Tpp
- 1. TPPを慎重に考える会4.13勉強会
文責TPPを慎重に考える国民会議事務局
郵政民営化見直し法案とTPPの行方(未定稿)
拓殖大学日本文化研究所客員教授
関 岡 英 之
(山田会長)
昨日、郵政法案が通ったものの、米国政府は早速、郵政法案はTPPに逆行するもの
だから、16業界団体が郵政法案そのものに対して自由な競争を妨げるものとして、非
常に懸念というか反対を表明している。そういう状況の中で、郵政法案は参議院でも可
決されていくと思うが、その後、アメリカ側は郵政に対してどういうスタンスで臨んで
くるのか、今日は郵政問題に大変詳しい関岡先生に郵政問題についてのこれからの方向
と懸念される事項等々、そしてTPPはこれで本当にいいのかという問題まで含めて色
々先生から教えて頂きたいと思っている。どうかよろしくお願いしたい。
(関岡教授)
1.小泉政権による郵政民営化の本質
改めて郵政民営化とはどういう事かを振り返ってみたい。
郵政民営化は、歴代自民党政権が推進してきた構造改革の本丸と最終的な目標だと位
置づけられていたが、そもそも我が国が構造改革といったものをはじめた歴史を振り返
ってみると、その発端のところからアメリカ政府が非常に深く関わっていたという事実
がある。
○「構造改革」20年→米国の要望に基づいていた
簡単な年表が書いてある。そもそものきっかけは平成元年、1989年、宇野総理と
父親の方のブッシュ大統領で合意された日米構造協議がきっかけになっており、その後
いろんな変遷を経て小泉、ブッシュ首脳会談における成長のための日米経済パートナー
シップといった形で、一連の大きな流れがあって、その中で、例えば橋本政権による金
融ビッグバンを中心とした6大改革とか、郵政民営化を中心とした小泉政権による痛み
を伴う聖域無き構造改革とか、こういった一連の政策が発動される重要なタイミング、
節目節目に日米首脳会談が行われてきている。
この構造改革の全てとはいわないが、かなりの部分が米国の要望に基づいていた。1
994年11月、年次改革要望書の交渉が開始と書いてあるが、これがそういったメカ
ニズムの象徴的な文書かと言えると思う。
○「構造改革」の原点 日米構造協議(SIIとは)
そもそもの原点である日米構造協議という言葉だけれども、アメリカ側はSIIと言
っている。これは、Structural Impediments Initiative という頭文字をとっている
けれども、Structuralという言葉が構造という言葉でこれが構造改革という言葉になっ
ている。それからImpedimentsという言葉は障壁ということだが、これが現在TPPで
問題になっている非関税障壁の事である。
このSIIというのは 、そもそもは構造改革によって非関税障壁を撤廃していくこと 。
ところが元々アメリカ側が提案してきたものだから英語の訳だけれども、要するに日本
側に存在する非関税障壁だ。つまりアメリカ側が財やサービスを日本に輸出するときに
障壁となるバリアを撤廃することが構造改革だ、こういった形で始まってきた。
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- 3. 君臨したのが 、モーリス・グリンバーグという人だが 、日本経済新聞社の記事によると 、
この方がジャパン・バッシングの急先鋒として日米保険協議を主導していた。この方が
一連の動きの仕掛け人というか発起人だった訳で、中心人物となっている。
○簡保120兆円はカナダのGDPに匹敵(2005年当時)
モリス・グリーンバーグから見た簡保というのは、2005年当時の話であるが、小
泉政権時代には郵貯・簡保あわせて350兆円、そのうち簡易保険が持っている資産が
120兆円であった。当時1ドル120円だったので、これをドルに換算すると1兆ド
ルになる 。これは 、カナダのGDPに匹敵する大きな規模であり 、それが従来は郵政省 、
総務省など政府直営であるために外国資本が買収することができなかったということで
ある。郵政民営化の中では、当時郵貯が230兆円ということで簡保より倍の資産を持
っていたが、アメリカは一貫して簡保、つまり保険分野に絞って様々な要求を出してい
た。
○金融ビジネスとしての保険
なぜ、金額の大きい郵貯ではなくて、半分の規模にすぎない簡保にアメリカのイント
ラストが強いのかというと、金融ビジネスとしてみた場合、銀行と保険を比較してみる
と、銀行預金は比較的預金者が自由に預入れや引出しを行うことができ、扱う側の金融
機関の側から言うと、非常に安定性の欠ける資金となるが、保険業界の場合は、一度契
約を取ると毎月の保険料はコンスタントに入ってくる。引き出しを請求されるのは、例
えば生命保険の場合は死亡時、ガン保険であればガンの診断が起きたときであり、20
年30年は償還する必要がない資金である。
つまり、金融業界では、銀行資金は短期性資金であり、保険業界が持っている資金は
長期性資金と位置づけている。アメリカの金融業界は保険会社を長期性資金の出金マシ
ーンとして捉えている。これは、米国債とか様々なファンドとか現有の先物とか様々な
運用資金の原資として深いイントラストを持っていたということになる。
○具体的方法とは?
