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嗜好品摂取によって得られる心理学的効果と
記憶に関するレビュー
横光健吾
公益財団法人たばこ総合研究センター
日本心理学会第81回大会自主企画シンポジウム
SS-070 「嗜好品摂取によって得られる心理学的効果に及ぼす記憶の
役割を探る」
2017/9/22(金) 9:20~11:00
久留米シティプラザ 4階 Cボックス
発表の構成
■ 「嗜好品」の定義
■ 嗜好品摂取の心理学的効果に関するレビュー
■ 嗜好品と記憶に関する文献レビュー
■ 「期待」から、記憶がもたらす嗜好品摂取の
心理学的効果を考える
本発表における嗜好品の定義
■ 定義(新村,2008)
●「栄養摂取を目的とせず,香味や刺激の類を得るための
飲食物。酒,茶,コーヒー,タバコの類。」
※研究者には、〇〇な作用・効果があるものを「嗜好品」と
捉える者もいる。
・「ないと寂しい感じがするもの」(高田,2008)
・「抗ストレス作用があるもの」(藤本, 2014)
■ 対象者は、嗜好品を日常的に摂取している者。
1. 「嗜好品」の定義 1
2. 嗜好品摂取の心理学的効果に関するレビュー
■ 嗜好品摂取の心理学的効果には
成分由来(ニコ、カフェ、アル)
薬理学的には本来得られない効果
例:コミュニケーションの促進
※ニコチン・タバコと注意機能のメタアナリシス
※カフェイン研究のレビュー
→摂取者が主観的に体験するすべての効果を対象
■ 基本的には、お酒(タバコ、お茶等)を摂った結果、
主観的に何が得られたか or 取り除かれたか
(正の強化) (負の強化)
2
薬理学的効果
非薬理学的効果
Heishman et al. (2010). Psychopharmacology, 210, 453-469.
Ruxton (2008). Nutrition Bulletin, 33, 12-25.
Glade (2010). Nutrition, 26, 932-938.
嗜好品摂取の心理学的効果とは?
嗜好品摂取の心理学的効果(先行研究から)
2. 嗜好品摂取の心理学的効果に関するレビュー 3
嗜好品 心理学的効果(期待)
酒 緊張の緩和、コミュニケーションの促進、
ポジティブ感情の獲得、性的欲求の向上
茶・
コーヒー
ネガティブ感情の緩和、コミュニケーションの
促進、食欲の抑制、やる気の向上、
身体的パフォーマンスの向上
タバコ ネガティブ感情の緩和、コミュニケーションの
促進、退屈の軽減、体重の抑制
Nicolai et al. (2010). Journal of Personality Assessment, 92, 400-409.
Copeland et al. (1995). Psychological Assessment, 7, 484-494.
Huntley & Juliano (2012). Psychological Assessment, 24, 592-607.
2. 嗜好品摂取の心理学的効果に関するレビュー 4
嗜好品摂取の心理学的効果(自前の研究から)
2. 嗜好品摂取の心理学的効果に関するレビュー
自由記述によって得られた結果
5
横光他 (2015). 心理学研究, 86, 354-360.
2. 嗜好品摂取の心理学的効果に関するレビュー 6
嗜好品摂取の心理学的効果
2. 嗜好品摂取の心理学的効果に関するレビュー
報酬獲得的?(嫌悪)回避的?
個
の
活
動
に
お
け
る
効
果
社
交
的
な
場
面
の
効
果
■ 尺度開発過程における因子構造
7
セルフ・エンパワメント
恥ずかしさが和らぐ
かっこよさを演出する
自信を持つ
嫌なことを忘れる
集中力の向上
頭の中を整理する
作業がはかどる
集中力が増す
次の計画を考える
コミュニケーションの
促進
他者と有意義な時間を過ごす
会話が弾む
会話を楽しむ
ポジティブ気分の獲得
(+リラクセーション)
くつろぐことができる
癒しを得る
気持ちが和む
息抜きをすることができる
横光他 (2017). 行動科学, 55, 1-13.
嗜好品摂取の心理学的効果
2. 嗜好品摂取の心理学的効果に関するレビュー
嗜好品摂取の心理学的効果のまとめ
8
■ 嗜好品摂取によって、
薬理学的効果と非薬理学的効果の双方が得られる。
■ 薬理学的効果は異なるものの、その効果の中には
嗜好品(酒、茶、コーヒー、タバコ)に共通する
ものがある。
嗜好品と記憶(自伝的記憶)に関する文献数
■ 年々、その数は増加(PubMed検索→220件)
3. 嗜好品と記憶に関する文献レビュー 9
0
5
10
15
20
25
30
1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016
論
文
数
嗜好品と記憶(自伝的記憶)に関する研究例
3. 嗜好品と記憶に関する文献レビュー 10
嗜好品 研究内容
酒 ・アルコール依存症者の自伝的記憶の欠陥
・物質使用障害患者(アルコール依存症者を含
む)の展望的記憶とリスク行動
茶・
コーヒー
調べた限り、特に研究は行われていない
タバコ ・喫煙経験のある大学生を対象に、「最初の喫
煙」に関する自伝的記憶を調査
・電子タバコが展望的記憶(課題)に及ぼす影響
(吸った後に課題)
Nandrino et al. (2016). Alcoholism Clinical and Experimental Research, 40, 865-873.
