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目次
はじめに ................................................................................................................................. 2
1 章. デジタルマーケティングを取り巻く環境 ................................................................... 4
デジタルマーケティングは黒船? .................................................................................... 5
情報の流通が新しい価値を創る........................................................................................ 8
デジタルとリアルの融合..................................................................................................11
AI(人工知能)がもたらすインパクト........................................................................... 13
2 章. デジタルマーケティングの胎動................................................................................ 17
デジタルマーケティングのキープレイヤー.................................................................... 19
消費者(需要者)のキーポイント .................................................................................. 21
メディア(媒体)のキーポイント .................................................................................. 25
企業(供給者)のキーポイント...................................................................................... 32
3 章. デジタルマーケティング担当者の考え方 ................................................................. 39
カスタマージャーニーマップ.......................................................................................... 40
Ⅰ.集客/初回購買フェーズ............................................................................................... 44
Ⅱ.醸成/維持フェーズ ...................................................................................................... 51
4 章. デジタルマーケティングシステムについて.............................................................. 54
マーケティングテクノロジーの概観............................................................................... 55
マーケティングオートメーションシステムの導入......................................................... 57
8. p. 8
情報の流通が新しい価値を創る
顧客価値に影響を与えてきた主要因の1つは、やはり IT(情報技術)の進歩です。
まずは下図をご覧下さい。これは 1972 年から内閣府が実施している世論調査で、物質的な豊かさ
より心の豊かさへシフトしている様子が一目でわかります。2014 年においては、実に3人に2人が心
の豊かさを選択しています。
図.「日本国民の心と物の豊かさの嗜好推移」
その背景として、80 年代までは白物家電、90 年代以降はインターネット・PC・スマホに代表される
情報基盤・機器が普及したことにあり、物質的な欲求が高止まりしたといえます。
特にインターネットの普及によって、情報が瞬時に伝えられる土壌がつくられました。
ソーシャルの土台まで整った現代では、個人もメディアとなりえるため、情報による価値格差は縮小
しているといえるでしょう。
ただし、ネット活用によって時間・空間の違いによる情報価値が平坦化されたと同時に、新しい価
値も生まれました。
例えば Google は、「有用な情報はよく引用される」という仮説を元にしたページランクという画期的
な検索技術を発明し、今では「Web で調べものをするときは Google」というブランドを築いています。
また、オンライン書店のアマゾン、国内 EC モールの楽天、SNS の Facebook、メッセージアプリケー
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ションの LINE など、それぞれ特定の用途でのブランドを築いています。
これらをマーケティングの視点で見ると、彼らは単に IT サービスを提供しているのではなく、特定の
課題を持った「利用者」とそれを解決する手段を持ち合わせた供給者をマッチングするマーケティ
ングプラットフォームという役割を担っているとも見て取れます。
実世界でたとえると「極めてマーケティング能力の高い問屋(この場合卸商材は利用者自身に相
当)」と置き換えることができるでしょうか。
そして、上記のようなインターネット企業以外でも、実世界の資源も組み合わせたビジネスモデルも
すでに登場しています。
ここでは、ヒト・モノ・カネの視点で3つほど事例をご紹介しておきます。
まず、「SuMiKa」という住宅リノベーションと専門家のマッチングサービスを提供している会社です。
(https://sumika.me/)
最近日本でも、冒頭にあげた「心の豊かさ」の流れも受けて、より良い住宅環境を作りたい人が増え
ています。(なお、リノベーションとは、例えば部屋をエコな素材に置き換えたい、など機能強化によ
る価値向上を指します)
但し、庭の物置を改造するなどちょっとしたリノベーションでも、都度施工業者に電話してやりとりを
し、果たしてこれが妥当な見積もりなのか不安を抱える・・・ということはよくあります。
このサイトでは、依頼主がこういうことをしたい、という要望と予算を提示し、それに対して(同サイト
で登録されている)専門家ネットワークが、各案件で貢献できるものに手を挙げて、依頼主との信頼
関係を築いたうえで取引が成立するという仕組みです。
利用者にとっては安心という付加価値が享受出来、施工側から見ても自社の稼働率強化・強みを
生かせる案件を見つけやすくなることで、収益面・品質面での利点があります。
