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3 ・ 11 被災地子ども白書出版記念シンポジウム




                   第1部


    3 ・ 11 被災地子ども白書のご報告




          NPO 法人アスイク 代表理事
                大橋雄介
Today’s Contents


1. NPO 法人アスイクのご紹介
2. 5 つのキーメッセージ
   (被災した子どもを取り巻く現状)




             2
学校再開の遅れに対応するために団体立ち上げ




             3
活動の概要




                   避難所
          NPO 法人
学習 サポータ            仮設住宅
          アスイク
    ー
                   直営施設




          協力者


             4
2011 年 4 月 3 日、立ち上げから 1 週間後に第 1 回目の活動




                   5
多数のメディアで紹介




河北新報夕刊 ( 2011.04.09 )    日本経済新聞 ( 2011.05.03 )   週刊東洋経済 ( 2011.05.23 )
                                       6
立ち上げ 3 ヶ月で、一定の成果をあげた

      < 4 月~ 6 月の活動実績>

 実施場所:       4 市町 9 避難所
              (仙台・多賀城・亘理・石巻)
              ※うち 3 ヵ所は ALL 東北教育フェスタのバックサポート


 活動回数:       59 回
 参加サポーター数:   308 人(のべ)
 参加した子ども:    444 人(のべ)
               7
仙台市内 4 ヶ所、多賀城市 1 ヶ所の仮設住宅へ展開




             8
荒井小学校仮設住宅での活動風景




       9
会員制学習支援センター『 19 Tsutsujigaoka 』の立ち上げ




                  10
連携体制

                                ALL 東北教育フェスタ
                        学習     Tohoku Law Net (東北大学法科大学院)
                      サポーター
                               山形大学
 NPO 法人 ETIC.         の確保

           活動基盤                   活動拠点の
            強化                      運営
                      NPO 法人
                      アスイク              仙台市若林区町づくり
                                         推進課


                                学習
 株式会社           教材           サポーター     学校法人河合塾
  日本コスモトピア                     の育成
                                        NPO 法人 PARIF

                         11
                                        有限会社アライブワン
活動の全体像( 2011 年度)                                                                参考資料

    スケジュール                       主な活動                              概要
                                         震災後、いち早く団体を立ち上げ、避難所での学習サポートを開始
                                         学校再開が遅れるリスク、学校再開後に懸念される子どもの学習遅れ、長引く避難所生活による




                            の
                            で
                            所
                            難
                            避
4 月~ 6                                    子どものストレスなどに対処



                            ー
                            ト
                            ポ
                            サ
                            習
                            学
   月                                     4 月~ 6 月の実績:実施場所 /4 市町 9 ヶ所の避難所、活動回数 /59 回、参加したサポーター /308
                                          人(のべ)、参加した子ども /444 人(のべ)

                                         仙台市内、多賀城市の仮設住宅団地の集会所で、主に仮設住宅に入居する小学生~高校生を対象
                                          として、学習サポートを継続
                            トで
                            ポ宅
                            サ住
                            習設
                            学仮
                             の

                                         避難所と異なり、保護者からの申込み制とし、子どもとサポーターの人間関係づくりや履歴管理
  7 月~
                            ー



                                          を重視した活動を展開



                                         仙台市内に 8,000 戸近くある借り上げ住宅(民間の賃貸住宅)に居住する家庭の受け皿として、
                                          みやぎ NPO プラザ(宮城野区)内に学習スペースを設置
                        き
                        つ
                        導
                        指
                        別
                        個
                        ・
                        金
                        学
                        奨




                                         一般の家庭も受け入れ可能としているが、被災した家庭や経済的に困窮する家庭に対しては、奨
         9 月~
                        ー




                                          学金として利用料金を大幅に下げている
                        設
                        開
                        の
                        ペ
                        ス
                        習
                        学




                                         被災した子どもや保護者に対するインタビュー調査に基づき、白書を出版
                        被災地子ども白書出版       出版後は東京でシンポジウムを開催し、より多くの人へ調査結果を PR する
            7 月~ 1       シンポジウム開催
               月                         これにより、必要な支援の構築、被災地への関心の継続などを実現する

