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1 of 33
分散形態論を用いた
動詞活用の研究に向けて

       田川 拓海(千葉大学 / 他 非常勤講師)
               takumidlit@gmail.com



 日本言語学会第 143 回大会公開シンポジウム「活用論の前
 線」
目的と主張
(1) a. 分散形態論を用いた日本語の動詞活用研究の具体的
      な方法論を提示
➥ このモデルは、複数の活用形と複数の文法環境の間の
      ゆるやかな対応を無理なく捉えられる

   b. そのケーススタディとして、現代日本語(共通
     語)の連用形の分布の広さについて分析
➥ 現代日本語(共通語)の子音語幹動詞の連用形は他の
     どの活用形の出現条件も満たせない時に現れる形
     態:非該当形 (elsewhere form) である
統語構造と活用形のゆるやかな対応
                 CP

                      MP       C   
                                  か      命令形、仮定形、
意志形
                 TP        M      
                             だろう       終止形
          NegP        T
                           た
  StyleP      Neg
                ない                    連用形( + 未然形)
 VP       Style
            ます
      V
…√…
        このゆるやかな対応をできるだけ厳密に捉えた
活用研究の重要性
「「活用体系」と「統語論」の間にある乖離」(戸次
 (2010): 2 )
 ➥「理論言語学の論文中に描かれた樹形図には、末端に
 始めから正しい活用形が書かれており、理論がそこに間
 違った活用形を生成しないということは、いわば好意的
 に判断されているわけである。」(戸次 (2010): 4 )
 
「活用体系とは、理論言語学・記述言語学・自然言語処
 理の要石とも言える存在なのではないだろうか。」(戸
 次 (2010): 7 )
 ➥理論言語学(形式的統語論)における活用研究の重要
 性は奥津 (1996), 三原 (1997) などにより指摘されてきた
 (が、まだまだ研究が少ない)
活用形の形態統語論的問題

(3) 活用(形)の形態統語論的問題:文法環境と形態の
非一対一対応
   a. 複数の文法環境に一つの形態が対応している
   b. 一つの文法環境に複数の形態が対応している

実際には (3a) と (3b) がからみ合って複雑な様相を呈して
いる
 ➥豊富な文法環境に対して、活用形の種類は少ない。その
対応はどうなっているのだろうか?
非一対一対応問題へのアプローチ
(1)
A) 還元的アプローチ:その形態が出現する全ての環境に
  共通する何らかの特性を一つ抽出し、それと形態が対応
  していると考える

文法環境 A   
文法環境 B      特性ℵ     形態 α
文法環境 C   

 利点:形態の同一性に説明が与えられる
 難点:なぜ他の環境でその形態にならないのかという問
 題の解決が難しい。網羅性が無い分析になることも
非一対一対応問題へのアプローチ
(2)
B) リスト的アプローチ:一つの特徴を抽出することはせ
  ず、形態と複数の特性の対応関係を列挙する

文法環境 A     形態 α
文法環境 B     形態 α
文法環境 C     形態 α

 利点:網羅性がある
 難点:形態の同一性に対して説明を与えるのが難しい
非一対一対応問題へのアプローチ
(3)
C) 分散形態論を用いた本発表のアプローチ :文法環境と
  形態の非一対一対応をそのまま捉える

文法環境 A   
文法環境 B     形態 α
文法環境 C   

 A) と B) のアプローチの良いとこ取りを目指す
 ➥網羅性・形態の同一性への説明を両立させる

 本発表の主張:統語構造(文法環境)と活用形は
ゆるやかに対応している
活用形の名称 (1)
「形態統語論的な名付け」は用いない
 ➥「~という環境に現れた時の動詞の形態」
                    に対して同一
 の名称を与える方法

