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現代宇宙論⼊⾨:観測的宇宙論の発展
島袋隼⼠(云南⼤学)
©NASA
4・観測的宇宙論の発展
• 膨張する宇宙から、宇宙初期はホットで⾼密度だったこと
が予想される。その時の宇宙をビッグバンと⾔う。
• ビッグバンで主にヘリウム元素までが⽣成される。
• 宇宙の温度が冷えることで光⼦(光)が⾃由に進むことが
でき、現在、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)として観測
される。CMBはビッグバンの名残。
• ヘリウムやCMBの観測によって現在ではビッグバン理論は
標準的な理論となっている。
前回の復習
CMBの温度を測ると、⼀様等⽅(空のどこを観ても同じ温度)。
宇宙マイクロ波背景放射(CMB)①
宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の温度ゆらぎ
CMBの温度は約3Kで⼀様。しかし、10万分の1程度の揺らぎがある。
TCMB = 2.73[K]
T
T
⇠ 10 5
CMBの平均温度
温度の揺らぎ
宇宙マイクロ波背景放射(CMB)②
このCMBの揺らぎは様々な宇宙論的情報を教えてくれる。
らぎとは何か?
10万分の1の揺らぎとはどれくらいなのか?
(例)⽇本⼈の20代男性の平均⾝⻑は171.5cm、標準偏差5.9cm(厚⽣労働省平成
28年調べ)→揺らぎは5.9÷171.5=0.034 つまり3.4%
分布関数・・・測定量がどの様に分布しているか。
⾃然科学でよく出てくるのはガウス分布(正規分布)
正規分布は「平均」と「標準偏差」のみで決ま
る。
例えば標準偏差(1σ)は「全体分布のうち
68%がこの範囲に収まっている」という意味。
平均⾝⻑が171.500cmだとすると、標準偏差が0.0017cm.つまり20代男性の68%が
171.498cmから171.502cmの範囲に⼊らないといけない!まさに髪の⽑程度の違い。
どうやって解析するか?
CMBの温度ゆらぎのマップをどうやって解析するのか?
1. 空を⾒上げて、空間上の2点を選ぶ
2. その2点間の⾒込み⾓で揺らぎの⼤き
さを測る。
3. 再び別の2点を選んできて、揺らぎの
⼤きさを測る。これを⾊々な⾒込み⾓
で繰り返す。
4. これによって⾊々な空間スケールでの
揺らぎを測定。
まとめると・・・
CMBの温度揺らぎの解析では、様々な⾒込み⾓(空間
スケール)に応じた揺らぎの⼤きさを測定する。
解析結果
解析結果
解析結果
どういう特徴がありますか?
解析結果
CMB⾓度パワースペクトル 理論と観測が⼀致している!
解析結果
ピークの⾼さ
CMB⾓度パワースペクトル 理論と観測が⼀致している!
解析結果
振動している
ピークの⾼さ
CMB⾓度パワースペクトル 理論と観測が⼀致している!
解析結果
振動している
ピークの⾼さ
減衰している
CMB⾓度パワースペクトル 理論と観測が⼀致している!
解析結果
振動している
ピークの⾼さ
ピークの位置
減衰している
CMB⾓度パワースペクトル 理論と観測が⼀致している!
CMBの らぎ 測から分かったこと
•宇宙の構成要素(次のスライド)
•宇宙年齢は138億歳
•宇宙は平坦
•ヘリウムの存在量がビッグバン理論と⼀致。
•バリオン⾳響振動
などなど。
標準宇宙論モデル
宇宙の構成要素
ΛCDM(cold dark matter)モデル
95%は”ダーク” !!
ダークマター:重⼒相互作⽤はする。
しかし、電磁波を出さない。正体不明。26.8%
ダークエネルギー:宇宙を加速膨張させる未知
のエネルギー。反重⼒的。68.3%
⼀般相対性理論+揺らぎの発展⽅程式(ボルツマン⽅程式)によって
宇宙を記述。観測結果をうまく説明できる。
普通の物質:周期表に載っている物質。たった5%
標準宇宙論モデル
宇宙の構成要素
ΛCDM(cold dark matter)モデル
95%は”ダーク” !!