                                         上記学習スペースを発展させる形で、被災した子どもと震災に関係なく存在していた相対的貧困
                                          の子どもたちを支援するセンターを立ち上げる
                            型
                            ィ
                            テ
                            ニ
                            ュ
                            ミ
                            コ




                11 月~                    市民が自分たちの住む地域の問題に当事者意識をもつ継続的なコミュニティ型の学習支援セン
                        ー




                                          ターを立ち上げ、被災地から相対的貧困の子どもをサポートするモデル発信を目指す
                        設
                        開
                        の
                        タ
                        ン
                        セ
                        援
                        支
                        習
                        学




                                                  12
調査概要

 調査対象
  - 仙台市内の仮設住宅、借り上げ住宅に居住し、
    当団体の活動に参加している家庭

 調査手法
  - インタビュー調査(主)
  - 一次情報の収集(従)

 調査期間
  - 2011 年 7 月 15 日~ 9 月 15 日( 2 ヶ月)

 調査内容
  - 家庭の経済状態、子どもと親の関係性の変化、人間関係の変化、
    生活環境(居住環境・移動手段・課外活動等)の状況、子どもの状態

                             13
実施体制
 体制図           役割                       担当

                          大橋雄介
                           NPO 法人アスイク 代表理事
 実施者    調査設計、実施、執筆
                          本間優子
                           宮城教育大学 4 年


                          阿部彩氏
                           国立社会保障・人口問題研究所 研究部長

                          有本昌弘氏
                           東北大学大学院教育学研究科 教授
  アドバ   調査設計、分析などに対する     阿久津徹氏
  イザー   アドバイス提供            株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 
                           主任研究員

                          岩下広武氏
                           株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 
                           コンサルタント



        調査実施協力            NPO 法人 ETIC.  ソーシャルアジェンダラボ
 協力組織
        資金提供              公益財団法人石橋財団
                     14
5 つの
Key Message

     15
Key Message ①
     あぶりだされた貧困
     A poverty became obvious




16
元から裕福ではなかった世帯が取り残されている例



  減給、失業などに直面していた人の多くは、
   零細企業の従業員や自営業者
  「貯金なんてないよ」と語る仮設住宅入居者
  数ヶ月の立替えができずに借り上げ住宅を断
   念した仮設住宅入居者
  ある避難所では、子育て世帯の 2/3 は年収
   200 万円~ 400 万円

             17
日本における子どもの相対的貧困率



                        15.7%



           13.4 %    6.4 人に 1 人

 10.9%


1985       1997         2009
                18
Key Message ②
     不利の連鎖
     A chain of disadvantages




19
学校に通えなくなったので、
石巻から仙台に転校してきました。
でも、授業の進度が全然違うので、
最初のテストでひどい点数をとってしまって。
家で挽回しようにも、 5 人家族で 2 間の部屋で、
勉強にも集中できる環境ではありません。
かといって、塾に行かせる余裕はないし。
それからは、やる気を失ってしまっています。

         (中学生の母親、借り上げ住宅入居)
             20
不利の連鎖の一例

                     家庭の経済状態



                      経済的逼迫感



       人間関係          親のストレス状態         生活環境(※)



                    子どもへの関わり方



                      子どもの状態
                    (学力・精神状態 etc. )


(出所)『子どもの最貧国・日本』山野良一を元に作成

※生活環境には、「居住環境」、「移動手段」、「学校外活動・余暇活動」などが含まれる。
                          21
Key Message ③
     問題のタイムラグ
     Time lag of problems

22
阪神淡路大震災後に教育的配慮が必要となった子どもの推移(要因別)



2,000 人         震災の恐怖
                                     経済環境の変化

                                     家族友人関係の変化
1,600 人
              住宅環境の変化


1,200 人


 800 人
                       学校環境の変化

 400 人                           通学状況の変化

              その他


     平成 8 年     10 年      12 年     14 年    16 年
                           23
いくつかの予兆




借り上げのアパートで暮らすようになると、避難
所と違って同じような境遇にあった人と話すこと
ができなくなりました。
一人でいると、誰かに話を聞いて欲しくなります
。



