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2012 年度   卒業論文

指導教員      川崎   一彦




                    幸福論
  デンマークとブータンの幸せから日本の幸せを考える




                            東海大学   国際文化学部

                          国際コミュニケーション学科

                           9awk1137 佐々木   友里




                     1
要旨
幸福論~デンマークとブータンの幸福から日本のしあわせを考える
                                9awk1137 佐々木   友里

    「あなたは今、幸せですか?」と聞かれたら何と答えるだろうか。本心で「幸せです」

と答える日本人は何人いるだろうか。食べるものにも困らず、ほぼ全ての子どもたちが教

育を受けることができるこの国は「幸せ」であるのが当たり前なはず。しかし、幸福度ラ

ンキングの上位は北欧諸国が占めている。高負税高負担の国であるにも関わらずそれはな

ぜか。そしてもう一つ、
          「お金があるから生活に困らない、欲しいものを好きなだけ手に入

れられる毎日を過ごせる」それが幸せの根底にあるとしたら、その常識を覆す国が存在す

る。それが、ブータン。北欧諸国とはまた違った幸せのカタチがそこにはあった。巨大な

中国、インドに挟まれた小国ブータンは国民の約97% 1が「幸せです」と回答する。ブー

タンの幸福度の秘密は何か?

    「幸福」は人生を豊かにするうえで究極な到達目標であり、そのカタチは様々である。

人は競い合うことで満足感を得ていた。しかし、経済成長には限界がある。お金で欲を満

たすことが幸せに繋がるのか。今、それが見直されている。

    今回は北欧諸国からデンマークの例を取り上げ、小国ブータンの幸せのカタチの正体を

探り、今の日本の現状・問題点に絡めて、未来の日本の幸せについて論じていきたいと思

う。




1   2005年ブータン国勢調査




                      2
目次     はじめに

「幸せな国」デンマーク

1章    高福祉社会のデンマーク

      ・税の使い方

      ・人は国の資源、キーワードは「共生」

      ・食糧とエネルギーを完全自給

      ・民主主義と幸福度

1-2   アンデルセン童話から見えてくるかつてのデンマーク

      ・アンデルセン童話が描いた未来社会

      ・マッチ売りの尐女が教えてくれた貧困問題

      ・貧困には助けが必要

2章 GNH 大国ブータン

      ・ブータン王国について

2-1   幸福度 VS 経済成長

      ・GNH の誕生

      ・幸福の尺度は GDP では測れない

2-2   互助の精神

      ・「足るを知る」

      ・仏教の教え

2-3   ブータンの今後

      ・自立をめざす小さな国際国家

      ・日本は GNH 社会に適している?!

      ・外国支援をゼロに

      ・生きるとは

3章    日本の現状

      ・日本の幸せとは

      ・望むのは公平で安心な社会

      ・エネルギーの必要性と恐ろしさ




                           3
3-1   NIPPON の良いところ

      ・「思いやり」世界に誇れる国民性

      ・日本のこれからの幸せのカタチ

おわりに

参考文献




                         4
はじめに
 初めて北欧諸国に興味をもったのが中学の教科書に載っていた「ゆりかごから墓場まで」

という言葉。生まれてから亡くなるまで生活を補助してくれる国が本当にあるのかと当時

は驚いた。大学生になり、北欧諸国について学ぶ機会が多くなるにつれて疑問を持ったの

が、
 「なぜ北欧諸国は高負税なのに国民は幸せだと思っているのだろうか」ということ。学

費も医療費も無料。幼稚園から大学卒業まで国が面倒を見る。福祉も充実している。それ

に加えて、幸福度ランキングの上位を占めているという国々。“税金が高い=幸福度が高い”

