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中央教育審議会 学校における働き方改革特別部会 第7回
学校の働き方改革の実効性を考える
現状の再認識
2017年11月6日
妹尾 昌俊
教育研究家、学校マネジメントコンサルタント
文部科学省 学校業務改善アドバイザー
NPO まちと学校のみらい 理事
senoom879@gmail.com
http://senoom.hateblo.jp
平 成 2 9 年 1 1 月 6 日
学 校 に お け る 働 き 方 改 革 特 別 部 会
参考資料5
まずは、改めて現状認識
土日の休日を取れていない教員は相当数に上り、
とりわけ部活動の顧問では、4週4休取れていない人が多いと推察される。
1
ベネッセ「学習指導基本調査」 土日の出勤状況
第6回調査(2016年)
土曜または日曜にほとんど毎週出勤している教員は、小学校16.7%、中学校74.5%、高校52.4%に上る。
中学校の運動部の顧問では、約6割が月5日以上土日出勤している(≒4休取れていない可能性大)。
第5回調査(2010年) 中学校教員の部活動の顧問の有無別
「横浜市立学校 教職員の業務実態に関する調査」(平成25年度)
勤務日の休憩なし、4週4休違反は学校にとって“当たり前”!?
(豊富なデータのある横浜を例に紹介したが、問題は横浜だけではない。)
小学校約5割、中学校約7割の教職員が、
「休憩時間」が全く取れていない。
小学校の約1割、中学校の約5割の教職員が
月5日以上休日出勤。
特に、中学校教職員の約2割は、部活等を理
由に月8日以上の休日出勤(=休みなし))
2
小学校 中学校
1日 15.7 7.9
2日 16.4 8.0
3日 12.2 6.7
4日 15.5 12.5
5日 6.2 9.5
6日 2.6 9.9
7日 0.9 6.8
8日以上 1.1 22.2
ほとんど出勤していない 28.4 15.1
無回答 1.1 1.4
5日以上の割合 10.8 48.4
休日出勤の状況
労基法違反が
横行!?
今の実態は何を意味するのか?
法令遵守意識の低さが問題だが、意識改革の必要性を訴えるだけでは
不十分。何らかの強制力を伴う措置も検討すべきでは?
1. 日本中の学校(小中高)で、労基法違反は半ば当たり前となっている。
労働時間の未把握、勤務日の休憩のなさ、4週4休違反の3点でアウト。
教育者、教育機関が法令遵守しない状態でよいわけがない。
児童生徒のためになる活動だから、保護者の期待がある
(やらないとクレームが来る)から、教員にとってやりがいがあるから・・・
⇒これらは法令違反の言い訳にはならない。
2. 本来、超勤4項目により無定量な勤務拡大に歯止めをかける趣旨が
あったのだろうが、実態上、運用上は全くそうなっていない。
3. 残業代も出ない、労務管理が教委や校長等の評価等にも影響しない、
労基法違反でも公立学校には労基署は入ってこない・・・
⇒労務管理をしっかりやろうとするインセンティブも不足。
(ただし、そもそも法令遵守意識の低さも大問題。)
3
今後の議論のために・・・文部科学省にご確認いただきたいこと
※新たな調査をしてくださいという意味ではないです。既にある資料等で分かる範囲で。
1. 労基法をはじめとして、労務管理の基本的なことについて、校長研修では扱われているのか。
⇒国の中央研修ではどうか、また、都道府県・政令市等での研修ではどうか。
2. 企業や私立学校であれば、ひどい労務管理をしているところ(またはそのような疑いがあるところ)には
労基署による調査や指導、場合によっては制裁が入る。
公立学校あるいは教育委員会に対して、調査、指導、場合によっては制裁を伴う何らかの措置を行う制度、
仕組みはあるのか。
仮にないとしたら、国や地方公共団体ではどのような今後の政策の選択肢があるか。
3. 労務管理上、校長らに何らかの問題がある場合、教職員が気づいても、安心して通報できる仕組みはあ
るのか。
一例として、①教職員が校長に意見すると、人事評価や異動上不利な扱いを受けた、②教育課程外にもかかわらず、
部活動顧問ができるか、指導力があるか等で評価や異動に影響があった ③勤務時間について月80時間時間外を超
えないようにとの校長の“指導”が入った といった話も聞く。
この手の問題について、人事委員会が取り上げ、問題解決に動いた事例はあるのか。たとえば、直近3年間に。
4. 小中学校において休憩時間が取れていないこと、また超勤4項目が事実上無視され長時間労働が蔓延し
ている背景には、教員定数上の厳しい現実があることは周知の通り。
小学校において、教員定数の標準を算出するときの計数が、中高よりも少ないのは、どのような理由によ
るものなのか。小中高の定数算出の計数の考え方、根拠をご教示いただきたい。
(計数次第で、空きコマが確保できるかどうかも変わってくると思うので。)
4
(参考)わたしが管理職研修等で申し上げていること
勤務時間の把握・管理はなぜ必要か?
■客観的な勤務時間の記録が重要な理由 3点
① :労働法制上、必要とされている ⇒時間管理の好き嫌いの問題にあらず
※厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
(平成29年1月20日)」
労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用
者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有している。
使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法に
よること。
ア 使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。
イ タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、
適正に記録すること。
② :自らの働き方を振り返るため
※ダイエットする人が体重計にのらないわけがない。
③ :万一、倒れたときや病気となったとき、公務災害認定のときに必要
5
働き方改革をポーズ、掛け声だけとせず、実効性を高めるためには!?
6
基本方針と戦略
人材 財政措置
学校文化
何のための働き方改革か、なぜ長時間労働
のままではマズイかを共有。
効果の大きいものにメスを入れる。
小学校:授業準備、成績処理、給食・清掃 等
中学校:部活動、成績処理、生徒指導 等
高校:部活動、進路指導 等
衛生委員会や校内研修の場で、勤務時間デ
ータやストレスチェック等を確認、対話。
労務管理の責任者、業務量調整や人材育成
の責任者としても優れた校長を登用、育成。
• 管理職試験、人事評価での検討
• 教職員からのフィードバック評価
研修等は一時的なものでは不十分。
校長等に対して、具体的な見直しや業務プロ
セス改革を助言できる人材を派遣。
※第三者評価の反省をどう踏まえるか
人事委員会は機能しているか?
労働問題としても、教育の質の問題としても、
教職員定数を改善する。
• 1人あたり持ち授業コマ数を削減(小・中)
• 専門職スタッフの安定的な雇用確保
財政力の低い基礎自治体等で教職員の勤務
環境が大きく不利になるのは避けたい。
何でも“指導”、“○○教育”と、政府も家庭も
教員自身も増やしてきた反省を。
教材や業務遂行の自前主義をやわらげる。
働きがいがある働きやすい職場を愛でる
(例、Great Schools to Work表彰)。
教員養成段階や初任者研修時から、長時間
労働を厭わない刷り込みはないか?
前回の再掲

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