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プロジェクト型教育プログラムの意義と課題
- 3. プロジェクト型教育
• 現実社会で実際に機能する能力を獲得するために
は、いわゆる「経験学習」が効果的であると考えられ、
その具体的な手法として注目されているものの一つ
に、「プロジェクト型教育」がある。
• プロジェクト
– 社会における実際の課題やクライアントの存在を前提とし、
明確な目的と達成目標が設定され、通常複数のメンバー
から成るチームにより、有限の期間内に有限のリソースを
活用して遂行される活動。
- 9. プロジェクト実習運営上の課題
• クライアントを初めとする利害関係者の存在
• 社会環境条件の変化による影響
• 学習者が割くことの出来る時間の制限
• 学習者に要求される知識・スキルの複合性
• 学習者のモチベーションの多様性
- 13. プロジェクト型教育の評価
• 現実のクライアントを対象とするプロジェクト型
教育プログラムの場合
– 毎年プログラムを構成する前提条件が大きく変動
し、活動形態も多種多様なものとなる。
– 受講生個々人の学習目的・学習目標をシンプル
に設定することが困難。
– これらがプログラム実施期間中に変化する可能性
が高い。
→必ずしも「教育評価の一般的方法」を適用するこ
とができず、評価に際しては大きな困難が伴う。
- 15. 科学技術コミュニケーション教育全
般に共通する課題
• この状況はプロジェクト型教育プログラムにお
いて特に顕著に見られるものではあるが、そも
そも科学技術コミュニケーションの学習全般が
多かれ少なかれ「プロジェクト型教育プログラ
ム」的な特質を持っていると言える。
• 従ってこの課題は、科学技術コミュニケーショ
ンの教育全般に共通のものであると考えるこ
ともできよう。
- 16. 「プロジェクト実習」における新しい
評価手法の導入
• これまで述べた問題整理をふまえ、プロジェク
ト型教育プログラムに関して筆者が試みた評
価手法を、特に2008年度の実践事例に即し
て紹介し、その実効性と課題について検討し
たい。
- 17. 2008年度プロジェクト実習
「新聞コンテンツの制作と活用」
• メンバー:5名(大学院生2名、社会人3名)
• 活動内容
• 北海道新聞「週刊フムフム大図解「冬も快適 ここまで
進んだ住宅技術」」制作
• 紙面連動ワークショップ開催(4回)
• 大図解「林業」に連動。親子(小学校高学年)対象。
• 大図解「住宅技術」に連動。生活クラブ生協豊平支部組合員対
象。
• 大図解と新聞全般について。家庭教育学級対象
• 高校新聞のメディアとしての意義を再認識する目的。高校新聞
部員対象
• 協力:北海道新聞編集者、北海道新聞社
- 18. 実習の目的
受講生の学習目標 実践のアウトプット プロジェクトゴール
新聞コンテンツの制作
プロセスの理解
新聞コンテンツの制作
コンテンツ制作スキル
の獲得
新聞メディアの新しい
可能性の提案
イベント制作・運営ス 新聞コンテンツを補完
キルの獲得 するイベントの実施
- 20. 「事前アンケート」の実施
• 設問
– プロジェクトで取り組まなければならない個々のタ
スクに関して「目的-手段の階層構造」を構成する
ように設計。
• 目的
– 受講生自らが、プロジェクトの複合性を分解し、自
らが学ぶべき明示的な知識やスキルと、クライア
ントのニーズ・関連する外部環境とを対応付けるこ
と。
- 21. 事前アンケート質問項目例
• 実習チームで制作する予定の、10月25日掲載
の「大図解」について、アイディアをお聞かせ下
さい。
1. どんなテーマにしたいですか?
2. テーマを、どんな切り口で紹介したいですか?
3. どんな紙面構成にしたいですか?
4. そのためには誰に、あるいはどんな場所への取材
が必要だと思いますか?
5. そのためにはどんな資料を収集すればよいと思いま
すか?
6. どんなイラスト、図解があれば効果的だと思います
か?
- 22. 事前アンケート質問項目例
7. この記事によって、読者にどのような効果を及ぼし
たいと考えますか?
8. その効果は、どのようにすれば確認できると思いま
すか?
9. 上記項目を達成するには、どのような現象、事実、
理論を理解しなければならないと思いますか?
10.上記項目を達成するには、どのような方法論の理
解や、スキルの修得が必要だと思いますか?
11.9、10を達成するには、どのような学習をすると効
果的だと思いますか?
- 23. 事前アンケート質問項目例
• あなたは、この実習に何を期待しますか?
• あなた自身は、この実習にどのような貢献ができると
思いますか?