次の事例は、ネットで印刷を注文出来るサービス「ラクスル」です。(http://raksul.com/)
このビジネスモデルは、単に注文処理をネットで代行という点ではありません。全国の印刷会社(特
に日本は中小企業に分散されており印刷機稼働率が低い)とネットワークを結び、注文をネットで
受けて非稼動状態の印刷機を巧く活用することで、低価格な印刷サービスを提供しています。利
用者にとっては低価格(そして印刷機候補が多いため短納期の可能性も高い)で、印刷会社から
見ても、固定費の経営資源を有効活用出来るため、まさに近江商人で有名な「三方良し」の好例と
言えるでしょう。
最後に紹介するのは「クラウドファンディング」です。ここで言うクラウドとは「Cloud(雲)」ではなく
「Crowd(群衆)」を指しています。砕いて言い換えると「誰でも気軽に参加できる小口投資サービス」
となります。
今このサービスは世界的に広まりつつあり、きっかけはオバマ大統領による小口ネット献金戦略の
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成功と言われています。(6 億ドルの資金を集め、その大半はネット経由との観測も)
日本でも既にいくつかサービスが立ち上がっており、代表的なものでは「Ready For」があります。
(https://readyfor.jp/)
実際に上記サイトの募集案件を見ていただくと分かるのですが、「衰退している地元の文化を守り
たい」「震災被害にあった方を支援したい」など、経済的利益というよりは社会貢献につながるもの
が比較的多く、出資する側も利鞘目的というよりは、出資者の志に共鳴してぜひ応援したいという
気持ちで関わるケースが多いようです。
上記の事例でのポイントは、ヒト・モノ・カネに関する情報をネットで合理化するというだけでなく、提
供者(企業・個人)・需要者(顧客)双方に付加的な価値を与えている点です。
図.付加価値を与えるマーケティングプラットフォーム
特に、最後のクラウドファンディングはその分かりやすい例ですが、日本のような成熟社会では、個
人は単なる経済合理性の追求だけではなく、自分自身がなにか社会・他者の課題解決に貢献した
いという心の欲求を求める傾向にあります。特に 2011 年の大震災を機会にそのマインドが加速化
したのかもしれません。
マズローの欲求5段階説という言葉を聞いたことがある方は多いでしょう。簡単に解説すると、人間
の欲求は 5 段階(生理→安全→社会的→承認→自己実現)のピラミッド構成となっており、低層が
満たされるとより高い階段の欲求を満たそうとすること、です。
今の IT がもたらす効果とは、まさにこの階段を一気に上げるエレベータの役割とでもいえるのでは
ないでしょうか。
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このように、インターネットを代表とする IT の普及が個人を中心とした高次の価値感(欲求)を促し、
まさに事業・マーケティングの在り方を大きく変える動力源となっています。
ただし、今起こっている新しい価値提供は IT(情報技術)によるものだけではありません。次回は、
IT 以外の新しい技術が与えるビジネスインパクトについて触れてみたいと思います。
デジタルとリアルの融合
O2O(Online To Offline またはその逆)という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。この言
葉が表すとおり、ネットとリアル(現実社会)との境界線はなくなりつつあるのが現状です。今回はそ
のトピックについて触れてみたいと思います。
リアルのデジタル化
通信インフラとスマートデバイスの普及で、いつでもどこでもネットにアクセス出来る環境になりまし
た。そしてもう一つ、リアルにおける活動もセンサーの技術進化で簡単に収集・制御できるようになって
います。
まず、位置情報については、以前からスマホの GPS(全地球測位システム)機能を活用したマーケティン
グの利用は進んでいました。
例えば無印食品で有名な良品計画は、スマホアプリ「MUJI Passport」を提供し、たとえ購入しなくても、
店舗から一定距離に近づくと「チェックイン」を行うことでマイルを貯めることができます。
かれらは必ずしも購入という行為をする人だけを「顧客」と絞らずに、「自社と関係を持ってくれる人」と定
義付けて、そのエンゲージメント(つながり)を大切にしています。
この位置情報を収集する仕組みとして、2014 年からマーケティングの世界で非常に注目されているの
は、iBeacon と呼ばれる規格です。
要は電波発信機器(ビーコン)と iOS(アップルのスマートデバイス向け OS)電波を発信してそれをスマホ
のアプリケーションで受信する仕組みです。
iBeacon が注目されている理由は主に下記3点です。
・ビーコンが安価になったこと
・消費電力が劇的に下がったこと、(元々は周辺機器接続で使われていた Bluetooth の発展技術で、
BLE(Bluetooth Low Energy)と呼ばれます)
・専用アプリをユーザが起動させなくても、スマホにインストールしておけば、OS がバックグラウンドで
検知してくれること(当初 iOS だけでしたがアンドロイドも後に採用)
さて、その用途ですが、まず挙げられるのが、現実世界での人の動きを捕捉してマーケティング活動へ
活用することです。
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GPS だけだと、建物内など電波が届きにくいエリアや詳細な位置までは捕捉しにくいため、店の中にビ
ーコンを設置することで、クーポンやタイムセール情報などをきめ細かく届けることが可能になります。
例えば、アパレルを中心に SC 運営を行っている「PALCO」は、iBeacon を設置して店の中での人の動き
を可視化する仕組みを導入して話題を呼んでいます。効果としては、館(東と西の分館)を跨いだ来訪
客調査や、購買・未購買顧客行動の差異などをデータ化して、具体的な施策に活用しています。
まさに Web マーケティングの基礎ともいえるアクセス解析のリアル版といってもいいでしょう。
なお、Google も、2015 年 7 月に、Eddystone と呼ばれる、同じく BLE を用いたビーコンの規格を発表し
ました。こちらはソースコードの公開やマルチプラットフォーム利用を想定しているなど非常にオープン
な志向といわれていますが、まさにこれから真価が問われることになるでしょう。
いずれの規格が主流になるにせよ、ビーコンは今後さらに小型化・省力化が期待されています。
今後 IoT と呼ばれる「モノのインターネット」社会において、スマートデバイスを持った人の動きだけでな
く、あらゆる製品にセンサーが組む込まれることが予想されています。
余談になりますが、欧米企業の中では、2020 年に1兆個のセンサー需要(2015 年年間需要の約 100 倍
相当)を見込んで動き始めているところもあります。
期待の背景にはもう一つ理由があり、以前のセンサーは単に検知するだけが目的でしたが、そこから判
断・指示といった高度な情報処理まで担えることも大きな要因です。
こちらについては後で取り上げる AI(人工知能)の発展が大きく関与しています。
デジタルのリアル化
AR(Augmented Reality、拡張現実)という言葉があります。現実社会に仮想技術を付加する仕組みのこ
とです。
例えば、5 年にわたる大天守の修理が完了して 2015 年 3 月にグランドオープンした姫路城。既にご覧
になった方も多いのではないでしょうか?
