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ブロックチェーン技術の課題と社会応用
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ブロックチェーン技術の課題と社会応用
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ブロックチェーン技術の課題と社会応用
1.
ブロックチェーン技術の 課題と社会応用 竹井 悠人 株式会社 bitFlyer
ソフトウェア エンジニア 東京工業大学 情報理工学院 数理・計算科学系 D1 2018/12/6 慶應義塾大学 SFC 「ビヨンドブロックチェーン」
2.
竹井 悠人 株式会社 bitFlyer ブロックチェーン開発部
部長 兼 最高情報セキュリティ責任者 情報処理安全確保支援士 / 宅地建物取引士 / 測量士 東京大学 理学部を 2011、同大学院 情報理工学系研究科を 2013 に修了 在学中ソフトウェア エンジニアとして Google, PFN, パリ南大学でインターン 卒業後、情報処理推進機構 (IPA) による未踏事業 クリエータとして活動 複数ベンチャー創業するが資金調達に至らず。原告として本人訴訟し和解など その後、開発コンサルティングを行ううち、顧客だった bitFlyer に就業 2018 より東京工業大学 情報理工学院 博士課程に在籍 @yutopio_ja
3.
bitFlyer のブロックチェーン 設計から製品化まですべて自社で行う ブロックチェーンの研究開発プロジェクト
4.
ブロックチェーンの考え方
5.
ブロックチェーンとは 分散台帳技術 (DLT) のひとつ ●
ネットワークの参加者であれば誰でもいつでも、一定の様式を満たす情報を書き込 むことができ、別の参加者から読み出すことができるようになる ● 様式に外れた書き込み要求 (不正なデータ等) は、却下される ● 一定数 (理論的には全体の 1/3 未満)、不当な参加者がいても動作する 技術的には ● 任意の情報を「ブロック」と呼ぶ単位に含めて、それらどうしを要約してチェーン状に つないだデータ構造 ● 上記のデータを効率よくコンピュータ間で同期し、また正当 であるか検証するための技術の総称
6.
ブロックチェーンに求められるもの ブロックチェーンの機能要件 ● 任意の参加者が一定のルールに従って書き込むことができる ● 書き込まれたデータが、世界中のノードで読むことができる ●
正常な書き込み要求は必ずいつか処理される ● ルールに反するデータの書き込み要求は却下される ● ルールに従わない (正常な書き込みに応じない、不正な書き込みを受理する) ノー ドが一定数いても動作する 機能要件のようだが、本質的には違うと考えられるもの ● 改竄されたら検知できること (上記の当然の帰結) ● データの履歴が残ること (副次的に生まれた機能)
7.
ブロックチェーンが備える性質と機能 ● 完全性・耐改竄性 (データが改変から保護されている性質) ブロックチェーン上の情報は、改竄や欠損があれば検出可。正当なノードから完全 な情報を取得しなおしてデータの復元可能 ●
可用性・耐障害性 (システムが任意の時点で要求に応答できる性質) 構成する個々のサーバに障害が起きても、ブロックチェーン全体に影響しない ● 可監査性 (内容の妥当性を検証できる性質) 書き込みは追記形式。データ利用者が個別の書き込み内容を理解できる ● 認証と承認 (主体の識別と権限の付与をする機能) 電子署名で書き込み者を識別。アプリケーションが承認
8.
計算機科学的に見たブロックチェーン ● 状態遷移機械 (State
machine) たるノード ● 状態遷移機械を複製するための、コンセンサス アルゴリズム (合意形成アルゴリズム) ● 命令の単位としてのトランザクション この枠組みの中で様々な種類のブロックチェーンが検討できる ● パブリック チェーン / プライベート チェーン ● PBFT 型コンセンサス / DAG コンセンサス ● サイドチェーン
9.
巨人の肩の上に立つ技術 ブロックチェーンは以下の基礎技術の組み合わせから実現されたもの ● 公開鍵 …
電子的な身分と、それに紐づく署名の実現 ● ハッシュの連結 … 過去のデータの完全な長期保存を実現 ● 合意形成アルゴリズム … 分散システム下、複数ノードでのデータ同期 ● ビザンチン耐性 … 一定数の対立ノードがいても合意形成を可能にした ● P2P … ネットワーク上での効率的な情報の配布 ● スマート コントラクト … プログラムによるルールの執行、自律組織の提言 参考 (強くおすすめする) Bitcoin's Academic Pedigree. Arvind Narayanan and Jeremy Clark. Acmqueue: Volume 15, issue 4. https://queue.acm.org/detail.cfm?id=3136559
10.
