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ポリファーマシーと言われる中で起きていること
-構造主義医療の視点から
名郷直樹
日本プライマリ・ケア連合学会
利益相反(COI)開示
筆頭演者名: 名郷直樹
筆頭演者に、
開示すべきCOIはありません。
構造主義医療の枠組み
 コトバを積み重ねることで現象とのギャップを埋める
 ギャップをコトバで記述する
 実体と関係なく記述している危険を意識して
 記述者「私」を意識して
実体 現象 コトバ
私
GAP GAP
学会
ポリファーマシーと構造主義医療
 「ポリファーマシー」というコトバ
 それに対応する「現象」
 そのギャップ
 その背景の「私」、「社会」、「時代」…
 「実体」は置き去り
全体を取り扱う方法を
考えなさい
五十嵐正紘
全体を取り扱う一つの方法
幸福 不幸
ポリファーマシー a c
なし b d
• abcdのすべてを見る
大きな流れ
 薬で幸せ、薬がなくて不幸から(ad)
 薬が多くて不幸、薬がなくて幸せ(bc)
• adだけをコトバにする時代から
• bcもコトバにする時代
• 実際は常にabcdがある
幸福 不幸
ポリファーマシー a c
なし b d
降圧薬を例に
まずは一つの薬で、「コトバ」と「現象」のギャップを見る
高齢者の降圧薬内服率
 70歳以上で50%以上が内服
BMJ 2012;345:e4535
30年前の降圧薬
 血圧180mmHgが140まで低下(a)
 血圧180mmHgのままで脳卒中(d)
• 老人医療費無料
• 降圧薬で140は幸福、なしで180は不幸
• 「降圧薬で脳卒中を予防しよう」
幸福 不幸
降圧薬 a c
なし b d
現在の降圧薬
 血圧140mmHgが130まで低下(c)
 血圧180mmHgのままで元気、むしろ死んだ
ほうが…(b)
• 3割自己負担
• 降圧薬で130で不幸、なしで180は幸福
• 「薬がなければ幸福になります」
幸福 不幸
降圧薬 a c
なし b d
斜めから離れて縦横で
 降圧薬がありでもなしでも幸福になれる(ab)
 降圧薬があっても幸福にも不幸になる(ac)
• 「降圧薬で幸福になろう」だけでなく
• 「降圧薬なしで幸福になろう」ともいえる
幸福 不幸
降圧薬 a c
なし b d
ポリファーマシーの基盤
 薬で幸せになろうとしていた時代から
 薬なしで幸せを目指してはどうかという時代
 しかしなかなかそうならない
• 健康維持増進、長生き
• 製薬メーカー
• 医療機関
「私」の問題
「コトバ」と「現象」のギャップから、その背後の「私」へ
薬の効果を検討していた場所:「私」の問題
「私」の違い
中年の脳卒中予防
 脳卒中にならないのが普通
 みんな元気
高齢者の脳卒中予防
 病気になるのが普通
 みんな死んでいく
虚弱老人の血圧と死亡:コホート研究
 120mmHg未満がもっとも死亡率が高い
Age Ageing. 2016 Nov;45(6):826-832.
言葉は時間を生み出す
形式である
自然言語(普通に使っている言葉)
言葉は変なる現象に対応している
「日々昇る太陽は新しい」
池田清彦
学術用語
 「変なる現象」では困る
 「不変の同一性」を担保する必要
 時間を抜いて「不変」を担保
 時間を生み出さない「コトバ」で定義
• どこでも誰でも通じる不変、普遍が重要
• そのために「変なる現象」から離れてしまう
• 「実体」なしに話が進む
構造主義科学論では
 時を含まない名によって指示される同一性は
実在しない
• 実在物は時を含む変なる現象
 時を含まない名によって指示される同一性は
「コトバ(学術用語)」である
• 「コトバ(学術用語)」は実在を必要としない
 時間を含む変なる現象としての「ポリファーマ
シー」とは何か
ポリファーマシーという現象
 「薬で病気を予防する」という不変の同一性の概念
化、「コトバ」の限界にぶつかって、それは概念化
が間違っていたせいだという
 「薬で病気を予防する」という「コトバ」の波は圧倒
的で、「現象」より「コトバ」が実体だと思ってしまう
 「薬で病気を予防する」という不変の同一性も、変
なる「現象」の中に見出すしかない。その一つが
「ポリファーマシー」という「コトバ」である
 「薬を飲む」という変なる現象を見ずに「薬の病気
に対する効果」ばかりを見る者との戦いこそが、医
学の営みである
「世情」 BY 中島みゆき
 世の中はいつも変っているから、頑固者だけ
が悲しい思いをする
 変わらないものを何かにたとえて、そのたび崩
れちゃ、そいつのせいにする
 シュプレヒコールの波、通り過ぎていく、変わら
ない夢を流れに求めて
 時の流れを止めて、変わらない夢を見たがる
者たちと戦うため
構造主義医療と世情
 世の中は変なる「現象」なので、不変を求める
ものは悲しい思いをする
 不変の同一性を「コトバ」にして、うまくいかな
いと、「コトバ」が間違っていると言い出す
 「コトバ」の波が通り過ぎていく、不変の夢を、
変なる「現象」の中に求めて
 時間を抜いた同一性を「コトバ」にして、「実体」
に迫ったというような人と戦うため
ポリファーマシーに戻って BY 世情
 「薬で病気を予防する」という不変の同一性の概念
化、「コトバ」の限界にぶつかって、それは概念化
が間違っていたせいだという
 「薬で病気を予防する」という「コトバ」の波は圧倒
的で、「現象」より「コトバ」が実体だと思ってしまう
 「薬で病気を予防する」という不変の同一性も、変
なる「現象」の中に見出すしかない。その一つが
「ポリファーマシー」という「コトバ」である
 「薬を飲む」という変なる現象を見ずに「薬の病気
に対する効果」ばかりを見る者との戦いこそが、医
学の営みである
ポリファーマシーを超えて BY 世情
 「ポリファーマシー」という不変の同一性の概念化、
「コトバ」の限界にぶつかって、それは概念化が間
違っていたせいだという
 「ポリファーマシー」という「コトバ」の波は圧倒的で、
「現象」より「コトバ」が実体だと思ってしまう
 「ポリファーマシー」という不変の同一性も、変なる
「現象」の中に見出すしかない。「ポリファーマ
シー」「薬で病気を予防する」という「コトバ」を超え
 「薬を飲む」という変なる現象を見ずに「薬の病気
に対する効果」ばかりを見る者との戦いこそが、医
学の営みである
参考図書
手前味噌ですが
 ベイズ統計学的検討
 構造主義医療的検討

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