFORMING CHILDREN’S SERVICES A GUIDE TO GOOD PRACTICE(2007)
2006から07年にベルギー、クロアチア、デンマーク、エストニア、ハン ガリー、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、スロバニア、ト ルコで関係者への研修実施。
その後、Mulheirは英国のチャリティLumosでCEOとなり、各国の脱施 設化に携わる。
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