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佐久間大輔        佐久間大輔        
(大阪市立自然史博物館)(大阪市立自然史博物館)
自然保護を考えるうえで、
重要なのは地域の特性
古くからの人為影響
低地は都市化
高山帯を欠く
地史的には面白い
歴史的にも複雑
大阪の生物相は様々な環境の生物か
ら構成
照葉樹林の生き物
暖かな時代(例えば65
00年前)に広がった森
林の生物
冷温帯林の生き物
寒い時代(例えば2万3千
年前)に広がった森林の生
き物
山頂のブナ林やモミ・ツ
ガ林、里山周辺の半日陰や
湿地
寒かった時代の草
原の生き物
農耕地の周辺や氾濫原、
一部は溜池や水田周辺に
低湿地や干潟、自
然海岸の生き物
他にあまり行き場がない
大阪の自然の主要パートは
人間に利用されていた自然。
農耕や森林利用など、伝統的な人間活動
で絶えてしまうような生物の多くはごく
一部にしか残っていない大きな社寺林や
山頂(ここも実は社寺)などにごくわず
かに残るものは保護区として保持
ところが、農耕や森林利用も少なくなっ
てしまった。
明治から現在にかけての
都市の変遷は凄まじい
今昔マップ http://ktgis.net/kjmapw/index.html
農耕地が都市に
荒れ地が森林に
里山は昔から・・は本当か?
里山は自給自足の空間なのか
(自然共生型とされるが、その実態はど
うなのか)
里山の使い方は結構変化しているのでは
ないか?
里山をどう使うか
京北・京北・
八木町八木町
方面方面
京北・京北・
八木町八木町
方面方面 比良・比良・
鞍馬方鞍馬方
面面
比良・比良・
鞍馬方鞍馬方
面面
京阪京阪
奈・笠奈・笠
木木
京阪京阪
奈・笠奈・笠
木木
室町から江戸にかけて、京都の需要を満たす
薪炭は河川によって上流から、舟で、あるいは人力によって運ばれてきた。
多くの多くの薪薪炭炭はむしろ太はむしろ太
平洋側平洋側
域外から薪炭が
流入する中での
里山経営
•昭和 30 年代の統
計を見ても、里山
利用の姿は地域ご
とに
•かなり異なって
いる
ところ変われば品変わる、里山もまた
変化
•薪の生産量からみた
•この構造は妥当なのか
•戦前から
変わらないのか
•気にしていること
•都市需要、周辺地域需要
•古くから京都・大坂・奈良
•という都市と都市周辺農地に囲
まれた生駒
•その他の地域も古くから村落で
はなく都市の需要に対応してき
た
昭和35年という時期
萌芽更新による里山
管理がほぼ終わりつつ
ある時代
その直前の時代に大量
の裸地が存在した時代
柴の生産量
• ほとんど薪の主産地
とも重なるが、丘陵
地帯の柴主産地も
• 生駒山からは柴の産
出もほとんどない
はげ山?
河内地方の
入会地=野山
•共有の草地
•草は飼料・肥料・屋根材料で
あり、これも資源、時には販
売物
大越 1976
生駒市史資料編より
   草刈りは畦畔清掃の目的よりも、まだ肥料源確保の意味
が大切であった。従って夏場ともなれば里草よりも山草の刈
り取りに村の人は競争であった。野草を刈るよりも木の若葉
や笹の葉をかり集める作業が盛んでこれを「ざる」といって
水田の株間にまたは裏作(麦)の「ふた」といって麦の覆い
にし堆肥に利用した。遠くは生駒山の峰を越え河内側への入
り会い勝手の地に刈り取りにいった。「朝ぎ」といって朝早
くから草刈りにいって、朝食までに一荷を持って帰り、昼の
仕事の時に田に持って行って施すのである。またこの草を牛
のエサとし、厩の敷物にして、厩肥の材料となり、わらの代
用とし、わらの消費を節約した。わらは当時は大切な副業の
原料であり、冬場の牛の飼料であったので、夏場は出来るだ
け草でこれを補った。従って草刈りは全般に大正頃まで盛ん
で・・・
草山・柴山
小野竹喬
「山」 1929
高槻市成合邂逅山
柴山
摂津名所図会 金龍寺山 高槻市成合邂逅山
大阪でもたくさんのレッドリスト種
=大きく変貌した、失われた環境はどこ
か
1 1 7 ( 1 2 ) 0 ( 0 ) 4 ( 2 ) 4 ( 3 ) 5 ( 4 ) 4 ( 3 )
2 8 2 ( 9 5 ) 0 ( 0 ) 7 ( 2 ) 2 6 ( 2 7 ) 4 7 ( 6 1 ) 2 ( 5 )
3 7 ( 7 ) 0 ( 0 ) 2 ( 2 ) 1 ( 0 ) 4 ( 1 ) 0 ( 4 )
4 1 2 ( 7 ) 0 ( 0 ) 2 ( 1 ) 6 ( 2 ) 4 ( 4 ) 0 ( 0 )
5 4 9 ( 3 8 ) 0 ( 1 ) 1 9 ( 1 3 ) 1 0 ( 9 ) 9 ( 3 ) 1 1 ( 1 2 )
6 4 0 5 ( 1 8 2 ) 2 2 ( 1 2 ) 5 4 ( 2 0 ) 8 6 ( 4 5 ) 1 8 8 ( 1 0 0 ) 5 5 ( 5 )
7 2 0 0 1 2 5 1 2
8 2 8 ( 2 4 ) 0 ( 0 ) 1 5 ( 1 5 ) 4 ( 7 ) 4 ( 1 ) 5 ( 1 )
9 3 1 ( 2 5 ) 6 ( 5 ) 1 0 ( 6 ) 9 ( 8 ) 4 ( 4 ) 2 ( 2 )
1 0 1 7 9 1 4 8 4 0 7 4 4 3
1 1 4 0 3 0 0 1
1 2 4 4 8 ( 4 0 5 ) 8 6 ( 8 4 ) 1 6 2 ( 1 2 5 ) 8 5 ( 6 0 ) 9 2 ( 8 9 ) 2 3 ( 4 7 )
1 3 1 4 3 3 4 4 4 7 4 0 9
1 4 6 0 0 5 2 2 2 4 9
1 4 8 5 ( 7 9 5 ) 1 3 1 ( 1 0 2 ) 3 3 6 ( 1 8 6 ) 3 4 2 ( 1 6 1 ) 5 0 0 ( 2 6 7 ) 1 7 6 ( 7 9 )
1 2
A B C
1 5 4 4 4 2 3 1 7
1 6 2 3 3 1 1 9
1 7 5 5 1 6 1 1 2 8
20
近畿で生き残り、今絶滅の危機にあ
る植物の生息場所は?
中国東北部に分布を持つ半自然草
植物が案外多い:草原や湿地、氾
例えば信太山をとってみても
様々な動植物の宝庫
レッドリスト種は植物
だけでも
全国レベル 26 種
近畿レベル 49 種
大阪府レベル 58 種
(藤井 2010 )
多分もっと多い
森林性の動植物ではな
く、湿地や草地といっ
た明るい環境のいきも
ののすみか

