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開発途上国におけるトイレ・し尿問題
- 1. 京都大学大学院地球環境学堂 原田英典 開発途上国における トイレ・し尿問題 アーキテクツ・ガーデン2014企画 グリーントイレ・ワークショップ2014 2014年7月19日 於 建築家会館ホール
- 2. 人と水 生きていくうえで不可欠なもの 体重の60-70% 一人一日摂取量: 約 2 L 最低限の生活に必要な水の量: 20-50 L 日本人の平均的な一人一日水使用量: 約300 L 日本人は何に水を使っているのか（家庭）？ トイレ（28%），お風呂（24%）， 炊事（23%）， 洗濯（16%） 2/92
- 3. 人と屎尿 人間が生きると同時にしまつを考えなければなら ないもの 大切な水を汚しかねないもの 大便 100~250 g/person/day （15 tons per life?） 尿 1 L~1.5 L/person/day （35 tons per life） 3/92
- 10. 世界の疾病負荷ランキング Reason DALYs* (Mill. year) Prop. of total （％） 1 Perinatal conditions出産前後期の病気 90.48 5.9 2 Lower respiratory infections下気道感染症 85.92 5.6 3 Ischemic heart disease虚血性心疾患 84.27 5.5 4 Cerebrovascular disease脳血管疾患 72.02 4.7 5 HIV/AIDS 71.46 4.7 6 Diarrheal disease下痢症 59.14 3.9 7 Unipolar depressive disorders単極性うつ病 51.84 3.4 8 Malariaマラリア 39.97 2.6 9 Chronic obstructive pulmonary disease慢性閉 そく性肺疾患 38.74 2.5 10 Tuberculosis結核 36.09 2.3 11 Road traffic accidents交通事故 35.06 2.3 88%は不適 切な水・衛 生に起因 *DALYs (disability-adjusted life year)障害調整生存年 WB (2006) 10/92
- 11. 衛生改善の広範な効果 11/92
- 12. 水と衛生の確保はBasic Human Needs MDGsの目標 2015年までに，安全な飲料水 と基礎的な衛生設備にアクセ スできない人口割合を半減さ せる (1990 比) 国連ミレニアム開発目標（MDGs） http://www.un.org/millenniumgoals/ 12/92
- 13. 日本の衛生システム 13/78 下水処理場 下水処理 汚泥処理＋ 下水管 浄化槽 放流 放流 汚泥 トイレ排水 ＋生活雑排水 トイレ汚水 （＋雑排水） 便槽トイレ 汚水 し尿処理場 放流 70.6 % （雑排水） 21.7 % 7.4 % 出典：日本の廃棄物処理（環境省，2013）より筆者が作成 浄化槽 システム 下水道 し尿処理 システム その他 0.3 % 雑排水
- 14. 理想的なシステム？ Winblad et al. 2004 Sewage sludge Industrial wastes 14/92
- 15. 世界の衛生システム 農村 都市 下水道 2次処理 (0.7) 腐敗槽 ( ? ) 下水道 1次処理 (0.4) ピットトイレ ( ? ) 衛生的なトイレなし ( 2.5 ) 単位:（10億人） 下水道 3次処理 Data from OECS and UNSD Environmental indicators インフラの発展度 15/92
- 17. 水を使わないトイレ 17/92 Single ventilated pit latrine Double ventilated pit latrine
- 19. 資源化するトイレ Composting chamber Anaerobic biogas reactor
- 21. 各種トイレの比較 21/92 トイレタイプ 一般的メリット 一般的デメリット 無水洗ピットラトリン • 水が不要（乾燥地・期も可） • 初期費用が小さい • し尿を隔離できる • ほぼ処理していない • 地下水汚染 • ハエ等の発生 • いずれ満杯に 注水式水洗トイレ＋ ピット • 注水式水洗が導入可能 • 比較的安価 • ほぼ処理していない • 地下水汚染 • いずれ満杯に 水流式水洗トイレ＋ 腐敗槽 • 水流式水洗が導入可能 • 最低限の固形分除去が可能 • 比較的多量の汚水が流出 • 汚泥引抜・処理が付随 コンポストトイレ • 肥料獲得 • 排水が出ない • 住民にメリット？ • 初期費用がやや大きい • 駆動部などがある場合故障も • 文化的受容が難しいことも バイオガストイレ • エネルギー獲得 • 住民にわかり易いメリット • 初期費用が大きい • 圧力がかかるガスの安全性 • ある程度の処理物量が必要 • 汚泥引抜・処理が付随 • 消化液の処理が必要 浄化槽 • 雑排水まで処理 • 下水処理場に準拠した処理 • 汚泥引抜・処理が付随 • 高価 • 安定的な電気が必要
- 22. もう一度，し尿とは？ 下水中の多くの病原体が集まる大便 下水中の多くの栄養が集まる尿 元素 尿 g/人/日 % 大便 g/人/日 % N：窒素 11.0 88 1.5 12 P：リン 1.0 67 0.5 33 K：カリウム 2.5 71 1.0 29 病原体 ほぼ含まない ほとんどを含む 表 人のし尿中に含まれる肥料の三大元素と病原体 22/92
- 24. リンの枯渇問題 • 世界のリン消費の83%は化学肥料 (UN, 2005). 24/92 Steen (1998). (Steen, 1998).
