自殺学第7回自殺とメディア

自殺学
―自殺とメディア―
和光大学現代人間学部心理教育学科
准教授末木新

日程
第１回自殺の現状Ⅰ
第２回自殺の現状Ⅱ
第３回自殺生起過程
第４回自殺への危機介入
第５回自殺と精神障害
第６回自殺と自傷
第７回自殺とメディア
第８回自殺と文化
第９回自殺対策Ⅰ
第１０回自殺対策Ⅱ
第１１回幸福な人生の実現に向けてⅠ
第１２回幸福な人生の実現に向けてⅡ
※ ゲスト講師の回やオリエンテーション等については除外

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1. 前回の復習とリアクション・ペーパー
2. 本日の問題
3. ウェルテル効果
4. 報道のあり方
5. メディアの活用
本日の目次

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2. 本日の問題
本日の目次

本日の問題①
効果的な自殺方法に関する情報にふれた時に、我々は
どのような影響を受けるだろうか？
そして、それはなぜだろうか？
有名人の自殺に関する情報にふれた時はどうだろうか？
 回答方法
‐ リアクション・ペーパーの表面の一番上から回答すること
‐ 時間は約５分

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2. 本日の問題
本日の目次

若きウェルテルの悩み（Die Leiden des jungen Werthers）
 概要
‐ 1774年に刊行されたゲーテによる書簡体小説
‐ 主人公：青年ウェルテル
‐ 婚約者のいる身である女性シャルロッテに恋をする
‐ 叶わぬ思いに絶望して自殺する
 影響
‐ 出版当時ヨーロッパ中でベストセラー
‐ ウェルテルを真似て自殺者が急増
‐ ヨーロッパのいくつかの国でこの小説は販売禁止に
自殺事例に関する情報への曝露は、後追い自殺を誘発する

ウェルテル効果
 定義
‐ アメリカの社会学者のPhillipsが命名した下記の特徴を持つ現象
① 報道後ある程度の期間が経って自殺の増加現象が起こる
② 報道開始から最初の数日にピーク、約 2週間で横ばい？
③ 報道量が多いほど増加の幅が大きい
④ 報道に登場した人物に近い属性の人々に大きな影響
→ アメリカ以外の多様な国でこの仮説は支持されている
（もちろん日本も例外ではない）
自殺事例に関する情報への曝露は、後追い自殺を誘発する

ウェルテル効果｜日本における事例
 近年の日本における事例
‐ 2011年5月上原美優の自殺の影響？
‐ → 20～30代女性の自殺増加
‐ 2008年硫化水素自殺による死者1000人／年突破
c.f. 2008年5月の四川大地震
‐ 1993年完全自殺マニュアルがベストセラーに
（公刊前後で特定の方法を用いた自殺企図が増加）
‐ 1986年4月岡田有希子の自殺
→ その年の青少年の自殺が前年度比1.3倍
ウェルテル効果は文化普遍的にその存在が確認されている

自殺に関する報道のあり方
 後追い自殺を誘発した報道の例ーアイドル岡田有希子
‐ 1986年4月8日、自宅マンションでリストカットを行いガスによる
自殺未遂
‐ 現場から程近い北青山病院にて治療の直後、所属事務所が
入居しているビルの屋上から飛び降り、全身を強く打って即死
報道の仕方によって、ウェルテル効果が生じる場合がある
→ 映像視聴（8分47秒）
※ 退室可

３～６歳、平均年齢４歳４か月の男女、
各３６名（計７２名）
何も介入
しない群
（２４名）
攻撃行動を
見せられる群
（２４名）
非攻撃行動を
見せられる群
（２４名）
なぜウェルテル効果は生じるのか？
◆ バンデューラの攻撃行動実験（社会的学習理論）
遊戯室にいる子どもに攻撃行動を「観察」させることの
影響を検討した c.f. R18指定、親の背を見て子は育つ
攻撃行動UP！

自殺の美化がなぜ後追い自殺を誘発するか？
 代理強化実験
‐ 攻撃行動を見せるだけでなく、攻撃行動の後に随伴させるものを変え、
その影響を検討した
→ 攻撃行動をした後に褒められる映像と叱られる映像の比較
‐ 攻撃行動を行ったモデルが報酬を与えられるフィルムを見た子どもは、
罰を与えられるフィルムを見た子どもよりも、フィルム視聴後の
攻撃行動の頻度が高くなった
‐ 代理強化 (ルール支配行動？)
‐ 自殺後に本人が過度に美化される話を見ると…？
代理強化効果による観察学習の効率化による