は正しいのか。一体どのような国のシステムになっているのか調べてみた。今回は、北欧

諸国の中でデンマークについて取り上げていく。

 そしてもう一つ、幸福度を論じるにおいて外せない国がブータンである。もう30年以

上前から、GDP の成長を目指すことではなく、GNH(Gross National Happiness)すなわ

ち「国民総幸福」をめざすことを国王自ら決意し、それを国是として憲法にし、政治・行

政の中で実践している。先進国的基準から見て、金銭面ではけっして豊かとは言い切れな

い。しかし、国民の97%が「幸せです」と回答するのだ。

 高負税高福祉で国民の生活を豊かにしてきた北欧諸国と貧しいが精神的豊かさに満ちて

いるブータン、この両国の幸せのカタチを論じ、経済大国日本の未来に繋がる幸せについ

て考えていく。




                           5
「幸せな国」デンマーク
 デンマークは東にバルト海、西は北海に面しており、ユトランド半島、シェラン島、フ

ュン島など500以上の島々からなる国である。デンマーク領であるグリーンランド、フェ

ロー諸島を除いての総面積は42959㎢で九州とほぼ同じ大きさである。デンマーク全体の

土地利用は、耕作地が52%、森林が12%,その他が36%となっている。人口は5,418,000人

(2010年度/デンマーク統計局)で兵庫県の人口にほぼ等しい。気候は温和で、夏は比較的涼

しく、日本でいう北海道の夏の季節と似ている。緯度は樺太の北に位置しているものの、

冬は温暖で東北地方よりも暖かく感じられる。デンマークの主要産業は、金融、不動産、

運輸・交通・通信、鉱業・エネルギー産業などがあげられる。子どものための知育玩具と

して有名なレゴ社があり、日本でも浸透している。文化・芸術の面でデンマークは世界的

なデザイン大国としても知られている。最近では、大阪にオープンした北欧の100円ショ

ップ「Tiger」もデンマーク生まれである。



  第1章    高福祉社会のデンマーク
 高福祉高負担の社会を成り立たせるためには税金は欠かせない。デンマークは消費税

25%と5%の日本と比べてとても高い。これが、福祉や医療制度の充実と大きく関わるのだ

ろうか。また、その制度はどのようにして成り立っているのか。国民の反応はどうなのか。

デンマークの幸せについて経済面から見てみる。



(1) 税の使い方

デンマーク国家は国民の生存を保証する施策として「出産費用」から「葬儀代」まで国家

が負担する制度、いわゆる「ゆりかごから墓場まで」の社会福祉政策が導入されている。

国民が納めた税金を財源にして、教育・医療・介護・年金などを運営するため、個人的に

お金があるなしに関わらず、福祉政策を受けることができる。デンマークの高福祉社会は

国民が納税した所得税や間接税が社会に高率に配分されることによって実現できるが、重

要なことはそれが公平に負担されていることと、税金の再配分の内容について国民の間で

合意されていることだ。尐なくとも病院で治療することへの金銭的な不安はないだろう。

しかし、これでは国民を甘やかしすぎか、バラマキ福祉ではすぐに国家財政が破綻してし

まうのではないか疑問に思う。なぜ、国として成立するのだろうか。それは食料とエネル

ギーを完全に自給しているからである。それは、後ほど詳しく論じる。




                         6
納税された税金は、医療や介護にまわすだけではない。教育費もほぼ全て国が負担する。

デンマークでは教育費は原則無料。その費用を国民全体で負担するという選択の根底には、

国民は国家の財産であり、教育は国家を支える人材を育成する国家的事業だという考えが

あるからだ。教育の成果は個人に恩恵をもたらすばかりではなく、デンマーク社会全体を

豊かにすると考えられている。そのため、学校制度も整っている。学校運営委員会をすべ

ての学校に設立することが義務付けられている。構成メンバーは、保護者の代表5~7名、

学校の職員、教職2名、生徒代表2名。ここで日本との大きな違いは、学校運営の委員会に

生徒も一員として認められていることだ。デンマークの学生は、義務教育を受けている間

から、自ら選んだ代表者を通じて学校の運営に関することに対して発言できるようになっ

ている。そのようにして、社会のパートナーとして見なされ、自治の方法を学ぶ機会を与

えられているのだ。このような経験を通して自主性を育んでいくのだと思う。教科書や学

習教材など教えるための手段は指導する教員の専決事項になっている。つまり、学校で使

われる教材の選択は、すべて担当する先生が行うのだ。デンマーク政府が要請している条

件は授業日数、学年ごとの授業時間数と教科科目のみ。指導方法や教材選び、教える内容

は教師の裁量に任されている。何の為にそこまで教育を重視するのか。それは社会的に有

用な人材を育成する為だからである。そのため、すべての学校教育、ほとんどの社会教育

は無償で受けられるようになっている。多くの教材や教科書は、何年間も再利用する方法

をとり、教材費の節約と教材を大事に使うことで社会に対する「共同責任」を習得させて

いる。

 納税額の比率では個人所得税が全体の約61%、法人税の占める割合は7.5%、間接税で最

も多いのは付加価値税(消費税)で約20%である。税金を公平に集める方法として、サラ

リーマンはまず年始にその年の所得を「予定申告」し、それに基づく「予定納税」をする。

すべて「国民背番号」
         「事業所登録番号」で管理されている。見込み収入に対して「予定納

税」し、年間の確定収入との差額で納税額を清算するようになっている。税率は累進課税

で、課税対象額が多いほど、税率は高くなる。また、個人番号、事業所登録番号を持たな

い事業団体は運営できないことになっている。それは、銀行口座にも必要であり、銀行は

年度末に各個人の銀行残高額を税務署に報告する義務がある。そのため、税務署は個人の

収支を容易にチェックできる。このようなしっかりとしたシステムであるため、脱税や徴

収漏れはまず無いだろう。日本でよく言われる何千万、何億というお金が脱税されたり、

徴税逃れが摘発されたりというようなことは、デンマークでは考えられないのだ。




                     7
(2)人は国の資源、キーワードは「共生」

 「幸せな国」として知られるようになったデンマークもかつては“国家倒産の時代”があ

った。戦争によって国家財政が破綻してしまったのだ。学校教育が義務化されたのは1814

年。この時代を生き残る国民を育成する為に、あえて義務教育制度が導入された。国民に

無料で教育を受けさせることで、デンマークの国民力を育成する政策を採ったのだ。今日、

環境先進国や社会福祉国家として称される国家の理念が生み出され、継承されてきたのは、