- 25. 25
- 27. エコロジカルサニテーション Winblad et al. 2004 27/92
- 28. エコサンの拡大への課題 ベトナム北部，ベトナム南部およびマラウイの ３つのケースから検討 ２つの基本的要件 し尿の農業利用はそもそも衛生リスクを下げるのか 独特のトイレ使用方法は受け入れられるか し尿の農業利用は受け入れられるのか？ もう１つの重要な要件 • 尿は液肥 • 大便は灰で処理後に堆肥（Humanure） 28/14 処理済み便 尿 嫌便文化
- 29. し尿の農業利用は衛生リスクを下げるのか ベトナム国ハノイ市郊外集落 屎尿利用トイレ (56%), 水洗トイレ (44%) 水洗トイレはほぼ垂れ流し 29/92 soil Irrigation water foods hands ? ? ? ? excreta 大腸菌曝露解析および健康リスク解析 尿 大便穴 伝統的エコサントイレ 図 潜在的な糞便性微生物の曝露経路 し尿の農業利用により農村生活者 の健康リスクが増加？?
- 30. 伝統的エコサン利用世帯の汚染状況 大腸菌濃度 (CFU/100mL,CFU/device,CFU/hand) 1 10 10 2 10 3 10 4 10 5 10 6 1.00.E+00 1.00.E+01 1.00.E+02 1.00.E+03 1.00.E+04 1.00.E+05 1.00.E+06 n=20 n=6 Boiled-and- stored rain water (Drinking) Ecosan WC n=19 n=5 Stored rain water (hygiene) Ecosan WC n=22 n=7 Stored well water (bathing) Ecosan WC n=19 n=6 Chopstick Ecosan WC n=19 n=5 Rice bowl Ecosan WC n=34 n=10 Hand Ecosan WC 屋内各種媒体の糞便汚染程度 屎尿利用の慣習は，屋内糞便汚染程度に 有意な影響なし 図 エコサン利用世帯と非利用世帯の屋内糞便汚染程度の比較 Ecosan: Ecosan toilet users WC: Water flush toilet users 30/14
- 31. 10-9 10-8 10-7 10-6 10-5 10-4 10-3 10-2 10-1 100 101 Paddy field soil during farming Boiled-and-stored rain water during drinking Stored well water during bathing Stored rain water during hygiene practices Devices of eating during eating Garden soil during gardening Pond water during fishing Irrigation water during irrigation River water during fishing in a river Pond water during swimming in a pond Total 糞便汚染に由来する下痢症リスク要因 Infectious risk (event/cap/year) 0.59 – 2.7 感染回数/人/年 (95%tile, Med.=1.4) • 感染リスクは大きいが，その大部分は環境水由来 • ドライトイレは，水環境に汚水を出さない点で大きな 利点あり 図. 様々な日常生活を経由した糞便曝露に由来する下痢症感染リスク 下痢症リスクを構成する 各種リスク要因 31/14 10-9 10-8 10-7 10-6 10-5 10-4 10-3 10-2 10-1 100 101 Paddy field soil during farming Boiled-and-stored rain water during drinking Stored well water during bathing Stored rain water during hygiene practices Devices of eating during eating Garden soil during gardening Pond water during fishing Infectious risk (event/cap/year)
- 32. 糞便非利用集落へのエコサンの導入 尿貯留容器 二槽式便槽 換気パイプ ベトナム国ラムドン省ダンフォン村 糞便利用・トイレ利用の慣習がない 少数民族集落 80%の住民が寄生虫に感染 85基のトイレを導入 (80 USD/基, 2002-03) 大便穴 尿 32/14二槽式し尿分離トイレ し尿分離屈み込み式便器
- 33. エコサンの受容（単純利用，３９か月後） Check item During Month 0-4 At Month 39 (%) (n=80) (%) (n=50) Offensive fecal smell inside a toilet 1.3 14.0 Maggots inside a toilet vault 0 12.0 Many flies inside a toilet vault (>10 flies) 0 0.0 表 39か月後のトイレ便槽の状況 33/14
- 34. エコサンの受容（農業利用，39か月後） Check item At Month 39 % of toilets n Feces never taken out from vaults 63.3 30 Feces taken out of vaults before a proper retention period 33.3 12 Feces never used for agriculture 58.8 17 Urine not used for agriculture properly 65.4 26 表 大便と尿の利用状況 トイレの単純利用は広く受容されたものの， し尿の農業利用は限定的 34/14 貯留された尿 灰とともに貯留された大便