このような方法を採ると、たとえば母音語幹動詞に(現
 れ方が同じであるにも関わらず)未然形と連用形の両方
 を認めるような事態が生じる
 ➥形態の分布を重視するのでそれがわかりやすくなるよ
 うに名称を整理する
活用形の名称 (2)
(4) 活用形の名称(提案)
子音語幹動詞(飛ぶ)            従来 母音語幹動詞(食べる)
a 形 tob-a nai   否定   tabe   nai
i形   tob-i mas  連用   tabe   mas
音便形 toN    da   連用   tabe   ta
     tob   u    終止    基体形tabe   ru
従来通り       tob eba    仮定 tabe   reba
( 基体形 ?)   tob e      命令 tabe   ro
     tob   oo   意志   tabe   yoo

利点:形態の同一性について見渡しやすい
分散形態論 (1)

分散形態論 (Distributed Morphology (DM)) :
  Halle and Marantz(1993) によると、 IA, IP 両モデルの
 利点を併せ持った第三の形態論のモデル
 ➥実質は洗練された IA モデル(に近い)

形態論的分析 / 現象を犠牲にすることなく、生成文法の
 枠組みにおける統語 - 形態のインターフェイス研究の推
 進を可能にしている
分散形態論 (2)
(5) The Grammar (文法のモデル)
    Pure Lexicon (形式素性の貯蔵場所)
                   
                       Morphological Merger (形態結合)
     統語部門             Lexical Insertion (語彙挿入)
                       Linearization (線状化)
                  Morphology (形態部門)
  Spell Out                                PF (音声
形式)

      LF (論理形式)       Encyclopedia
                         語彙意味、百
分散形態論 (3)

(6) 後期挿入 (Late Insertion): 語彙挿入 (Lexical Insertion)
    は Spell Out 後に行われ、その時点で各節点にある形式
    素性に対応する形態、音韻的内容が決定される
➥ 統語部門の計算が終わった後に形態 / 音が決まる 

(7) Single Engine Hypothesis: 二つの要素を組み合わせて
    新しい要素を作りだす操作は、全て統語部門で行われ
    る
➥ 語形成も統語部門で行われる
  (≒語と句の世界を分けない)
活用研究における DM の利点

後期挿入( (6) ):形態と文法環境の対応を、統語部門に
おける計算が終わった結果と形態の関係という形で捉え
ることができる

反語彙主義 (Anti-lexicalism, (7)) :語形成のレベルに現れ
る活用形を句のレベルで現れる活用形とまとめて取り扱
うことができる
具体的な活用研究の方針

(8) 活用形の決定に関する仮説(田川 (2009) )
最終的にどの活用形が具現するかは、統語構造における情
報によってのみ決定される

➥ 統語部門における計算(構造形成)が終わると、その出
力を基に形態が決まる(決まっていく)
活用形に関する規則
(9) 動詞の活用形に関する形態規則・音韻規則 ( cf. 田川
(2009) )
※Vcf は子音語幹動詞、 Vvf は母音語幹動詞を表す。
a. {V[+V], Fin[+Irrealis], M[+Imp]} ↔ Vcf に /e/ 、 Vvf に /o/ を付加    命
令形
b. {V[+V], Fin[+Irrealis], M[+Woll]} ↔ V に /yoo/ を付加           意志形
c. {V[+V], C[+Cond(itional)]} ↔ V に /eba/ を付加             仮定形
d. {V[+V], T[-Past]} ↔ V に /u/ を付加                             終止形
e. {V[+V]} ↔ Vcf に /a/ を挿入 /   Neg{ ない , ず , ん , ねばならない } a
形
f. {V[+V]} ↔ Vcf に /i/ を挿入                                     i形
g. a, c, d の場合 /r/ を挿入 /Vvf   suffix

(9a-d) は Morphology で起こる語彙挿入の規則であるのに対し
具体的な派生の例
              T
                              統語部門の出力
√kowas [+V]       T[+Past]

   規則 “ T[+Past] ↔ /ta/” 適用   語彙挿入(形態部門)

              T

√kowas [+V]       T[+Past]
                     /ta/
 規則 (9f) 適用                   音韻規則適用(形態 / 音韻部
門)