          (中学生の母親、借り上げ住宅入居)
             24
いくつかの予兆




娘は家でも学校のこととか話さなくなりました。
ずっとヘッドホンをしていたり、ネットをしてい
たりで。
私がどうしてもお金のこととか、自分のつらい気
持ちを子どもに話してしまって、子どもは居場所
がないのかもしれません。


          (中学生の母親、民間賃貸住宅)
           25
いくつかの予兆




 ローン返済の督促がはじまっている
 被災者に対する妬みの発生(詳細後述)




            26
Key Message ④
被災地の地域特性
Characteristics of the stricken area
                            27
地域特性の例




   定番のキャリアパスが崩れた地域
   学校が通常通り機能していない地域
   都市に被災者が混在した地域




           28
都市型の被災地「仙台」



   仮設住宅 1,500 戸⇔
    借り上げ住宅 8,000 戸
   借り上げ住宅入居者の 1/4 は
    仙台市外からの転入者
   学校外の教育や生活そのものに
    お金がかかる


              29
Key Message ⑤
支援による弊害
Prejudice and lost of self-respect




                               30
妬み・偏見の発生


 他のお母さんたちからは、「いいじゃん、物を
 自分で買わなくて済んで」、「家賃タダでいい
 ね」、「義捐金たくさんもらったんでしょ」、
 「電化製品も新品のやつをタダでもらったんで
 しょ」とか言われることもあります。
 でも、私たちはお金で買えないものをたくさん
 失ってるんです。
 ※ 同様のコメント多数

           (中学生の母親、仮設住宅入居)
               31
妬み・偏見の発生



(被災してない)周りの子どもからキツイことを
言われてる子どももいます。
「お前だけが被災者じゃないんだ」とか、先生の
見てないところで言われたそうです。
同じ学校にいても支援物資をもらえるのは被災し
た子どもだけなので、僻みみたいなのが出てるん
じゃないでしょうか。

           (中学生の父親、借り上げ住宅入居)
              32
自尊感情の低下




何かこうして欲しいと思うことがあっても、恐縮
しちゃうんです。求めちゃいけない、という気持
ちになってます。
学習サポートにもお金を払いたい。無料だと逆に
負担になるんです。



          (小学生の母親、仮設住宅入居)
           33
キーメッセージ



  a. あぶりだされた貧困
  b. 不利の連鎖
  c 問題のタイムラグ
   .
  d. 被災地の地域特性
  e 支援による弊害
   .


              34
今後必要な視点

 a. 相対的貧困として問題を捉える
 b. 包括的な支援と支援者のネットワーキング
 c 単発ではなく長期的な取り組み
  .
 d. 地域特性を踏まえた支援
 e 偏見や自尊感情の低下に留意した支援
  .
 f.   子ども自身の自走を見据えた支援
 g. 個々への支援よりも土台の変革
               35

