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何が“ソーシャル・クリエイティビティ”を
      もたらすのか。
~“一回性”と“真正性”のクリエイティブ~



     多摩美術大学 教授
   コミュニケーション・ラボ 代表
       佐藤達郎
(プロローグ)
音楽界では、iTunesやYouTubeにより
 音楽の複製技術が頂点を極める中、
LIVE市場の活性化が顕著!



  「一回性」への希求
          の一端。
アメリカのアーティスト収入の配分状況
(出典:Live Nation「Investor Presentation」March 2009)
(本論)


最初に、このCMをご覧ください。
九州新幹線のテレビCM①
◎3月12日の九州新幹線全線開通の告知として
 制作されたテレビCM。

◎3.11大震災の影響で、わずか3日のオンエア。
 だが、「人と人のつながりを描く感動的なCM」と
 して人気に。(3/9~3/11のオンエア)

◎YouTubeでは、2011年11月7日現在で、
 3,170,490 回の再生。
 一連のキャンペーン映像を収めたDVDまで発売。
九州新幹線のテレビCM②
◎カンヌライオンズ2011では、アウトドア部門金賞、
 メディア部門銀賞、フィルム部門銅賞を受賞。
 日本のACC賞2011グランプリ、TIAA2012金賞。

◎撮影日は2/20。沿線の12の会場で「レインボー
 カラーの新幹線に手を振って欲しい」と、告知CM
 駅貼りポスター、ウェブサイト等で、事前に呼びかけ。

◎ウェブサイト上では、会場以外の撮影ポイントに
 なりそうな場所をイラストなどで紹介。「お祝い」でも
 あるので、カラフルな装いも呼びかける。
九州新幹線のテレビCM③
◎ムービーカメラは新幹線内に6台、沿線に50台。
 「祝!の横断幕」や「マンションの屋上から手を振る」
 や「新幹線を追いかけて走る」や「趣向を凝らした
 コスチュームを披露」などは、皆、集まった人達が
 自発的にやってくれたもの。

◎3万人が参加、250kmのウエーブが完成。
◎この九州新幹線のテレビCMは、
 自分が数年前から気になっている「ある兆候」を、
 私に思い起こさせました。

◎多くの国際広告賞受賞作、
 あるいは、世間的にも話題になっている
 広告クリエイティブに、
 ある「同様の特徴」が感じられることです。

◎しかも、それらの作品群の「共通性」について
 論じられているケースが極めて少ないことです。
それらの作品群とは、以下の作品たちです。
まずは、ご覧ください。

                 カンヌ2007ゴールド
カンヌ2006ゴールド      (ブラビア・ペイント)
(ブラビア・ボールズ)
                 ACC2007グランプリ
 カンヌ2009ゴールド        (マクセル)
  (Tmobileダンス)
                 カンヌ2009ゴールド
                  (ラブディスタンス)
 カンヌ2009ブロンズ
  (ホンダ・ライブ)
                 カンヌ2011ゴールド
                    (ドコモ)
これらの事例が、高く評価されている
   ポイントは何でしょうか?
    人々の記憶に残り、
  ブランドの価値に貢献している
      その理由は、
      何でしょうか?
ここに共通して見られるのは、

「そこで、ただ一度だけ」
行われたという一回性       と、

「実際に、誤魔化すことなく」
行われたという真正性     だと、
考えています。この点については、
後でもう一度戻って詳しく考えます。
ところで、
ソーシャル・クリエイティビティ
  私が2010年10月に、
日本広告学会の発表で提唱した
     キーワード。


    偶然にも、同じ2010年10月に、
      世界的な広告会社DDBが、
“Introducing Social Creativity”を発表。
DDBと言えば?
◎DDBスタイル。

◎バーンバックの発明。

◎コピーとアートの結婚。

◎コンセプトを基礎に据えた広告クリエイティブ。


◎現在に至るまで50年間、広告クリエイティブの
 スタンダードとなっているスタイル。
◎Creating content which
 connects people with people
  as well as people with brands.

 (ブランドと人々を結びつける
  だけではなく、
  人々と人々を結びつける。
  そんなコンテンツを
  クリエイトしよう!)
◎Suddenly, sharing has become
 what we do.
 I share, therefore I am.

 (突然、分かち合うことが、
  “日々我々が行うこと”になった。
  我、分かち合う、ゆえに、我あり。
  と言うように。)
◎We think what is needed
 is social creativity.

