SlideShare une entreprise Scribd logo
1  sur  32
Télécharger pour lire hors ligne
インターネット選挙運動と
公職選挙法
湯淺 墾道
情報セキュリティ大学院大学
yuasa@iisec.ac.jp
1
公選法改正の内容
2
【政治活動】
政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、
若しくはこれに反対し、又は公職の候補者を
推進し、支持し、若しくはこれに反対すること
を目的として行う直接、間接の一切の行為か
ら、選挙運動にわたる行為を除いたもの
【選挙運動】
特定の公職の選挙について、特定
の候補者または立候補予定者に当
選を得させるため投票を得、又は得
させる目的をもって、直接、間接に
必要かつ有利な周旋、勧誘その他
諸般の行為
従来から、イ
ンターネット
利用につい
て特に制限
無し
インターネッ
ト利用禁止
選挙運動期間(129条)
選挙運動規制の構造
選挙の
公示・告示日
(立候補の届け出があった日)
投票日 期日後
投票日当
日の選挙
運動
の禁止
あいさつ
行為
の制限
事前運動
の禁止
(立候補準備
行為は可)
費用制限、未成年者の選挙運
動禁止、休憩所の禁止、自動
車・事務所の制限、文書図画
の規制、署名運動・人気投票
の禁止
政治活動
解禁された内容の概要
ウェブサイト等を利用する方法による選挙運
動
電子メールを利用する方法による選挙運動
用文書図画の頒布
政党等の選挙運動期間中選挙運動用ウェブ
サイト等に直接リンクする政治活動用有料広
告掲載
選挙期日後の挨拶行為の解禁
屋内の演説会場において選挙運動のために
行う映写等の解禁
全体構造
【インターネット
等 を 利 用 す る
方法】
「放送」以外の
電気通信の送
信 文 書 図 画 を
端末の映像面
に表示させるも
のすべて
【 電 子
メール】
①
SMTP
方式
②
電話番
号方式
【ウェブサイ
ト 等 を 利 用
する方法】
ホームペー
ジ、ブログ、
SNS 、 動 画
共有サービ
ス 、 動 画 中
継サイト等
電子メールをめぐる問題
7
電子メール
電子メールを利用する方法による選挙運動
用文書図画については、候補者・政党等に限
って頒布することができる
142条の4 1項
送信対象者 送信対象電子メールアドレス
あらかじめ、選挙運動用電子メールの送信
の求め・同意を選挙運動用電子メール
送信者に通知した者
(その電子メールアドレスを選挙運動用電
子メール送信者に自ら通知した者に限
る)
選挙運動用電子メール送信者に自
ら通知した電子メールアドレス
オプト・イン
政治活動用電子メール(選挙運動用電子メ
ール送信者が普段から発行している政
治活動用のメールマガジン等)を継続的
に受信している者(その電子メールアド
レスを選挙運動用電子メール送信者に
自ら通知した者に限り、かつ、その後に
政治活動用電子メールの送信を拒否し
た者を除く。)であって、あらかじめ、選
挙運動用電子メールの送信の通知を受
け、拒否しなかったもの
政治活動用電子メールに係る自ら
通知した電子メールアドレスのう
ち、選挙運動用電子メールの送
信拒否通知をした電子メールア
ドレス以外のもの
オプト・アウト
表示義務
選挙運動用電子メールである旨
選挙運動用電子メール送信者の氏名・名
称
選挙運動用電子メール送信者に対し送信
拒否通知を行うことができる旨
送信拒否通知を行う際に必要となる電子メ
ールアドレスその他の通知先
保存義務
電子メール
 特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(特定電子
メール法)2条1号に規定する電子メールのことをいう(142条
の3 1項)。
 総務省令(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律
第2条第1号の通信方式を定める省令)において定められて
いる
 ①その全部又は一部においてシンプル・メール・トランス
ファー・プロトコルが用いられる通信方式(SMTP方式)
 ②携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信
のために用いて通信文その他の情報を伝達する通信方
式(電話番号方式、いわゆるショート・メッセージ)
が該当
 特定電子メール法に基づき電子メールの定義について定め
ている総務省令が改正されると、それに連動して公職選挙
法の規定における電子メールの定義も変わる
転送、引用等
 選挙運動用電子メール、落選運動用電子メールを
転送した場合の表示義務は誰に発生するか(第三
者は選挙運動用電子メールの転送不可)
 選挙運動目的で、他陣営の電子メールを候補者等
が転送することは可能か
 選挙運動用電子メールの一部を電子メール内に引
用して送信することは可能か
 選挙運動用の動画等をYoutube等にアップロードす
る行為
政治上の演説等の利用(著作権法40条)
政見放送:放送局に著作者人格権はあるか
SNSのメッセージ
電子メールによる選挙運動の主体規制の理
由
各党協議会ガイドライン
密室性が高く、誹謗中傷やなりすましに悪
用されやすい
複雑な送信先規制等を課しているため、一
般の有権者が処罰(2年以下の禁錮、50万
円以下の罰金)され、さらに公民権停止に
なる危険性が高い
誹謗中傷防止の観点
ウェブページにおける誹謗中傷等
一義的にはプロバイダ責任制限法に基づく
プロバイダの対応に委ねる
電子メール
密室性が高いので誹謗中傷やなりすまし
に悪用されやすい
送信先規制が複雑
第三者による送信を禁止することにより対
応
SNSのメッセージで誹謗
中傷の場合
ウェブサイト等に該当する