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20120111 シンポジウム

Notes de l'éditeur

  1. NPO 法人アスイクの代表をしております大橋です。 まずは、主催者として、本日お集まりくださった皆様にお礼申し上げます。 年始のお忙しい中、こんなにもたくさんの方々に足をお運びいただき、大変嬉しく感じております。ありがとうございます。 そして、この会場を無償でお貸しくださった河合塾、内部のご調整にご尽力くださった佐藤さんにお礼申し上げます。 さて、それでは第 1 部としまして、当団体が昨年 12 月に刊行した「 3 ・ 11 被災地子ども白書」のご報告をさせていただきます。 本日お話をする中で意識したのは、個別の解決策よりも今後のあるべき大きな方向性を提示したいということです。 もしかすると、今日お越しくださった方の中には、これをすれば大丈夫だという具体的な解決策を期待していらっしゃる方がいるかもしれません。 しかし、問題は多様ですし、複雑に絡み合ったりしている場合がほとんどです。一部だけを捉えて、こうすれば大丈夫という解決策を提示するような嘘くさい場にはしたくありません。 ですから、これから私たちがなすべきことの、大きな方針について、現場で見てきたことを踏まえて一つの案を提示する場とさせていただければと考えております。
  2. 本日お話する内容は、大きく 2 つです。 まずは前段として、私たちの活動を簡単にご紹介させていただきます。 その上で、 5 つのキーメッセージという形で、被災した子どもを取り巻く現状をお伝えします。 まず、 NPO 法人アスイクの紹介です。
  3. 私たちが立ち上がったのは、震災から 2 週間後。 学校が崩壊して、残った学校にも何十万人という避難者が押し寄せている状況の中で、学校の再開が遅れるリスクがあった。 そういった状況に対して、周りで動ける団体はほとんどなかったため、誰もやらないのであれば自分たちが、という思いで立ち上げました。
  4. やってきたことは、図にすると非常にシンプルです。 学生を中心とした学習サポーターを避難所、仮設住宅などに派遣したり、自前の学習支援センターを活用したりして、被災した小学生から高校生に対して学習面でのサポートを行なってきました。
  5. これは、団体の立ち上げからちょうど 1 週間後に実施した、避難所での活動の様子です。 ここに至るまでは、実は非常にたくさんの苦労があったわけですが、一番不安だったのは、子どもも親もあまり乗り気ではなかったということです。 避難所の中で私たちの活動に参加しませんか、と声をかけても、怒られてしまうこともあったりで。 活動がはじまる直前まで、子どもも暗い顔をしていて、「この活動は今のタイミングではまずかったかな」と不安に押しつぶされにもなりましたが、学習サポーターと一緒に長いすにすわって勉強をはじめた瞬間、この写真のようにみんながパッと笑顔になった。 あぁ、やってよかったんだ、と本当に胸をなでおろした思いで深い場面です。
  6. どこよりも早く活動をはじめたので、マスコミに取り上げられることも多かったんですね。 で、こういった記事をみた人や組織から、自分も活動に参加したい、外から支援したいという声をたくさんいただいて、私たちの活動は軌道に乗っていきました。
  7. これは、 4 月~ 6 月までの避難所での活動実績です。 これで十分だったとは思いませんが、ゼロから立ち上がった団体としては、それなりの実績を残せたのではないかと思っています。
  8. 仙台近辺の場合、 7 月頃から避難所が閉鎖していきましたので、それにともなって、私たちの活動の軸足も避難所から仮設住宅へうつしていきました。 保護者からも仮設にも来て欲しいという要望もありましたし、私たちの活動もそこで「はい、終わり」というわけにはいかない状況でしたし、はなからそんなに短期で終わろうとは思ってもいませんでした。 ちなみに、ここが津波を食い止めたといわれる有料道路でして、そこに沿って多くの仮設住宅が建設されています。
  9. 仮設住宅での活動は、こんな雰囲気ですね。 集会所という大きなプレハブが作られていまして、そこを特定の時間だけ借りています。
  10. 11 月からは、直営の学習支援センターも開設しています。 これは、民間の賃貸住宅への入居に対して行政が家賃補助する借り上げ住宅への入居者に対応するためです。借り上げ住宅は、仙台市内に 8,000 戸ほどあるので、そこへの対応が必要だと判断しました。
