組織環境による創造性の伸張と他組織との影響関係—音楽アンサンブル教育からの洞察
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法政大学イノベーション・マネジメント研究センター主催シンポジウム 「社会を形作る音楽—南米ベネズエラ発・音楽教育による創造性のマネジメント—」 2016/11/21
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- 3. アウトライン 1. 背景と⽬的 2. 楽団とグループフロー —⾳楽活動による創造性の育成 3. 幅広い話題としての⾳楽 —他コミュニティとのつながりというコミュニティの維持の要件 4. ピラミッド構造の功罪 —創造性は転⽤可能か 3
- 4. 背景と⽬的4
- 6. イノベーションの必要性 6 ¨ イノベーション ¤ ⼀⾒無関係なものを組み合わせて新たな考え⽅、 新たな⽅法、新製品、新サービスなどを⽣むこと ¤ 問題解決あるいは価値の創出を伴う ¨ ユーザーイノベーション ¤ イノベーションは企業のものだけではなく、⼀般 の消費者によっても⾏われる ¤ 企業が消費者の創造性をいかに⾼めることができ るかという課題が⽣まれた
- 7. ユーザーイノベーションの例 7 企業はしばしばユーザー(消費者)が ⽣み出したアイデアを製品化する ¨ 体にフィットするソファ ¤ 無印良品が製品化 ¨ 雑貨としてのマスキングテープ ¤ カモ井加⼯紙が製品化 ¨ マウンテンバイク ¤ ユーザー⾃⾝が製品化
- 8. ⼈類に残された役割としての創造性 8 ¨ ⼈⼯知能の発展・普及 ¤ 過去のパターンから将来を予測することが得意 ¤ ⽣産性、効率性は⼈間以上 ¤ 発⾒のプロセスには向いていない ¤ ⼈間が把握できない量を把握できるが、無いもの は作れない ¨ ⼈類は創造性の発揮が求められる⽅向にある ¤ すべての⼈が創造的である必要はないが先進国は 少⼦⾼齢化なので割合を増やすことが求められる
- 9. 幸福に⽣きるための創造性 9 ¨ 効率や営利活動とは異なる観点 ¤ ひとりひとりが幸福に⽣きるための⽅法を学ぶ 必要性 ¨ 創造性と幸福の関係 ¤ 快楽(pleasure)の蓄積 → 依存症 ¤ 楽しみ(enjoyment)の蓄積、創造性の発露による 健全な複雑化 → 幸福 Csikszentmihalyi (1996)
- 10. エル・システマ概要(1/2) 10 ¨ 1975年ホセ・アントニオ・アブレウ博⼠に よって設⽴ ¨ 現正式名称：シモン・ボリバル⾳楽財団 ¨ ベネズエラ全⼟で40万⼈が参加する無料の ⾳楽教室、楽器も無償貸与 ¨ ⽬的 ¤ オーケストラやコーラスの参加を通じて、⼦どもた ちに集団⾏動を学ばせ、体系化した⾳楽教育を⾏う ¤ ⼦どもたちに最⼤限の可能性を発揮させ、成⻑に重 要な価値観を⾝につけることを助ける ¤ 貧困や犯罪被害から⼦どもたちを遠ざける
- 11. エル・システマ概要(2/2) 11 ¨ 世界のトップ⼈材を輩出 ¤ グスターボ・ドゥダメル ¤ エディクソン・ルイース (ベルリン・フィル史上最年少楽団員) ¤ etc. ¨ 世界の35カ国以上で導⼊
- 12. エル・システマジャパン概要 12 ¨ 2012年設⽴ ¨ ⼀般社団法⼈エル・システマジャパン ¨ 福島県相⾺市、岩⼿県⼤槌町で活動 ¨ ⽬的 ¤ 東⽇本⼤震災で被災した⼦どもたちに⾳楽経験を 提供 ¤ ⾃⾝や尊厳の回復 ¤ 「⽣きる⼒」を育てる
- 13. 創造性の観点からエル・システマに注⽬する理由 1. 楽団は創造性研究の対象として有望 2. エル・システマは社会環境の改善という⾳ 楽以外のねらいを持っている 3. エル・システマは専⾨分野のクラシック⾳ 楽で世界のトップ⼈材を輩出している 13