これらのメッセージにおける誹謗中傷が行
われた場合はプロバイダ責任制限法に基
づく対応
双方向性をもつメッセージは、通信の秘密
(電気通信事業法4条1項)の保護対象であ
るからプロバイダ責任制限法の規定は適
用されない(「特定電気通信」に該当しない
と解釈することも可能)
ウェブサイトをめぐる問題
16
海外事業者のサービスの利用
Facebook、Twitter等
日本法の適用は困難
プロバイダ責任制限法が適用できない
※fc2事案
日本の事業者だけ規制
イコール・フッティングの見地から問題
17
18
民事訴訟法改正(2012年施行)
第三条の三 次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定め
るときは、日本の裁判所に提起することができる。
五 日本において事業を行う者(日本において取引を継続してす
る外国会社(会社法 (平成十七年法律第八十六号)第二条第
二号 に規定する外国会社をいう。)を含む。)に対する訴え
当該訴えがその者の日本における業務に関するものであると
き。
 日本人向けのウェブサイトを開設するなどして、日本において事業
を行う外国の会社(営業所等を日本に有しない)
 そのサービスに係る訴えについては日本に管轄が認められる
19
FC2事件
東京地方裁判
所に対し、プロ
バイダ責任制
限法に基づく誹
謗中傷の発信
者情報開示の
仮処分を申立
仮処分(2013
年2月)→FC2
開示
落選運動
従来の規定
「当選」を「得しめない目的」の新聞紙、雑
誌の不法利用(148条の2)、買収及び利害
誘導(221条)、氏名等の虚偽表示(235条
の5)の禁止
「投票」を「得しめない目的」の署名運動(
138条の2)と戸別訪問(138条)の禁止
落選運動の規制
21
落選運動
従来の規定
当選を得しめない目的と、投票を得しめな
い目的を区別
「当選」を「得しめない目的」の新聞紙、雑
誌の不法利用(148条の2)、買収及び利害
誘導(221条)、氏名等の虚偽表示(235条
の5)の禁止
「投票」を「得しめない目的」の署名運動(
138条の2)と戸別訪問(138条)の禁止
 新設条文
インターネット等を利用する方法により当選を得
させないための活動に使用する文書図画を頒布
する者の表示義務(142条の5)
電子メール、ウェブページに適用
表示義務に違反した場合は、1年以下の禁錮又
は30万円以下の罰金(244条1項2号の3)
 各党協議会ガイドライン
「単に特定の候補者(必ずしも1人の場合に限ら
れない)の落選のみを図る活動」
「当選を得しめない目的」 と「投
票を得しめない目的」の異同
 美濃部達吉『選挙法詳説』
反対派候補者の「当選を妨ぐる」ための行為はすべて
投票を「得ザラシムル」行為に該当
反対派候補者の当選を妨げるための行為は投票を
得しめない行為に包含される(投票を得>当選を得)
 林田和博『選挙法』
戸別訪問の相手先が選挙人ではない場合は投票を
得しめない目的での罪は成立しない→美濃部説より
狭義
 渡辺咲子『Q&A選挙と捜査』
「投票を得」等は221条にいう「当選を得」より狭く、単
に選挙運動を選挙運動を依頼する目的や、候補者に
対する推薦を依頼する目的などによる訪問では、戸別
訪問は成立しない・・・(投票を得<当選を得)
選挙運動用電子メールと落選運
動用電子メールとの関係
落選運動用の場合
第三者も送信可能
落選運動用電子メールである旨を表示す
る必要はない
送信拒否通知を行うことができる旨と送信
拒否通知を行う際に必要となる電子メール
アドレスその他の通知先を記載する必要は
ない
当日も送信できる
メール受信者からみれば、相違に合理性なし
選挙運動用電子メールと落選運
動用電子メールとの関係
落選運動用の場合
第三者も送信可能
落選運動用電子メールである旨を表示す
る必要はない
送信拒否通知を行うことができる旨と送信
拒否通知を行う際に必要となる電子メール
アドレスその他の通知先を記載する必要は
ない
当日も送信できる
メール受信者からみれば、相違に合理性なし
その他の課題
27
外国人
 昭27・9 質疑集
外国人の選挙運動はできると思うが、どうか、も
しできないとすれば法的根拠は何か
前段お見込の通り
 各党協議会ガイドライン
外国人は、現行法において、選挙運動が禁止さ
れていないため、インターネット選挙運動の解禁
後も、同様に、これを行うことができる。
 「選挙運動が禁止されていない」→立法政策の問題
として規制可能か (cf. 定住外国人選挙権最高裁
判決 平7・2・28)
「選挙運動が禁止されていない」→立法政策
の問題として規制可能か (cf. 定住外国人選
挙権最高裁判決 平7・2・28)
事業者に対するイコール・フッティングとの関
係
各党協議会ガイドライン
海外のウェブサイトによる情報発信等、
取締りに限界があるこ とは事実である
が、これは現行の公職選挙法でも同様
である。
公選法違反 従来の対応
公職選挙法違反行為について、選挙運動に
関するものについてはそれが明らかになった
時点で選挙管理委員会が陣営に注意・警告
有権者等からの電話通報、選管職員による
違法行為の実見
悪質なものについては警察に通報、検挙
違法行為が限定的
選挙運動態様違反、戸別訪問・買収等禁
止違反
「メールメール大作戦」
http://imahahitori.com/
選挙管理委員会が違法行為を監視し、インタ
ーネット上での違法行為の証拠を収集するこ
とは困難(プロ責法上も、事業者は捜査令状
等を要請)
選挙管理委員会の注意・警告という役割は限
定的
違反した場合の罰則も付されている公職選
挙法の禁止規定に明らかに違反している行
為が、インターネット上のものであるという理
由で放置されるとすれば、公正で公平な選挙
という公職選挙法の理念自体を没却