前のブロックの要約が、次のブロックの冒頭に記載。ブロックチェーンの完全性の検証 には、要約の正しい連なり (ハッシュ チェーン)
および合意形成の証憑の確認で足りる 過去のブロックを改竄するには、一貫性を保つため最新ブロックまで 改竄が必要。ブロックごとに合意形成が必要な仕組みなので、 合意の改竄も必要。総合すると現実的には著しく困難 前ブロック … 日時 2009/1/3 … 取引 ID … 前ブロック … 日時 2009/1/3 … 取引 ID … 前ブロック … 日時 2009/1/3 … 取引 ID … 前ブロック … 日時 2009/1/3 … 取引 ID … 前ブロック … 日時 2009/1/3 … 取引 ID … 技術的背景 (1) - ハッシュ チェーン 0 1 2 3 4 改竄! 後続ブロックすべての 要約の変更が必要
11.
ba71e921497a45cb09b98a0f… 要約 技術的背景 (1) -
ハッシュ チェーン 前のブロック 000000000003ba27aa200b1c… 日時 2010/12/29 12:06:44 取引 ID ● … 前のブロック 00000000000080b66c911bd5… 日時 2010/12/29 12:17:31 前のブロック 000000000003ba27aa200b1c… 日時 2010/12/29 12:34:56 取引 ID ● … 齟齬が生じる ブロック 100001 ブロック 100002 ブロックを改竄すると要約が変化。ハッシュ関数の性質 より、要約を変えずに内容を変更するのは事実上不可 能。 要 約
12.
技術的背景 (2) -
合意形成 参加するサーバ間で、データの書き込み可否を決定する仕組みが存在 (合意形成) 定期的にいずれかのサーバが新規に発生した書き込みデータをブロックにまとめ、 参加ノード間で合意形成を行う (例: Bitcoin は 10 分毎)。各ノードは、データの 様式が正当であれば機械的に受理する。合意が形成されると、 電子的な証憑が付されて容易に検証可能。一定数の違反 ノードが存在してもシステム運営に影響しない サーバ サーバ サーバ サーバ ブロック作成の提案 投票
13.
ブロックチェーンの向き・不向き 向いているケース ● 厳密な完全性が求められる (改竄がいっさい許されない) ブロックチェーンのデータ構造の耐改竄性が強く活きる ●
利害関係の調整が困難 (運営者間での資本関係が異なる場合等) システム的な合意形成によって、データの書き込みを機械的に実施可能 向いていないケース ● 運営主体やデータ利用者の全てが、同一の利害関係を有するケース 平常時に改竄が起こる可能性を仮定する必要がなく、より単純な構成が可能 ● データ自体に保護するまでの高い価値がないケース ブロックチェーン運営のコストと比して上回る保護目的が必要
14.
ブロックチェーンの難点 ● 情報の即時書き込み 複数ノードで書き込みを受け付ける分散システムである以上、構成ノード間で合意 形成を経ねばならず、一定のオーバーヘッドがある。 ● データの圧縮 過去のデータをすべて保持していないと、ブロックチェーン全体の妥当性が検証で きないので、古いデータの削除が不可能。ハッシュ値は情報量
(エントロピー) が大 きいので圧縮しにくい。 ● バージョン アップが著しく難しい チェーンの互換性を保ったまま、ソフトウェアの更新を行う には、参加ノード間での事前の調整機構が必要
15.
ブロックチェーンの課題 ● スケーラビリティの確保 シャーディングで、構成ノード間で管理するデータ空間の分散が可能。スマート コン トラクトの実行はどのように実現するか。分散計算技術が必要 ●
ブロックチェーンの状態と現実との対応付け ブロックチェーンの記載内容が妥当でも、現実で強制する手段が欠如 ● 機密性の確保 全ノードでデータ共有される。取引情報等を秘匿したまま記録する暗号技術が必要
16.
(参考) MinChain について 教育用ブロックチェーンとして
Bitcoin を参考に作成したブロックチェーン https://github.com/yutopio/MinChain ● 約 2,000 行程度の C# で実装 ● MessagePack によるブロックやトランザクションのシリアライズ ● Proof of Work によるコンセンサス アルゴリズム ● 簡単なマイニング アルゴリズムの実装 ● MIT License に基づく再利用・頒布可
17.
社会とブロックチェーン
18.
活用できるシナリオ ● 改竄からの保護に意味があること ➔ 金融商品、価値の大きい物の取引 ➔
公共性の高い情報 ● データを編集できる権限者同士に、利害関係の対立があること ➔ 契約・履行、決済 ➔ 決裁などの記録 ● 迅速かつ自動的に取引が終了させられること ➔ プログラム的に契約が記述できる契約 ➔ ワークフロー、ルールに基づく状態遷移
19.
