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ジオサイトの自然の価値と
そこでの情報提供
日本ジオサービス株式会社/日本ジオパークネットワーク
目代邦康
2016.10.12 日本火山学会
特別セッション「ジオパークにおける情報提供のあり方」
2
目次
● Science communicationの場としてのジオ
パーク
● 博物館の展示の理論
– PresentationとInterpretation
– 分類展示と課題展示
● 博物館の機能と情報の更新
3
科学と社会の関係
4
科学の負の側面
5
科学的情報の発信の意義
● Science communicationの議論
– 欠如モデルとinteractionモデル
林・加藤・佐倉(2005)
6
Science communicationの目的
● 社会的なコンフリクトの解消
● 科学普及,科学教育,科学啓蒙の限界
● 専門家ー非専門家の良好な関係の構築
● 科学社コミュニティーの民主的プロセスの維持
– 科学者コミュニティーにおける批判的な友人
7
Science communicationの場
としてのジオパーク
● 地域に存在する地質遺産の価値の共有
● 地学的情報を有する「専門家」と社会を構成す
る「非専門家」
専門家
社会
非専門家
専門家
社会
非専門家
8
ジオパークの“現地性”
● 看板,パンフレット,ガイドがどのような役割
を果たして,Science communicationを成立
させるか?
● 誰と誰のcommunicationか?
– 訪問者,ガイド,研究者,地域住民.GPの運営
者・・・
– 全体のデザイン
9
博物館学のアナロジーで
ジオパークを考える
● 博物館⇔ジオパーク
– 展示物⇔ジオサイト
– 研究者:地球科学的価値を持つものの価値付け
– 学芸員:どのように見せるか?
● ジオパークの特性:onsite (現地性)
10
陳列と展示
● 陳列:宝物の羅列であって,そこには何
の意図も思想も認めることはできない
● 展示:並べること自体に目的を持たせ,
そこに並べられている資料が観る人を説
得させるものでなければならない.
– 加藤(1977)「博物館学序論」雄山閣.
– 新井(1992)展示と陳列の意味について.
博物館学雑誌.
11
PresentationとInterpretation
● 博物館における展示とは,展示資料(もの)を
用いて,ある意図のもとに,その価値を提示
(presentation)するとともに展示企画者の考
えや主張を説示(Interpretation)することに
より,広く一般市民に対して感動と理解,発見
と探求の機会を提供する空間を構築する行為で
ある.
– 新井(1981)展示と展示法.博物館学講座.雄山閣.
12
ジオパークの構成と目的
● 構成:離散的なジオサイトとその集合体として
のジオパーク
● 地質遺産の保全,教育,ジオツーリズム
– 保全する価値(=科学知,伝統知による価値付)
– 教育的価値
– ジオツーリズムの対象としての価値(=経済
性)
13
ジオパークにおけるPresentationと
Interpretation
● Presentation:そこにあるジオサイト.どのよ
うな順番でみせるか.視点場(ビューポイン
ト)をどのように示すか.価値の説明.
● 価値
– なぜ保全するのか
– どのような教育をしたいのか
– ジオツーリズムの価値=見どころ
14
ジオパークにおけるPresentationと
Interpretation
● Interpretation:ジオパークとしての視点をど
のように伝えるか?ストーリー,コース設定
– ジオサイトと拠点施設を,コミュニケーションの場
として位置づける.
– そもそも,ジオパークとして何を伝えたいか.
15
博物館の展示の原理
(柴,2010)
1. 見ること
– 「見る」から「視る」へ.主体的な活動としての「視る」
2. 比べること
– 「比較」の視点
3. 気づかせること
– 教えるのではなく主体的な「気づき」を
4. わかりやすいこと
– 研究者の視点ではなく教育者の視点
16
展示の原理とジオパーク
● 「視る」,「気づき」,「わかりやすさ」:看
板の記述内容,ガイドの内容,視点の提示
● 「比較」:ガイド付きジオツアーでの順番
17
百万貫の岩は,崩れやすい大地の象徴として,また大水
害の記念碑として,地球の中で繰り返し起こってきた水
の旅・石の旅を物語っています.
18
ここからは,手取川扇状地が一望でき,島集落の様子をよく見ることができます.
19
20
21
堂の坂の棚田で知りたいこと
● 何に価値があるのか?
– 棚田はなぜここにあるのか?
– たくさんあるのか,少ないのか?
– どういった地質の条件?どういった地形条件?
– 文化的な背景?農業.石垣.
– 生物多様性?
● ここをどうしたいのか?
22
収集・保存 調査・研究 展示・教育
博物館の機能
来館者
23
情報の更新
● 「収集・保存」,「調査・研究」があるから
「展示・教育」ができる.
– 収蔵庫ではなく,Museum.
– 情報更新の必要性
● ジオパークでどのように情報を更新していく
か?
– 看板の更新,ジオツアーコースの更新
24
情報の更新を担う人
● データの蓄積と文責 → 科学の進展 → 情報更
新の必要性
● ジオパークで誰がデータを集めるか.誰が分析
をするか.誰が成果をまとめるか.誰が情報を
加工するか?
– 専門員の待遇問題
25
まとめ
● ジオパークのデザイン:誰と誰の
communicationを想定するのか?
● ジオパークで伝えたいことをクリアにし,それ
ぞれをどうしたいのか検討した上
で,communicationツールをつくる.
● ジオパークでの科学活動の支援と情報の更新が
必要.

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