ダークマター:重⼒相互作⽤はする。
しかし、電磁波を出さない。正体不明。26.8%
ダークエネルギー:宇宙を加速膨張させる未知
のエネルギー。反重⼒的。68.3%
⼀般相対性理論+揺らぎの発展⽅程式(ボルツマン⽅程式)によって
宇宙を記述。観測結果をうまく説明できる。
普通の物質:周期表に載っている物質。たった5%
宇宙の構造形成
ΛCDMモデルに基づく宇宙構造形成進化理論
ダークマターが互いに重⼒で引きつけあって集まってくる
揺らぎの⼤きい場所ほど構造形成が起きやすい。
ダークマターが重⼒で集まって集合体ダークハローを形成
ダークハローの中でガスが集まって星や銀河が形成される。
宇宙の構造形成
ΛCDMモデルに基づく宇宙構造形成進化理論
ダークマターが互いに重⼒で引きつけあって集まってくる
揺らぎの⼤きい場所ほど構造形成が起きやすい。
ダークマターが重⼒で集まって集合体ダークハローを形成
ダークハローの中でガスが集まって星や銀河が形成される。
宇宙の構造形成
ΛCDMモデルに基づく宇宙構造形成進化理論
ダークマターが互いに重⼒で引きつけあって集まってくる
揺らぎの⼤きい場所ほど構造形成が起きやすい。
ダークマターが重⼒で集まって集合体ダークハローを形成
ダークハローの中でガスが集まって星や銀河が形成される。
宇宙の構造形成
ΛCDMモデルに基づく宇宙構造形成進化理論
ダークマターが互いに重⼒で引きつけあって集まってくる
揺らぎの⼤きい場所ほど構造形成が起きやすい。
ダークマターが重⼒で集まって集合体ダークハローを形成
ダークハローの中でガスが集まって星や銀河が形成される。
宇宙大規模構造
宇宙の⼤規模構造の観測
◯⼀つ⼀つが銀河。
◯銀河が密集している所があれ
ば、すかすかな領域もある。
◯フィラメント状の構造を持つ。
密度揺らぎの⼤きな場所では構
造形成が進み、密度揺らぎの⼩
さい場所では構造形成が進まな
い。
解析結果
CMBと同じ様に、パワースペクトルを使ってダークマターの密度揺らぎを解析する
ことができる
CMBと同様に構造形成理論も理論と観測が⼀致している。
そもそも何故、 らぎが存在するのだろう?
答えから⾔うと「インフレーション」
宇宙誕⽣直後の10のマイナス36秒から10のマイナス34秒の短時間の間に宇宙が指数
関数的に約30桁倍膨張。(0.1mmの髪の⽑が100億光年!)
•インフレーション時の量⼦的な揺らぎが宇宙
サイズに引き伸ばされた。
•インフレーション時のエネルギーが熱エネル
ギーに転化→ビッグバン。
実はインフレーションの観測的証拠はまだ無い!
CMBの偏光を使ってインフレーションを探る!
偏光
偏光
CMBの偏光
⻑⾕川⽒スライドより
CMBの偏光
⻑⾕川⽒スライドより
インフレーション時の原始重⼒波によってBモードが⽣成される。
⽇本主導のCMBのBモード観測を⽬的とした衛星。
2028年頃打ち上げ予定。
要約
• 宇宙マイクロ波背景放射(CMB)はインフレーション起
源の温度揺らぎを持っている。
• CMBの温度揺らぎは様々な宇宙論的情報を教えてくれ
る。
• 残されたCMBのフロンティアは偏光。偏光を観測できれ
ば、インフレーションの⼿がかりを得ることができる。
• ⽇本ではLiteBIRD計画が進⾏中。

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