2023年度人工知能学会全国大会（第37回）の企画セッション「AIは仕掛学の夢を見るか？」のプレゼン資料です．

1. 2023.6.6 JSAI2023 at 熊本城ホール
HCI研究と
仕掛学は
仲良くできるか
関西大学総合情報学部
松下 光範 By Stable Di
ff
usion + M.Yasuo
[企画セッション]
AIは仕掛学の夢を見るか？

2. はじめに：なぜこんな題で話をするのか？
ボタンの掛け違い
• Artifactをデザインして問題を解決する [共通]
• 仕掛け研究者の提案
• こんなふうな仕掛けを考案するに至りまし
た．実際やってみたらこんな感じです．３人
に1人は行動変えてくれました．うまく行っ
たと思います！
• HCI研究者の感想
• 似たようなのあるけど，新規性は？
• ヤッコー研究じゃないの？

3. 行動変容のデザインはHCI研究の主眼の一つ
Artifactをデザインして問題を解決する
仕掛学もHCI研究も「問題を解決する」ことを志向し，そのための「人工物」を
デザインしている
The natural sciences are concerned with how things are.
Design, on the other hand, is concerned with how things
ought to be.
- The Sciences of the Arti
fi
cial (Herbert Simon, 1969)

4. 具体的な事例で考えてみる
ボタンの掛け違いはどこか
解くべき課題：階段利用の促進
アプローチ：音の鳴る階段
結果：階段利用者 66% 増加
例： Piano Stairs [2009: thefuntheory.com]

5. Piano Stairs はHCIの査読をパスするか
仕掛け論文はHCI的にはどう評価される？
• システムの機能的な新規性はほとんどない
• 検証が限定的
• 一日の実験データで，「効果があった」は弱くない？
• 「目新しかったからであって，仕掛けの効果と本当に言える？」
• 「対比実験は？ピアノであることは本質的？」
•66%増 は good enough?
良くて照会後判定，一発リジェクトの可能性も排除できない

6. HCI研究の KPI は仕掛学と一致するか？
HCI的視点
• HCI 研究の KPI とされがちなもの
• 課題の解決達成度（改善度）
• 利用者の満足度
• Research Question がどの程度解決されたか

7. HCI研究の KPI は仕掛学と一致するか？
仕掛学の特徴
• 「全ての人が同じように行動すべきである」という立場（libertarian
paternalizm）ではなく「行動したい人だけがすれば良い」(libertarian
alternativism)
• 「楽しそう」「やってみたい」という情動による好奇心駆動
• 高度な技術や機構に頼らず，誰でも問題解決に参加できる

8. HCI研究の KPI は仕掛学と一致するか？
仕掛学的視点
• HCI研究と仕掛学の対比
• 課題の解決達成度（改善度）
• 利用者の満足度
• Research Question がどの程度解決されたか
あくまでAlternativeness の提示
「どのように解決されたか」が主たる関心
結果としての「満足」よりも体験前の「好奇心」に関心

9. 仕掛学はなにをKPIにすべきか
FADはKPIたりえるか？
• 公式に設定されている基準は FAD
• 公平性 (Fairness): 客観基準が難しそう
• 誘引性 (Attractiveness): 指標化は可能，「しなくてもいい」との整合性は？
• 仕掛けの二重目的性 (Duality of purpose): 2つの目的の「適切な」相違は？

10. はじめに：なぜこんな題で話をするのか？
ボタンの掛け違い
• Artifactをデザインして問題を解決する [共通]
• 仕掛け研究者の提案
• こんなふうな仕掛けを考案するに至りまし
た．実際やってみたらこんな感じです．３人
に1人は行動変えてくれました．うまく行っ
たと思います！
• HCI研究者の感想
• 似たようなのあるけど，新規性は？
• ヤッコー研究じゃないの？
そもそもこの認識の解像度が低すぎるのでは？

11. 「Minimal なデザイン」の意義
ひとつめのボタン
仕掛学
• 当事者参画（Participation）の最大化
• 「当事者が解く」ことに鍵がある（ 高校生でも考えることができる）
• 同じ課題に対して，様々なアプローチがある
• むしろ，現場に合わせて生まれてきてほしい（Local基準）
HCI
• 削ぎ落としたデザインに学術的本質がある
• 唯一の解が見つけられるという前提？（Global基準）

12. 「現場に寄り添う」ことの意義
ひとつめのボタン
• 「ゴミ箱に捨てさせる」課題への様々なアプローチ
• バスケットゴール
• 投票
• キャップ箱
どれかが一番良くてそれ以外がダメ，ではない

13. CREATE Action Funnel
ふたつめのボタン
• 人の行動を変えるには，いくつもの
ギャップを超えなければならない
• HCIは，提案の効果に大きな関心
Cue
Reaction
Evaluation
Ability
Timing
Execute!
気づかない
否定的
コスパ悪い
能力がない
今は時間ない
Wendel, S: Designing for Behavior Change: ApplyingPsychology and Behavioral Economics, O’Reilly, 2013.

14. 仕掛学のKPIは？
提案する新しい仕掛け基準
• 認知される度合い (degree of awareness)：気づかれるか？
• 反応のポジティブさ (positiveness)：好奇心には働きかけられるか？
• コスパ（cost per performance)：費用的な優位性は？
• 対象の広さ (target person ratio)：どれだけの人が対象となりうるか？
• タイミング性（opportunity factor）：特定の状態を必要とするか？

15. 仕掛学のKPIは？
提案する新しい仕掛け基準
• 認知される度合い (degree of awareness)：高い！
• 反応のポジティブさ (positiveness)：Yes!
• コスパ（cost per performance)：まあまあ（そこまで高くはない）
• 対象の広さ (target person ratio)：全員とはいえないがそれなりに
• タイミング性（opportunity factor）：かなり当てはまりそう
ピアノ階段だと？

16. 伏線回収：仕掛学とHCIは仲良くできるか
• Absolutely Yes!
• そもそも見ているフェーズが違う Cue
Reaction
Evaluation
Ability
Timing
Execute!
気づかない
否定的
コスパ悪い
能力がない
今は時間ない
仕掛の守備範囲
HCIの守備範囲

17. すべてが解消するわけではない
仕掛学自体もUPDATEが必要
alternativism の解釈について
• 「しなくてもいい」があるかぎり，誘引性が指標になりにくい
• しかし，「良い仕掛け」と誘引性は完全に別事象か？
(A)10000人にひとりにのみ刺さる仕掛け
(B)10000人のうち1000人に刺さる仕掛け
(C)10000人すべてに刺さる仕掛け

18. 結論
• 仕掛学 ｘ HCI → 社会問題の実効的な解決の両輪
• 仕掛けは，人の行動変容のきっかけや文脈を示す
• HCIは，その文脈で効果を発揮するArtifactを生み出し，その効用を測る

19. 次回予告
AI研究と仕掛学は仲良くできるか