ブロックチェーンと金融商品の関連 多くのブロックチェーンは、現物 (仮想通貨やトークンそのもの) のみを扱うが、それ以外 の金融商品も扱えるようにしたい ●
差金決済取引 … 担保となる証拠金をもって、その数倍の価値の売買を行う ● 先物 … 将来の期日に取引を行う契約。当事者双方が対等 ● オプション … 将来の期日に取引を行える権利。持っている側が行使の有無を決定 ● インデックス … 複数の金融商品の価格から計算した指標数値 さらに実際には、これらを組み合わせて売買を行えるようにするニーズがある (例) バーティカル ブル コール スプレッド 同一限月のオプションのうち、権利行使価格が安いコールの買いと権利行使価格が高いコールの売り https://www.jpx.co.jp/derivatives/options/strategy/examples/
20.
ブロックチェーンと法律の関連 現実の法律行為を全面的にブロックチェーンで記述するには、課題が多い ● “物” のデータ表現をどうするのか
(民86) ○ 動産 … 同一なものが多数存在しうる。 ○ 不動産 … 土地、建物など。唯一固有に存在。所有者を公示する意味が重い。 ● 法律行為をどうコントラクトに記述するのか ○ 契約に書ききれない細かいことは、どうやって解釈できるのか ○ コントラクトの記述における錯誤は無効化できるのか (民95) ○ 代理はどう執行するのか、代理権限の範囲はどう記述するのか (民99) ● 債務はどう記述するのか ○ 財産権の規定に違反せず、債務を負っている状態をどう表現するか (憲29) ○ 物を目的とする債務と、行為を目的とする債務とをどう差別化するのか (民399) ○ 履行の期限はどう表現するのか (民412) ○ 履行できない場合はどうするのか (民414)
21.
不動産登記とブロックチェーン ● 不動産登記記録 ● 不動産登記における抹消 ●
不動産登記のブロックチェーンとの親和性
22.
不動産登記記録 以下の法令によって規定される土地および建物についての登記の記録 ● 不動産登記法 ● 不動産登記令 ●
不動産登記規則 ● 不動産登記事務取扱手続準則 不動産登記法 (目的) 第一条 この法律は、不動産の表示及び不動産に関する権利を公示するための登記に関する制度について定めることにより、国民 の権利の保全を図り、もって取引の安全と円滑に資することを目的とする。 (定義) 第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。 一 不動産 土地又は建物をいう。 …
23.
なぜ不動産登記記録が必要なのか 取引の安定を図るために、取引相手が真実の権利者であるか判断する必要がある。こ こで問題になるのが次の場合である 1. 権利者でない人間が、真実の権利者に成り代わって法律行為を行う場合 2. 真実の権利者が、複数の相手に互いに相容れない法律行為を行う場合 それぞれ、次のように解決すればよい 1.
不動産について誰が権利者であるのかを示す仕組みを用意することで、真実の権 利者ではない者との間で法律行為を行うのを防ぐことができる 2. 当事者以外の第三者に対して自己の権利を主張する方法 (対抗要件) として、権 利者を記載した帳簿を用意し、その内容に対抗力を認めれば良い つまり不動産登記記録があれば足りる
24.
不動産登記の登記事項証明書は誰でも取得できる 法務局、地方法務局、支局、出張所において管轄地域内の不動産の登記記録について の証明を取得できる (オンライン申請も可能) 参考 登記情報提供サービスを利用すれば、最新の登記事項を取り寄せることができる (認証 文の付与はない)
http://www1.touki.or.jp/ 不動産登記法 (登記事項証明書の交付等) 第百十九条 何人も、登記官に対し、手数料を納付して、登記記録に記録されている事項の全部又は一部を証明した書面(以下「登 記事項証明書」という。)の交付を請求することができる。 …
25.
不動産登記は万能か 登記しない限り、その権利について第三者に対抗できない (公示の原則) その一方、登記された内容を信じて法律行為を行った場合には必ず有効か? ● 例:
ある土地 A について、甲が乙に対して売却した。乙は所有権の移転を登記しな かった。その後、甲が丙に土地 A を売却した。この売却の効力は? 日本の民法は、不動産について公信の原則を適用しない 民法 (不動産に関する物権の変動の対抗要件) 第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法 律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
26.
不動産登記情報 以下の 3 部からなる ●
表題部 ● 権利部 (甲区) ● 権利部 (乙区) 登記が発生すると ● 目的、内容、原因 ● 登記者 ● 日時 等が追記されていく 引用元: 不動産登記記録例集 : 平成21年2月20日法務省民二第500号 引用元: 民事局長通達. 17ページ
27.