オープンと同時にスマホ・タブレット向けアプリもリリースし、特定のポイントでアプリをかざすと当時の映
像やキャプションによる補足説明など、まさにその場にふさわしい視覚的な効果を与えてくれます。
現時点では上記のように、視覚表現を補って、例えば購入製品パッケージに専用アプリをかざすと特別
映像が流れる仕掛けなどが AR でよく利用されています。
勿論、視覚以外での AR も研究が進み、今後ますます人間の五感を補う活用が進むことが期待されて
います。
例えば、セブンアイホールディングス(以下セブン&アイ)は 2015 年 10 月から、「3D デジタル試着室」と
いう米国発の仕組みを導入しました。わざわざ試着しなくても、3D デジタル技術によって身体サイズを
測定し、体型に合う商品を選定するもので、米国では既に 2009 年から導入されています。後ほど触れ
ますが、セブン&アイは 2015 年 11 月からリアルとネットを融合させた「オムニセブン(omini7)」をスター
トしますが、そこでの連携も視野においています。
もう一つ、ものづくりで今注目されている「デジタルファブリケーション」という言葉についてご紹介してお
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きます。
端的に言うと、物質(モノ)と情報の相互変換技術を総称した言葉です。
なかでも特に注目が集まっているのはデジタル(ビット)化されたものをリアルな物質として変換する領域
で、その代表的なものが「3D プリンティング」です。「3D プリンタ」や「レーザーカッター」を活用すること
で、3D データを元に3次元に加工してくれます。
これも数十年前から技術としては存在していたのですが、3D プリンタの小型化・安価や、クリス・アンダ
ーソンが書いた「MAKERS(メーカーズ)」という本の影響で一気に話題性を高めました。
何より実際それらを活用することで、個々のクリエーターでもデザインしたものを自身でプロト製作するこ
とまで可能になることから、冒頭で触れた自己実現をうまく喚起しています。
これからますます才能のある個が輝ける時代になっていくことが期待されています。
AI(人工知能)がもたらすインパクト
2013 年に、英オックスフォード大学の AI 研究者マイケル・オズボーン准教授は、「人間の仕事の約
半分が今後機械に置き換えられる」という衝撃的な論文を発表し、世界中で話題を呼びました。
もちろん賛否両論ありますが、従来人間でしか出来なかった領域を機械が浸食しつつあるのは事
実で、それは知的作業と思われている分野にまで及んでいます。
例えば、将棋。2012 年~2015 年に行われた将棋プロ VS コンピュータ「電王戦」では、通算でコン
ピュータの勝ち越しとなり話題を呼びました。(http://www.shogi.or.jp/kisen/denou/)
まだ羽生名人などタイトルホルダーとの対戦は実現されていませんが、少なくともトッププロに近い
能力を備えているといってももはや過言ではないでしょう。
実はコンピュータの性能が上がったのは、従来棋力のある人間が決めていたチューニング項目を
機械に学習させたことにあります。この手法は一般的に「機械学習」と呼ばれ、今では AI を構成す
る重要な要素となっています。
簡単に今に至るトピックを取り上げてみたいと思います。
機械学習とビッグデータの交響曲
過去 AI は、「冬の時代」と呼ばれる苦難な時期が幾度かありましたが、2 つのブレークスルーが起
こり、飛躍的に文字・音声認識などの性能向上を遂げました。あくまで将棋はその一例です。
まず1つは、ヒトやモノのデジタル化が進んだことで幾何級数的にデータが発生するようになったこ
とです。例えば、ある調査結果では「文明の始まりから 21 世紀初頭までに生産された情報量が、現
在わずか 2 日で発生する」とも言われています。
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図.機械学習による世界初の合成画像(Google Official Blog より)
Google の他にも、Apple・Facebook・IBM・Microsoft・Baidu(中国の検索大手)などが、まさにこの分
野の研究に膨大な投資を行っています。(ング教授も 2014 年に Google から Baidu の人工知能研
究所に移籍)
日本では、ドワンゴやリクルートなどが人工知能研究所を既に設立して色々と活動しています。
新技術がマーケティングのエンジンへ
そもそも、何故上記企業群は、ここまで AI に投資するのでしょうか?
シンプルに言うと、AI 技術を制することで、社会やビジネスに活用出来るデータが集まるからです。
今まででも触れたとおり、Google は元々キーボードで入力された検索マッチング精度の高さで堅固
なブランドを築きました。
そして今、ヒトのネット利用が PC からモバイルにシフトし、かつモノによるネット化が進むと、キーボ
ードでの手入力というインタフェースは廃れていくでしょう。(私もまだスマホでの手入力は面倒と感
じています・・・)
代わりに注目されているインタフェースが音声・画像認識であり、そのエンジンが AI で期待されて
いる領域の1つです。
既に iPhone や Android 端末に搭載されている音声アシスタント機能も AI で常に学習されています
が、その受け答えが自然になると利用者が増え、増えるとよりデータが集まるため学習効果が高ま
るという好循環を生みます。
また、先ほど登場したモノのインターネット(IoT)化に伴い、ますます肥大化するデータをどうふるい
分けて判断するのかを AI に寄せる動きもあります。
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要は、顧客を創造しつながるための重要な手段として AI に注目しているわけで、手法は異なって
も根底にある考え方は同じです。
日本でも Pepper 君というコミュニケーションロボットがソフトバンクから発表されましたが、同様の狙
いがあると考えられます。
Pepper 君に話しかけた人の音声(調子も含めて)や表情を学習してクラウドにある知識データベー
スから適切な回答例を引き出し、その反応をフィードバックして機械学習で洗練させています。
その過程で生じる、生活における様々なデータを活用して新しいサービスを提供することができる
のです。(もちろん個人情報や営業活動にどのように許諾を得るかは要検討課題です)
今までご紹介した新技術は、新しいマーケティングプラットフォームのエンジンであると同時に、既