国民が総じて高い知的水準と教養を身につけているからだと思われる。スウェーデンやド

イツとの戦争に負け、領土を奪われ、結果的に資源が「人」しかなくなり「人」を大切に

するという気風が社会保障に力を入れるという考え方の根底にあるのだろう。そのためか、

徹底した生活支援制度が整っている。この国は、18歳から国が扶養義務を持つので制度上、

若年者でも年金生活ができるのだ。しかし、誰でも受け取れるからといって、無職・無就

学の年金生活に入る若者は稀なようだ。その理由として、個人の能力を活かして社会貢献

をし、年金所得者以上の生活をしたいという人がほとんどだからであろう。学校教育の中

で養成されてきた社会観・人生観がここで発揮されていると思われる。職業学校、大学に

通う18歳以上の国民には国庫から「就学支援金」が月額10万円支給される。何らかの所得

支援(失業、疾病、出産、生活、リハビリ手当など)を受けている人は国民の約40%にな

る。国民年金は65歳から支給されるが、早期退職をして年金生活に入る人もいれば、現役

で働き続ける人もいる。国民が年金制度、所得支援制度を乱用したら、国家財政は危機に

陥ってしまうのではないか疑問に思う。しかし、それは心配無用である。デンマークでは

「共生」という精神が社会に生きているのだ。そもそも、公平な再配分ができていなけれ

ば誰も税金は支払わない。再配分とは納税を通して行政が平等に介在して移動させること

であり、円滑に行われるには納税者(国民)と徴収者(国家)
                           ・分配者(行政)との信頼関

係が成立していなくてはいけない。税金が「国民のために使われた、使われている」とい

う国民と国家の信頼関係よって、その税金の使い方が成り立つ。税金が社会に公平に還元

されるという信頼感。それがなくては税金を納めることへの主体的な意識は生まれないし、

個人・企業問わず脱税という行為を抑止することは不可能である。福祉制度を支えるため




                    8
に高額な税金をデンマーク国民は納めている。しかし、それは「盗られている」ではなく

「預けている」という感覚に近いのではないだろうか。社会福祉制度を乱用しないという

国民同士、国民と国家の信頼関係、税金が国民全体のために使われているという合意がな

ければ福祉は充実しないと思う。




(3)食糧とエネルギーを完全自給

 高福祉を実現している背景には食糧とエネルギーを完全自給している事が大きなポイン

トになる。

デンマーク政府が農業政策の支援策を打ち出すわけでもなく、農業者による自律的な経営

による結果で、食糧自給率(カロリーベース)300%を超え、エネルギー自給率について

は156%を達成した。1997年に完全自給に移行し、2005年にはヨーロッパ諸国でエネルギ

ー自給率最高率になり、一部を輸出できるようになった。きっかけは、1973年の第四次中

東戦争が発端となった。それまでは外国の石油にほぼ100%依存しており、エネルギー自

給率は1.8%にも満たなかった。中東の化石エネルギーに依存していることに危うさを感じ

た政府が「エネルギー計画1976年」という政策を掲げた。以来、風力発電、家畜糞尿、有

機廃棄物を原料としたバイオガスプラントの導入をし、自然エネルギーを国家のエネルギ

ーの中心に添えた。そのエネルギーは環境だけでなく、国民にも良い影響を与えた。農業

政策とエネルギー政策を結びつけることで、農家は風力発電やバイオガスプラントによっ

てエネルギーを自給することができるようになった。豊かになった分、税収が増え、エネ

ルギー自給も向上した。



(4)民主主義と幸福度

 民主主義と国民の幸福度は比例すると思う。デンマーク人は、自国を愛するがために高

額な納税をし、国を守るために徴兵制度を導入し、中学生、高校生から政党活動、政治活

動に参加している人が多い。自国を愛しているということが具体的な行動になって現れる。

国家を守るために国防を考えたり、エネルギー自給のために自分にできることをしたりす

るなど一人ひとりが自覚し、積極的に政治へ参加している。なぜ、そのようなことがわか

るのか。それは、デンマークの国政選挙の投票率が80%を割り込んだことがないからだ。

国民の意思によって国家が運営されている、国民と政府のあいだの意思疎通が良い国が民




                      9
主主義の度合いが高いのだ。世界銀行が発表した「全世界統治指数」では、世界で最も民

主主義が進んでいるのはデンマークとフィンランドであると報告がなされている。1953年、

現行のデンマーク憲法が施行されて以来、2007年11月までに21回の国会議員選出選挙があ

ったが、前述のとおり、投票率80%を割り込んだことがない。デンマークでは小学、中学、

高校生が国の教育問題に意見を出し、国会デモをすることも珍しくない。学校教育の過程

で、主権者としての自分の意見を行動に表し、18歳で選挙権を取得した時点で国家運営の

影響力となることを自覚している人が多い。つまり、国政への若者の関心が高いといえる。

 高額の税金に対してさしたる不満がない理由は、教育費、医療費そして働けなくなった

ら人への生活保護費の支給など、税が還元されてくることがはっきり実感できるからだろ

う。




OECD   幸福度指標   Better Life Index   2012-05



  アンデルセン童話から見えてくるかつてのデンマーク




                               10
(1)アンデルセン童話が描いた未来社会

 デンマークの代表的な童話作家・詩人であるハンス・クリスチャン・アンデルセンは1805

年デンマークのフュン島の都市オーデンセに産まれた。幼尐期に貧しい生活をしていたア

ンデルセンは童話を通して貧困層の嘆きと、それに対して無関心を装い続ける社会の様子

を訴え続けていた。幸福度世界一と称されているデンマークにもかつては貧困の時代があ

ったのだ。彼の童話にはその時代の社会と、生活している人々の喜怒哀楽、望ましい未来

社会を実現するための願望が描かれている。その望ましい未来社会は、アンデルセンの童

話を愛したデンマーク人によって、160年の時を経て実現していった。アンデルセンと同

時代に活躍したデンマークの哲学者キルケゴールは、単独者の主体性こそ真理と説く個人

主義、実存主義を唱えた。社会と個人は相反するもののように思われるが、
                                 「個人を大切に

することが、個人の集まりで構成されている社会を大切にすることにつながる」とキルケ

ゴールは説いた。ならば、当然のことながら、個人が住みよい社会であり、それが集まっ

てできている国は、住みよい国といえると思う。



(2)マッチ売りの尐女が教えてくれた貧困問題