  /kowasi/
規則の適用方法
(10) 競合 (competition)
形態論的規則は、指定の多いものから順に適用されていく
かつ、 a の競合が b の競合より優先される
a. context-free : 素性の数が多いものから適用
b. context-dependent: 素性の数が同じ場合、挿入の際に参照さ
れる環境がより制限されているものから適用

(9) のような規則を設定するということは、結局「還元的アプ
ローチ( 1.2 節)」なのではないのか?
 ➥そのような側面は(も)ある。しかし、後期挿入と競合を
採用することによって、複数の文法環境と複数の規則の間に一
種ゆるやかな対応関係を構築することが可能になる
競合の具体例
(9) 動詞の活用形に関する形態規則・音韻規則 ( cf. 田川 (2009) )
※Vcf は子音語幹動詞、 Vvf は母音語幹動詞を表す。
a. {V[+V], Fin[+Irrealis], M[+Imp]} ↔ Vcf に /e/ 、 Vvf に /o/ を付加
命令形
b. {V[+V], Fin[+Irrealis], M[+Woll]} ↔ V に /yoo/ を付加           意志形
c. {V[+V], C[+Cond(itional)]} ↔ V に /eba/ を付加             仮定形
d. {V[+V], T[-Past]} ↔ V に /u/ を付加                             終止形
e. {V[+V]} ↔ Vcf に /a/ を挿入 /   Neg{ ない , ず , ん , ねばならない }
a形
f. {V[+V]} ↔ Vcf に /i/ を挿入                                     i形
g. a, c, d の場合 /r/ を挿入 /Vvf   suffix
ケーススタディ: i 形(連用形)の分
布
従来の分析:特に還元型的アプローチでは、不定詞的特
徴や名詞化にその基本的特徴を帰するものが多い

「上代語から現代語に至るまで、連用形とされる形式の機
 能は、 1) 他の用言への連接、 2) 中止法、 3) 動名詞な
 いし不定詞 (infinitive) という三つの用法に要約できるであ
 ろう。この中でもとくに 3) を連用形のもっとも基本的な
 機能と見て、連用形の形成辞 -i にそのような名詞化の働
 きを帰するというのが、これまで比較的有力視された見
 方であった。」(松本 (1995): 161 )
i 形(連用形)の出現条件

i 形の出現条件は、
 「その他の活用形出現の条件を満たす環境に該当しない
 全ての環境(≒ T[-Past] などと関係を持たない環境)」
 ➥すなわち、 i 形は 「非該当形 (elsewhere form) 」

ここから、 i 形の出現する環境を細かく場合分けし、各環
境において i 形が具現するプロセスを考察していく
i 形の環境 (1)

(11) 動詞の直後にとりたて詞が介在する場合に現れる
a. 弟を殴りすらする。
b. [ [ [ 弟を nagur ] すら ] する (s[+V]-T[-Past]) ]
                              *

とりたて詞の介在により、動詞が T[-Past] およびそれよ
り上位の機能範疇と関係を持てない
i 形の環境 (2)
(12) 一部の助動詞や接続形式に前接する形態として現れる
a. 彼女は今にも泣きそうだ。
b. 私がやります。
c. 本を読みながらテレビを見た。
d. 歩行者に注意を払いつつ徐行してください。
e. 本を買いに行った。

これらの補文内には T[+Past] に対応する「た」も出現不可能


(13) a. * 私がやったました。
b. * テレビを見たながら論文を読んだ。
c. * 本を買ったに行った。

  ➥ 時制句( TP )レベルの投射も現れない小さな節を形成
している
i 形の環境 (3)
(14) 接頭辞 / 語彙的要素が付加する場合に現れる
a. 走る → 小走りする/ * 小走る
     はしゃぐ → 大はしゃぎする/ * 大はしゃぐ
b. 笑う → 高笑いする/ * 高笑う
     干す → 陰干しする/ * 陰干す
c. [TP [vP [VP ko-basir] v] する ]
                *

要素が動詞語幹に付加することによって、上位の主要部
へ移動することが出来なくなり T[-Past] などの要素と関係
を持てなくなる
i 形の環境 (4), (5)