具体的に郵政民営化をどう進めるかについてであるが、2004年に至って年次改革
要望書でアメリカの要望がかなり具体化してきている。
まず一項目目に上げられてきたのが金融事業、つまり簡保と郵貯、それと郵便事業で
ある非金融事業の間の相互補助の可能性を排除する。
それから、郵便保険、アメリカ側が翻訳しているので郵便保険と書いているが簡易保
険のことである。それと郵貯に民間企業と同様の法律、規制、納税義務、責任準備金、
基準及び規制監督を適用する。3項目には、郵政事業に対しての独占禁止法の適用除外
を解除するという三本柱となっていた。
○米国が要望した「郵政民営化」
つまり、図式化するとアメリカが要請した郵政民営化というのは、3事業一体で運営
されていた事業のうち、金融部門(簡保と郵貯)保険部門と銀行部門を証券取引所に上
場する。民間会社へ移行させると同時に、金融庁の検査とか監査法人の監査、独禁法の
適用除外を解除することから公正取引委員会の監視対象とする形で、更に同時に外国資
本によるN&Aの対象にするということ。
奇しくも郵政民営化法案が成立した2005年には、通常国会で会社法も成立してい
る。その中で外資による株式交換、いわいる三角合併といったものも解禁されている。
株式交換は、元々我が国で禁止されていた手法であるが、まず日本の国内企業に解禁さ
れて 、それを駆使して短期間にライブドア帝国を築き上げたのが堀江貴文さんだったが 、
外資に対しても解禁するというのが、郵政民営化法案が成立した同じ年に成立した。こ
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- 5. 共済「改革案」と郵政民営化の連動性
このメンバーが打ち出した2010年6月に第1次報告書を出しているが、その中で
共済に関して 、「農協の信用(=銀行部門 )・共済(=保険)事業部門から営農指導部門
から自立させなさい。農協に関する金融庁検査・公認会計士の監査を実施しなさい。独
禁法の適用除外の見直しなさい 。」これは正に郵政に関して米国が要求していたことと表
現は違うが、基本的には全く同じことを言っているので、金融部門を分離して、これを
金融庁と分離して会計監査、公正取引委員会の監視対象とするということ。正に、郵政
民営化と同じ図式がここで描かれている。
○共済はどうなるのか?