不動産登記簿の構成 ● 表題部 …
どの土地・建物であるかを識別するための情報 (土地家屋調査士が取り扱う部分) ● 権利部 … 表題部に示された土地に存在する権利関係を記録した情報 (司法書士が取り扱う部分) ○ 甲区 … 権利のうち、所有権についてのみ記載された部分 ○ 乙区 … その他の物権 (抵当権、地上権、賃借権、先取特権など ) が記載された部分
28.
不動産登記における抹消 登記簿においては、変更や更正に際して「抹消」が記録される 不動産登記規則 (表題部の変更の登記又は更正の登記) 第九十一条 登記官は、表題部の登記事項に関する変更の登記又は更正の登記をするときは、変更前又は更正前の事項を抹消 する記号を記録しなければならない。 … (権利の変更の登記又は更正の登記) 第百五十条 登記官は、権利の変更の登記又は更正の登記をするときは、変更前又は更正前の事項を抹消する記号を記録しなけ ればならない。
29.
不動産登記における抹消が起こる例 ● 従前の登記情報の消去 ○ 表題について、地目・地積・所在地
(行政区分変更、曳行移転 ) などの変更 ○ 権利について、権利者の名称・住所などの変更 ○ 土地の合筆や、土地・建物の滅失などによる表題部に示す不動産の消失 (閉鎖) ● 錯誤による抹消 (更正登記) ○ 登記申請情報自体の誤り ○ 登記官の過誤 ● 所有権以外の物権、敷地権 (区分所有建物) の登記の抹消 ○ 物権の効力がなくなった場合 (抵当の弁済、存続期間の満了など ) ○ 強制執行、差押え、競売、破産など
30.
「抹消する記号」 従前の登記内容について、下線をひき、元の内容は読めるように残しておく 引用元: 不動産登記記録例集 :
平成21年2月20日法務省民二第500号民事局長通達. 65ページ 抹消された情報
31.
不動産登記のブロックチェーンとの親和性 不動産登記情報の管理には次の特徴がある ● 完全性がきわめて重要である ○ 登記された事項について、一切の改変が許されない ○
記載事項の消去が存在せず、抹消線を引いて履歴を残す ● 高い公共性がある ○ 公示の原則のもと、誰もが閲覧できることが重要 (住民登録と異なる点 ) ○ 障害等によりシステムが稼働できない状況が許されない ● 記載された情報について、利害関係が明確に存在する ○ 土地の権利の移転など、大きな価値のやり取りが発生しうる ブロックチェーンのもつ完全性、可用性の特長が非常に活きるシナリオ
32.
参考: 実際に執行されている費用 引用元: 平成30年度
行政事業レビューシート 登記情報システムの維持管理 http://www.moj.go.jp/content/001263224.pdf
33.
法的な検討事項 不動産登記法から不動産登記事務取扱手続準則まで、すべてに影響が出る ● 登記事項証明書が不要になる (法
第119条) ○ ブロックチェーンの情報は誰でも検証可能なので、データ自体を正本として扱える ● 書面を提出する方法での登記の取り扱いが変化する (令 第15条以下) ○ 登記官などが代理でブロックチェーンに記載する方法を用意する必要がある ● 閉鎖登記という概念がなくなる (準則 第17条) ○ システム開始時点から恒久的にデータが保存される。保管期間の定めが不要 ● 受付番号の前後が厳密ではなくなる (準則 第31条) ○ ブロックの生成時間に応じて記録されるので、同一ブロック内での順位は不定。数秒のズレ ● 登記識別情報のシステム上での扱いが難しい (準則 第41条) ○ ブロックチェーンの公開性の秘匿化が難しい。代替の権利証明手段が必要
34.
これから進むべき方向
35.
これからのブロックチェーンのビジネスの方向 ● ブロックチェーンが本当に向いていることはなにか考えよう ○ 暗号通貨だけがブロックチェーン技術の応用先ではない ○
「なぜブロックチェーンなのか? 分散データベースではだめなのか?」 ○ 改竄から保護する価値が高い情報、参加者の利害関係調整が難しい場面 ● 基礎研究が非常に重要 ○ 分散システムの協調にかかる効率。分散データの高速同期。分散計算 ○ 計算機科学の ○ 暗号学的手法の新たな応用。ゼロ知識証明 ● この分野は、エンジニアリングができるだけではダメかもしれない ○ システム参加者における全体最適解の模索。合理的なアーキテクチャ ○ 現実世界との対応付け。社会的観点を取り入れたシステム