  11. 今お話したような活動を、さまざまな組織と連携して動かしています。 たとえば、学習サポーターの確保は、学生団体や山形大学と。 育成面では、河合塾さんや臨床心理士・現役教師の NPO 、コーチングの会社など。
  12. こちらは、今お話したことをより詳細にまとめたものです。 本日は割愛させていただきますので、後でお目通しいただければと思います。 これまでのように、私たちは避難所、仮設住宅、借り上げ住宅それぞれに対して、半歩先の問題に対応してきたという自負はあります。 でも、同時に目の前に広がる巨大な問題に対して、私たちが張りめぐらした網はあまりにも小さすぎ、悶々としているのも正直な気持ちです。 そういった思いもあり、現場を基点により大きな動きをつくっていくことを目指して実施したのが、今回の白書出版という活動です。
  13. この白書は、被災した子どもや保護者へのインタビュー調査をベースにしています。特に、ある程度信頼関係がある私たちの活動に参加している家庭を中心としました。 特定の人へのインタビュー結果だけでは、情報に偏りが生じてしまう可能性もあったため、リサーチを得意とする社会人ボランティアに協力してもらい、既存の一次情報でフォローするという仕立てにしています。 調査期間は、 2011 年の 7 月 15 日~ 9 月 15 日の 2 ヶ月間。多くの人たちが避難所を出て、次の生活に移りはじめた時期です。
  14. ご覧のように、本日コーディネーターをつとめてくださっている阿部さんをはじめ、数人の専門家にアドバイザーになっていただき、外部の組織からも協力いただき、この調査を実施しました。
  15. さて、ここからが本題です。 白書の調査を通して見えてきたことを、 5 つのキーメッセージとして一つずつお話いたします。 まず、一番大切なメッセージからお伝えしたいと思います。
  16. それは、貧困があぶりだされているということです。 今回の震災では、多くの経済的な困窮家庭を生み出しているということはほとんどの方が知っていることだと思いますし、それは間違ありません。 しかし、見逃してならないのは、もともと裕福ではなかった家庭、問題を抱えていた家庭ほど取り残されているという側面です。 これまで放置されてきた問題が、取り残された被災者という形で浮かび上がってきている。
  17. 今の話を、白書の調査で明らかになった声などから、補足します。 (読む) 避難所でも、比較的経済的な余力があったりや頼れる人がいる子どものいる家庭は、早くから自分で住居を見つけて、避難所から出ていました。 もちろん全てがそういう人、というわけではありませんが、もともと経済的に余裕の無かった家庭、保護者の精神状態がよくない家庭、周りとの人間関係が乏しい家庭など、自力で立ち直りにくい人たちが、仮設住宅などに取り残される可能性が高いのです。そういった傾向は、今後も続いていくでしょう。
  18. これまで放置されてきた問題が、取り残された被災者という形で浮かび上がってきている。とお話しましたが、どういった問題があったのか。 これは、日本における相対的貧困状態にある子どもの割合の推移です。 相対的貧困とは、その社会で一般的な生活ができない状態。 手取りの世帯所得が、中央値の半分以下と定義されており、日本の場合は、 4 人世帯で約 250 万円以下、 1 人親世帯で約 180 万円以下。 生活保護の水準と近い。 この図をご覧いただくと、生活保護の水準で暮らしている子どもが、 15.7 %、 6.4 人に 1 人もいるというのが、過去に一億層中流といわれた日本の現実なんです。 このでのメッセージは 2 つ。 もともとの貧困層ほど取り残されているのであれば、私たちは被災者という切り口ではなく、経済的な困窮家庭という軸で支援していかなければならないのではないか。 そして、そうすることが、前から存在していた問題を今回の震災をきっかけとして緩和していくことにつながるのではないか、ということです。
  19. では、当事者たちは、どのような困難に直面しているのか。 二つ目のメッセージになりますが、大きな切り口としてお伝えしたいのは、「不利は連鎖する」ということです。一つの不利が、次の不利を招き、さらに次の不利へとつながっていく。 これは、具体的な例を紹介してご説明します。