いろいろな団体が行っている。JA、生協、労組、中小企業など、いずれも営利事業
ではない。日本的な組合員間の相互扶助としておこなわれているが、米国の資本の論理
では、そうではなく保険ビジネスであって市場を開放せよと言うことである。
レジメには記載していないが、公務員の方々の公務員共済もやっている訳だから、政
治的な重要性からすれば、私はむしろ郵政民営化よりも共済の方がいろいろな政治的な
意味を持ってくるのではないかと考えている。
3.TPPと混合診療問題 保険市場としての医療分野
官営の保険では我が国にはもう一つ、政府が行っている保険がある。先ほどの米国政
府「年次改革要望書」の中には、準公的機関による保険を全て廃止ないしは削減するこ
とを強く求めるという表現がされているが、もうひとつの官製保険が健康保険、医療保
険の分野である。
TPP24作業部会
TPPの24のテーマの中の「サービス(金融 ) 」があり、そこで簡保と共済を取り上げ
ると米国政府も文書の中で言っている。
医療保険については、政府資料「TPP協定交渉の分野別状況「金融サービス 」 」にお
いて 、左欄 、平成23年10月資料(前回)では 、 医療分野は協議の対象になっていない模様 」
「
と当時は言われていた。ところが、右欄、平成24年3月改訂では、その間に一度改訂さ
れており、内容は新聞でも報道されている。外務省が10月の説明を修正して 、 「混合診療
が協議の対象となる可能性は排除できない」と新聞でも広く報道されていた。現在の資
料は、また違った表現となっている。
○混合診療解禁の動き
なぜ、混合診療について可能性が排除できないかと言えば、自民党政権時代に混合診
療が解禁されるに当たって、アメリカとさまざまな経緯があったからである。
小泉政権時代の2004年3月には 、米国ラーソン国務次官が混合診療の解禁を求めた( 日
本経済新聞報道 )。不思議なことに米国には、厚生労働省のカウンターパートである、保
険福祉省があるが、なぜ外交担当の次官が混合診療の解禁を求めるのか、私には理由が
わからない。
その3ヶ月後の6月の日米投資イニシアチブ報告書では、米国政府が医療サービスの
一環として、保険診療及び保険外診療の明確化及び混合診療の解禁について要請した。
これは外交上の公式文書で正式に要請があった。その3ヶ月後、小泉総理が混合診療に
ついて年内に解禁の方向で結論を出すことを担当相に指示をした。9月の時点で年内と
言えば、残り3ヶ月しかないがこれが実現した。12月には、当時の尾辻厚生労働大臣と
村上規制改革担当大臣との間で「混合診療問題に係る基本的合意」がされた。
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- 6. この動きをまとめると、2004年3月のラーソン国務次官発言から9ヶ月後に、混合診
療の部分解禁が実施されているので、米国の外圧恐るべしと言うことである。
この時、厚生労働省と日本医師会が強く抵抗したこともあり、部分解禁に終わってい
る 。今後 、米国が全面解禁を要求してくる可能性は非常に高いということは 、内閣官房 、
外務省も認めている。
○混合診療とは何か
混合診療という言葉は、一般の国民には馴染みがない言葉である。どういう時に関わ
ってくるかといえば、例えばガンは日本人の国民病になっている。ガンの3大療法のう
ち、手術、放射線に関しては局所療法になる。進行ガンの場合には抗ガン剤しかないの
で、抗ガン剤には薬剤耐性が発生する決定的な弱点がある。よって保険で認められた薬
を使い果たすと、ガン難民にならざるを得ないと、こういった時に混合診療の問題と直
面をする。
これは、ある卵巣ガンの患者が実際に支払ったものである。抗ガン剤の点滴治療のた
めに2泊3日入院した際の費用は、入院費自己負担3割で6万円、PETーCTによる
画像審査費が3万円、抗ガン剤(タキソール、カルボプラチン)2剤併用の場合で9万
円、合計18万円となるが、保険の高額療養費制度で上限が決まっているため、通常の所
得の方の場合は月額8万円で済んでいる。
問題は、抗ガン剤で承認薬を全て使い果たした場合、未承認薬でも試したくなるがこ
れは保険が適用されない。現在、基本的に混合診療が原則禁止となる状況では、入院費
や検査費にも保険が適用されないということで 、自己負担が一気に60万円に跳ね上がる 。
この場合承認薬、未承認薬、別の薬であるが値段は同じ前提として、ひとつのモデルと
してご容赦願いたい。
もし、混合診療が全面的に解禁されると、未承認薬には保険は適用されないが、入院
費や検査費には保険が適用されるので、月額負担は40万円に下がり20万円負担が軽減さ
れるとして、混合診療解禁推進派の方はここを患者さんのメリットと強調している。
しかし現実問題としては、一番費用が掛かるのは入院費や検査費ではなく、薬剤費そ
のものである 。その負担が月額40万円と 、しかも抗ガン剤は1回打って終わりではなく 、
標準的には6クール(半年 )、場合によっては12クール(1年)と継続することが前提と
なっている。果たしてこれを負担できる国民は何割位いるのか。
混合診療が解禁されても、恩恵を受けられる患者さんは非常に限られている。しかも
これは、標準治療1回の点滴30万円は標準治療である。最近の最新の治療では、分子標
的薬などでは、1回の点滴に100万円と、これは抗ガン剤との3剤併用の場合であるが、
6クールで600万円が現実に存在する。
○混合診療の何が問題か?
