コーチングとは、スポーツ界の名コーチのコミュニケーション技法を研究して編み出された方法ですが、ビジネス界をはじめ様々な業界で活用されています。近年、医療分野での活用され、様々な研究がされています。 そのエッセンスや考え方は患者さんへも適応できますし、現場指導においては絶大な効果を誇ります。 以前その概要を院内で講義したのでその資料をアップいたします。

1. コーチングの基本
〜人を導く方程式〜

2. 「コーチング」とは
• 名コーチのコミュニケーション技法を研究して編み出された方法。
• ビジネスでは、個人や企業に対して「コーチングをするコーチをつけ
る」ことで、仕事の目標を明確にし、効果的に達成することに注目が
集まっている。
• 近年、医療分野での活用もされるようになっている。

3. コーチングの目指すところ
①クライアントの目標を達成する。
②クライアントの自発的な行動を促進する。
コーチは目標に向かってともに歩む。過程で目標達成に必要な知識・技術・
ツール・人脈がなんであるかを見つけだし（気づかせ）、相手に備えさせる。

4. クライエント
コーチ
話す 聞く
コーチングスキル
目標
現状
＞ギャップ
具体的な行動
コーチングの目的 コーチングカンバセーション
気づき

5. コーチングの3原則
①インタラクティブ 双方向性のコミュニケーションであること
クライアントは話しながらも自ら気づきがある
②テーラーメイド 相手にあったコミュニケーションスタイル
③オンゴーイング 継続的にコミュニケーションを交わす

6. コーチングの構造 GROWモデル
Goal
⽬標の明確化
今、実現したいことはなんですか？ 具体的にどのような事ですか？
何を手に入れたいですか？ 達成とはどうなる事ですか？ いつまでに実現したいですか？
Real
現状の把握
今、どのような状況ですか？（具体的に） 現状で取り組んでいるのは、どのような事ですか？
何ができていて、何ができていませんか？ 目標を100とすると今何点ですか？
Resorce
資源の発⾒
目標に対して、どのよな知識・技術が使えますか？ 過去にうまくいった事でこの目標に活かせる体験はありますか？
あなたの目標を手助けしてくれる人がいるとしたら、どんな人で、どのように手伝ってもらえますか？
目標に対して、使えるものや資金があるとすると、どのようなもので、どのように使いますか？
目標に対して、使える時間はどのくらいありますか？
Option
選択肢の創造
思い浮かぶ絵取り組みはどのような事ですか？ 何をしたら良いと思いますか？
得意なやり方はなんですか？ 他には、どんなやり方が可能ですか？
他の人がやっていて参考になることは？
Will
決意の確認
出てきた取り組みはどれが良さそうですか？ 目標と、選択した取り組みを行ってもらって良いですか？
作ったプランで不安な点はないですか 作ってきたプランで達成の可能性は何%くらいですか？
いつから始めますか？ 取り組んでいけそうですか？
○○さんならできると思います。応援しています。

7. Srtep0
セットアップ
Srtep1
望ましい状態の
明確化
Srtep3
ギャップが起こって
いる理由の明確化
Srtep2
現状の明確化
Srtep4
具体的⾏動の
明確化
Step5
フォロー
振り返り
コーチングの実際の流れ

8. コーチングに必要なスキル
①ゼロポジション
②ラポール形成と傾聴
③承認する
④効果的な質問をする
⑤沈黙する
⑥接続詞を使う
⑦メタ・コミュニケーション
⑧提案する
⑨タイプ分け

9. ①ゼロポジション
相手に最大の関心を持っているが、打球（相手の反応）に合わせて、
前でも後ろでも、右でも左でも、素早く動ける構えである。
ただゼロといっても単なる受け身ではないく、大切なことは2点ある。
1. 相手への最大の関心を維持したポジションである。
2. コミュニケーションにおける反応はコーチが選ぶことであり、自動的
な反応ではない。相手が受け取りやすく、会話が弾み、結果として相
手の自発的な行動の促進につながる反応を選択することが重要。

10. ②ラポール形成と傾聴
ラポール形成：相手と自分が心が通じ合って、互いに信頼している状態。
いきなりセッションを始めずに、世間話からお互いの関係を温めていく。
傾聴：コーチング全時間の80%が聴くことに使われているといわれるほど
大切なスキル。共感を言語で示したり、沈黙や肯定的な非言語メッセー
ジを大切にする聴き方を「傾聴」と呼ぶ。