  20. 私たちの学習支援センターに通っている中学生の母親の声です。 (読み上げる) この事例をもう一度見てみると、まず授業の進み方の違いで学習遅れに直面しましたが、次に居住環境の問題がその上に覆いかぶさっています。さらに、経済的な状況が追い討ちをかけ、不利の上に不利が次々と重なっていき、子どもが自力で這い上がりにくくされていく様子がわかるかと思います。 そうして、自分に対する自信を失いかけているという問題につながっていくわけです。
  21. 今のような不利の連鎖を、もう少し広く捉えるために、一つのモデルをご紹介します。 これは貧困の研究を参考にして作成したものですが、家庭の経済状態がどのように子どもの状態に影響を与えていくかの一つのモデルです。 家庭の経済状態が悪いと・・・ このような連鎖反応は、被災した子どもにも起きています。 この不利の連鎖、というメッセージからお伝えしたいのは、一つの現象、たとえば子どもの学力低下、などにだけ着目するのではなく、その背景にどういった要素が影響しているのかまで考えること、そして、包括的にサポートしていくという視点が大事だということです。
  22. 次に、時間軸で問題をお伝えしたいと思います。それが 3 つ目のメッセージ。 問題の発生にはタイムラグがある、つまり、問題はこれから発生していく可能性が高いということです。
  23. まずは、 1 つのデータをご紹介します。 これは、阪神淡路大震災後に、教育委員会が実施した調査の結果です。 教育的配慮が必要となった子どもの人数がどのように推移したかを、その要因ごとに出しています。 教育的配慮が必要な子どもとは、精神的な問題や行動面での問題が現れている子どものことです。 「震災の恐怖」が影響した問題は、 4 年ほど高止まりして急激に低下していますが、着目すべきは、「経済環境の変化」、「家族友人関係の変化」による問題が震災後から数年間かけて増加していっているということです。 これら二つの要因は、同じようなカーブを描いていますから、経済的な事情によって、家族や学校での関係性に影響が及ぶ、といったように、おそらく相互に関連しているのでしょう。 今回の震災でも、この後に問題が発生してくることを予感させる、いくつかの予兆が出てきています。当事者の声としてお伝えしたいと思います。
  24. これは、借り上げ住宅に住む中学生の母親の声ですね。 (読み上げる) この母親に限らず、避難所の生活を懐かしむ親が少なくありませんでした。 避難所というのは、同じ体験をした人たちが精神的に支えあうという面があった。 しかし、そこから壁で仕切られた住居に移って、急激に孤独感や不安にさいなまされているわけです。
  25. (読み上げる) このコメントで注目すべきは、保護者の状態が子どもにも影響するということです。 子どもは大人の状況を本当によく察知します。 たとえば、学習支援センターでも、ある兄弟のお兄ちゃんが自分の携帯電話で有料のサービスを使ってしまった。それを見た妹が、「そのお金、誰が払うの?」とか、叱りつけてるわけです。 だけど、子どもは大人と違って、そういったことを、表立って誰かに伝えたりしない。自分の中に閉じ込めていたりする。それが、問題行動や精神的な問題として、別の形で表に出てきたりするんじゃないかと思います。
  26. それ以外にも、保護者や子どもにこれから影響を与えそうなものとして、一時期凍結されていたローン返済の督促が始まっているという話もあります。 ある家庭では、建てて半年のマイホームが流されてしまって、でもローン返済を延期しても利息だけがたまっていくだけ、という状況に直面し、一時期は父親が「自分が死ねば保険金で払える」ということを口にしていて、本当に自殺するんじゃないかと心配していたそうです。母親も、昼と夜の仕事をかけもちして、何とか早くローンを返そうとしていますが、体が壊れてしまった。そんな話も聞きます。 それから、被災者に対する妬みの発生。これは、後で補足させていただきます。 お伝えしたいのは、問題は震災直後よりも数年後に出てくる可能性が高いということです。そして、私たちは、阪神淡路大震災の教訓を忘れてはならないということです。
  27. では、今のような問題にどう対処すべきなのか。 まず押さえておかなければならないのは、被災地にも地域特性がある、つまり被災地をヒトくくりにはできないということです。 津波、原発による広範囲の被害、という今回の震災の特徴を考えれば当然のことかもしれませんが、この当然のことが、意外と見過ごされがちだと思います。