具体的には、ベバシズマブがあるが、現在我が国では、再発大腸ガンや再発乳ガンで
は保険適用がされているので、高額療養費制度の上限によって月額8万円で適用するこ
とができる。
一昨年のアメリカ臨床治療学会で、卵巣ガンにも非常に有効であると研究発表がされ
ていた。我が国の卵巣ガンの患者の中でも、この薬を使いたいと高まっているが、残念
ながら現在は保険の適用外であるため使用することができない。極論すれば4人部屋の
病棟で、今の患者さんはこの薬を使っているが、隣に寝ている卵巣ガンの患者さんは使
えない状況になっている。
もし混合診療が解禁されれば、個人輸入によって使うことは可能になるが、薬剤費は
月々100万円の自己負担になり、プラスアルファーが入院費や検査費であるが、ここの部
分にだけは保険が利くということである。混合診療が解禁されたとしてもできる方は限
られ、なかなか簡単にはできない。
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- 7. 私が知る限り、現在ガンの患者団体で混合診療の解禁を求めて活動している団体は一
つも無いと思う。実は私自身がガン患者の家族という立場であるが、混合診療を解禁し
ても、べバシズマブを享受すること難しい状況にある。多くのガン患者あるいはその家
族が求めているのは、1日も早い保険収載である。
○混合診療 推進はの論理
このように混合診療は、患者や家族の立場からは事実上メリットがない。では、どの
ような方々が推進しているかといえば、国内の推進派の理論的支柱である八代尚弘先生
がいる。小泉政権時代は規制改革会議の委員をされ、安部政権時代には、政権交代後廃
止されたが経済財政諮問会議の民間議員などを歴任された方である。
この方は2003年に刊行された著書『 規制改革 』の中で 、次のように正直に書いている 。
「患者の自己負担率が高まれば、公的保険でカバーされる範囲が事実上、縮小すること
となる。そうなれば、自己負担分をカバーするための民間保険が登場する 。 」これを図式
化するとこのようになる。
○日本の医療保険制度
現在の我が国の医療保険制度は、縦軸に年収、横軸に年齢をとってみると実は全て一
律平等の給付内容となっている。どんなに所得が高い方でも、一般の方と同じ現物給付
となっており、これは国民皆保険の優れたところであり、公平性・平等性が担保されて
いる。
混合診療が解禁されると、例えば未承認薬の海外の高い薬などを併用する。保険外診
療と保険診療を併用する形となってくる。しかし、先ほど説明したが、1回の点滴で100
万円という事例も普通にあるため、どんな富裕層であっても自己負担は決して軽いもの
ではない。このため、保険外診療をカバーする民間保険があれば、あらかじめ入ってお
こうというニーズが発生する。これが「民間保険が登場する」となるわけである。
○アメリカ政府とのTPP事前協議(2012年2月7日局長級)
先ほど政府側から配られた分野別交渉状況の16ページをもう一度ご覧いただきたい。
現在の説明はこうであるということが、平成24年3月改定の1.の(4)の※印のところに
記載されている。この言葉は、実は今年の2月7日にワシントンで行われたアメリカと
の局長レベルの事前協議の後に、内閣官房が発表したものであるが 、「公的医療保険制度
を廃止し、私的な医療保険制度に移行する必要があるとの情報が流れているが、アメリ
カが他のTPP交渉参加国にそのようなことを要求することはない」ことが、今日配布
された冊子にも反映されている。
○TPPに参加しても公的保険の「廃止」はあり得ない →縮小を迫られる可能性が大
この説明は、廃止」という言葉が使われている。TPPに仮に参加したとしても、公
的保険の廃止はあり得ないと私は考えている。
可能性としてあるのは 、先ほど八代先生の言葉にあったように「 縮小 」である 。現在 、
我が国の医療保険制度は公的保険一本になっているが、アメリカの保険業界が望んでい
るのは、ここに民間医療保険の領域をつくる。
言ってみれば、公的保険と民間保険が併存する形がアメリカにとって最も望ましいわ
けである。今はエコノミークラスしかないため、どんな大富豪であってもエコノミーク
ラスに座らなければならないため、そこにファーストクラスをつくろうというわけであ
る。このような形が、アメリカにとって最も望ましい医療保険のあり方である。公的保
険が廃止されることもないし、何らかの保険によってカバーされるという意味では、国