 アンデルセンの童話には多くの代表作がある。その中でも、
                           「マッチ売りの尐女」を例に

取り上げかつての貧しいデンマークがどのように福祉国家につながっていったか述べる。

 「マッチ売りの尐女」のお話を知らない人は尐ないだろう。




 貧しい家庭に生まれた一人の尐女は、家計を支えるためにマッチを売る仕事をしなくて

はいけなかった。寒い冬の日でも、みすぼらしい服と素足でマッチを売り続けた。しかし、

寒くて凍え死にそうなので、マッチを擦って温まろうとした。最初に擦ると、大きなスト

ーブが現れたがすぐに消えてしまう。次に尐し多めのマッチを擦るとおいしそうな料理が

現れたがまたすぐに消えてしまった。最後に、ありったけのマッチをすると尐女を唯一愛

してくれた祖母が現れた。尐女は「私を連れてってほしい」と手を差し伸べ、祖母と夜の

空へと昇っていってしまった。翌朝、尐女が微笑みながら死んでいるのを街の人が見つけ

た。




                      11
約160年前、アンデルセンが「マッチ売りの尐女」を書き上げた時代、デンマークには

多くの貧しい家庭があった。尐女のように子どもたちが働かされていることも当然のよう

にあった。人は貧困からどのように抜け出せるのか。そのことを考えるためには、究極な

状況に陥ったとき、自分は何を望むのかを真剣に考えることから始めなくてはいけない。

物質的に恵まれている現代人には想像しづらいことかもしれない。健在では何らかの仕事

さえすれば、食べるくらいのお金は得ることができるだろう。それを当たり前と思わず、

働く大切さ、自分で生きていくということを、生活の中で実感していかなければならない。

その理由は、日本の貧困率が表している。OECD(経済協力開発機構)に加盟している国

の所得分配と貧困の現状に関する比較調査の報告書(2005年)によると、貧困率がメキシ

コで20.3%、次いでアメリカ、トルコ、アイルランドと続き日本は15.3%で第五

位である。先進国だけ着目すれば、日本は第三位の貧困率の国になってしまう。このよう

な事実をどのくらいの国民が知っているだろうか。ここでの貧困率の定義を OECD はその

国の全国民の平均所得の50%以下の所得しかない家計を貧困者とする。そうすると、前述

のような結果になったのだ。10年前までは8%台だったので、約二倍も増加している。貧

困率が高まっているという事実は、日本の生活保護制度の対象者の数でも確認できる。近

年では、生活保護を不正に受給しているなどの問題が頻繁に出てきているのは、背景に政

府が把握できないほどの生活保護対象者が急増していることも関連しているのではないだ

ろうか。不況の影響もあり、2009年9月1日時点では、全国で生活保護費を受給している人

は161万8000人に上る。バブル崩壊後の1999年は63万1000人だったので3倍近く増加して

いることがわかる。一方、デンマークでは OECD 内で貧困率の低い国であり、国民の個人

収入の差が一番小さい国である。ヨーロッパ全体の貧困度は7人に1人であるのに対し、デ

ンマークでは17人に1人となっている。



(3)貧困には助けが必要

 「マッチ売りの尐女」のように「寒くて、凍え死にそう。でも、稼がないといけないか

ら帰れない。残っているマッチをどうしよう。」という尐女の心境は、当時のデンマークの

貧しさを如実に表している。自分で解決することはできなかったし、誰も助けてはくれな

かった。貧困を解決するには助けが必要なのだ。ラストシーンは尐女が亡くなってしまっ

た事を伝えている場面ではない。アンデルセンは、「ああ、寒くて凍え死んだ子がいるな」




                       12
と、見て見ぬフリをしている人がいる社会の現状を伝えているのである。この話の教訓は、

「彼女は幸せを望んだけれども、誰も助けてくれなかったから結局は死んでしまった。 と
                                       」

いう事であり、死んで幸せになったから良かったというハッピーエンドではいけないので

ある。それでは、我々は貧しい人を助けるためにはどうしたら良いのか。それは、国民が

連帯して貧困者を救うという姿勢をもつことであると思う。社会的弱者と呼ばれる人に対

する生活保障が充実しない限り、貧困はなくならない。社会保障には、莫大なお金を必要

とする。
   “国民が連帯して”というのは社会保障に必要なお金を国民が出すことが必須条件

である。自分たちのお金を出し渋って、国を責め立てるだけでは何も解決しないし、国民

も尐々身勝手な部分もあるのではないだろうか。しかし、日本政府が国民の本当に望んで

いる福祉政策とは程遠い行政をしていること、税金のムダ遣いが是正されていないという

ところ、また、国のリーダーが短期的に変わっていくところなどが国民が最も政治不信に

落ちている原因だろう。貧困をなくすには国民の連帯が必要。その連帯と、信用できる政

府に、しかるべき税金を納めるのが社会保障を充実するための近道である。

    マッチ売りの尐女のように、貧困で命を落とすようなことを起こさないためにも、一人

ひとりが国の問題に積極的に取り組む必要があると思う。




     第2章    GNH 大国ブータン
(1)ブータン王国について

    ヒマラヤ山脈の東側の内陸で、人口約 74 万人(2011 年)。世界で唯一チベット仏教(ド

ゥク・カギュ派)を国教とする国家。田園地帯が広がり、山林面積は国土の約 72%である。

自然保護は憲法でもうたわれており、健康と環境に良い暮らしを国民はおくっている。昨

年、ブータン国王夫妻の来日もありブータンへの注目度は高まっただろう。イケメン国王

と美しい王妃の丁寧な振る舞いに驚かされた。ブータンは資源が乏しく、水力発電による

電力をインドへ売る収入が国家歳入の 40%を占めている。また、農林業や観光業が主な産

業で、国民の多くは自給自足を余儀なくされている。しかし、幸福度は高く、
                                  「あなたは幸

せですか」の問いに 97%2の国民が「はい」と答えている。その原因とは何か?デンマー

クと違い経済的にも豊かとは言えないこの国の幸せの要因は何から生まれてくるのか?

2   2005 年ブータン国勢調査より




                         13
GNH の誕生から宗教を通して見えてくる精神的な豊かさをヒントにブータンの幸せにつ

いて述べる。




  幸福度 vs.経済成長

(1)GNH の誕生

 先代の国王、ジグメ シンゲ ワンチュク第四代国王が GNH
          ・   ・              (Gross National Happiness)