- 36. 包括的な地域開発プログラム - Moringa and Jatropha planted - Fruit trees planted - Organic farming - Distribution of local seeds - Measures of pests and insects - Distribution of mosquito nets - Health education - Toilet construction - Feces&urine as organic fertilizer - Hand Pumps - Workshop for village level operation & maintenance - Fostering local leaders - Committee development for agriculture, women, and health Reforestation Human Resource Development Water Supply Ecosan toilet - Measures for infection Grain storage Agriculture Comprehensive Rural Development 36/14
- 37. ベトナムでの課題：大便と尿をどうしたら 適切に使えるか メイズの収量増への農家の自信と，結 果としての健康状態の改善 エコサンと農業との融合，および収穫 量増のデモンストレーション =>“尿と大便堆肥の使用意思の形成” より適切なトイレの利用により， 衛生改善への一層の効果 エコサン拡大のカギ？ 37/14 Humanure Application of humanure Demonstration of urine and humanure use
- 39. 39/92
- 44. 東日本大震災と屎尿・トイレ問題 大量のし尿の発生 大便：100～250g/日/人 （人生で約5トン/人） 尿：1～1.5L/日/人 （人生で約35トン/人） 震災後のトイレ・屎尿処理に大きな困難 震災後，数時間後には排泄・大量の屎尿処理が必要 44/92
- 45. もう一度，屎尿とは？ 45/92 元素 尿 g/人/日 割合 大便 g/人/日 割合 病原体 ほぼ含まない ほとんどを含む N：窒素 11.0 88% 1.5 12% P：リン 1.0 67% 0.5 33% K：カリウム 2.5 71% 1.0 29% 総量 1000～1500 80-90% 100～250 10-20% 表 人の屎尿中に含まれる病原体と三大肥料成分 • 屎尿処理の最も重要な目的は，つまるところ大 便の封じ込めと衛生化 • 尿は良質な液肥にも，水質汚濁の原因ともなる が，緊急時には放流を選択も 大便と小便を分離すれば， 緊急で効果的な屎尿処理が可能に！
- 46. ポータブルUDトイレの開発 46/92 バケツ型屎尿分離トイレ パイプ椅子型屎尿分離トイレ 組み立て式で，軽量のため，容易に備蓄も運搬も設置もできる デザイン性，強度を向上し，より快適な排泄空間を実現できる 身近にあるものを使い緊急に屎尿分離トイレを実現できる 既存トイレにはめ込んで屎尿分離トイレを実現できる 段ボール型屎尿分離トイレ プラスチック段ボール型屎尿分離トイレ
- 48. 大便：屎尿中の病原体のほとんどを含む ＋ → 消石灰（農業用， 学校の白線用） もみ殻炭，乾 燥土壌など 左記を混ぜたもの （灰でも代用可能） 農地あるいは土壌へ還元 ポリバケツに移して6～ 12か月貯留 排泄後に大便にかけ る散布（コップ1～2杯） 尿：病原体をほぼ含まず，N・P・Kは多い 緊急時には直接放流， あるいは土壌へ浸透 消石灰/マグネシウム塩 の簡易処理で肥料化も 大便のアルカリ化・乾燥化により，衛生処理 もみ殻炭などで乾燥大便を覆うことで臭い低減 ポータブルUDトイレ：屎尿の処理方法 48/92
- 49. 現地への実装活動 使い方マニュアル組み立て方マニュアル 期間 活動場所 5/20～24 石巻市，大船渡市，仙台市 6/30～7/4 気仙沼市，仙台市，石巻市 7/20 気仙沼市 現地活動履歴 49/92
- 50. エコロジカルサニテーション 50/92Winblad et al. 2004
- 51. ご清聴ありがとうございました。 原田英典 harada.hidenori.8v@kyoto-u.ac.jp http://www2.ges.kyoto-u.ac.jp/members/harada-hidenori/ 075-753-5169 (office) 参考文献・Web： 原田英典（2014）エコロジカルサニテーション－健康と環境 を衛るしものふんべつ，第9章，地球環境学，丸善. Ecological Sanitation (2004) SEI (www.ecosanres.org/pdf_files/Ecological_Sanitation_2004.pdf) EcoSanRes (www.ecosanres.org) Sustainable Sanitation Alliance (www.susana.org/) 原田英典, 清水芳久（2009）開発途上国におけるし尿分離 型衛生システムの適用可能性とその評価, 特集 開発途上 国へ適用可能な分離分散型サニテーションシステム, 水環 境学会誌, 32(9), 481-485. 51/92