Contenu connexe

Plus de Harumichi Yuasa

第3回 脅威分析研究会 法律面から見たリスク分析
第3回 脅威分析研究会 法律面から見たリスク分析第3回 脅威分析研究会 法律面から見たリスク分析
第3回 脅威分析研究会 法律面から見たリスク分析Harumichi Yuasa
 
情報ネットワーク法学会特別講演会ロボット法研究会設立記念シンポジウム
情報ネットワーク法学会特別講演会ロボット法研究会設立記念シンポジウム情報ネットワーク法学会特別講演会ロボット法研究会設立記念シンポジウム
情報ネットワーク法学会特別講演会ロボット法研究会設立記念シンポジウムHarumichi Yuasa
 
個人情報保護法改正とビッグデータ利活用
個人情報保護法改正とビッグデータ利活用個人情報保護法改正とビッグデータ利活用
個人情報保護法改正とビッグデータ利活用Harumichi Yuasa
 
情報セキュリティワークショップIn越後湯沢2015 IoTのセキュリティの法的課題
情報セキュリティワークショップIn越後湯沢2015 IoTのセキュリティの法的課題情報セキュリティワークショップIn越後湯沢2015 IoTのセキュリティの法的課題
情報セキュリティワークショップIn越後湯沢2015 IoTのセキュリティの法的課題Harumichi Yuasa
 
情報法制研究会マイナンバー法と自治体の個人情報保護
情報法制研究会マイナンバー法と自治体の個人情報保護情報法制研究会マイナンバー法と自治体の個人情報保護
情報法制研究会マイナンバー法と自治体の個人情報保護Harumichi Yuasa
 
情報ネットワーク法学会個人情報保護法問題2000個問題は解消可能か
情報ネットワーク法学会個人情報保護法問題2000個問題は解消可能か情報ネットワーク法学会個人情報保護法問題2000個問題は解消可能か
情報ネットワーク法学会個人情報保護法問題2000個問題は解消可能かHarumichi Yuasa
 

Plus de Harumichi Yuasa (6)

第3回 脅威分析研究会 法律面から見たリスク分析
第3回 脅威分析研究会 法律面から見たリスク分析第3回 脅威分析研究会 法律面から見たリスク分析
第3回 脅威分析研究会 法律面から見たリスク分析
 
情報ネットワーク法学会特別講演会ロボット法研究会設立記念シンポジウム
情報ネットワーク法学会特別講演会ロボット法研究会設立記念シンポジウム情報ネットワーク法学会特別講演会ロボット法研究会設立記念シンポジウム
情報ネットワーク法学会特別講演会ロボット法研究会設立記念シンポジウム
 
個人情報保護法改正とビッグデータ利活用
個人情報保護法改正とビッグデータ利活用個人情報保護法改正とビッグデータ利活用
個人情報保護法改正とビッグデータ利活用
 
情報セキュリティワークショップIn越後湯沢2015 IoTのセキュリティの法的課題
情報セキュリティワークショップIn越後湯沢2015 IoTのセキュリティの法的課題情報セキュリティワークショップIn越後湯沢2015 IoTのセキュリティの法的課題
情報セキュリティワークショップIn越後湯沢2015 IoTのセキュリティの法的課題
 
情報法制研究会マイナンバー法と自治体の個人情報保護
情報法制研究会マイナンバー法と自治体の個人情報保護情報法制研究会マイナンバー法と自治体の個人情報保護
情報法制研究会マイナンバー法と自治体の個人情報保護
 
情報ネットワーク法学会個人情報保護法問題2000個問題は解消可能か
情報ネットワーク法学会個人情報保護法問題2000個問題は解消可能か情報ネットワーク法学会個人情報保護法問題2000個問題は解消可能か
情報ネットワーク法学会個人情報保護法問題2000個問題は解消可能か
 

インターネット選挙運動と公職選挙法