11. 傾聴の上で知っておきたいこと
メラビアンの法則
視覚
55%
聴覚
38%
言語
7%
印象と言葉の内容 伝えたい言葉伝えたい言葉
言葉の内容と印象
一致
伝わりやすい 伝わりにくい
不一致

12. 傾聴する上で役立つ技術
非言語（ノンバーバル）
・ペーシング：相手の話し方や状態、呼吸などのペースを相手に合わせる。
・ミラーリング：相手の言動や仕草などを鏡のように真似る。大きな動作の真似は不快感を与える
ので、似たようなことをするだけでも良い。
言語（バーバル）
・バックトラック：相手が話した内容を繰り返す。返す内容として３つある。
1. そのまま、相手の話を返す。
2. 話を要約(まとめる)して返す。
3. 話の流れで重要なワード（キーフレーズや感情）を返す。
・リフレーミング：相手の言葉をポジティブな言葉へ変換して返す。

13. ③承認
コミュニケーションを促進するためには、相手が自分に対して承認され
たと思う必要がある。
承認するためには、承認する事実を発見することが必要で、常に相手
を注意深く観察していなければ効果的な承認をすることはできない。

14. 4つの承認レベル
結果承認
結果・成果に対する承認
ex. この部屋をどの部屋よりも一番綺麗にしてくれてありがとう
行動承認
• 行動したことに対して承認
• ex. 掃除で綺麗にしてくれてありがとう。
意欲承認
• 行動しようとしたことに対する承認
• ex. 掃除をしようとしてくれてありがとう
存在承認
• 存在をそのまま承認
• いつもいてくれてありがとう

15. 3つの主語からの承認
「You」：あなたが主語になった承認で、最も使用頻度が高い。相手に評価され
ているという印象を与えるが、「あなたには言われたくない」と拒絶されてしまうこと
があるので注意が必要。
「I」：わたしが主語になった承認である。相手に与えるインパクトが強いとされ、
何よりそう思っているのはこちらで、相手にとっては否定しようがない。しかし、文
脈を考えて使わないと、不自然な会話になってしまうことがあるので注意が必要。
「We」：「あなたの行動や存在が、私たちや組織に、こんな影響を与えていま
す」ということを伝える。この立場の承認は、相手との関係をより近づけ、仲間であ
ることを感じさせる効果がある。

16. ④効果的な質問をする
質問の目的
・確認する
・情報を収集する
・気分良く話せる
・話のきっかけをつくる
・視点を変える
・物事を具体的にする
・気づきやひらめきを促す
・ゴールを設定する
・問題を特定する
・アイディアを発展させる

17. 質問の種類
・オープンクエスチョン：5W1Hによる質問 具体化と抽象化の二つの目的がある。
「いつ」「誰が」「どこで」は、具体化され、相手の行動計画をより具体的にする質問。
「何を」「なぜ」「どのように」は、抽象化され、相手の考えや思いを引き出す質問。
・クローズドクエスチョン：Yes Noで答えられる質問
会話の導入や、内容のチェックを目的とした時に使われる。しかし、得られる情報
は少なく、質問によっては相手を誘導する可能性があるので注意。

18. 質問の種類
・過去質問・未来質問
過去質問：過去に成功体験があった場合はコーチングで有効
未来質問：未来に向かって何を考えるか。前向きに考えることができる。
・肯定質問・否定質問
肯定質問：意識が前を向き、モチベーションが高まる。
例 そうしたらうまくいく？ どうしたらいい？
否定質問：極力使わない 窮屈な感じで、言い訳を考えたくなる。
例 どうしてうまくいかないの？

19. ・それで？
・本当にそうですか？
・いつからそうするの？
・もう少し詳しく教えて？ チャンクダウン
・もっと具体的にいうと？
・何かに喩えるとしたら？
・あと二つあげるとしたら？
・それ以外何かないですか？
・そうなると、次には何がおこる？
・それが実現するとどうなりますか？
・一つの言葉で表現するとしたら？
・そのことをあなたはどう見ているの？
・それを言ってどんな感じがしましたか？
・それはあなたにとってどういう意味があるのですか？
・そのことについて、あなたはどのように考えたのですか？
質問の具体例

