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Case Presentation
「非特異的所見から診断する関節痛」
Non-specific findings can be a clue to the diagnosis of rheumatic disease
70歳男性
主訴: 発熱・関節痛
某年10月下旬の救急外来を受診
症例: 70歳男性
【現病歴】
• 著患を指摘されたことなし。
• 受診前々日の朝より「感冒症状」が出現: 微熱と咽頭痛
– かかりつけ医を受診し、ウィルス性上気道炎の診断でPL顆粒が処方された。
– インフルエンザ迅速キット: 陰性
• 受診当日朝よりTmax 39.4℃の発熱あり。
• 夜間帯になってから関節痛が出現。
– 右肘、左膝付近の痛み
• 発熱・関節痛を主訴に救急外来をwalk-inで受診。
症例: 70歳男性
システムレビュー
《陽性所見》
• 関節痛: これまでも歩行時に膝関節内側の疼痛を自覚、
かかりつけ医で変形性ひざ関節症と診断されているが、
今回の疼痛は全く性状が異なる、強い疼痛。安静にして
いても痛いが、どのような方向に動かしても痛みが増強。
《陰性所見》
• 頭痛なし、顎跛行なし、視力障害・視野障害の自覚なし
• 咳嗽なし、呼吸困難感なし、胸膜痛(pleurisy)なし
• 腹痛なし、吐き気・嘔吐なし、下痢・便秘なし
• 排尿困難なし、睾丸痛なし
• 口腔内アフタなし、皮疹なし、日光過敏なし、脱毛なし
【既往歴】 特記すべき既往なし
【家族歴】 リウマチ性疾患・膠原病の既往歴なし
【アレルギー歴】 薬剤・食事とも指摘された事はない
【生活歴】 喫煙:35歳時に卒煙、飲酒:機会飲酒
職業:健康食品の販売業 → 退職後
最近の国内/海外旅行歴 なし
ペット飼育歴/曝露歴 なし
野山のトレッキング歴 なし
【入院時処方】
特になし
Vital Signs
36.8℃
108/68 mmHg
93 bpm
SpO2 98% (ambient air)
RR 記載なし…
【入院時身体所見】
意識は清明、
頭皮の圧痛・側頭動脈についての記載なし
瞳孔正円同大・対光反射正常
鼻翼・耳介の変形なし
頸部血管雑音聴取せず
心音整・雑音なし、呼吸音清
腹部平坦・軟、圧痛なし、自発痛なし
脊椎棘突起の叩打痛なし、CVA tendernessなし
精巣の圧痛・腫脹についての記載なし
神経学的所見: 脳神経 Ⅱ~Ⅻ 異常なし
末梢神経障害を疑わせる感覚・運動障害なし
【入院時身体所見】
疼痛を訴える関節について:
可動域は顕著に制限されている
右肘関節・左膝関節がメインだが、全身の大関節に圧痛
を認める
皮膚の発赤・腫脹に乏しい
〔血算〕
WBC 2,600/μL
Hb 12.9g/dL
Ht 38.1%
Plt 10.7×104/μL
〔生化学〕
TP 6.1 g/dL
Alb 3.1 g/dL
T.Bil 2.7 mg/dL
D.Bil 1.9 mg/dL
AST 76 IU/L
ALT 72 IU/L
γGTP 121 IU/L
ALP 319 IU/L
LDH 264 IU/L
CK 211 IU/L
CK-MB 11
UA 8.1 mg/dL
Na 137 mEq/L
K 3.9 mEq/L
Cl 99 mEq/L
BUN 32.0 mg/dL
Cre 2.5 mg/dL
CRP 15.7 mg/dL
【救急外来での検査所見】
〔凝固〕
データなし
胸部単純レントゲン写真
心電図に異常なし
胸腹部CT: 腎機能障害のため造影なし
症例: 72歳男性
# 発熱
# 関節痛
# 肝酵素上昇 (肝逸脱酵素・胆道系酵素)
# CK上昇
# 腎機能障害
# 2系統の血球減少症 (白血球・血小板)
「膠原病・血球貪食症候群の疑い」で入院
Discussion
• 鑑別診断は?