民皆保険も維持されるわけである。
TPP反対派の一部には 、「公的保険が廃止される 」「国民皆保険が崩壊する」と言わ
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- 10. と懸念される。この訴訟に関しては現在も継争中である。伝えられるところによると、
スロバキア政府の方が若干不利な情勢と聞いている。
○アズリックス事件(二国間FTA)
医療と少し離れるが、これも民営化絡みの案件と言うことで紹介したいが、アズリッ
クス事件だが、アルゼンチンが水道事業を民営化して 外資の参入も認めた。
昔アメリカにエンロンというエネルギー関連企業があったが、エンロンのアズリクス
という関連会社がブエノスアイレス州の水道事業を買収して事業認可後すぐに水道料金
の値上げを直ちに発表した。もし値上げ後の料金を払えなければ、水道の供給をストッ
プすると言ってきた。さすがに見かねてアルゼンチン政府が介入して水道料金の値上げ
を認めなかった。
そうしたら協定違反だ、民にできることは民にやらせろ、料金の設定は民間企業の自
由ではないか、これはコンセンション方式によって行われた民営化だったわけだが、協
定違反と言うことで1億6千5百万ドルの損害保障が請求されて、このケースではアル
ゼンチン政府が敗訴して損害賠償が支払わされた。アメリカとアルゼンチン2国間の2
国間FTAの協定上の義務ということで、判例には拘束力があったということ。
○コチャバンバ事件
全く同じような事案がボリビアでもあって、アメリカの軍事産業であるベクテルが水
道事業に参入して料金を値上げした。ボリビアの当時の政権が介入しなかったために水
道料金未払い地区の水道を本当にストップした。その結果、有名なコチャバンバ水戦争
が起きて流血の惨事になった。
数年後には、ボリビアの大統領選挙では反米政権が誕生してしまって民営化そのもの
を見直しすると、アメリカのベクテル社は証拠にもなくまだボリビアとオランダに国交
があったものだから、オランダの子会社の名義であくまでも損害補償を請求する、国際
仲裁所に損害賠償を提訴した。今度はボリビアの新政府が国際仲裁所条約そのものから
脱退するということになって、めちゃくちゃな状況になっている。
ボリビアが反米化してしまったわけだから、アメリカ自体の国益にも反しているが、
アメリカの企業のなかには、自国の国益を毀損しても自社の利益のためには暴走して止
まらないという企業もあると感じる。そのことは2008年に起きたサブプライムロー
ン問題とかリーマンショックでも明らかだ。アメリカ経済は大きなダメージを受けたが
アメリカ金融業界は反省の兆しがない。
○混合診療解禁の動き
日本がTPPにもし参加してアメリカとの間でISDS条項を認めると、現在部分解
禁に終わっている混合診療禁止という日本の政策自体がアメリカ保険会社から訴訟を提
起されるケースが出てくる。
○主要国の先発薬薬科水準(2003年)
薬科に関して、アメリカは予てから日本の薬価制度に関して不満を持っており、これは
2004年当時アメリカの商務省自身が発表した統計だが、米国の薬科を1とした場合
は日本の薬科はその1/3くらいということ。
○日米の薬科制度
アメリカでは、完全に製薬企業に自由な薬科を認めているので、だいたい特許が有効
な期間独占販売できるとして薬科は高めを維持していてジェネリックが投入されると自
然に下がっていくが、日本の薬価制度においては、特許期間、有効期間中も2年ごとに
薬科改訂によって強制的に引き下げられる制度になっている。アメリカ製の薬剤につい
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- 11. て薬科差がアメリカの製薬業界にとって逸失利益ということで日本の薬価制度に関して
大きな不満をもっている。
○日本の薬価制度に関する意見書(2005年)
たとえば2005年には、米国研究製薬工業協会(ファーマ)が日本の薬価制度に関
してもさまざまな意見書を出しているので、日本の薬価制度そのものが 米国の製薬業界
から提訴される可能性もでてくると思うわれる。
一方、米韓FTAのなかで薬科の問題が非常に大きな問題になっているので、そのこ
とは政府も認めているが、政府が用意している資料の22ページだが、18番目の制度
的事項のなかに「また医薬品及び医療機器の償還(保険払戻)制度の透明性等を担保す