「国民総幸福」という考えを初めて発表したのはわずか 21 歳の時であった。国王は即位

後、全国の村々を歩き回り、じかに国民の生活に触れ GNH の必要性を強く感じ、確信し

ていったそうだ。GNH はどのようにして誕生したのか。ブータンは北に中国、南にイン

ドという大国 強国に囲まれている。
      ・          近隣のチベットやネパールが大国に強い影響を受け、

             「国の平和と安定が第一である」という発想から GNH(国
国内が混乱している様を見て、

民総幸福)をかかげ、国民の平安を維持していくことにした。今ではそのユニークな文化

と価値観が国連、OECD(経済開発機構)、世界銀行などの国際機関から注目されている。

GNH には 4 本の柱がある。①経済的自立、②環境保護、③文化の推進、④良き統治であ

る。2006 年、GNH の4本柱をさらに細分化した9つの指標が①精神面の幸福、②人々の

健康、③教育、④文化の多様性、⑤地域の活力、⑥環境の多様性と活力、⑦時間の使い方

とバランス、⑧生活水準・所得、⑨良き統治である。これらの指標をもとに調査を行う。

第四代国王が GNP(国民総生産。現在は GDP・国内総生産)に批判的な見方をした 1970

年代前後はブータンの GNH の考え方が尐しずつ広まっていった時代でもあった。




(2)幸福の尺度は GDP では測れない

 ここで、GDP(国内総生産)の問題点を挙げてみる。そもそも、GDP は人間の幸福や

福祉にとってマイナスの戦争、自殺、交通事故、離婚、環境破壊などが生じても、金銭的

支払いが生じればそれは経済効果としてどんどん加算されていく指標なのだ。1930 年に、

国の経済力を年度ごとに比較したり、他国の経済力と比較したりすることを可能にするた

めにそれらを創案された。そのため、GDP が福祉や生活の豊かさを測るための指標として

いつの間にか広まっていってしまった。近年、GDP の成長のみを追い求めてきた先進国に、

行き詰まり感が否めないのではないだろうか。我々は社会をどういう方向へ発展させてい




                         14
くか重大な岐路に立たされている。暮らしの実態がそれ程豊かになったわけでもないのに、

見かけ上豊かになったように見えてしまう。環境や持続可能性を計測する指標として、

GDP は不適切ではないかと思う。私たちは、経済活動を計測する指標として、GDP に加

算されていく”生産量”から”幸福度”に重点を移す必要があるだろう。もちろん”幸福度”の評

価には主観的は指標も重要になってくる。経済成長にばかり気を取られていた先進国を横

目にブータンは、かれこれ 30 年以上前から GNH を国是としていたのだ。この施策をど

のように織り込みながら実践し、具体化していったのか。第四代国王は即位後、実際に国

民と接し対話したのだ。小国ならではのメリットである。そして、ブータンは経済小国で

GDP3も低いが、心の満足を高めて GNH 大国に出来るのではないか、と発案した。この

考えをもとに、ブータンの文化的アイデンティティを守りつつ、国民に幸福を増やすこと

に成功していったのだ。教育の現場でもこの考えを取り入れている。GNH の 4 本柱<経

済的自立><環境保護><文化の推進><良き統治>について教え、物質主義にとらわれ

ず、幸せな暮らしを保つように説いている。これが、ブータン流の幸せな良い人生を継続

するための秘訣ではないだろうか。経済規模では小さいが、心ゆくまでゆっくり話し合え

る寛大な心をもった国民性があるからこそ受け入れられるのかもしれない。



     互助の精神

(1)「足るを知る」

    温かい、寛大な心をもった国民性の根底には宗教が強く関わっているのではないだろう

か。ブータンは世界で唯一チベット仏教(ドゥク・カギュ派)を国教とする国家である。

チベット仏教は、インド・ダラムサラに拠点を置く殺生禁止の宗教である。そのため、犬

はもちろん、ハエの命さえ守ることを大切にしている。最高指導者ダライ・ラマは観音菩

薩の生まれ変わりとされている。現在の最高指導者ダライ・ラマ 14 世は、1959 年中国の

侵略によりチベットからインド北部のダラムサラに政治亡命したのだ。その時、拠点を移

した。チベット仏教は、生きとし生ける者全ての平和を祈り、他人の幸せを願う精神が徹

底されている。ブータンの国民は、人間同士であれば、なおさら互助の精神が発揮される。

こう言う人間への深い信頼がブータンの幸福感のベースになっているのではないだろうか。

答えは 2005 年の国勢調査で行った幸せについての問いにしっかりと反映されていた。

    日本人は将来への不安が払拭できない人が多い。どうしたら幸せになれるのか。という

3   185 カ国中 166 位。世界の名目 GDP ランキングより




                            15
問いに、ダライ・ラマ 14 世は「心や感情がどんな機能を果たしているか、もっと知るこ

とができれば問題に直面したとき平穏でいられる」と説いている。つまり、気持ちの持ち

ようで、プラスに変える解決力が人間には備わっているという事である。また氏は、
                                     「幸せ

な人生にするには、他人を助け、害を与えず、前向きに過ごすと良い」と伝えている。こ

れらもまた、互助の精神からの考えだろう。経済成長には限界があるが、考え方としては、

「お金を 60%、心の価値を 40%とするべきだ」とダライ・ラマ 14 世は言う4。経済発展

も大切だが、何が幸せかも合わせて考えていかなくてはいけない。チベット仏教は、輪廻

転生の“現世をより良く生きれば、来世がさらに幸せになる”との考えも徹底されている。

そのため互いを助け合う国民性になったのかもしれない。幸福度のアンケートには“よく

眠れている?”
      “隣人をどれくらい信頼できる?”という問がある。幸福は主観的な部分も

入るため、ブータンの真似をするよりかは日本独自の“幸せの指標”をつくると良いと思

う。最後に、ダライ・ラマ 14 世は「幸福を追求できる環境に日本はなる」と述べた。理

由としては、日本人の国民性にあると思う。思いやりがあり、真面目で、礼儀正しい。ま

た細やかな気配りができ、謙虚で協調性がある。という印象を多くの人が持っていた 5。相

手を思いやる互助の精神こそが、清貧だが心豊かに生きる GNH 大国ブータン社会である。



(2)仏教の教え

    GDP などの客観的数値だけでブータンを貧困国と位置づけて、良いのか。前述のとおり、

幸福は人間関係にあり、それが拡大するときに感じるものだと思われる。ブータンでは教

育と医療は無料の福祉政策も行われているし、また農業人口は約 60%だが、人口のかなり

の割合が農業に関わりをもっており、自給自足が成り立っている。国際機関などが求めて

いる“豊かさの基準”にはないブータン独自の人と人との協働・コラボレーションで目標

を達成するための指標があるので、数値化されにくいのだろう。

    「ティグラム・ナムジャ精神」が深く浸透している。人との繋がりを大切にし、それを

社会のセーフティネットにしていこうというブータン特有の価値観である。国民は仏教の

教えを共通のベースにして、調和のある生活を意識的に送るように、コミュニティの最小

単位である“家族”のつながりを第一に考えている。われわれ経済先進国ではどんどん薄

れてきている精神であると思う。仏教の教えが希薄になっている日本では忘れかけている


4   TV 東京 未来世紀ジパング 7/30・8/6 放送分より
5   11/9 スウェーデン社会研究所セミナー 独自アンケートより




                        16