存マーケティング手法の代替になりつつあります。
次回からは、今急速な盛り上がりを見せている「デジタルマーケティング」について、その定義と特
徴について触れてみたいと思います。
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ここは、2015 年 11 月からリアルとネット一体となった「omini7」を開始しています。
「omni7」サイトで購入した商品は、セブン‐イレブン店舗で返品・返金でき、かつ注文したその日に
店舗で受け取れる「お急ぎ受取りサービス」サービスを(まだ地域限定ですが)展開予定です。
また、実店舗ではタブレット専用端末を設けて、たとえその店舗に在庫がなくてもグループ全体で
の在庫状況や、配送する際のお届け日時の希望伺いなども済ますことができます。
消費者行動モデルとセグメンテーションについて
オムニ化を背景としたカスタマージャーニー的な購買行動においては、消費者を分類する手法(セ
グメンテーション)も影響をうけてきています。
ネット時代以前は、ダイレクトマーケティングから生まれたモデル「AIDMA(Attention・Interest・
Desire・Memory・Action)」が親しまれてきました。
そこでは男女・年齢・収入など、いわゆるデモグラフィック(人口統計学的属性)やジオグラフィック
(地理的属性)で分類すればある程度ニーズもくくる事が出来たため、宣伝・販促活動としては有効
でした。
ところが 2000 年以降、さらにモノが豊かになりネットが普及し始めると、これだけでは安易に分類化
できなくなりました。
電通が商標登録したモデル「AISAS(Attention・Interest・Search・Action・Share)」のように、Web で
検索したり、購入した商材を評価してシェアする行為も無視できなくなっています。
そこで注目されるようになったのが、購買履歴に基づく分類で、その代表格が RFM によるスコア化
です。これらもネット以前から優良顧客・離反顧客の見極めに通販会社などで使われていたのです
が、ネット時代ではデモグラフィックが読み解きにくいため、改めて注目されています。
次がカスタマージャーニーに代表されるオムニ化の時代です。これをあらわす有名なモデルとして
は、NRI が提唱した「ARASL(Attention・Reach・Action・Share・Loyal)」があります。
チャネル間を「Reach(送客)」したり「Loyal(リピート化)」を重視するのがこのモデルの大きな特長で
すが、ここまで至ると購買したタッチポイントも複数あり、過去の購買履歴だけでは読み解きにくくな
ってきます。
そこで注目されている分類方法が、(購買前の)行動履歴に基づくものです。デジタル化の利点の
1つはデータが取得されやすくなったことにあります。
実店舗だとさすがにじろじろと来訪者を観察・監視するわけにはいきませんが、例えば Web サイト
では来訪者のページ遷移や挙動を記録することができます。
行動履歴のシンプルな例を挙げると、ある EC サイトに購買カートに入れたが決済に至っていない
層、これも1つの行動に基づく分類です。
明らかに購買欲が高まってはいるけれど、何かの理由で躊躇または放置になっていることが読み
解けます。
その他にも、ある特設サイトにこの1週間で 3 回以上訪問した層、など明らかに関心のある行動を
取っている消費者をその種類で分類するのです。
25. p. 25
メディア(媒体)のキーポイント
トリプルメディアの登場
メディアといえば、昔はほぼマスメディアと企業の告知用 HP だけだったものが、海外のマーケター
の中からトリプルメディアという言葉が提唱されるようになり、日本でも徐々に認知されるようになりま
した。
トリプルとは、
「買うメディア」(Paid Media=広告)
「所有するメディア」(Owned Media=自社メディア)
「評判を得るメディア」(Earned Media、ソーシャルメディアなど)
の3つを指しています。
Paid Media は正に従来の広告出稿をさしており、Owned Media は自社 HP やメールマガジン・定期
刊行物が代表的な例です。
最後の Earned Media は、SNS や Twitter・LINE などで、これらは消費者同士が情報をやりとりする
従来になかった形態です。以前は CGM(Customer Generated Media)とも呼ばれていました。
下図でそれぞれのメディアの特徴を記載していますが、それぞれの図が重なっていることから想像
されるように、それぞれ単体で完結するというよりは、それぞれが相互作用しながら集客・販促・購
買後フォローを担うというのが現実的です。
図.トリプルメディアの役割と特徴
26. p. 26
企業の動きとしては、従来のマスメディアを中心とした販促向け広告の効果が薄れてきていることも
あり、まずは Paid Media で認知してもらい、Earned Media で見込み客を育成し、有望な見込み客を
Owned Media で顧客化またはリピート化を促す、というのが基本的な型として出来つつあります。
いずれにしても、あくまで消費者の心理に沿ったコミュニケーションを心掛けることが根幹にありま
すので、どのメディアを使うかどうかの前に消費者行動を理解することが重要です。
ここで、こういったデジタルメディアがどの程度影響力を与えているのかを見てみます。
2015 年 2 月に、「消費者に商品認知のきっかけとなっているメディアは?」というアンケートの 5 年
前と現在を比較した結果が公表されました。
下図がその結果ですが、明らかに従来のマスメディアの効用が薄れ、Web サイトやソーシャルメデ
ィアなど、いわゆるデジタル系メディアが相対的に影響を及ぼしているのが分かります。
図.メディア別で見た商品認知効果(赤枠は筆者による)
一概にデジタル系のメディアが全て効果をあげているというわけではありませんが、少なくとも消費
者に与える影響度合いが、この数年だけ見ても大きく変わりつつあるということは言えるでしょう。
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図.DSP/SSP を通じた広告表示フロー
この2つの役割を通じて直接ターゲットに届けやすくなりましたが、もう一つ重要なのはそれを実用
化した技術にあります。
通常、Web サイトを開くのに 0.1 秒以上遅れるとその遅延に気づくそうです。つまり、上記の入札処
理はその時間内に負えないと実用性がないというわけです。(現代で、開くのに数秒もかかるサイト
にあなたは我慢できますか?)
