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データベース時代の
研究デザイン
~ Quasi-experimental design ~
沖縄県立中部病院 臨床研究推進委員会
2017/8/22(TUE) 17:00-18:00
@第一会議室
Koichiro Gibo, MD, MMSc
はじめに
• 研究ってめんどくさいですよね?
• 超めんどくさがりにもできるだけ楽にできて、なおかつ学術的
にも評価の高いデザインをご紹介します。
• キーワードは..
1. データベースやレジストリを使う
2. Counterfactual(反事実)
3. Quasi-experimental design(準実験デザイン)
研究者の必須要件とは?
• 統計?
• ではなく、リサーチクエスチョンとデザインが
組めること
臨床疫学研究とは
臨床研究はデザインが9割
データ集めるのしんどい
• 古典的な前向き疫学的デザインでは、計画を立てて、デー
タを集める必要がある。これが..
•実にしんどい!
• カルテみたりデータベース(電子カルテ、学会のレジストリ、
DPCデータetc.)使えばいいじゃん!
チャートレビューの落とし穴
チャートレビューによる研究
は国際的に通用しない
Looking Through the Retrospectoscope: Reducing Bias in Emergency Medicine Chart Review Studies Kaji, Amy H. et al. Annals
of Emergency Medicine , Volume 64 , Issue 3 , 292 - 298
データベース研究(レジストリ)
• 目的のしっかりした、研究前提で、かつデータマネージがしっ
かりできているレジストリだと良い研究が結構簡単にできる。
– 例:JEANスタディ、救急蘇生統計、学会主導データ
• 国際的な学術論文を書きたい!というのなら、これらのレジス
トリベースの研究が手っ取り早い。
• 欠点:
– データ処理が大変でプログラミングスキルがないと詰む可能性が高
い。
– 高度な統計手法を必要とすることが多い
データベース研究(電子カルテ、DPCデータetc)
• もともと研究目的ではないもの
• レジストリと較べて
• 利点:
– 入手しやすい
– nが多く、観察期間も長いことが多い
• 欠点:
– 欲しい変数がないことが多い
– データマネージができていないと、GIGO(garbage in, garbage
out)
– 従来の研究デザインでは強いバイアスを生じうる
データベース研究のためのデザイン
• 中断時系列解析(ITS: interrupted time-series)
• 自己対照ケースシリーズ(SCCS: self-controlled
case series)
• この2つを紹介
重要な脱線:因果とは?
• 医学研究の目的は畢竟、原因と結果の関係(因果)を探ること。
• Question:
• コーラを飲む(原因・介入) → ゲップが出る(結果):本当?
思考実験: 因果推論の根本問題
https://www.slideshare.net/R
SS6/choosing-appropriate-
statistical-test-rss6-2104
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Counterfactual (反事実)
• 因果推論を行う上で重要な概念
• デザインや統計学的手法で反事実
を推測することで、因果推論が可能
• 統計学:傾向スコア、周辺構造モデ
ル、do演算子
• デザイン:RCT、前向きコホート、
Quasi-experimental design
• RCT>>その他
中断時系列デザイン(ITS)
• Quasi-experimental design (準実験デザイン)の一つ
• もともと社会経済科学で使用されてきた。
• 図で理解するほうが早い。
中断時系列デザイン(ITS)
James Lopez Bernal, Steven Cummins, Antonio Gasparrini; Interrupted time series regression for the evaluation of public health interventions:
a tutorial, International Journal of Epidemiology, Volume 46, Issue 1, 1 February 2017, Pages 348–355
Counterfactual
インパクトモデルはアプリオリに決定する
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a tutorial, International Journal of Epidemiology, Volume 46, Issue 1, 1 February 2017, Pages 348–355
時系列モデルは4要素からなる
1.レベル(切片)
2.トレンド
3.季節性/周期性
4.(自己回帰性)
季節性を除去してトレンド部分を
抽出する
James Lopez Bernal, Steven Cummins, Antonio Gasparrini; Interrupted time series regression for the evaluation of public health interventions:
a tutorial, International Journal of Epidemiology, Volume 46, Issue 1, 1 February 2017, Pages 348–355
中断時系列デザイン:ITS
• 例:
• 大阪府における救急隊用のスマートフォンアプリ(ORION)
によるたらいまわしの減少効果について
ITS まとめ
• 何らかの制度やシステムが変化した前後の時系列を比較
して、その変化による因果効果を調べることができる。
• 例:OCHでは11年前に血液培養採取時の消毒方法が当
時の研修医の研究によって劇的に変化した。この採取法に
よりコンタミ率がどうなったかについて、その前後の比較的
長期間のデータが得られれば、十分ITSによる因果推論が
可能。
• データベース主体の研究では非常に有用
自己対照ケースシリーズ(SCCS)
• 似たようなものに"Before and After design"というのもある。
• もともとワクチン接種と副反応の関係をみるために使われた
自己対照のコンセプト
全観察期間
肥満手術
B
・
・
コントロール期間
: 2年
介入期間
: 2年
Aさん
心不全による
ED受診or入院肥満手術を受けたケー
ス群(ケースシリーズ)
Before After
自己対照ケースシリーズ(SCCS)
• 利点:
– ケース群だけで良い。そのためコントロール群を設定することによる
バイアスを避けることができる。
– 時間非依存性変数(例:性別)をすべて調整できる。そのため複雑な
統計モデルを立てる必要がなくなる
• 欠点:
– 縦断的なデータベースが必要
– データの前処理が結構複雑
– コントロール期間内のイベントによって介入が引き起こされる(因果
の逆転)ことがないことが条件
)(ケース肥満患者数
入院 受診orED
条件付きポアソン回帰
• 因果関係を述べるにはいくつかの仮定が必要だが、非常に
有用な方法
• ケース群だけを選べば良く、そのケース群の縦断的なデータ
があれば使えるかも。
• アウトカムのイベントはできるだけ早く起きるタイプのほうが
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SCCS:まとめ
Enjoy your research !

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