官能検査の基礎 【図解】
- 5. 1.2 官能検査の問題点
官能検査は,ヒトの感覚を用いてデータをとるので,機器測定とは違っていくつかの問題点
がある。
1) 人によって判定(評価)に差がある(個人差)
例えばリンゴジュースの pH(水素イオン濃度)を測る場合,その値はほぼ等しく,デー
タのバラツキはほとんどない。しかしヒトの場合,AさんとBさんとでは,同じリンゴジュ
ースを昧わっても,酸味の感じ方は各人まちまちで,多くの場合同じではない。
2) 個人でも常に一貫した判定をするとは限らず,バラツキが大きい(個人の精度)
前記のジュースをpHメーターAで測定した場合,今日測っても,明日測ってもほぼ同じ
値を示すがしかし、ヒトの感覚はあいまいで,同ジュースを味わってもその判定はその時の
気分で変化する。
3)ヒトは知覚した内容を定量的に表現する事は難しい。
測定機器を用いれば,モノの重さはグラムで,長さはセンチでそれぞれ定量的に数値で表
してくれる。しかし,ヒトが感知した内容を表現するは言葉にはモノサシ(尺度)がない。
「このジュースは酸っぱい」といっても,どの程度すっぱいのか定量的に表現をすること
は難しい、 このように,機器測定に比べて官能検査にはあいまいさがつきまとう、従って
官能検査を実施するに当たってはこのような問題点を加味した上で,より精度の高いデー
タを得るための工夫が必要である。
- 9. 1.5 日本における官能検査の歴史
日本における官能検査は明治 40 年(1907 年),清酒の第1回全国品評会が開催され,
採点法(scoring method)で用いられたのが最初といわれている。
第2次世界大戦後,海外からの雑誌類の入手が容易になってから,官能検査は関連情報
に関心を持つ人達の注目を引くようになった。
昭和 30 年(1955 年),(財)日本科学技術連盟が多分野の専門家を集め官能検査部会
(後の官能検査研究会)を発足させたのが本格的な官能検査研究の始まりである。そして
同連盟主催による第1回官能検査セミナーが昭和 32 年(1957 年)に開催され,その3
年後の昭和 35 年(1960 年)には,ここで学んだことを職場で実際に応用し,研究した
成果を発表する官能検査大会(後の官能検査シンポジウム)も開催され,それぞれ現在も
引き続き行われている。
なお,日本で初めて食品分野の官能検査室を設置したのは味の素㈱である(昭和 31
年)、当時としては最先端の設備を持った検査室として注目を浴びた。
現在では多くの企業が官能検査室を持ち,それを活用した商品開発が行われている。
画像出典先:味の素㈱ 官能検査室
- 12. 2.三点識別法
三点識別法も 2 種の試料を比較する検査方法です。ただし、三点識別法の場合は、比較
させる試料が 3 種となり、2 種は同じ試料、1 つは性質の異なる試料を用意し、どの試
料が他の 2 種と異なる試料であるかを選択します。試料間の差異の確認、パネリストの
識別能力を測るために使用されるのは二点識別法と同様です。
二点識別法よりも比較対象となる試料が増えることで、より集中して異なる試料を選択
させることが可能となり、精度の高い調査を行うことができます。
事例:試料A,B,の2種類の甘み成分の異なる砂糖水を用意します、試料 A は二個、試
料 B は一個を用意します、20人のパネルがそれぞれ1回ずつ両者を比較し、どちらが
試料B(どちらが甘い)かを選択してもらいます。
- 21. 【結 果】
実際にこの方法でデータをとり,蓄積された 2,117 人の各味別判定率を表2.2に
示す、正解率は甘味 68%,塩味 67 %,酸味 67 %,苦味 55 %,うま昧 62%となってい
る.また苦味の正解率が他の味に比べて低く出ているが,無味(蒸留水の味)を苦味とす
る判定率が 31%と特に多い。
(2)味の濃度差識別テスト
ここでは苦味を除く4種の基本味につき,各味ごとに濃度の異なる2つの溶液を比較
させ,各味の強い方を判断させる。
【方 法】
例えば濃度の異なるショ糖溶液(差は僅少)を対(pair)にして与え,両者 を比較し
て甘味の強い方を選ばせる(2点識別試験法).試料濃度を表2.3に示す、すなわち4
種類の呈味物質(ショ糖,食塩,酒石酸,グルタミン 酸ナトリウム)各列につき濃度比
- 23. 各組合せの正解率を表2.4に示す、Sと X1 との比較では 70~80%, S と X2 の比較
では 60~70%範囲の正解率となっている。
(3)食品の味の識別テスト
(1), (2)に示したのは基本的な呈味物質による味覚感度テストであるのに対
し、ここでは実際の食品を用いた感度テストを行っている。
- 25. 【方法】
試料内容を表 2.5 に示す.(2)と同様,2種の試料(S とX)を識別する能力がある
か否かを判断するテストであるが,ここでは(S, X, X)のように,3イ固1組の試料を与
え,この中から異質のものを1イ固選ばせる(3点識別試験法).テストはいずれも2回
の繰り返し(合計6組の識別テスト)を行っている。
【結 果】
各食品別正解率を表2.6に示す、3種の食品の中で,コンソメスープの識別テス
トの正解率が約 60%で他の醤油、ジュースに比較して幾分高い。
- 26. 4.官能検査から官能評価へ
官能評価は米国で第 2 次大戦中から戦後に行われた軍隊食の受容性に関する研究が発
端で,戦後食品工業を中心に広まった.
わが国では 1950 年代の後半,品質管理の一環として広く一般の工業に導入された.草
創期に集大成された「官能検査ハンドブック」ほか(1~3)はわが国の官能評価のベー
スをなすもので,今なおバイブル的存在である.当初は官能検査と称され,上記ハンド
ブックでは,官能検査は人間の感覚器官を使って行う検査をいうとされ,検査を①品物
の品質特性を測定する,②判定基準と比較する,③判断を下す,に分けたとき①と②が
感覚器官によって行われるところに特徴があるとされている.しかし官能検査には上記
の検査のみでなく,好みなどを調べる場合も含まれており,分析型と嗜好型に大別され
ている.前者は人の感覚によって物の特性を知る,後者は物によって引き起こされる人
の感覚を知ることを目的としている.これは官能検査としてなされた分類で,判断が客
観的判断か主観的判断かによるとされている。
新製品開発が盛んになると,新しい価値の創造や多様な価値観に対応する評価が求めら
れ,いつしか官能評価と呼ばれるようになった。
いわゆる評価には①品物の価格を定めること.②善悪・美醜・優劣などの価値を判じ
- 31. コラム: スーパードライの官能検査
スーパードライの場合、各工場で毎日できあがったビールを「パネリスト」と呼ぶ専門
家がチェックします。それ以外に 10 日に一度、本社・研究所・8 工場にサンプル(工
場見本)をそれぞれ送り合い、それぞれにいるパネリストが官能検査を行います。空腹
時に感覚が敏感になりますので、お昼前に召集されて検査し、その結果についてディス
カッションします。パネリストは 100 人以上います。
官能検査の項目は色、香り、のどごし、泡持ちなど 30 近くありますが、一番大切なの
は「適合度」です。スーパードライの守るべき官能コンセプト(官能特性)に対して、
どれだけ合致しているかを数値化します。官能コンセプトは味や香りなどについて五つ
の文章に明文化してあり、それは社外秘です。
もう一つ大事なのはサンプルに対するコメント。どのような香りや味を感じるかといっ
たコメントをコンピューターに入力し、定量化して解析し、問題解決に役立てるように
しています。