アドテクの根幹はまさにこれを実現した RTB(Real Time Bidding)と呼ばれる革新的技術にあります。
元々は金融の株取引で活用されていた技術だったのですが、リーマンショック以降多くの金融技
術を担う数学・金融・情報技術の専門家(特に数学系はクオンタムとよばれていました)がその業界
を離れて広告の世界で芽吹いたという流れもあるといわれています。
余談ですが、全世界の株取引の実に%が機械で処理されているといわれており、今でもその危険
性については議論が続いています。いずれにしてもここでも、我々が日常生活で目にすることはあ
りませんが、技術が業界自体に大きく影響を与えている点に注目すべきでしょう。
最後にもう一つ、これらの仕組みを通じてどのユーザがどんな広告に反応したのかどうか?という
貴重なマーケティングデータが収集できます。
このように、顧客に関する全方位的なデータ(社内の CRM や他社広告反応等)を取り扱える基盤
のことを総称して DMP(Data Management Platform)と呼ばれています。
こうすることで、断片的ではなく顧客の全方位的な行動履歴・属性情報が取得できるようになるため、
その理解がさらに深まることが期待されています。
そしてその中で注目を浴びているのが「アトリビューション」という考え方です。
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1については Cookie や広告配信側が識別できる情報で収集し、高速に処理出来る環境が徐々に
整ってきています。特にビッグデータブームの牽引役ともいえる分散処理技術 Hadoop(HDFS)以
降、その派生的な技術が今でも続々と生まれて、従来は時間がかかり過ぎて出来なかったデータ
処理が現実的な時間内に出来るようになりました。
2については、いまだに各社が試行錯誤しています。下記が代表的な按分手法ですが、3つでも
複雑ですがそれより数が増えるとなかなか人間が良し悪しを判断するのも難しくなってきます。
そこで一部では、統計処理での結果、さらには AI(機械学習)に委ねようという動きも欧米を中心に
出てきています。
消費者/企業のメディア化
メディアは供給と需要をつなぐものですが、この数年では供給者・需要者自身がメディア化する減
少もよく見かけます。
例えば前述のアンバサダーマーケティングと呼ばれる手法もそれに該当します。企業の商材を好
きになってくれる人を応援団長(媒体)にして、他の消費者の購買意欲を高めてもらうわけです。
もっとわかりやすい例は昔には存在しなかったソーシャルメディアです。これは性格上むしろ消費
者間で広まっていきますが、例えば商品・サービスの評価などをして影響力を高めるため、立派に
メディアとしての機能を果たしています。
では企業のメディア化とはどういう意味でしょうか?
これはトリプルメディアで言うオウンドメディアにあたり、代表的手法としては自社のホームページや
Twitter などでのソーシャル機能を活用した場の提供です。
改めて企業(供給者)の項でもふれますが、従来のように企業論理で消費者をセグメントして直接
的な販売促進を行う活動は全体効果としては徐々に通用しなくなっています。(理由は消費者価
値観の変化)
従って、あくまで需要者である消費者が望むであろうコンテンツを提供しようというスタンスがまさに
企業のメディア化に至る表面的な理由にあり、その背景は(繰り返しになりますが)消費者とのコミュ
ニケーションがかわりつつあることにあります。
2015 年現在、大半の企業が上記のように消費者を満足してもらえる場やコンテンツ提供を始めた
ばかりで、まだその経済的効果が出るかどうかは分かりません。
但し、(株)サイバーエージェントのように、従来インターネット広告を販売していた会社がメディアを
事業の柱とすべく「Ameba Blog」を立ち上げて見事に収益の柱としたように、手法としてのメディア
化だけではなく、メディア化自身を事業として見据える企業も出てきています。
いずれにせよ、根っこにあるのは消費者とどのように関係性を持つのか、でありメディアがそれを担
う重要な役割であることには変わりありません。
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IoT による O2O の加速化
メディアを必ずしもヒトまたはヒトが作った情報仲介の場だけでなく、需要と供給をつなぐ仕組み全
般と解釈すると、モノもメディアの範疇に入ります。
今までにも何度も登場した IoT(Internet of Things)という言葉は、IT 業界だけでなく、ビジネスの世
界でよく使われるようになりました。今までは我々人間が PC・スマホでネットを活用していたのが、セ
ンサーによる検知技術、ネットに容易にアクセスできる環境、そして AI に代表される判断処理の高
度化がモノのインターネットを加速化しています。
マーケティングの世界でも、リアル社会での人の動き、さらには感情までも収集・解析しようという動
きが出ています。その代表例が先ほど登場した iBeacon です。
ほかにも、例えば某 AI 開発ベンチャーの中では、インストアマーケティング(店内での顧客行動・マ
ーチャンダイジング分析)の領域に、AI の仕組みを活用することを提案しています。
かれらが持つ AI エンジンを活用することで、店舗に訪れて棚を見ている人の表情を解析し、男女・
年齢層はもとよりその人の表情まで読み取ることができるのです。
もう少し未来の話をしてみましょう。
スティーヴン・スピルバーグ監督・トムクルーズ主演の「マイノリティ・レポート」という映画を観た方は
いるでしょうか?