- 16. 創造性研究の系譜 16 ¨ ヤコブ・ゲッシェルス(Jacob W. Getzels) ¤ 問題解決よりも問題発⾒が創造性に関わることを提唱 Csikszentmihalyi & Getzels (1988) ¨ ミハイ・チクセントミハイ(Mihaly Csikszentmihalyi) ¤ フロー(Flow)体験の研究 ¨ キース・ソーヤー(Keith Sawyer) ¤ 集団におけるフロー体験の研究 チクセントミハイ、ソーヤーの主たる関⼼は 不確実性をどう扱うか
- 17. フロー体験 17 ¨ 意識が⾼揚した際に起こる特定の状態 ¤ 「ある瞬間から次の瞬間への統⼀的な流れ」を感 じる ¤ 挑戦と能⼒が釣り合っており、不確実な結果を左 右できる状況で体験される ¤ 全能感を覚えて⾃意識が消え、時間が経つのも忘 れるほど仕事に没⼊する ¤ ノっている状態 ¨ ⼈が⾼い創造性を発揮するのは、フロー状態 にあるとき Csikszentmihalyi（1990）
- 18. 集団的フロー(Group Flow) 18 ¨ 創造性は、個⼈よりも集団のコラボレーション の中で⽣じ、集団がフロー体験をする状況で発 揮されやすい ¨ キース・ソーヤーの研究対象 ¤ ジャズアンサンブル(Jazz Ensemble) ¤ ⼦どものごっこ遊び(Children’s Pretend Play) ¤ 即興演劇(Improvisational Theater) Sawyer (2007) 楽団が直接的な研究対象となった
- 19. 企業におけるフロー状態と創造性 19 ¨ 7企業200⼈以上の職業⼈を対象とした研究 ¨ 創造的な閃きは、フロー状態とともに起こっ ていた ¨ フロー状態を体験した⽇以降でも、被験者は 創造性が⾼まっていた Amabile et al. (2005)
- 20. フロー状態に⼊りやすい環境 1. 技量に⾒合った挑戦的な仕事に取り組んで いること 2. ⽬標が明確であること 3. その⽬標に⾃分がどの程度まで近づいてい るのか、その反応が即座に、また恒常的に 得られること 4. その仕⾃分の事に完全に没⼊できる環境に あること 楽団での演奏はこれらを全て満たしている！ ⾳が出ている間は⽇常から隔絶される(4と符合) 即興演奏でなくてもフローの条件は満たされる 20
- 21. フロー状態の⾃⼰⽬的性 21 ¨ ⾃⼰⽬的的、オートテリック(autotelic) ¤ それ⾃体が⽬的になる ¤ 楽しさを理由にその活動を⾏う ¤ それらが与えてくれる経験以外にそれらをする理由 はない ¨ 外⽬的的、エクソテリック(exotelic) ¤ その後の⽬標に近づくために取り組む ¤ 名声、⾼額な報酬を期待 活動が⾃⼰⽬的的になることがフローの重要要素！ Csikszentmihalyi（1996）
- 22. ⾃⼰⽬的的性格と⾳楽 22 ¨ ⾃⼰⽬的的性格、オートテリック・パーソ ナリティ(autotelic personality) ¤ フローを経験しやすい性格 ¨ ⾳楽は役に⽴たないからこそ (＝⾳楽そのものが⽬的であるからこそ) ⾃⼰⽬的的性格を育てやすいのではないか
- 24. 楽団外との関わり 24 ¨ ⼦どもと両親の⾼頻度コミュニケーション ¤ エル・システマジャパンに参加した⼦どもは、両親 のそれぞれとの会話が全国調査に⽐較して多い ⼀般社団法⼈エル・システマジャパン(2014, 2015) ¤ エル・システマジャパンに参加した⼦どもを持つ親 は、⼦どもと⾳楽について会話することが多い ⼀般社団法⼈エル・システマジャパン(2015, 2016) ※注：地域差と楽団への参加の有無が分離されていないので 参考調査として扱う
- 25. コミュニティの成員の位置 ¨ 社会ネットワーク上に位置に注⽬ ¤ ハブ n 単⼀の集団内で多くのつながりを持つ ¤ ブリッジ n 異なる集団間をつなぐ位置に存在する 25 ハブ ハブ ブリッジ
- 26. コミュニティ維持への影響 26 ¨ 携帯電話の通話記録の調査 ¤ ハブに存在する⼈間がいなくなってもコミュニティは 存続 ¤ ブリッジに存在する⼈間がいなくなるとコミュニティ は消滅 Onnela et al. (2007) 代わりがいる 代わりがいる いなくなるとコミュニティに影響
