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インターネットにおける自殺予防の実践と
その可能性
末木 新 (和光大学)
Agenda
1

先行研究:インターネットと自殺

2

実践:夜回り2.0

3

夜回り2.0は若者に届くか?
自殺サイトにまつわる事件
1998年
Dr.キリコ事件

2000年代前半
ネット心中

2007年頃~
硫化水素自殺

東京杉並に住む女性が宅配便で届いた青酸カリを飲
んで自殺。送り主も青酸カリを服毒して自殺。

2002年10月に大阪から家出した32歳女性がメール相
手の30歳男性と東京・練馬の男性宅であるマンション
で練炭をたいて心中。以後,断続的に類似事件が現
在まで続いている。
2006年3月,2chメンヘル板にて「【ムトウハップ】硫化
水素で逝こう!【サンポール】」スレがたつ。2008年に
はTVでの報道も拍車をかけ,群発自殺化する。
2008年の自殺者数は1000人超。
自殺サイトの利用動機

自殺
予防的

• 共感的やりとり
• メンタルヘルスの相談

自殺
誘発的

• 効果的な自殺方法を探す
• ネット心中相手を探す

※ Sueki, et al. (2012). Suicide bulletin board systems comparison
between Japan and Germany. Death Studies, 36 (6), 565-580.
縦断調査から分かったこと
 調査デザイン
• 850人のネット利用者に対する2波のパネル調査

 結果
• 自殺に関するネット利用(例:自殺方法を見る)は、自殺念
慮・抑うつ/不安感を悪化させる
• 自殺念慮を低減する効果を持つネット利用はなかった

※ Sueki, H. (2013). The effect of suicide-related Internet use on
users’ mental health: A longitudinal study. Crisis, 34 (5), 348-353.
現時点での私なりの結論
 ネットは自殺を防ぐ? 防がない?
• 確かにポジティブな面もあるが、ネガティブな影響
も大きい

• 利用者間での共感的やりとりだけでは足りない
→ ネットの外部/対面でのつながり、
専門的援助も必要ではないか?
インターネットは自殺予防の最前線
• 自殺率と自殺関連語の検索ボリュームの間に時系列的な関
連がある (Yang et al, 2011; McCarthy, 2009)

• 自殺企図歴と自殺関連語の検索歴の間には関連がある
(Sueki, 2011)

• 自殺サイト利用者の約6割が1回以上の自殺企図歴を有する
(Sueki et al, 2012)

※ 詳細はこの本を参照
末木新 (2013). インターネットは自殺を防げるか
東京大学出版会
Agenda
1

先行研究:インターネットと自殺

2

実践:夜回り2.0

3

夜回り2.0は若者に届くか?
自殺に関するウェブサイトの例
自殺に関する検索行動の例
「死にたい」の検索結果
リンク先の画面 (東京の場合)

このページは援助要請行動を引き起こすだろうか?
インターネットを使った自殺予防を
改善するために
検索連動型
広告

インターネット
ゲートキーパー

援助要請
行動

アセスメント & 援助要請の促進
(例: 精神科に対する偏見の低減)

• 精神科の受診
• 法律・経済問題の相談
「夜回り2.0」の概要
Step.1
検索広告

Step.2
ウェブサイトへ

Step.3 インターネット・ゲートキーパー

1クリックで
メーラー起動!

死にたいです...
助けて下さい...

どうされましたか?

Group name: OVA
Representative: Jiro ITO (Social Worker)

相談者
活動の概要
•
•
•
•
•
•

期間: 2013年7月14日~10月31日(110日間)
広告費: 16,820円
サイト訪問者: 3,356人(アドワーズからのみ)
平均 CPC(1クリックあたりの単価): 5円
相談者数:123名
相談率:3.7%(=123人÷3,356人)

• 自殺ハイリスク相談者獲得単価:
約137円(=16,820円÷123人)
相談者の属性①
• 年齢:
n
54

Min Max Mean SD
12.5 49.0 23.1 8.6

• 性別:
男
11

女
61

MTF 不明
1
33

※ これ以降は、フィルタリングで返信できなかった者等を除外した106
名が分析対象
相談者の属性②
割合
精神科・心療内科受診歴あり

16%以上

自殺念慮あり

65.1%以上

自殺企図歴あり

11.3%以上

初回メールでの自殺念慮の表明

60.4%

相談継続率

66.0%
メールのやりとりの量
n

Min

Max

Mean

SD

初回文字数

106

0

2947.0

219.1

399.4

全体文字数

106

0

10985.0

2205.3

2476.4

総相談メール数

106

1.0

25.0

4.5

5.1

総メール数

106

2.0

48.0

8.6

9.6
活動の成果
• 相談成功率: 20.7%(=22÷106人)

■「成功」の定義
1. これまでつながっていなかった新たな援助資源とつ
ながった(援助要請行動の生起)
2. 感情のポジティブな変化に関する言及
※援助要請意図の生起まで含めると26.4%が成功に
Agenda
1

先行研究:インターネットと自殺

2

実践:夜回り2.0

3

夜回り2.0は若者に届くか?
若者の支援は難しい?①
統計的
有意差なし
(p=0.569)

文字数
4000
3500
3000
2500
2000
1500
1000
500
0

統計的
有意差なし
(p=0.485)

30歳未満

30歳以上

初回文字数

30歳未満

30歳以上

全体文字数
若者の支援は難しい?②
統計的
有意差なし
(p=0.754)

成功率
(%)

50
40

30
20
10
0
30歳未満

30歳以上
若年層相談者の特徴
 特徴
• 有意差が出た項目は、精神科・心療内科受診歴
のみ
• インターネットは若者のものではない?

 限界
• 年齢に関する情報が取得できる程度にまでつな
がらない相談者が若年層の可能性は?
ここだけの話(?)
特定された個人情報と危機介入と
倫理的問題と・・・
全体のまとめと今後の課題
 まとめ
• インターネットは自殺ハイリスク者を特定すること
を可能としている
• ゲートキーパー活動を通じて、彼ら/彼女らへの
自殺予防活動を展開し、手ごたえを得た

 今後の課題
• 効果の検証
• より効果的なアウトリーチ方法の開発
ご清聴ありがとうございました

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