る制度を整備し・・ 」ということが議論の対象になっている分野別交渉状況の中でも触
れられている。
○多国間協定における投資ルール普遍化の試み(アメリカ)
こういったISDS条項を中心とした投資ルールを、何とか多国間協定において普遍
化したいという試みをアメリカは展開してきて、当初NAFUTAでそれが成功した。
一気にWTOの世界共通ルールにしようとアメリカは図ったわけだが、WTOではティ
ララエムという投資協定もあるが、その時にはインドを中心とした発展途上国が強行に
ISDS条項に反対したために見送られた。
発展途上国は大変うるさいということで、アメリカは今度はOECDにMAIという
多国間投資協定というものを持ち込んで先進国の共通ルールにしようとしたが、今度は
同盟国フランスが反対したために 実現することがなかった。
次に アメリカは自分の裏庭と思っていた南米に着目して北米と南米を統合する形でF
TA、先ほどアルゼンチンとかボリビアの例を紹介したが、あくまで2国間の投資協定
であり、ここで言ってるのは多国間のマルチの話だが、ブッシュ大統領の時FTAとい
う構想を掲げて推進したが、ブラジルやベネズエラが反対して結局FTAがダメになっ
た。
昨年末にアメリカを排除する形で中南米海共同体(CELA)が発足した。アメリカ
は中南米から追い出されてしまった形になる。そこで行き場がアジア太平洋ということ
になる。
アメリカがこれまでなかなか多国間協定に盛り込むことができなかった投資ルールと
いうものを、世界第3位の経済大国である日本がアジア太平洋の共通ルールとして受け
入れるかどうかということは、インドやフランス、ブラジルだけでなく世界中が注目し
ている。日本の決断は世界的に大きな影響を持っている。
(斎藤議員)
郵政について、TPPを受けいれた場合、日本の郵政はほぼ骨抜きになって、郵便の
ユニバーサルサービスは維持できなくなるということでよろしいか。
(関岡教授)
個人的な意見を言わして貰えればそのとおりだと思う。
(山田議員)
医薬品の透明性について説明願いたい。
(関岡教授)
アメリカの薬価制度では 、基本的に製薬企業の自由薬価ということになっているので 、
特許の有効期間、これは国際的なルールが20年間、最長5年間の延長が可能だが、その
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- 12. 間は独占販売でき高値を維持していくわけだ。
ところが日本では、薬価制度があるので、先ほどの薬価の国際比較では、アメリカを
1とすると、米英仏独、日本が半分以下かという水準。
米国が突出して薬価が高い訳だが、これに関して当時FDA、これは食品医薬品局の
長官であったマーク・マクレランという方が 、「米国と他の先進国との薬価の解決には、
アメリカの薬価を引き下げるのではなく、他の先進国の薬価を引き上げる必要がある」
ということを表明されている。
それが米韓FTAにどのように反映されたかということだが、米韓FTAは先月15日
に発効したけれども、第5章が薬品と医療機器を扱っているが、その中の第2条に 、 「薬
価や医療機器の価格は競争市場価格をベースとするか、さもなくば特許上の価値を反映
させる、製薬企業に値上げ申請を認める」という情報が入っている。
さらに第7条に、MMDC(医薬品・医薬機器委員会)というものだが、こういった
協定の遵守をモニターする組織を作りなさい。その構成メンバーは、米韓両国政府の医
薬だけでなくて通商担当、要するに貿易自由化を担当する官庁の担当官も共同議長とす
る、という規定がある。さらにサイドレターとして、IRBという独立検証機関の設置
というものが韓国側だけに義務付けられており、韓国側は薬価における異議申し立てを
受け付ける独立機関を設置する、その機関というのは韓国政府の人事権から完全に独立
したものでなくてはならない、つまり韓国の国内で、韓国政府と対等の強大な権限をも
った米国製薬企業にとってのエージェント、代理人を設置しなさい、と言うことまで韓
国政府は米韓FTAにおいて呑まされている。
もし薬価にアメリカ的な市場原理が導入されたら、当然ただでさえ逼迫している財政
がますます逼迫するし 、そうなれば医療現場の疲弊 、患者の自己負担の増大という形で 、
日本の国益に取っては大変大きな影響が出てくるのではないかと考えている。
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