写真:大阪府環境農林水産研
色んな場所を色んな
目的で使う
きのこは流通商品だっ
た
C-4. その他 関西ではキノコといえばマツタケ
マツタケは里山の中でも高い価値を
持つ流通商品だった
はげ山の指標としてのマツタケ
• 薪炭林と違う場所になるかと予想
したが、結果的には薪・柴の生産
量が多いところになった。
(ちなみにしいたけの産出量は
北摂はそれほどではない)
• 生駒山系からはマツタケも出てこ
ない
里山管理の答えは一つではない
• 希少種保全を目標にするなら多分「明るい雑木林」ではない。
実際、明治から戦後まで、生駒山系の大部分は薪炭林ではな
く草山(アカマツ疎林)だった。
• 草山、といってもアカマツが生えたり、草のように萌芽する
ナラやハギの茂る景観だろう。
 そうなっていた背景としての草利用・バイオマス利用が存在
していたことが重要。
生物多様性保全だけのためにどれだけの労力や資金投入は可
能なのか?
他の目的との合わせ技は可能か?その目的と保全は両立する
のか?
生駒をどういう自然として復元したいのか、共通のビジョン
はあるのか?
与謝野晶子「たけ狩」
「二三間(げん)上ると松葉を上に被
(かぶ)つた松茸が一本苔から出て居ました。
「あつ。」と云つたのは三人一所(いつし
よ)でしたが、「さあおとりやす。」と譲つ
てくれましたのが、私にはもの足りませんで
した。そのうちもう私は私、お政さんはお政
さんと、いくらでも松茸の取ることの出来る
所へ来ました。(中略)松茸は取つても取つ
てもあるのですもの、嬉しさは何とも云ひや
うがありません。」
大阪のマツタケ生産量激減、
現在は統計上ほぼ 0 に

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Editor's Notes

  1. 地図化をすると瀬戸内よりもむしろ太平洋側から大量の薪が取られている