• 一年後にこの実習が終わったとき、自分が、あるいは
実習チームがどんな状態になっていることをイメージ
しますか?
- 25. 「事後アンケート」の実施
• 設問
– 事前アンケートの「プロジェクトの階層的「目的-手
段」関係」の各項目に沿う形で、達成度の自己評価
がなされるように設計された。
• 目的
– 受講生が個々の回答項目に関して自己評価をしたり、
教員がその回答を授業評価に利用したりするだけで
はなく、「事後アンケートへの回答」という作業自体に
よって、受講生が、プロジェクトの持つ「階層的「目的
-手段」関係」という性格をより深く理解すること。
- 26. アンケート質問項目の対応例
事前アンケート 事後アンケート
1. どんなテーマにしたいですか? 1. どのようなテーマを設定しましたか?
2. テーマを、どんな切り口で紹介 2. テーマを、どのような切り口で紹介しました
したいですか? か?
3. どんな紙面構成にしたいです
3. どんな紙面構成にしましたか?
か?
4. 誰に、あるいはどんな場所へ取材をしました
4. そのためには誰に、あるいはど
か?必要な取材は適切にできましたか?
んな場所への取材が必要だと
出来なかった場合は、その理由についても
思いますか?
お答え下さい。
5. どんな資料を収集しましたか?必要な資料
5. そのためにはどんな資料を収
収集は適切にできましたか?出来なかった
集すればよいと思いますか?
場合は、その理由についてもお答え下さい。
- 27. 事 質問 回答例
前
ア 皆と一つのことに取り組む中で、今まで気付かなかった
ン あなたは、この実習に何を
科学の面白さ、考え方に気付く。今までにない大きな受
ケ 期待しますか?
ー け手に情報を伝えることの難しさと喜びを知りたい。
ト 変わりました。新聞というメディアをつかってより多くの
あなたのこの実習に対する
人にメッセージを伝えることからえられるものを期待して
期待は、当初のものから途
いたが、新聞というメディアを再活用することの面白さ
中で変わりましたか?変
を感じるようになった。新聞の活用の仕方をチームで考
わった場合は、どのように変
えて実践すること、そこから学ぶことに期待するように
わったのかということと、そ
なった。個人で新聞を読むだけでは気づかないことを誰
の理由についてお答え下さ
事 かと読むことによって気づくことができるのではないかと
い。
後 感じるようになったから。
ア
ン あなたの実習への期待(途 限られた実習の中で実践もできて、本当に多くのことを
ケ 中から変わった場合は変化 学ぶことができました。しかし、まだまだ実感できていな
ー 後の期待)はどの程度達成 いこともあるのではないかと思います。これはCoSTEP
ト
されましたか?達成されな の修了をスタートとして自ら活動を続ける中で実感する
かった点があれば、具体的 ことだと思います。実習を100%活かすことができるよ
に、理由を含めてお書き下 うにしていきたいです。
さい。
「達成されなかった点」につ
自分が科学コミュニケーションを続けていく中で、振り返
いて、誰が、どのように改善
る。
すればよいと思いますか?
- 29. 事後アンケートに対する意見・感想
• こういう事は、時間を取ってちゃんとやるべきだと自
覚はありました。考えるヒントになるアンケートを用意
していただいた事。ありがとうございます.
• ものすごく考えさせる設問だと思います。方法論って
あまり意識していませんでしたが、何かやった後にこ
のような視点でふりかえってみることは他にもいかせ
るような気がします。というか活かしていこうと思いま
す。
• 実習が終わって、ようやくいくらか客観的に振り返れ
る時期になったと思うので、今アンケートを取っても
らってよかった、と思う。
(2008年度実習 5名中3名)
- 30. 考察
• 事前・事後アンケートによって、学習者のプロ
ジェクトに対する省察や構造的理解が促進さ
れたのではないかと考えられる。
• 事後アンケートは、学習目標がプロジェクトの
遂行過程を通じて変化するという仮説に基づ
いて設計されたものであったが、実際のアン
ケート結果もそのような変化の存在を捉えてい
たと考えられる。
- 31. 考察
• プロジェクト型教育の成果は、「学習目標の変化」に
象徴されるような、「学習過程を通して生まれてくる
ダイナミックな活動の総体」として捉えられる。
• 学習者にとっての学習環境とは、教員が事前にすべ
て設計し、最適化することができるようなものではな
く、学習者自身の活動と相互作用によって刻一刻と
創造されていくと同時に、その結果が逆に学習者の
活動に影響を与える、循環的なシステムの構成要素
である。
• プロジェクト型教育においては、学習者と学習環境と
の間の、こうしたダイナミックな相互作用をすくいとる
ことのできる評価手法の開発が求められている。