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ブロックチェーン技術の課題と社会応用
- 2. 竹井 悠人
株式会社 bitFlyer
ブロックチェーン開発部 部長 兼 最高情報セキュリティ責任者
情報処理安全確保支援士 / 宅地建物取引士 / 測量士
東京大学 理学部を 2011、同大学院 情報理工学系研究科を 2013 に修了
在学中ソフトウェア エンジニアとして Google, PFN, パリ南大学でインターン
卒業後、情報処理推進機構 (IPA) による未踏事業 クリエータとして活動
複数ベンチャー創業するが資金調達に至らず。原告として本人訴訟し和解など
その後、開発コンサルティングを行ううち、顧客だった bitFlyer に就業
2018 より東京工業大学 情報理工学院 博士課程に在籍
@yutopio_ja
- 5. ブロックチェーンとは
分散台帳技術 (DLT) のひとつ
● ネットワークの参加者であれば誰でもいつでも、一定の様式を満たす情報を書き込
むことができ、別の参加者から読み出すことができるようになる
● 様式に外れた書き込み要求 (不正なデータ等) は、却下される
● 一定数 (理論的には全体の 1/3 未満)、不当な参加者がいても動作する
技術的には
● 任意の情報を「ブロック」と呼ぶ単位に含めて、それらどうしを要約してチェーン状に
つないだデータ構造
● 上記のデータを効率よくコンピュータ間で同期し、また正当
であるか検証するための技術の総称
- 8. 計算機科学的に見たブロックチェーン
● 状態遷移機械 (State machine) たるノード
● 状態遷移機械を複製するための、コンセンサス アルゴリズム
(合意形成アルゴリズム)
● 命令の単位としてのトランザクション
この枠組みの中で様々な種類のブロックチェーンが検討できる
● パブリック チェーン / プライベート チェーン
● PBFT 型コンセンサス / DAG コンセンサス
● サイドチェーン
- 9. 巨人の肩の上に立つ技術
ブロックチェーンは以下の基礎技術の組み合わせから実現されたもの
● 公開鍵 … 電子的な身分と、それに紐づく署名の実現
● ハッシュの連結 … 過去のデータの完全な長期保存を実現
● 合意形成アルゴリズム … 分散システム下、複数ノードでのデータ同期
● ビザンチン耐性 … 一定数の対立ノードがいても合意形成を可能にした
● P2P … ネットワーク上での効率的な情報の配布
● スマート コントラクト … プログラムによるルールの執行、自律組織の提言
参考 (強くおすすめする)
Bitcoin's Academic Pedigree. Arvind Narayanan and Jeremy Clark.
Acmqueue: Volume 15, issue 4.
https://queue.acm.org/detail.cfm?id=3136559
- 10. 前のブロックの要約が、次のブロックの冒頭に記載。ブロックチェーンの完全性の検証
には、要約の正しい連なり (ハッシュ チェーン) および合意形成の証憑の確認で足りる
過去のブロックを改竄するには、一貫性を保つため最新ブロックまで
改竄が必要。ブロックごとに合意形成が必要な仕組みなので、
合意の改竄も必要。総合すると現実的には著しく困難
前ブロック …
日時 2009/1/3 …
取引 ID
…
前ブロック …
日時 2009/1/3 …
取引 ID
…
前ブロック …
日時 2009/1/3 …
取引 ID
…
前ブロック …
日時 2009/1/3 …
取引 ID
…
前ブロック …
日時 2009/1/3 …
取引 ID
…
技術的背景 (1) - ハッシュ チェーン
0 1 2 3 4
改竄! 後続ブロックすべての
要約の変更が必要
- 11. ba71e921497a45cb09b98a0f…
要約
技術的背景 (1) - ハッシュ チェーン
前のブロック
000000000003ba27aa200b1c…
日時
2010/12/29 12:06:44
取引 ID
● …
前のブロック
00000000000080b66c911bd5…
日時
2010/12/29 12:17:31
前のブロック
000000000003ba27aa200b1c…
日時
2010/12/29 12:34:56
取引 ID
● …
齟齬が生じる
ブロック 100001 ブロック 100002