精神だ。その原因は、核家族化、独り住まいなどが増えているためだろう。近年では、高

齢者の孤立死がよく報道されている。家族との繋がりだけではなく、隣人同士のつながり

も希薄になってきてしまった。この精神が健在なブータンでは、家族、友人などの助け合

いが生きているのだ。




  ブータンの今後

(1)自立をめざす小さな国際国家

 今、世界は情報化社会が発展するに伴い、外国からの情報容易に手に入れる事ができる

ようになった。ブータンでも例外ではない。首都ティンプーに住む若い人たちは、タイな

どから入ってくる情報で、消費文化にあこがれ、知足尐欲が失われるのではないかと年配

者は心配している。新たな時代の流れに乗りつつ、伝統文化や習慣を損なわずにしていく

事が重要なところである。

 現在、国家歳入はインドへの売電で賄っている。主要産業の一つである農業は高齢化が

進んでいる。そこで手を挙げたのが日本の ODA(政府開発援助)である。その中で、日

本の JICA が派遣した西岡京治氏は日本式農業をベースに近代的稲作技術を導入した。イ

ンドなどへの輸出用換金作物にするための野菜栽培を教え、国家歳入の増収と GNH の向

上に寄与した。社会開発としての教育と医療は GNH の真髄である。学校教育の分野では、

体育の授業のボランティアを派遣したり、学校建設などを行ったりした。また、雇用を生

み出すために、ブータンがインドへ売電している水力発電の発電所が次々と建設されてい

る。その分野の技術者の養成も力をいれる。現在はインド人が従事しているが、近い将来

ブータン人が管理するような環境を整えていくだろう。

 第四代国王の治世では、貧困削減に重点を置かれていたが、第五代国王は、経済開発に

力を入れることを目指す。雇用を増やし、失業率を減らすことを計画している。具体的に

は「第十次五カ年計画」という国家の全体的計画が進行中である。これは、経済的効果、

産業の活性化、行政の地方分権、雇用問題、環境問題を解決していくために立てられてい

る計画である。国の古き良き伝統を守りつつ、国際社会の波に流されないように発展して

いく事を第五代国王は施策として打ち出した。ブータンの国の本質が、
                               「人に幸せをもたら

すこと」にあり、この点が、誰もどの国も真似できない「ブータンモデル」の核の部分に

なる。雇用の創出や福祉政策の充実により、人々の文化や価値観に即応した貧困撲滅が図




                    17
られたとき、小さな国際国家は世界の弱小は国々にも勇気を与えることができると思う。



(2)日本は GNH 社会に適している?!

 ブータンの GNH の発想はヨーロッパ的な“裕福か貧困”という、二律背反的な二者択

一のモデルで切り分けられない。国是として実に 30 年以上かけて築き上げてきた GNH の

実践は、いまや多くの国際機関にも認知され、その具現化が着々と進んでいる。前述のよ

うに、仏教の教えをベースにした伝統文化を損なうことなく、現代の最先端の情報通信技

術も取り入れ、自然環境を守りつつ質素にしかし心豊かにブータンの国民は生きている。

第四代、第五代国王が尐しずつ積み上げてきたことは大きい。日本もそろそろ国民に心か

ら信頼されるリーダーが出てきて欲しい。経済大国日本は世界的な市場競争に取り残され

ず、幸せを追求するにはどうしたらいいのだろうか、疑問に思う。その答えとして、ジグ

メ・イェゼル・ティンレイ首相は「幸せにつながらない競争をなぜするのか。新しい分野

を提起しなくてはいけないのではないか」と答えた。氏は GNH を着実に実行・推進して

            「歴史や文化、日本人からの気質などを見ると、日本は GNH
いる中心人物である。また、

社会をつくっていく最も適した国だと確信している」とも答えている。確かに、日本だけ

ではなく、世界は GDP を強調し、モノやサービスに重点を置いて開発を進め、人間関係

や自然環境など、あらゆるものを犠牲にしてきたのではないだろうか。そのような発展は

多くの人が持続可能ではないと気づいているはずである。日本をより良くする経済発展に

は全体的にバランスのとれた新たな考え方が必要ではないかと思う。日本には、まだまだ

美しい自然があり、静かな暮らしを送る環境が整っているところが多い。都市の暮らしで

物質的に満たされても、雑踏の暮らしは家族や友人との繋がりをなくしてしまっては孤独

を感じてしまい、幸福を得られないのではないか。都市部に住んでいる人が幸せになれな

いというわけではない。幸福の鍵は“人々の関係づくり”が強く関与していることがブー

タンの事例から知ることができる。



(3)外国支援をゼロに

 現在、ブータンは国家予算の 30%が外国からの援助であり、それらは無料としている教

育費と医療費に充てられている。しかし、ブータン政府は 2020 年までに、外国からの開

発援助をゼロにする方針を打ち出した。GNH 大国となり、世界に誇れる幸せのカタチを

達成してきたが、その背景には、国際援助という支えがあったことも確かである。国際社




                        18
会の負担を軽くするために、本当の意味で自給自足できる国に成長していかなくてはいけ

ない。外国に頼りながらも小さな国際国家として情報を発信してきたブータンは世界中に

GNH という概念を広めてくれた。また、GDP の成長のみを追い求めてきた先進国に“幸

せに生きるとはどういう事なのか”ということを考えるきっかけを与えてくれた。



(4)生きるとは

    何事も金さえ払えば良い。欲しいものを欲しいだけ手に入れる、それで満足。果たして

それは「幸せ」と言えるのか。人間が生きる上で必要なモノは人それぞれ違う。しかし、

やはりベースとなるのは「幸せに生きる」ことではないだろうか。そして、究極にいうと

「今を生きていることがすでに幸せ」だと思う。何もかもうまくいかなくて、
                                  “生きるのが

辛い”と思っている人は世界中にいる。それでも、そのように悩み、考えられるのは生き

ているからできる事であって、それだけでも最高に素晴らしいということに気づくべきで

ある。ブータンの人々は、質素な生活を余儀なくされていても、今の暮らしで十分足りて

いるという。それは、生きとし生ける者全ての平和を願う仏教の教えを通して、人として

生きるという根本的な本質がブータンには浸透している。なので、心の満足を高めて GNH

大国を作りあげている。日本は、外にばかり目を向けないで、時には自国の内側を見るこ

とができるように心に余裕が持てれば良いと思う。



     第三章      日本の現状
    一年も待たずに国のリーダーが変わっていく国が世界にはあるのだろうか。近年、日本

国民が政治に対する不満や不信感が否めない。社会保障や脱原発ばかりが注目されていて、

食料やエネルギーの自給問題がほとんど表に出ていない。原発を廃炉にするという案が出

たとしても、その後はどうするか現実的かつ具体的な方法はあるのだろうか。いまいち、

国民には伝わってこないのではないか。しかし、日本政府だけではなく国民にも非がある。

それは極端に低い投票率である。デンマークとちがい、日本では「自分の国を愛している」

と答える人でも、国家を維持するために必要な施策に自ら進んで参加する人は尐なく、国

家の基本方針を決める国政選挙でも投票率は伸び悩んでいる。昨年末に行われた選挙の投

票率は 59.32%6であった。戦後最低だった 1996 年の 59.65%を下回る結果となった。特に

20 代の若年層の投票率が低く、理由としては、 投票しても反映されないし、
                      「              意味がない。」