  28. 地域特性の例として、 3 つほど挙げたいと思います。 1 つ目は、定番のキャリアパスが崩れた地域、ですが、少し前に宮城県の北に位置し、町全体が壊滅的な被害をうけた南三陸町で学習支援をしている団体から話を聞きました。南三陸の高校生の多くは、卒業したら地元の漁業関連産業に就職するというのが定番のルートでした。しかし、震災によってその就職先が打撃を受けてしまった。想定していた就職先がなくなったのですから、地元の若者たちは、一度他の地域に進学したり、就職して、地元の復興に貢献できる人材として戻ってくる必要がある。そうしなければ、働き口がないんですから。そう考えると、たとえば学習支援という活動 1 つとっても、少し工夫が必要でしょう。子どもたちに他地域に進学したり就職する力を身につけさせる必要があるわけですが、これまでそんなことはほとんど考えていなかった子どもたちですから、その前提として、進学への意欲や地域に将来的に貢献するんだという意思を持たせるようなアプローチが必要ではないでしょうか。 それから、中には学校が通常に戻っていない地域もあります。そういった地域では、授業の遅れ挽回することをサポートするような取り組み、たとえば学校の中での補習サポートなどが有効だと思います。 そして、都市の中に被災者が混在している地域。
  29. これは、都市型の被災地である仙台を例にお話します。 仙台には、一例として 3 つの特徴があります。 仮設住宅が 1,500 戸に対して、借り上げ住宅が 8,000 戸。ほとんどが民間の賃貸住宅に住んでいるわけですが、賃貸住宅は仮設住宅と違って、いたるところに散らばっているので、被災者が見えにくくなっています。さらに、その 1/4 は、求職や転校などで市外から転入してきた人たちと言われています。つまり、普通の生活をしている大多数の人たちの中に被災者が混在していて、さらに慣れない土地に転居しているわけですから、町が丸ごと被害を受けたところと比べると、被災者が社会的な孤立に陥りやすいという側面があると思います。 さらに、仙台は学校外の教育や生活そのものにもお金が必要な場所ですから、経済的な困窮にも陥りやすい。 不利の連鎖でもお話しましたが、経済的な困窮と社会的な孤立がドミノ倒しのように問題を複雑にしていく可能性が心配されます。 こういった特性を踏まえると、仙台では、子どもや保護者の社会的な孤立を防ぐ取り組みや、経済状態によって子どもの機会が制限されない取り組みなどが必要となるはずです。 以上、被災地にも地域特性があり、それぞれの特性にあった支援活動を考える必要があるということを、いくつかの具体例とともにお話させていただきました。
  30. 地域特性を考慮した支援とあわせて、支援を考えていく上で必要な認識。それは、支援による弊害が生まれているということです。
  31. 1 つは、妬みや偏見の発生です。 ある中学生の母親のコメントです。 (読み上げる) これと同じような悩みを、本当に多くの保護者から聞くことができました。
  32. 周囲からの妬みや偏見に直面しているのは、子どもも同様です。 (読み上げる)
  33. 支援による弊害として、もう 1 つ別の切り口でお伝えしたいのが、自尊感情の低下です。 (読み上げる) 以前、ある人と話していて、「もし自分がずっとヒトからもらってばかりの生活をしていたら、自分がダメな人間なんじゃないかとか、社会のお荷物なんじゃないかとか感じるかもな」って言っていましたが、確かに気持ちいいことじゃないですよね。 で、そういった感情が行き過ぎると、社会から距離を置くことにつながっていく可能性があるんじゃないかと思います。 1 つ補足すると、ここで紹介した妬み・偏見の発生や自尊感情の低下、という問題も、これまで貧困家庭に対して起きていたことと同じだと思います。たとえば、生活保護を受けているヒトは、周りから働きもしないで税金をもらっているずるい人たちだという感情、そして、受給者自身も社会の中で居心地の悪さを抱えて、社会と距離を置いていく。そうやって、社会の中で分断が生まれていくのだと思います。本質的には、これと同じことが今回の被災地でも発生し始めているわけです。
  34. さて、もう一度本日のキーメッセージをまとめます。 (読み上げる) この 5 つをお伝えしました。
  35. お話の中でも随時触れてきましたが、 5 つのメッセージを踏まえて、今後の支援の方向性について、まとめています。