ブロックを改竄すると要約が変化。ハッシュ関数の性質
より、要約を変えずに内容を変更するのは事実上不可
能。
要
約
- 12. 技術的背景 (2) - 合意形成
参加するサーバ間で、データの書き込み可否を決定する仕組みが存在 (合意形成)
定期的にいずれかのサーバが新規に発生した書き込みデータをブロックにまとめ、
参加ノード間で合意形成を行う (例: Bitcoin は 10 分毎)。各ノードは、データの
様式が正当であれば機械的に受理する。合意が形成されると、
電子的な証憑が付されて容易に検証可能。一定数の違反
ノードが存在してもシステム運営に影響しない
サーバ
サーバ
サーバ
サーバ
ブロック作成の提案
投票
- 16. (参考) MinChain について
教育用ブロックチェーンとして Bitcoin を参考に作成したブロックチェーン
https://github.com/yutopio/MinChain
● 約 2,000 行程度の C# で実装
● MessagePack によるブロックやトランザクションのシリアライズ
● Proof of Work によるコンセンサス アルゴリズム
● 簡単なマイニング アルゴリズムの実装
● MIT License に基づく再利用・頒布可
- 20. ブロックチェーンと法律の関連
現実の法律行為を全面的にブロックチェーンで記述するには、課題が多い
● “物” のデータ表現をどうするのか (民86)
○ 動産 … 同一なものが多数存在しうる。
○ 不動産 … 土地、建物など。唯一固有に存在。所有者を公示する意味が重い。
● 法律行為をどうコントラクトに記述するのか
○ 契約に書ききれない細かいことは、どうやって解釈できるのか
○ コントラクトの記述における錯誤は無効化できるのか (民95)
○ 代理はどう執行するのか、代理権限の範囲はどう記述するのか (民99)
● 債務はどう記述するのか
○ 財産権の規定に違反せず、債務を負っている状態をどう表現するか (憲29)
○ 物を目的とする債務と、行為を目的とする債務とをどう差別化するのか (民399)
○ 履行の期限はどう表現するのか (民412)
○ 履行できない場合はどうするのか (民414)
- 26. 不動産登記情報
以下の 3 部からなる
● 表題部
● 権利部 (甲区)
● 権利部 (乙区)
登記が発生すると
● 目的、内容、原因
● 登記者
● 日時
等が追記されていく
引用元: 不動産登記記録例集 : 平成21年2月20日法務省民二第500号
引用元: 民事局長通達. 17ページ
- 27. 不動産登記簿の構成
● 表題部 … どの土地・建物であるかを識別するための情報
(土地家屋調査士が取り扱う部分)
● 権利部 … 表題部に示された土地に存在する権利関係を記録した情報
(司法書士が取り扱う部分)
○ 甲区 … 権利のうち、所有権についてのみ記載された部分
○ 乙区 … その他の物権 (抵当権、地上権、賃借権、先取特権など ) が記載された部分
- 29. 不動産登記における抹消が起こる例
● 従前の登記情報の消去
○ 表題について、地目・地積・所在地 (行政区分変更、曳行移転 ) などの変更
○ 権利について、権利者の名称・住所などの変更
○ 土地の合筆や、土地・建物の滅失などによる表題部に示す不動産の消失 (閉鎖)
● 錯誤による抹消 (更正登記)
○ 登記申請情報自体の誤り
○ 登記官の過誤
● 所有権以外の物権、敷地権 (区分所有建物) の登記の抹消
○ 物権の効力がなくなった場合 (抵当の弁済、存続期間の満了など )
○ 強制執行、差押え、競売、破産など
- 33. 法的な検討事項
不動産登記法から不動産登記事務取扱手続準則まで、すべてに影響が出る
● 登記事項証明書が不要になる (法 第119条)
○ ブロックチェーンの情報は誰でも検証可能なので、データ自体を正本として扱える
● 書面を提出する方法での登記の取り扱いが変化する (令 第15条以下)
○ 登記官などが代理でブロックチェーンに記載する方法を用意する必要がある
● 閉鎖登記という概念がなくなる (準則 第17条)
○ システム開始時点から恒久的にデータが保存される。保管期間の定めが不要
● 受付番号の前後が厳密ではなくなる (準則 第31条)
○ ブロックの生成時間に応じて記録されるので、同一ブロック内での順位は不定。数秒のズレ
● 登記識別情報のシステム上での扱いが難しい (準則 第41条)
○ ブロックチェーンの公開性の秘匿化が難しい。代替の権利証明手段が必要