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2. 本日の問題
本日の目次

自殺報道の仕方
報道は必ずしも規制できない／無闇にすれば良いというもの
でもない
表現の自由
知る権利
有害事象
（模倣自殺）
有害事象を引き起こす危険性と「表現の自由」や「知る権利」
のバランスをとることは、メディア関係者の義務である
→ 報道しないのではなく、より良い／適切な報道へ

自殺予防：メディア関係者のための手引き
 内容
‐ 努めて、社会に向けて自殺に関する啓発・教育を行う
‐ → 自殺を単純化して報道してはいけない（例：いじめ自殺）
‐ 自殺をセンセーショナルに扱わない。当然の行為のように扱わない。
あるいは問題解決法の一つであるかのように扱わない
‐ 自殺の報道を目立つところに掲載したり、過剰に、そして繰り返し
報道しない
‐ 自殺既遂や未遂に用いられた手段を詳しく伝えない
‐ 自殺既遂や未遂の生じた場所について、詳しい情報を伝えない
自殺の報道の仕方に関しては「ガイドライン」が存在する
※ネットで入手可能

自殺予防：メディア関係者のための手引き
 内容
‐ 見出しのつけかたには慎重を期する
→ 見出しでは「自殺」という言葉、方法、場所について言及しない
‐ 写真や映像を用いることにはかなりの慎重を期する
→ 自殺の状況・現場の写真やビデオ映像は使うべきでない
‐ 著名な人の自殺を伝えるときには特に注意をする
‐ 自殺で遺された人に対して、十分な配慮をする
‐ どこに支援を求めることができるのかということについて、
情報を提供する
‐ メディア関係者自身も、自殺に関する話題から影響を受けることを知る

本日の問題②
ウェルテル効果による自殺を防ぐために、あなた自身は
どのようなことをすべき／出来ると考えますか？
あなたは全く関係がないのでしょうか？
 回答方法
‐ リアクション・ペーパーの裏面の一番上から回答すること
‐ 時間は約５分

自殺の報道はなぜされるのだろうか？
 回答のポイント
‐ メディアはなぜ自殺報道を過激・感情的に行うのか？
→ 我々が求めているから／数字がとれるから
‐ あなたは自殺報道をリツイートしたことはないですか？
‐ ひとの不幸は蜜の味？
→ 下方比較による安心感／幸福感の醸成
情報を伝達する側には常に数字を稼ぎたいという誘惑がある

人の不幸を（コミュニケーション）消費する文化
 絵草紙（絵入りの瓦版）と心中
‐ 江戸時代には、自然災害や心中等の事件を印刷・販売する文化が
あった（≒ スポーツ新聞の芸能面）
 自殺の集客力：近松門左衛門「曾根崎心中」
‐ 1703年5月22日、醤油屋の若い手代と曾根崎の遊女との凄惨な
心中事件が発生
‐ すぐに、人形劇団竹本座がこの事件を脚色した作品を上映する旨の
広告を出す → 近松に脚本依頼
‐ 1ヶ月もしないうちに竹本座では上映（人形浄瑠璃）開始。
スマッシュヒット。傾いていた経営状況が持ち直す。
→ 後追い自殺の頻発、幕府による心中禁止令（1723年）
人の不幸の消費は昔から行われてきたことではあるが…

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2. 本日の問題
本日の目次

「死にたい」の検索結果

検索連動型広告を用いた自殺予防活動
メディアの力を使い、自殺ハイリスク者を効率的に
スクリーニングすることが可能になった

メディアと自殺｜まとめ
 問題点
‐ 自殺や自殺方法の情報に曝露することは、自殺のリスクを高める
 利点
‐ 問題を抱える人を発見する、その人にサポートを届ける、といった
使い方をすれば、自殺予防的に活用することもできる
メディアは「道具」であり、道具は使い方次第

リアクション・ペーパーの書式
リアクション・ペーパーを提出して終了
 書式
‐ 用紙を縦向きに置き横書き
‐ ボールペン・鉛筆、いずれで書いても良いが色は黒
‐ リアクション・ペーパーを上下に区切り
①上半分に本日の問題への答えを、
②下半分に質問・感想・意見・得られた示唆を
書いて下さい（②はない場合は書かなくても可）
‐ 質問は次の授業で回答

自殺学第7回自殺とメディア

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