20. ⑤沈黙する
沈黙は、返す言葉に窮した結果として発生するだけでなく、相手との
共感を深め、考えをまとめ、気持ちを整理し、新たな気づきを生む貴
重な時間を作る。
そのため、コーチはその有効性を理解し、積極的に使うことが必要で
ある。温かく相手の答えを持つ態度は安心感を得るだろう。
相手が押し黙ることで、こちらが不安になり、不安を解消するために沈
黙を破ることは慎むべきである。

21. ⑥接続詞を使う
接続詞を上手に使うと、会話はどんどん促進される。「それで」「それ
から」「なるほど」「へー！」「もっと聞かせてよ」などの接続詞や接続的
に言葉を挟むことにより、ペーシングの効果をさらに高める。

22. ⑦メタコミュニケーション
メタコミュニケーションとは、今のコミュニケーションをテーマに、コミュ
ニケーションを交わすことで、コミュニケーションが機能しているかどう
かを確認するために行うコミュニケーションである。
「ここまで話をしていて、どうですか？」とか「今話している話題につい
て、どう思いますか？」などの質問から、メタコミュニケーションが始ま
る。

23. ⑧提案・要望
効果的な提案は、相手の検討の選択肢を広げる効果がある。
コーチングは、相手が自ら考え、自ら気づくことを基本としているが、相手か
ら答えが出てこない、答えを見出せないと感じられた時には、相手に新しい
視点を提供する目的で、コーチから提案することがある。
その際は以下のポイントに気をつける。
・提案する際は、必ず許可を得る。
・「受け入れる」「受け入れない」でなく、3つ以上選択肢を用意することが望
ましい。
・どうするかの選択肢は相手にある。採用されても、「私のプランを参考に、
どんなプランにしましょうか？」と尋ねてみる。また、不採用であっても、「何
か他に良い案はありますか？」と尋ねる。

24. ⑨タイプ分け
さまざまなタイプの患者、医療スタッフ、学生がいるが、そのなかでど
うしても理由もなく単に「そりが合わない」という人がいるもの。
しかし社会人である以上、どのようなタイプの人とも、良好で円滑なコ
ミュニケーションをすることが求められる。
コーチングでは、相手とのコミュニケーションの可能性を広げる視点を
得ることを目的に、コミュニケーション・スタイルによって相手を4つのタ
イプに分類する。

25. 4つのタイプ
①人や物事を支配していくことが得意なコントローラータイプ
②人や物事を促進していくことが得意なプロモータータイプ
③分析や戦略案に長けているアナライザータイプ
④全体を支持していくことにやりがいを感じるサポータータイプ

26. ⑨タイプ分け 留意点
・タイプに優劣はなく、どのタイプにも得意とする領域があり、不得意と
する領域がある。
・タイプ分けは人格や人との関わり方を決定するものではないこという
こと。
・あくまでコミュニケーションを円滑に進めるための視点を得るための
一つのツール。

27. コーチング・ティーチング・カウンセリング
それぞれの相違点
コーチング：双方向性のコミュニケーションで自ら気づきを促していく。
ティーチング：教えることで、知識や経験、体系化されたものを伝える
こと。
カウンセリング：精神や心理の病理を扱い、相手の心のネガティブな
部分をゼロの状態に戻す。

28. コーチング ティーチング カウンセリング
目的 目標達成
自己実現
目標達成
業績向上
心理的安寧
心の癒しや回復
対象 目標に向かう人 出来ない人 心のケアが必要な人
行動 相手の中にある
答えを引き出す
専門的な教育 専門的にケア
重視している事 行動と学び 成果 感情
関わり方 質問・提案・傾聴 指導・提案 提案・処方箋
相手との関係 対等
パートナー
指導者 専門家
コーチング・ティーチング・カウンセリングの相違点

29. コーチングがうまく機能しない場合
• 自分と向かい合うのを回避
• 依存的、受身的、消極的
• やりたいことがわからない
• 過度の楽観や期待「なんとかなるはず」
• 無力感「如何しようも無い」「やっても無駄」
• 外罰的：環境や他人のせいにする
• 自罰的：自分が悪いからどうしようもない
• 思考や感情のコントロールが苦手

30. 参考資料
出江紳一. リハスタッフのためのコーチング活用ガイド. 第2版. 医歯薬出版株式会社. 2018.