時は 2054 年、殺人の未来予知システムに関するお話です。既に自動運転・自律型ロボット・電子
看板による IoT 化は実現している社会です。
あるシーンで、網膜交換手術を終えたトムクルーズ扮する予知捜査官ジョンが、アパレル大手 GAP
(映画のスポンサーでしょうか?)に入ると、電子看板が彼の網膜を読み取って、即座に相手を認
識して機械が話しかけます。
「ヤカモト様 GAP へようこそ。」
「先日のタンクトップはいかがでしたか?」
つまり、網膜提供元であるヤカモトのプロファイル・購買履歴を読み取ってパーソナライズ対応をし
ているのです。
映画を観ていても感じたのですが、いかにパーソナライズされているとはいえ、日常生活でこれをさ
れると少々はた迷惑に感じます。(特に今回は網膜提供基と勘違いしていたということもあり)
また、今でも既に個人情報についても慎重な意見が出ていることから、おそらくリアルな生活動線
でのデジタル広告は当面マス認知を重視したクリエイティブ(制作物)になるのだろうと思います。
34. p. 34
但し、少なくとも言えることは、最終消費者を顧客にしている業種を中心に、この Earned
Media を重要視しているということです。
このメディアには炎上リスクもはらんでおり、必ずしも安易にアカウント開設して発信す
るべし、ということではないのですが、まずは現状としてご理解ください。
オムニチャネルへの対応
次に、オムニチャネル化への企業の対応についてですが、まず、世界で一番はじめにオムニ
対応を企業として正式に取り組んだ企業の実例を紹介します。
それは、アトリビューションのトピックでも登場した、1851 年創業の大手老舗百貨店
Macy’s(メイシーズ)で、米国に行かれたことのある方ならご存知でしょう。
下図をご覧ください。これは 2007 年から 2015 年における Macy’s の株価推移を表してい
ます。
出所:Yahoo!Finance
http://finance.yahoo.com/
日本同様、米国でもネット化の波を受けて百貨店業界全体が厳しい状況に追い込まれまし
た。その中で、当時 CEO のテリー・ラングレン氏が、2011 年に「オムニチャネル宣言」を
公の場で唱えました。株価低迷の中、まさに生き残り戦略といってもいいでしょう。
彼らが実際に取り組んだ中で、大きな施策は下記のとおりです。
1.全チャネルをマーケ部門傘下に(従業員評価体系も刷新)
2.実店舗とネットで在庫一元化(例:店舗からネット在庫配送可能)
3.RFID 採用による調達の効率化
4.店舗内/店員に情報端末常備
5.アナリティクスの強化(例:モバイル接点のユーザは購入率が高いことが判明)
35. p. 35
後でも紹介しますが、日本の先進的企業でも2以降は既に取り組んでいます。但し、この1
が非常に革新的な取り組みでなかなか実行出来ないところに Macy’s の覚悟が伺えます。
Macy’s では、マーケティング部門が全ての顧客接点を取り仕切り、EC・カタログなどの社
内交渉は廃して、あくまで全体最適を志向してデザインされています。この組織改革という
テーマについては、次の節でもう少し掘り下げてみたいとおもいます。
オムニチャネルでどうしてもイメージしやすいのは、認知から購買誘導までの接点をどの
ようにデザインするのか?です。
但し、国内外のオムニ対応で今注目されている1つに、「ラストワンマイル問題」というも
のがあります。
要は注文したものが配送センターに届いて、そこからどのように最終消費者まで届けるの
か、という問題です。
ここで、EC のビジネス特長をみてみましょう。EC の利点はいうまでもなく、
・ネットで何時でも訪問して、注文など提供側との対話が取れること
・商品陳列に制限がない
ことです。
つまり、ビジネス機能で言うマーケティング(集客・囲い込み)・販売機能が相当合理化出
来ます。
但し、物流面で見ると、店舗来訪者はそのまま持って帰ってくれるかもしれませんが、ネッ
ト経由では商品を最終消費者まで届けてあげる必要があります。
こればかりは人件費が中心となり合理化がなかなか難しいため、売上に占める物流費の割
合は年々高まっており、各社が課題として取り組んでいます。
この領域で当時話題に上がったのが、アマゾンのドローンを使った配送サービス「Prime
Air」です。2015 年 11 月現在でまだ実験中で、米国当局(FAA:米連邦航空局)側のドロー
ン規制整備が早ければ 2016 年中に完了する見込みというニュースも出ており、注目されて
います。
但し、今ライフスタイルも変化しており、なかなか家に居ないため、店舗または都合のよい
場所にとりに行きたい、という層も増えているようです。(アメリカでは自宅配送より店舗
受け取りが中心です)
日本でも、コンビニ内にロッカーを設けて、例えばクリーニングを受け取りできるサービス
を目にした方も多いとおもいます。
そういったニーズを背景に、「Curbside(カーブサイド)」というサンフランシスコを拠点に
したスタートアップ会社が米国で面白いサービスを展開しています。
この会社が提供しているスマホアプリで、近隣エリアの(事前に登録された)店舗の商品を
36. p. 36
注文・決済することが出来、かつそれを対応店舗・Curbside 専用の受取窓口から選べるサ
ービスです。通常は A 店舗であれば A または A 系列での受取制約があるのですが、そこは
切り離しているので利用者にとっては選択肢が広がります。
このサービスは、決済機能も吸収し、アプリ利用料も無料でもっと言えば注文価格も店頭と
同じです。(つまり消費者ではなく企業側に対価を払ってもらうビジネスモデル)
サービス利用者の声では、注文して 30 分~1 時間程度で指定場所に商品が届いていたこと
もあるそうで、これも顧客体験全体での高い感動を与えるでしょう。