• 救急時間帯で追加すべき検査/対応は?
症例: 72歳男性
# 発熱
# 関節痛
# 肝酵素上昇 (肝逸脱酵素・胆道系酵素)
# CK上昇
# 腎機能障害
# 2系統の血球減少症 (白血球・血小板)
「膠原病・血球貪食症候群の疑い」で入院
当直帯での対応:
血液培養採取、セフォペラゾン・スルバクタム投与
強い関節痛に対してレペタン点滴・ペンタジン+アタラックスP
点滴が施行された
01:50
02:30
04:46
臨床経過
〔血算〕
WBC 1,400/μL
Seg 62.0
Lym 5.0
Mono 1.0
Hb 13.9g/dL
Ht 38.1%
Plt 6.7×104/μL
〔生化学〕
TP 5.9 g/dL
Alb 3.1 g/dL
T.Bil 3.8 mg/dL
D.Bil 2.7 mg/dL
AST 110 IU/L
ALT 76 IU/L
γGTP 130 IU/L
ALP 326 IU/L
LDH 619 IU/L
CK 1729IU/L
UA 8.1 mg/dL
Na 146 mEq/L
K 3.5 mEq/L
Cl 103 mEq/L
BUN 36.2 mg/dL
Cre 3.4 mg/dL
CRP 17.5 mg/dL
【翌朝の検査所見】
〔凝固〕
PT% 34.9
PT-INR 1.73
APTT 54.3
FIB 430
D-dimer 97.0
臨床経過
• 造影CT撮影 → CT室で急変
• 挿管・人工呼吸管理が開始され、ICU入室
何が起きたのか?
1. ただちにステロイドパルスを
2. 診断に疑義あり: 経過観察すべきだ
3. 検査不十分: 治療開始前にこの検査を追加
4. その他
臨床経過
• 造影CT撮影 → CT室で急変
• 挿管・人工呼吸管理が開始され、ICU入室
• その後、Intensive careが行われたが、入院翌々日
02:21 ご永眠された
• 次スライドのひとくいてき所見が最終診断
臨床経過
Group A Streptococcus が血液培養から2/2セットで生育してきた!
Streptococcus pyogenes
• Clinical presentation
– Pharyngitis
– Erysipelas
– Necrotizing fasciitis
– Myositis / Myonecrosis
– Streptococcal TSS
– Bacteremia
– Pneumonia
Mandell 7th ed. pp2593-2622
Streptococcus pyogenes
• Streptococcal TSS
– 1st phase
• “flu-like” prodrome
– 50% - preceding local signs of infection
– F / C / N / V / D / Myalgia
– 2nd phase
• “fever and severe pain”
– ERを受診し、誤診される
– DVT, 筋肉痛 (muscle strain), ウィルス性胃腸炎, 脱水, 捻挫
– 3rd phase
• “shock and MOF”
Mandell 7th ed. pp2593-2622
Streptococcus pyogenes
• Bacteremia
– Fulminant clinical course
– Mortality 27-38%
– Abrupt onset of fever, chills, prostration (熱性疲労)
– Rarely, present w/ acute abdomen.
Mandell 7th ed. pp2593-2622
「昨日元気で今日ショック」の一群
• Streptococcus pyogenes
– STSS, sepsis
• Streptococcus pneumonia
• Neisseria meningitides
• Haemophilus influenzae
– Sepsis in hyposplenism
• Clostridium perfringens
– Impressive case report:
J.J.A.Inf.D.2002 76:562-565
• Vibrio vulnificus
– Sepsis and NF in cirrohosis
• Capnocytophaga
canimorsus
– normal gingival flora of
canine and feline species
• Rickettsia
– RMSF
• Staph aureus IE
最終診断
• ひとくいバクテリア(Strep. pyogenes)による
• ひとくい的所見で救急受診した
• STSS + fulminant GAS bacteremia
Case Presentation
「ひとくい的所見から診断する関節痛」
Infection must be ruled out to make the diagnosis of rheumatic disease
これにて終劇

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