(15) 動詞句 / 動詞に付加する接尾辞の前に現れる
雨の降り方、政権の担い手、荷物の運び役、…

(16) 複合語の要素として現れる
走り続ける、殴り殺す、張り紙、積み木、置き手紙、…

この二つの環境でも T など上位の機能範疇は投射しない
 ➥最も豊かな構造を持つと考えられる「 - 方」の場合も
、最大で動詞句 (VP) まで(影山 (1993) 、伊藤・杉岡
(2002) )
i 形の環境 (6)
(17) i 形そのままで名詞として使用される(連用形名詞)
a. 泳ぎ、争い、眠り、へこみ、詰まり、つまみ、すり、…
b. [N[V oyog[+V] ] ∅[+N] ]

統語的に名詞になった時点で、動詞が直接 T[-Past] など
の要素と関係を持つ可能性は無くなる

(18) 思わせぶり(な態度): omow+(s)ase+bur+∅[+A]

連用形自体が名詞化の機能を持つわけではない
i 形の環境 (7)

(19) 非過去と過去の非対称性
a. 壊す: {V[+V], T[-Past]}    → 終止形( (9d) によ
る)
b. 壊した: {V[+V], T[+Past]}   → i 形( (9f) による) +
「た」

TP という同じ大きさの統語的構成素を形成する場合でも
素性の種類によって形態が異なる(ことがある)
 ➥活用形と統語的なサイズ(投射など)の対応を想定す
る分析の困難さを示している
i 形の環境 (8)
(20) テ節
太郎はおもちゃを壊して、母親に怒られた。

テ節には時制形態が現れない( (21a, b) )


(21) a. 太郎はおもちゃを壊し (* た ) て、母親に怒られた
。
b. * 太郎はいつもおもちゃを壊すて、母親に怒られる。

  ➥素性 T[±Past] を形態部門で削除 (impoverishment) す
る
i 形の環境 (9)
(22) i 形のみで節を形成する(中止法)
太郎はおもちゃを壊し、母親に怒られた。

動詞句の等位 (vP coordination) 構造を取る
( Hirata(2006) )

(23) a. やっと台風も去りまして、家に帰ることができそ
うです。
b. * やっと台風も去りまし、家に帰ることができそうです
。

 ➥テ節と異なり、「ます」も現れず( (23a, b) )、テ節
まとめ: i 形が現れる様々な統語環境
(24) a. 動詞と T[-Past] などの間に要素が入り込む
b. 動詞に要素が付加することによって TP など上位の構造
に移動することができなくなる
c. 形成される構造が小さく、 TP 以上の機能範疇を投射し
ない
d. TP まで投射するが、素性の値が [-Past] ではない
e. TP まで投射し素性も [-Past] であるが、形態論的操作に
よって素性が削除される

様々な環境に i 形が現れることを、 (9) のシンプルな形態
論的規則によって捉えられる
課題 (1)

α) 野田講師発表、戸次 (2010) などで取り扱われているよ
うな、広範な活用形の体系的研究への敷衍
  ➥さらに、活用以外の統語 - 形態のインターフェイス
が問題となる日本語の諸現象の分析へ

β) (9) の形態論的規則の精密化、より厳密な形式化、様々
な現象からの検討
課題 (2)
γ) 子音語幹動詞が終止 / 仮定 / 命令 / 意志の場合になぜ基
  体形を取 ( れ ) るのか
δ) 統語構造と形態間の可視性( Embick(2010) )

(25) a. kog+te → koide (漕いで)
  kog+te → kogite (漕ぎ手)

 ➥なぜ「手」の場合に i 形になり「て」の場合には音便
 が可能になるのか
  ➥語幹部分から後接する要素が“見え”ているかどうか
 という問題として捉えられるのでは
追加参照文献
松本克己 (1995) 『古代日本語母音論―上代特殊仮名遣の再
  解釈』ひつじ書房 .
奥津敬一郎 (1996) 「第 1 章“せしめたしるこ”―学校文法活
  用論批判―」『拾遺 日本文法論』 , 9-21, ひつじ書房 .