- 27. 地域コミュニティに関する経験則 ¨ 防災の専⾨家の知⾒ ¤ 災害時の被害を押さえるには⽇常の 防災が重要 ¤ 防災のためには町レベルの⾃治体が コミュニティとして機能している ことが⼤事 ¤ 健全なコミュニティに共通する特徴 1. 年齢的な新陳代謝が⾏われている 2. 他のコミュニティとのつながりが ある 本條・遊橋 (2013)に書けなかった話のひとつ 27
- 28. ブリッジの創造性 28 ¨ マーケティングとユーザーイノベーション研究 ¤ 他者の意⾒・購買⾏動に影響を与えるオピニオンリー ダーはハブに存在 ¤ ⾃ら新しい製品を創造・改良するリードユーザーはブ リッジに存在 Kratzer & Lettl (2009) オピニオン リーダー オピニオン リーダー リードユーザー
- 29. つながりと創造性の両⽴ 29 ¨ コミュニティの維持には他のコミュニティ とのつながりが必要 ¨ コミュニティ間のつながりを担う⼈間は⾰ 新能⼒が⾼い 創造性も⾼いと推測される ¨ ⾳楽は以下を両⽴させている ¤ 演奏されていない間に幅広い相⼿との話題になる ¤ 演奏の間は集団として閉じている フローの創造性とも両⽴する 暴⾛族の暴⾛⾏為はコミュニティをつなぐ話題にはなり にくいと推測される(cf. 佐藤 1984)
- 32. つながっていないコミュニティへの影響 32 ¨ エル・システマの強み ¤ 才能を⾒出すシステムとして成果を挙げている ¤ ⼈数が多い ¤ トップが世界とつながっている ¨ 批判 エル・システマがピラミッド構造を構築したことで 伝統⾳楽に流れるべき⼈間を吸収してしまっている かも知れない Todd (2016)
- 33. 創造性・感受性・技能の普遍性問題 33 いくつかの疑問 ¨ クラシック⾳楽教育で伸びた創造性は⺠族⾳楽 演奏にも有効か ¨ ⾳楽で伸びた創造性は経営⾏動にも有効か ¨ 創造性の転⽤はどれくらい可能か ¨ 感受性の転⽤はどれくらい可能か ¨ 技能の転⽤はどれくらい可能か 教育の設計にはこれらの問題が関わる
- 34. 組織・社会レベルの問題 34 ¨ ローカルな⽂化同⼠の関係 ¨ 異なる価値観を持った組織同⼠の関係 ローカルな⽂化かユニバーサルな能⼒か ¤ ⼀部の⽂化／組織がリソースを吸収する ¤ ⼀部の⽂化／組織で成⻑したリソースが 他の⽂化／組織に貢献する どちらが起きるか
- 35. 個⼈レベルの問題 35 想定される(逆⽅向の)問題 ¨ 特定の事柄にのみ特化した⼈材が創出される ¤ ⽂化的過適応 ¤ いわゆる専⾨バカ ¨ 標準化によって⽂化的背景が失われる ¤ ⽂化的希薄化 ¤ いわゆる器⽤貧乏
- 37. ユーザーイノベーション研究からの推測 他者との幅広いネットワークは ¨ ⾃らがイノベーションを起こす可能性に マイナスの影響を与える ¨ ⾃らが起こすイノベーションの質に プラスの影響を与える ¨ オタクがイノベーションを起こす ¨ その中でも社交的なオタクが新しいものを ⽣みだす 本條 (2016) 37
- 38. ベネズエラ⾳楽楽団5añosの演奏 ⽇本⼈によるベネズエラ⺠族⾳楽の演奏 ¨ ⽇本で培ったなんらかの能⼒が転⽤された部分 ¨ ⽇本にあるベネズエラ⾳楽コミュニティ、 エストゥディアンティーナ駒場(Estudiantina Komaba)で深めた部分 (due to ⽯橋純東京⼤学教授) ¨ ベネズエラでの各⾃の学びによる部分 深めたものをつなげたひとつの成果となっている 38