このように、どうしてもオムニの話題ではマーケティング・販売が話題に上がりやすいので
すが、例えばどんなにクーポンやポイントでお得な商品提供が実現できたとしても、その商
品到着が遅ければ一気に不満が高まります。
何度も繰り返しで恐縮ですが、今の消費者はその商材と関わった体験全体で評価する時代
に来ています。
従って、オムニへの対応とは、単に顧客接点を増やすだけにとどまらず、場合によってはビ
ジネス機能全体を再構成する必要もあるということです。
ちなみに、日本の大手小売では、ラストワンマイルをヤマト・佐川など運輸業者にゆだねる
ことが多いようですが、コンビニエンスストアの活用など各社色々と新しい取り組みを進
めており、今後も活発な動きがあると見られています。
デジタル化に伴うマーケティング組織改革
前節の Macy’s 事例で触れたとおり、オムニの時代では従来のチャネル分断対応は通用しにくい
時代になっています。
ここで、マーケティング力に定評のある P&G の組織について触れてみます。P&G の国内中途採用
サイトには次のような記述があります。
「P&G のジェネラル マネージャーの多くは、マーケティング部門の出身です。P&G は、経営の根幹
にマーケティングを置くため、マーケティング部門出身者のジェネラルマネージャーが多いので
す。」
※出所:P&G 既卒者採用サイトより引用(下線は筆者加工による)
http://pgsaiyo.com/career/function/mkt/about/
P&G では、マーケティング担当者の役割が事業全体マネジメントに近いため、各ビジネス機能横断
的なマーケティング上の判断が下しやすいという利点があります。
そして P&G に限らず、部門横断でマーケティング活動全体に責任を持つ役職は欧米では存在し、
「CMO(Chief Marketing Officer)」と呼ばれます。
37. p. 37
米国では、フォーチュン 500 社のうち、62%がこの役職を公式に設けています。
一方日本ですが、同じ調査を経産省が 2013 年に実施した結果、時価総額上位 300 社のうち 0.3%
という結果でした。
ただ、こう書くと、「米国は優れているが日本は遅れている」ととられがちですが、決してそのようなこ
とはありません。
日本企業は伝統的に中間層から現場層がすり合わせながら物事を決めていく意思決定文化が強
く、それはそれで「カイゼン」に代表されるように高度経済成長の 1 要因として成功を収めてきたと
いってもよいと思います。
今新しく起こっているデジタルの手法は、(乱暴な表現を許していただくと)「やってみないとわから
ない」要素が強く、どうしても現場主体で能動的に取り組む姿勢が求められるため、日本の企業文
化に相性が悪いとも言えません。
ただ、顧客中心で部門横断的なマーケティング活動を遂行する設計図を描くシーンにおいては、
ある程度トップ交えた意思決定が求められることになるでしょう。
欧米・日本それぞれの良さをブレンドするのが理想的な組織体系ではないかと思います。
私自身、日本のお客様と会話する際に多いのが、
「上司の理解が低い」
「組織は立ち上げたものの経営陣がサポートしてくれない」
という声です。
これらの現状を元に、あるべき組織要素としては、下記の3つの要素が重要ではないかと思います。
1. 経営トップの継続的な協力
2. 顧客体験の全体最適を計画・実行する機能横断的な組織
3. 失敗を恐れない組織風土
1については言うまでもないと思います。2については、先ほどの言葉では CMO およびそれが直轄
する各部門へのマーケティング計画を指揮する組織に相当します。
この組織メンバーに求められる要素として、デジタル(新技術)の仕組みに明るいのは理想ですが、
それよりも各部門との調整能力やそれを牽引していくリーダーシップ力が重要になります。特に、今
のマーケティングは従来の感性的な素養だけでなく、論理的な思考能力、新しい技術への目利き、
など一人の全てを兼ね備えている人材を見つけるまたは育成するのは至難の業です。
むしろ、そういった多彩なリソースを巧く有効活用できるマネジメント力と、あるべき方向に向かわせ
るリーダーシップ、ここが肝になるかと思います。
3の組織風土ですが、これも非常に重要な要素です。
通常、マーケティングに限らず企業活動で何か新しい計画を立案する際には、費用対効果というも
のが求められます。特に新規事業立案などは、事業損益シミュレーションは必須でしょう。
40. p. 40
はじめに、おおまかに前章までの流れを振り返ってみます。
マーケティングが求める原理は不変ですが、キープレイヤーである消費者・メディア・企業にはそれ
ぞれ変化が起こっており、その 2 大原動力は「技術進化」と「社会変化」です。
但し、ここまでで本書が終わってしまうと、単に情報を知っただけでおそらくしばらく経つと内容を忘
れているでしょう。(要は Google 検索で得たものと同等です)
よくデジタルマーケティングというものを深く理解するためには、ある程度自身が当事者として関わ
ってみることが有効です。
そこで、この章では、今までの基礎知識を踏まえて、もしわれわれがデジタルマーケティング担当
者(各社によって役割が異なるので、あえてこのような抽象的な表現に留めておきます)だとすれば
どのような考え方で物事を進めていけばよいのか?そのエッセンスを書いてみたいと思います。
但し、話を複雑にするとややこしくなるので、ここでは BtoC 系商材を提供している企業でのマーケ
ティング担当者、という程度にとどめておきます。(必要に応じてそれぞれ架空の企業も登場します)
カスタマージャーニーマップ
さて、初めに何からやるべきでしょうか?何か面白そうな媒体を見つけてうちの商材を買ってくれそ
うな層にターゲットを絞って割引キャンペーンでも実施しますか?