Delorme et al. (2003). Youth & Society, 34, 468-496.
嗜好品と記憶(自伝的記憶)に関するレビューから
3. 嗜好品と記憶に関する文献レビュー 11
自伝的記憶領域
(佐藤他,2005)
酒 茶・コーヒー タバコ
自伝的記憶
の特徴・機能
不随意記憶(無意図
的に想起された記憶)
回想
フラッシュバルブ記憶
フォールスメモリー
〇(初めての喫煙
体験の自伝的記憶)
認知機能・能力として
の記憶
酒 茶・コーヒー タバコ
短期記憶 〇(アルコール摂取
と記憶想起)
〇(記述的レビュー) ◎(メタアナリシスが
実施されている)
展望記憶 〇(アルコール摂取
と展望記憶)
- 〇(電子たばこと展
望的記憶)
山本先生
瀧川先生
3. 「期待」から、記憶が嗜好品摂取の心理学的効果にもたらす役割を考える
心理学的効果を「期待」から考える
■ 結果予期、期待、思い込み
・‘疲れを感じた時に,カフェインは自分を元気づける’
‘喫煙はネガティブな気分を解放させる’
→ 提供された情報による、思い込みの効果。
12
Hine et al. (2007). Psychological Assessment, 19, 347-355.
Juliano et al. (2011). Experimental & Clinical Psychopharmacology, 19, 105-115.
Huntley & Juliano (2012). Psychological Assessment, 24, 592-607.
3. 「期待」から、記憶が嗜好品摂取の心理学的効果にもたらす役割を考える
心理学的効果を「期待」から考える
■ 生物学的に、ストレスがかかった時、人々は
お酒(など)に逃げる?
13
Norman et al. (2015). Psychopharmacology, 232, 911-1001.
3. 「期待」から、記憶が嗜好品摂取の心理学的効果にもたらす役割を考える 14
■ 最近の飲酒体験とストレス状況を思い出すこと
によって、引き起こされる欲求と脳活動
Seo et al. (2013). JAMA Psychiatry, 70, 727-739.
心理学的効果を期待から考える
3. 「期待」から、記憶が嗜好品摂取の心理学的効果にもたらす役割を考える
心理学的効果を期待から考える
15
Stewart-Williams & Podd(2004). Psyc Bulle, 130, 324-40.
(生物学的に)
嗜好品を摂取
外部情報
(言語、代理)
期待しつつ
嗜好品を摂取
思いがけず
効果を得る
嗜好品摂取時の記憶を記銘・保持
ビールは
ストレス発散
になる。
たまたまストレス
を抱えている時
ビールを飲んだ
ストレス発散
期待して
ビールを飲んだ
ビール飲んだら、
ストレス発散
できた!
以前の体験 狙い通りの
効果を得る
やっぱり、
ビールは
ストレス発散!
ストレス
状況
辛いこと、嫌なこ
とがあった
3. 「期待」から、記憶が嗜好品摂取の心理学的効果にもたらす役割を考える 16
■ 記憶は、期待(ルール支配行動)の形成を担い、
さらに、その期待が行動を促進させる。
思いがけず
効果を体験
期待しつつ効
果を得る
期待が
形成・強化
嗜好品摂取時の
記憶を記銘・保持
行動の促進・
効果を再体験
きっかけ
→期待生起
ストレス状況下で、お酒を飲めば、
ストレス発散になる!
心理学的効果を期待から考える
3. 「期待」から、記憶が嗜好品摂取の心理学的効果にもたらす役割を考える
今後の研究の方向性
17
■ 期待の形成・強化と嗜好品摂取の関係
→記憶はどのような役割を果たしているか。
初期には、記憶の役割は重要?
行動履歴が積み重ねられると記憶の役割は低下?
■ 記銘される記憶のインパクトが、重要か?
「はじめて●●を飲んだ時が、忘れられない
ほど美味しかった」
→一番の思い出(記憶)のインパクト(鮮明度・
感情喚起度、脳活動等)と、現在の嗜好品摂取、
及び摂取時に得られる心理学的効果との関係は?
Take home messages
■ 嗜好品摂取によって、薬理学的効果と非薬理学的
効果が得られる
■ 嗜好品を対象とする、認知機能に関する記憶研究は
盛ん
■ 嗜好品摂取の効果に対する期待の形成過程に
記憶が重要な役割を果たしている可能性
18

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