- 39. 参考⽂献(1/3) 39 ¨ Amabile, T. M., Barsade, S. G., Mueller, J. S., & Staw, B. M. (2005). Affect and creativity at work. Administrative science quarterly, 50(3), 367-403. ¨ Csikszentmihalyi, M. (1990). Flow: The psychology of optimal performance. NY: Cambridge UniversityPress. (M.チクセントミハイ 著、今村浩明訳『フロー体験 喜びの現象学』世界思想社、1996年) ¨ Csikszentmihalyi, M. (1996). Flow and the psychology of discovery and invention. New York: Harper Collins. (M・チクセントミハイ著、 浅川希洋志監訳、須藤祐⼆訳、⽯村郁夫訳『クリエイティヴィティ— フロー体験と創造性の⼼理学』世界思想社、2016年) ¨ Csikszentmihalyi, M. & Getzels, J. W. (1988) Creativity and problem finding in Frank H. Farley and Ronald W. Neperud ed., The Foundations of Aesthetics Art and Art Education, pp.91–116, , New York:Praeger.
- 40. 参考⽂献(2/3) 40 ¨ 本條晴⼀郎 (2016)「消費者によるイノベーションに対するネット ワークの効果」『⽇本マーケティング学会 カンファレンス・プロ シーディングス』5, 452-453. ¨ 本條晴⼀郎、遊橋裕泰 (2013)『災害に強い情報社会―東⽇本⼤震災 とモバイル・コミュニケーション』NTT出版 ¨ ⼀般社団法⼈エル・システマジャパン(2014)『2013年度相⾺⼦ども オーケストラプロジェクトにおける週末弦楽器教室に関する報告書』 ¨ ⼀般社団法⼈エル・システマジャパン(2015)『2014年度相⾺⼦ども オーケストラプロジェクトにおける週末弦楽器教室に関する報告書』 ¨ ⼀般社団法⼈エル・システマジャパン(2016)『2015年度相⾺⼦ども オーケストラプロジェクトにおける週末弦楽器教室に関する報告書』 ¨ Kratzer, J., & Lettl, C. (2009). Distinctive Roles of Lead Users and Opinion Leaders in the Social Networks of Schoolchildren. Journal of Consumer Research, 36(4), 646–59.
- 41. 参考⽂献(3/3) 41 ¨ Onnela, J. P., Saramäki, J., Hyvönen, J., Szabó, G., Lazer, D., Kaski, K., Kertész, J. & Barabási, A. L. (2007). Structure and tie strengths in mobile communication networks. Proceedings of the National Academy of Sciences, 104(18), 7332-7336. ¨ 佐藤郁哉 (1984)『暴⾛族のエスノグラフィー—モードの叛乱と⽂化 の呪縛』新曜社 ¨ Sawyer, K. (2007). Group genius: The creative power of collaboration. Basic Books. (キース・ソーヤー著、⾦⼦宣⼦訳『凡才の集団は孤⾼ の天才に勝る―「グループ・ジーニアス」が⽣み出すものすごいアイ デア』ダイヤモンド社、2009年) ¨ Todd, C. (2016)「セシリア・トッドインタビュー」『⽉刊ラティー ナ』2016年11⽉号、pp.20-21.
- 42. Thank you for your attention! Seiichiro Honjo, Ph.D. The Research Institute for Innovation Management Hosei University http://www.facebook.com/seihonjo