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111127.lsj143.田川 japanese conjugation and dm

  • 1. 分散形態論を用いた 動詞活用の研究に向けて 田川 拓海(千葉大学 / 他 非常勤講師) takumidlit@gmail.com 日本言語学会第 143 回大会公開シンポジウム「活用論の前 線」
  • 2. 目的と主張 (1) a. 分散形態論を用いた日本語の動詞活用研究の具体的 な方法論を提示 ➥ このモデルは、複数の活用形と複数の文法環境の間の ゆるやかな対応を無理なく捉えられる b. そのケーススタディとして、現代日本語(共通 語)の連用形の分布の広さについて分析 ➥ 現代日本語(共通語)の子音語幹動詞の連用形は他の どの活用形の出現条件も満たせない時に現れる形 態:非該当形 (elsewhere form) である
  • 3. 統語構造と活用形のゆるやかな対応                  CP MP C    か 命令形、仮定形、 意志形 TP M       だろう 終止形 NegP T た StyleP Neg ない 連用形( + 未然形) VP Style ます V …√…         このゆるやかな対応をできるだけ厳密に捉えた
  • 4. 活用研究の重要性 「「活用体系」と「統語論」の間にある乖離」(戸次 (2010): 2 )  ➥「理論言語学の論文中に描かれた樹形図には、末端に 始めから正しい活用形が書かれており、理論がそこに間 違った活用形を生成しないということは、いわば好意的 に判断されているわけである。」(戸次 (2010): 4 )   「活用体系とは、理論言語学・記述言語学・自然言語処 理の要石とも言える存在なのではないだろうか。」(戸 次 (2010): 7 )  ➥理論言語学(形式的統語論)における活用研究の重要 性は奥津 (1996), 三原 (1997) などにより指摘されてきた (が、まだまだ研究が少ない)
  • 5. 活用形の形態統語論的問題 (3) 活用(形)の形態統語論的問題:文法環境と形態の 非一対一対応 a. 複数の文法環境に一つの形態が対応している b. 一つの文法環境に複数の形態が対応している 実際には (3a) と (3b) がからみ合って複雑な様相を呈して いる  ➥豊富な文法環境に対して、活用形の種類は少ない。その 対応はどうなっているのだろうか?
  • 6. 非一対一対応問題へのアプローチ (1) A) 還元的アプローチ:その形態が出現する全ての環境に 共通する何らかの特性を一つ抽出し、それと形態が対応 していると考える 文法環境 A    文法環境 B      特性ℵ     形態 α 文法環境 C     利点:形態の同一性に説明が与えられる  難点:なぜ他の環境でその形態にならないのかという問 題の解決が難しい。網羅性が無い分析になることも
  • 7. 非一対一対応問題へのアプローチ (2) B) リスト的アプローチ:一つの特徴を抽出することはせ ず、形態と複数の特性の対応関係を列挙する 文法環境 A     形態 α 文法環境 B     形態 α 文法環境 C     形態 α  利点:網羅性がある  難点:形態の同一性に対して説明を与えるのが難しい
  • 8. 非一対一対応問題へのアプローチ (3) C) 分散形態論を用いた本発表のアプローチ :文法環境と 形態の非一対一対応をそのまま捉える 文法環境 A    文法環境 B     形態 α 文法環境 C     A) と B) のアプローチの良いとこ取りを目指す  ➥網羅性・形態の同一性への説明を両立させる  本発表の主張:統語構造(文法環境)と活用形は ゆるやかに対応している
  • 9. 活用形の名称 (1) 「形態統語論的な名付け」は用いない  ➥「~という環境に現れた時の動詞の形態」                     に対して同一 の名称を与える方法 このような方法を採ると、たとえば母音語幹動詞に(現 れ方が同じであるにも関わらず)未然形と連用形の両方 を認めるような事態が生じる  ➥形態の分布を重視するのでそれがわかりやすくなるよ うに名称を整理する