6   朝日新聞デジタル 2012/12/17




                          19
と、残念ながら政治の透明性の低さが伺える。政府は、国民の期待に答えられるような姿

勢を整うようにしなければ、若年層の票を伸ばすのは難しいだろう。

 日本の地方自治体も住民が主体性をもって参加できる仕組みをつくり、首長のリーダー

シップで市民の夢や希望を実現できる行政を行うことで、市民の幸福感や満足度を実現で

き、GNH につなげることができるのではないかと思う。



(1)日本の幸せとは

 「日本の幸せ」について幸福になるために精神的側面から見てみる。日本は、GNH、す

なわちブータンモデルに近づくことが可能であると前述した。その際に、大切なのは、ア

ンケートなどをとって何%が望んでいるかといった数値で示す「客観的定量的発想」と、

インタビューをして言葉やイメージでとらえる「定性的発想」を組み合わせる方が良いと

されている。この「定性的発想」には文化やコミュニティの関係性が含まれており、その

基本に仏教的倫理観がある。これがブータンモデルの最も強い特性である。日本でも、人

と人の繋がりの大切さをもっと浸透させていくべきである。

 日々の暮らしの中で、私たちは食べるものに困った時があっただろうか。お腹が空きす

ぎて、餓死寸前までを経験したことはあるだろうか。尐なくとも何らかの事情がない国民

は困ったことはないはずである。蛇口を捻れば水は出るし、コンビニエンスストアに行け

ば 100 円以下で買える食べ物がある。当たり前だと思っていることが世界から見たら、当

たり前ではない事実をどのくらいの人が知っているだろうか。普通の暮らしができている

ことは幸せであると思っていたが、内閣府が行った 2009 年度の国民生活選好度調査の集

計結果では、日本人の幸せ感は、10 点満点中 6.5 点だ。ヨーロッパを中心とする 28 カ国

で実施された同様の調査では、1 位デンマーク 8.4 点であった。次いで、2 位フィンラン

ド、3 位ノルウェーとなった。日本の 6.5 点は 20 位のスロバキアと 21 位ラトビアの間に

位置し、ヨーロッパ 28 カ国と比べても低位である。幸福度ランキング上位のデンマーク

との大きなちがいは、やはり国の持続可能性が確立されているかの差ではないかと思った。




 (2)望むのは公平で安心な社会

 デンマークの食料自給率は 300%。エネルギーについては洋上風力発電(洋上ウィンド

ファーム)を多く開発し、余剰電力を隣国に輸出している。つまり、人間の生存にとって




                       20
不可欠な食料とエネルギーがデンマークでは万全なのである。また、65 歳の引退年齢にな

ると自動的に年金が振込まれるので、公正な年金が得られないといった心配をすることが

ない。

    日本では国民から集めたお金の途方もない無駄遣いが指摘されている。例を挙げると、

「後期高齢者医療制度」の導入だ。国や地方自治体の財政改善を図るためには、高齢者の

医療費も削減する必要が出てきたと、政府は制度を裏付けているが、かえって無駄遣いが

生まれる可能性が出てきた。「後期高齢者医療制度」とは、75 歳以上のお年寄り約 1500

万人の医療費の負担として見込まれる約 14.2 兆円を公費 50%、現世代の支援約 40%(0

~74 歳までの人たちの負担として)と高齢者の自己負担 1 割で賄う制度である。運営管理

をするために「広域連合」を都道府県に設立した。しかし、制度の導入に伴い、多くのお

金がかかるし、何ら生産性がない、連合を開設する必要があるのかという意見があがって

いた。設立するには推定 700~900 億円の税金を使うことになる。そこまでしてなぜ、設

立することになったのか。その理由は、財政責任を負う運営主体になるのを嫌がった市町

村に配慮したからだ。政府が保険料を年金から天引きして財政責任を負わず、保険料徴収

の苦労もなくなり、給付抑制のインセンティブが働かない三重の無責任体制となってしま

っている。国と市町村の利害が絡んで無責任が重なった制度があること自体、おかしいと

改めて見直さなくては、政府に対する国民の信頼感がどんどんなくなっていくのは当たり

前である。日本では国民の幸福感を高めるため政府が目指すべき主な目標は、公平で安心

できる社会の構築であると思う。




(3)エネルギーの必要性と恐ろしさ

    日本の食料自給率は 40%7である。国民が摂取しているカロリーの半分以上を輸入に依

存していることになる。水資源、太陽光に恵まれ豊かな稲作が可能な国土なのに、砂漠並

みのレベルの自給率だ。かつてエネルギー問題としては、デンマークと同じく、オイルシ

ョックが影響した時代があった。しかし、喉元を過ぎると日本は相変わらず化石エネルギ

ーに依存した。デンマークのように、確実にかつ安全に自給できるエネルギーに移行しよ

うと考えなかったのか。そして、再びエネルギーの必要性と恐ろしさを実感したのが、3・

11 東日本大震災と福島の原発事故である。多くの人が亡くなり、多くの幸せが無くなった。

7   食料自給率カロリーベース 2011 年より




                            21
甚大な被害があったにも関わらず、政府は、原発再稼働を推進しようとしたのか。脱原発

とマニフェストを掲げている政党もあるが、それだけではなく、その後の具体策をしっか

りと教えてほしい。そして、すぐに新たなエネルギー自給に着手するべきである。もし、

政府が国内資源を利用したエネルギー自給政策を推進するなら、石油を確保しようとする

隣国との争いをする必要もない。またエネルギー確保の是非を巡って、国会で膨大な時間

を使って論議する必要もない。エネルギー資源(風力、太陽光、太陽熱、水力、木材、バ

イオ、火力、地熱など)を活用すれば、財政面での改善に繋がるように思える。




     NIPPON の良いところ



(1)「思いやり」世界に誇れる国民性

    アメリカ、中国に次ぐ世界第三位の経済大国の日本は、経済成長ばかりに力をいれてい

た。日本の 1960 年代は質素で物質的な豊かさはまだなかったけれど、隣人との交流など

人との繋がりは強かった部分と高度経済成長期へと突入していく国民の期待の高まりが入