  (必要とされているのは、
   ソーシャル・クリエイティビティだと、
   我々は考えます。)
◎(天国の)ビル・バーンバックも、
 (このソーシャル・クリエイティビティの採用を)、
 きっと承認してくれるだろうと考えている。


◎彼は、それまでのルールを破って、
 初めてコピーライターとアートディレクターに
 コンビを組ませることで、
 彼の時代のニューメディアに対応したのだ。
◎そして今日、世界中の我々のオフィスで、
 ソーシャル・クリエイティビティを産み出すための、
 新しいワーキング・スタイルが模索されている。




 ソーシャル・クリエイティビティのための、
     大きな2つの要素が、
   “一回性”と“真正性”である。
ソーシャル・クリエイティビティ(1)
           (前年の佐藤達郎の発表から)

◎物語性(ストーリー性)と芸術性(アート性)の
 クリエイティビティから、伝播性のクリエイティビティへ。

◎そこでは、クリエイティビティのポイントは、
 「伝える」から「つなげる」へ。
◎①SOCIAL MEDIAの台頭が前提。
 ②メッセージが伝わる経路は、人から人へ。
 ③企業と生活者の関係では、
  「メッセージは、間接的に伝わる」
ソーシャル・クリエイティビティ(2)
           (前年の佐藤達郎の発表から)
◎発想の転換ポイント
 (1) 「ターゲットに直接的に伝える」発想をしない。
 (2) 従来のいわゆる「クリエイティビティ」に
     拘泥しない。
◎ソーシャル・クリエイティビティは、
 ソーシャルメディア上だけではなく、
 マスメディアやマス広告でも、
 必要とされるものと、なっている。
先ほどの幾つかの事例に共通して見られる
ソーシャル・クリエイティビティのポイントは、

「そこで、ただ一度だけ」
行われたという一回性           と、


「実際に、誤魔化すことなく」
行われたという真正性
でした。
一回性
◎従来の広告の常識とは相容れないもの。何故なら、
 「出来上がり」をクライアントに約束出来ないから。

◎従来の広告の常識では、OKになるまで何度も取り直し、
 時に修正を加えて完成品とした。

◎私の知っている例では、10カットほどの全カットの
 撮影のアングルまで「演出コンテ」で確認している例も!

◎例えばホンダUKのスペインからの生中継CMも、
 実際に行うのが信じがたい。従来の感覚で言えば
 リスクが大き過ぎる。
一回性


   では、何故?
そんなリスクを冒してまで、
“一回性”を求めるのか?
一回性
複製技術の発達で失われた
「“いま”“ここに”しかない
という芸術作品特有の一回性」
においてのみかたちづくられる
「作品のアウラ(オーラ)」
           (by ベンヤミン)
を少しでも広告クリエイティブに
        取り戻そうとする試み!
一回性
◎数分を要する「一回性」の広告クリエイティブは、
 インターネットとソーシャルメディアの発達なくして、
 登場し得なかった。
◎「自社ウェブサイト」での繰り返し視聴が
 前提とされている。

◎「人から人へ」伝播すること(ソーシャル・
 クリエイティビティ)で、
 数多く視聴されることが意図されている。
 <YouTubeなど>
一回性
◎「複製技術」が、デジタルの急速な発達で、別の段階に
 入った。と、考えることが出来る。

◎YouTubeなど動画投稿サイトの、利便性、高品質。

◎“一回性によるアウラ(オーラ)”によって、
 何百万回~何千万回も視聴される可能性。

◎周到な準備をし、1カット当たり何テイクも撮影し、
 演技指導し、時に多くの修正を加えるのが「普通」だった
 従来の広告クリエイティブとは、まったく異なる方法論。
真正性
◎従来の広告の常識では、軽視されて来たもの。


◎「キレイに見える」とか「おいしそうに見える」とか
 「便利そうに見える」ことが、最重要視されて来た。
真正性
◎インターネットなかでもソーシャルメディアの発達で、
 「本当のこと」が、バレやすくなって来ている。


◎人々は、「甘言」に、飽き飽きしている。
 「見せられるもの」と「実際」の落差に辟易としている。
真正性
◎「人々はますます、世界を本物か偽物かという視点で
 見るようになっている。そして、
 ペテン師から偽物を買うのではなく、
 純粋な誰かから“何か本当のモノ”を買いたいと思ってる。」
◎「コンシューマーは、買うか買わないかを、
 提案がどれくらい本当かということに基づいて決めている。」
◎「だから、今日のビジネスはすべて、
 本当であること(being real)に関するものであり(中略)、
 真正(Authentic)であることに関するものである。」

            (ギルモアとパイン著 『Authenticity』より)
                 ↑
             『経験経済』の著者
真正性
◎例えば、九州新幹線と同内容のフィルムが、
 プロのダンサーをたくさん雇って「応援ダンスをする」
 というものだったら、どうだったろうか?
 (実際に、別案としては、そういう案が用意されていた
  という。)


◎それでは、真正性が著しく減少する。
 ここまでの拡がり(つまりはソーシャル・クリエイティビティ)
 を持つことは出来なかったであろう。
“ソーシャル・クリエイティビティ”をもたらす3つの要素

 ◎一回性

 ◎真正性

   +
 ◎参画性
カンヌライオンズ2012から。


①     ②

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