  • 10. 活用形の名称 (2) (4) 活用形の名称(提案) 子音語幹動詞(飛ぶ) 従来 母音語幹動詞(食べる) a 形 tob-a nai 否定 tabe   nai i形 tob-i mas 連用 tabe   mas 音便形 toN da 連用 tabe   ta tob u 終止 基体形tabe   ru 従来通り tob eba 仮定 tabe   reba ( 基体形 ?) tob e 命令 tabe   ro tob oo 意志 tabe   yoo 利点:形態の同一性について見渡しやすい
  • 11. 分散形態論 (1) 分散形態論 (Distributed Morphology (DM)) :   Halle and Marantz(1993) によると、 IA, IP 両モデルの 利点を併せ持った第三の形態論のモデル  ➥実質は洗練された IA モデル(に近い) 形態論的分析 / 現象を犠牲にすることなく、生成文法の 枠組みにおける統語 - 形態のインターフェイス研究の推 進を可能にしている
  • 12. 分散形態論 (2) (5) The Grammar (文法のモデル) Pure Lexicon (形式素性の貯蔵場所)      Morphological Merger (形態結合)  統語部門   Lexical Insertion (語彙挿入)   Linearization (線状化) Morphology (形態部門)   Spell Out     PF (音声 形式) LF (論理形式)       Encyclopedia                          語彙意味、百
  • 13. 分散形態論 (3) (6) 後期挿入 (Late Insertion): 語彙挿入 (Lexical Insertion) は Spell Out 後に行われ、その時点で各節点にある形式 素性に対応する形態、音韻的内容が決定される ➥ 統語部門の計算が終わった後に形態 / 音が決まる  (7) Single Engine Hypothesis: 二つの要素を組み合わせて 新しい要素を作りだす操作は、全て統語部門で行われ る ➥ 語形成も統語部門で行われる   (≒語と句の世界を分けない)
  • 14. 活用研究における DM の利点 後期挿入( (6) ):形態と文法環境の対応を、統語部門に おける計算が終わった結果と形態の関係という形で捉え ることができる 反語彙主義 (Anti-lexicalism, (7)) :語形成のレベルに現れ る活用形を句のレベルで現れる活用形とまとめて取り扱 うことができる
  • 15. 具体的な活用研究の方針 (8) 活用形の決定に関する仮説(田川 (2009) ) 最終的にどの活用形が具現するかは、統語構造における情 報によってのみ決定される ➥ 統語部門における計算(構造形成)が終わると、その出 力を基に形態が決まる(決まっていく)
  • 16. 活用形に関する規則 (9) 動詞の活用形に関する形態規則・音韻規則 ( cf. 田川 (2009) ) ※Vcf は子音語幹動詞、 Vvf は母音語幹動詞を表す。 a. {V[+V], Fin[+Irrealis], M[+Imp]} ↔ Vcf に /e/ 、 Vvf に /o/ を付加 命 令形 b. {V[+V], Fin[+Irrealis], M[+Woll]} ↔ V に /yoo/ を付加 意志形 c. {V[+V], C[+Cond(itional)]} ↔ V に /eba/ を付加 仮定形 d. {V[+V], T[-Past]} ↔ V に /u/ を付加 終止形 e. {V[+V]} ↔ Vcf に /a/ を挿入 /   Neg{ ない , ず , ん , ねばならない } a 形 f. {V[+V]} ↔ Vcf に /i/ を挿入 i形 g. a, c, d の場合 /r/ を挿入 /Vvf   suffix (9a-d) は Morphology で起こる語彙挿入の規則であるのに対し
  • 17. 具体的な派生の例 T 統語部門の出力 √kowas [+V] T[+Past] 規則 “ T[+Past] ↔ /ta/” 適用 語彙挿入(形態部門) T √kowas [+V] T[+Past] /ta/ 規則 (9f) 適用 音韻規則適用(形態 / 音韻部 門) /kowasi/