り混じった時代であったと思う。現代は、核家族化が進み、高齢者が一人暮らしをするの

が当たり前の時代となっている。そのため孤立死や餓死、誰にも看取られずに亡くなって

いく、というあまりに寂しい最期を迎える高齢者が急増している。きっと、60 年代の日本

は想像していなかったかもしれない。

    最近の日本は、人間関係が希薄になってしまっているように思える。しかし、日本人は

世界に誇れる国民性だと確信している。それは「思いやり」があるからである。独自のア

ンケート調査8から 30 人中 26 人が「日本人には思いやりの心がある」と回答した。海外

に行ったことがある人は実感していると思うが、レストランやショッピングでのサービス

などを比べると断然日本人が丁寧に対応してくれているのではないだろうか。日本人の良

いところは、人への思いやり、親切心、忍耐強さ、そして人種関係なく外国人に対しても

8   1109 スウェーデン社会研究所   独自アンケートより




                           22
懇切丁寧に対応するところだと思う。そのような国民性が如実に表れたのが東日本大震災

の時の配給に並ぶ姿である。その様子が報道されると世界中の人が驚いた。非常時でパニ

ック状態になっていたにも関わらず、自分のことだけではなく他人のことも考え、協力し

合っている日本人に称賛の声があがったという。外国で同様に非常時が起こった場合、自

分の身と家族を守るために強奪や窃盗が起こってしまう。しかし、そのような事は一切な

く、列をつくって待つというのは「思いやり」がなくてはできないことだと思った。




 (2)日本のこれからの幸せのカタチ

 世界の経済強豪国と肩を並べるのに必死で、尐々無理のある背伸びをし続けた結果が今

に反映されてしまっているのではないか。もっと自国に心の目を向けることをこれからは

考えていっても良いと思う。かつて日本は、江戸時代の鎖国を抜け出し、海外と積極的に

貿易をはじめた。技術が進歩し、世界中で Made in Japan が好評価され経済大国に上り詰

めた。しかし、経済成長には限界がある。次は、人間の永遠のテーマである「幸福」を追

求できる国になる時代をつくっていくべきだと思う。

 幸せのカタチは人それぞれである。幸福についての定義も様々である。今まで、デンマ

ークとブータンの幸福の成り立ちについて述べてきた。共通していえる幸せの定義は、

①その国の人が生活しやすくて、住みやすいこと。衣食住の面が満たされていること。

②格差のない社会。民主主義の国で生活保障が充実している。老後も安心して暮らせる。

③自然があること。紛争・戦争がないこと。

である。そして、幸福になるための絶対条件は「信頼」であると思う。お互いを助け合う

ためには強い人間関係が関わっている。それには、やはり人を信頼しなくてはいけない。

信頼してほしければ、自分がちょっとした親切ができれば良いと思う。そこからとんでも

ない幸せが自分に舞い込んでくることもあるかもしれない。

 日本独自の幸せのカタチはどのようにすれば生まれるか。ブータンのようになるには、

国民共通の基盤「仏教」を広く、深く浸透させていかなければいけない。それは、尐々難

しい問題であり、適用ではないかもしれない。この場合、幸福を実現するには、デンマー

クのように「制度で支える」という方法が適切であると思う。日本の新政権は大胆な経済

改革を盛り込む予定である。社会保障費を充実させデンマーク経済制度に尐しでも近づけ

たら、大きく変わる予感はある。それに伴う問題はあると思うが、今、この停滞している




                       23
日本経済から脱出するには大きくメスを入れる必要性を感じる。




おわりに


 今回、「幸福」についてデンマークとブータンの事例を取り上げた。デンマークでは政

治的、経済的側面から日本が幸せになるための方法を探った。国民からの合意をもとに高

額に納税されているお金を社会保障の充実のために賢く使われていた。かなり透明度の高

い税金の使い方であった。消費税増税をするなら、税金の使い道の透明度も高くしてほし

い。そして、ブータンからは精神的側面から、仏教を通じて人間の根本的な「生きる」と

いう部分を考えた。 “足るを知る”という言葉が飽食の国である日本にフィットしている

とおもう。

 一人ひとりが今、生きている事を当たり前と思わないことが大切である。食べ物がある、

仕事がある、勉強ができる、家族・友達と過ごすことができる、寝ることができるなど一

つ一つが実は素晴らしいことだとわかった時、もっと自分自身を大切にすることが出来る

と思う。すると、どんなに小さな幸せにも気づくことができ、他人ともその幸せを共有で

きる。その結果、その人との関係が良好になり、信頼が生まれ、より大きな幸せが生まれ

ると思う。無意識に笑顔になれたならそれが幸せの最小単位である。幸せのカタチは人そ

れぞれにある。みんな違って、みんな良いと思った。




                   24
参考文献


世界一幸福な国デンマークの暮らし方

著:千葉忠夫

出版:PHP 新書



・幸福立国ブータン~小さな国際国家の大きな挑戦

著:大橋照枝

出版:白水社



・なぜ、デンマーク人は幸福な国をつくることに成功したのか。どうして、日本では人が

大切にされるシステムをつくれないのか

著:ケンジ・ステファン・スズキ

出版:合同出版



OECD    幸福度指標     Better Life Index   2012-05

  http://www.oecdbetterlifeindex.org/#/55555555555




                                  25
内閣府幸福度に関する研究会            幸福度指標の試案          2011-12

 http://www5.cao.go.jp/keizai2/koufukudo/koufukudo.html




                                   26

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