やるべきことはまず「お客様を理解すること」です。もちろん本来はマーケティング戦略立案時(また
は事業企画の段階)で明確にしておくのが好ましいのですが、ここではそうではない状態としておき
ます。
さて、お客様の理解といってもやはりオムニの時代なので、カスタマージャーニー化した購買行動
全体を把握した上、顧客体験価値を高める仕掛けを構築する必要があります。下図がそのイメー
ジです。
44. p. 44
下図に各フェーズのイメージ図を載せておきます。
図.EC サイト訪問から購買までのフロー
ここで、若干の余談ですが、Web サイト行動に関係する IT システムについて触れておきます。上図
のとおり、消費者の行動フローの種類に応じて蓄積するシステムも散在化してしまいます。
但し顧客軸で情報を収集しないと、実績データの収集・分析、そして仮説から乖離を把握して改善
につなげる、という活動につなげることができません。
そこで、これらのデータを一元化して分析、または出力するための基盤づくりを進める企業も増えて
います。企業によってはこれらのシステムを便宜上 DMP と呼ぶときもありますが、各社によって定義
が若干異なるので、このようなビッグワードが出たときは、必ずその認識合わせをするように心がけ
てください。
Ⅰ.集客/初回購買フェーズ
1) 集客計画(Plan)
既に消費者購買行動の全体像は可視化できているため、その心理・ライフスタイルに見合った顧
客接点およびメッセージの投げかける媒体を選定します。
既にカスタマージャーニーマップで、ターゲット像は具体化しているので、あとは予算・投資効果・
期間といったいわゆる予算管理に必要な計画策定です。本書ではこの方法論までは深入りしませ
んが、あえて補足しておくとプロジェクト管理の考え方が参考になります。
45. p. 45
今回は分かりやすくするため Web に絞っていますが、オムニチャネルを踏まえるとどうしても他部門
との利害調整が入ってきます。
そうなってくると、結局プロジェクト化してきちっと明文化していかないとスムーズに調整事が進めら
れません。
プロジェクト管理能力は、今後マーケティング担当者にも間違いなく必要とされるスキルセットです
ので、プロジェクト管理手法も社内で統一するのも一案かと思います。
そうしないと、いつまでたっても部門間の不毛な縄張り争いに陥ってしまう恐れがあります。
2) 回遊計画(Plan)
ここでは、来訪した見込み客をコンバージョンにつなげる段階です。
まず本題に入るために、よくある失敗例をご紹介します。
ある程度のマーケティング担当者が揃った企業では、この回遊担当と前段の集客担当が分かれて
いるときがあります。
そして残念ながら、両者はそれぞれの目的に邁進するがゆえに全体として効果を生まないサイトに
なってしまうときがあります。
集客の評価指標は通常来訪 PV です。非常に乱暴な表現を使うと、誰でもいいからサイトに来てく
れたら来訪担当者の評価が高まるわけです。
一方、回遊担当者の評価指標は来訪者をいかに効率的にコンバージョン(EC サイトなら購買)に
繋げるのか、というのが一般的です。
つまり、その母数となる来訪者の質が悪く(例:買う気はないのに過渡な広告で間違ってきてしまっ
た、等)なると回遊担当者の評価が低くなるわけです。
この対立構図を解決するのは容易ではありません。人間が活動する以上、どうしても自身の目標達
成を優先してしまうのは否めないところです。
だからこそ、初めに触れたカスタマージャーニーマップのような全体設計の工程が必要となります。
このマップを作ることの最大のメリットは、顧客理解が進むことよりも、社内のコミュニケーションを円
滑にすることにあるとさえいっても過言ではありません。
話を回遊活動単体に戻します。
集客時に来訪者に与える期待値をさらに高めて、購入という段階にもっていくわけです。従って、
やはり来訪者の心理をきちっと読み解く必要があります。
下図は、コンセプトダイアグラムという手法を意識して作図したものですが、このようにユーザのタイ
プによって各サイトでの心理を文字で表現して、それぞれどのようになってほしいのかを表現して
いきます。
48. p. 48
4) 評価・改善(Check&Action)
ここでは、何を評価指標とすべきか?が重要な考え方となるのですが、大きくは下記 2 点について
重視すればよいでしょう。
(1)目的に沿ったものであること
インターネット広告評価を中心に既に色々と定型化したものはあります。以下がその一部です。
名称 定義式
CTR(Click Through Rate) クリック数÷広告表示回数
CPC(Cost Per Click) 広告掲載料金÷クリック数
CTC(Cost To Conversion) コンバージョン数÷クリック数
CPA(Cost Per Acquisition) コスト÷コンバージョン数
ROAS(Return On Ad Spend) 売上額÷広告費
ROI(Return On Investment) 利益÷費用
この段階でよくある間違いは、単に上記など代表的な指標群を提出して終わり、というものです。
(そして何のアクションにもつながらない)
あくまで評価とは改善のためにある活動であることを意識して、本当に必要なものを絞り込むことが
重要です。
例えば、EC サイトを新規に立ち上げしたとします。立ち上げ当初は認知力が低いため、まずは集
客を重視して新規 UU(ユニークユーザ)数をゴール(KGI)達成の尺度となる重要評価指標(KPI)
とします。
ある程度サイトが成熟すると、今後はいかに来訪者を効率的なコンバージョンに誘導できるのか?
という効率性を重視し、CPA または CVR を KPI に切り替えます。
それもある程度成熟してくると、今後は EC 事業に対する貢献度を測るために ROAS を KPI に設定
します。(もちろん全体において最終的な経済的利益である売上高・利益が KGI であることはいうま
でもありません)
上記もあくまで一例です。結局求められるのは自身の事業・サイトの戦略(何を目的としてどう事業
の強みを生かせるのか?)を理解することに他なりません。
Web 担当者によくあるのですが、Web 担当だから Web だけ、というのは通じません。しかも今後オ
ムニ化によってリアルとネットの融合が進む時代においてはなおさら Web だけでなくビジネス領域
での知見も必要となります。
(2)短期・中長期の2つの視点を組み合わせること