  • 18. 規則の適用方法 (10) 競合 (competition) 形態論的規則は、指定の多いものから順に適用されていく かつ、 a の競合が b の競合より優先される a. context-free : 素性の数が多いものから適用 b. context-dependent: 素性の数が同じ場合、挿入の際に参照さ れる環境がより制限されているものから適用 (9) のような規則を設定するということは、結局「還元的アプ ローチ( 1.2 節)」なのではないのか?  ➥そのような側面は(も)ある。しかし、後期挿入と競合を 採用することによって、複数の文法環境と複数の規則の間に一 種ゆるやかな対応関係を構築することが可能になる
  • 19. 競合の具体例 (9) 動詞の活用形に関する形態規則・音韻規則 ( cf. 田川 (2009) ) ※Vcf は子音語幹動詞、 Vvf は母音語幹動詞を表す。 a. {V[+V], Fin[+Irrealis], M[+Imp]} ↔ Vcf に /e/ 、 Vvf に /o/ を付加 命令形 b. {V[+V], Fin[+Irrealis], M[+Woll]} ↔ V に /yoo/ を付加 意志形 c. {V[+V], C[+Cond(itional)]} ↔ V に /eba/ を付加 仮定形 d. {V[+V], T[-Past]} ↔ V に /u/ を付加 終止形 e. {V[+V]} ↔ Vcf に /a/ を挿入 /   Neg{ ない , ず , ん , ねばならない } a形 f. {V[+V]} ↔ Vcf に /i/ を挿入 i形 g. a, c, d の場合 /r/ を挿入 /Vvf   suffix
  • 20. ケーススタディ: i 形(連用形)の分 布 従来の分析:特に還元型的アプローチでは、不定詞的特 徴や名詞化にその基本的特徴を帰するものが多い 「上代語から現代語に至るまで、連用形とされる形式の機 能は、 1) 他の用言への連接、 2) 中止法、 3) 動名詞な いし不定詞 (infinitive) という三つの用法に要約できるであ ろう。この中でもとくに 3) を連用形のもっとも基本的な 機能と見て、連用形の形成辞 -i にそのような名詞化の働 きを帰するというのが、これまで比較的有力視された見 方であった。」(松本 (1995): 161 )
  • 21. i 形(連用形)の出現条件 i 形の出現条件は、  「その他の活用形出現の条件を満たす環境に該当しない 全ての環境(≒ T[-Past] などと関係を持たない環境)」  ➥すなわち、 i 形は 「非該当形 (elsewhere form) 」 ここから、 i 形の出現する環境を細かく場合分けし、各環 境において i 形が具現するプロセスを考察していく
  • 22. i 形の環境 (1) (11) 動詞の直後にとりたて詞が介在する場合に現れる a. 弟を殴りすらする。 b. [ [ [ 弟を nagur ] すら ] する (s[+V]-T[-Past]) ] * とりたて詞の介在により、動詞が T[-Past] およびそれよ り上位の機能範疇と関係を持てない
  • 23. i 形の環境 (2) (12) 一部の助動詞や接続形式に前接する形態として現れる a. 彼女は今にも泣きそうだ。 b. 私がやります。 c. 本を読みながらテレビを見た。 d. 歩行者に注意を払いつつ徐行してください。 e. 本を買いに行った。 これらの補文内には T[+Past] に対応する「た」も出現不可能 (13) a. * 私がやったました。 b. * テレビを見たながら論文を読んだ。 c. * 本を買ったに行った。   ➥ 時制句( TP )レベルの投射も現れない小さな節を形成 している
  • 24. i 形の環境 (3) (14) 接頭辞 / 語彙的要素が付加する場合に現れる a. 走る → 小走りする/ * 小走る はしゃぐ → 大はしゃぎする/ * 大はしゃぐ b. 笑う → 高笑いする/ * 高笑う 干す → 陰干しする/ * 陰干す c. [TP [vP [VP ko-basir] v] する ] * 要素が動詞語幹に付加することによって、上位の主要部 へ移動することが出来なくなり T[-Past] などの要素と関係 を持てなくなる
  • 25. i 形の環境 (4), (5) (15) 動詞句 / 動詞に付加する接尾辞の前に現れる 雨の降り方、政権の担い手、荷物の運び役、… (16) 複合語の要素として現れる 走り続ける、殴り殺す、張り紙、積み木、置き手紙、… この二つの環境でも T など上位の機能範疇は投射しない  ➥最も豊かな構造を持つと考えられる「 - 方」の場合も 、最大で動詞句 (VP) まで(影山 (1993) 、伊藤・杉岡 (2002) )
  • 26. i 形の環境 (6) (17) i 形そのままで名詞として使用される(連用形名詞) a. 泳ぎ、争い、眠り、へこみ、詰まり、つまみ、すり、… b. [N[V oyog[+V] ] ∅[+N] ] 統語的に名詞になった時点で、動詞が直接 T[-Past] など の要素と関係を持つ可能性は無くなる (18) 思わせぶり(な態度): omow+(s)ase+bur+∅[+A] 連用形自体が名詞化の機能を持つわけではない
  • 27. i 形の環境 (7) (19) 非過去と過去の非対称性 a. 壊す: {V[+V], T[-Past]} → 終止形( (9d) によ る) b. 壊した: {V[+V], T[+Past]} → i 形( (9f) による) + 「た」 TP という同じ大きさの統語的構成素を形成する場合でも 素性の種類によって形態が異なる(ことがある)  ➥活用形と統語的なサイズ(投射など)の対応を想定す る分析の困難さを示している
  • 28. i 形の環境 (8) (20) テ節 太郎はおもちゃを壊して、母親に怒られた。 テ節には時制形態が現れない( (21a, b) ) (21) a. 太郎はおもちゃを壊し (* た ) て、母親に怒られた 。 b. * 太郎はいつもおもちゃを壊すて、母親に怒られる。   ➥素性 T[±Past] を形態部門で削除 (impoverishment) す る
  • 29. i 形の環境 (9) (22) i 形のみで節を形成する(中止法) 太郎はおもちゃを壊し、母親に怒られた。 動詞句の等位 (vP coordination) 構造を取る ( Hirata(2006) ) (23) a. やっと台風も去りまして、家に帰ることができそ うです。 b. * やっと台風も去りまし、家に帰ることができそうです 。  ➥テ節と異なり、「ます」も現れず( (23a, b) )、テ節
  • 30. まとめ: i 形が現れる様々な統語環境 (24) a. 動詞と T[-Past] などの間に要素が入り込む b. 動詞に要素が付加することによって TP など上位の構造 に移動することができなくなる c. 形成される構造が小さく、 TP 以上の機能範疇を投射し ない d. TP まで投射するが、素性の値が [-Past] ではない e. TP まで投射し素性も [-Past] であるが、形態論的操作に よって素性が削除される 様々な環境に i 形が現れることを、 (9) のシンプルな形態 論的規則によって捉えられる
  • 31. 課題 (1) α) 野田講師発表、戸次 (2010) などで取り扱われているよ うな、広範な活用形の体系的研究への敷衍   ➥さらに、活用以外の統語 - 形態のインターフェイス が問題となる日本語の諸現象の分析へ β) (9) の形態論的規則の精密化、より厳密な形式化、様々 な現象からの検討
  • 32. 課題 (2) γ) 子音語幹動詞が終止 / 仮定 / 命令 / 意志の場合になぜ基 体形を取 ( れ ) るのか δ) 統語構造と形態間の可視性( Embick(2010) ) (25) a. kog+te → koide (漕いで) kog+te → kogite (漕ぎ手)  ➥なぜ「手」の場合に i 形になり「て」の場合には音便 が可能になるのか   ➥語幹部分から後接する要素が“見え”ているかどうか という問題として捉えられるのでは
  • 33. 追加参照文献 松本克己 (1995) 『古代日本語母音論―上代特殊仮名遣の再 解釈』ひつじ書房 . 奥津敬一郎 (1996) 「第 1 章“せしめたしるこ”―学校文法活 用論批判―」『拾遺 日本文法論』 , 9-21, ひつじ書房 .