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企画シンポジウム
社会・経済システムの中の
「多様性」と「分断」
小山友介(芝浦工業大学)
前口上
背景説明で用いたスライド
社会・経済システムの中の
「多様性」と「分断」
小山友介(芝浦工業大学)
話のつかみ:Aさんとの会話
小山「社会経済システム学会の理事会で「社会の多様
性と分断」という名の企画シンポジウムを提案したら、よ
くわからんって顔したセンセイが多かった」
Aさん「40代ぐらいまでなら直感でわかると思うけど、そ
れ以上の世代だとわからないんじゃないかな」
小山「・・・(絶句)」
私も直球で毒舌を吐く人系なのですが、さすがにビックリしました
社会分断の示唆は多い
 テーマ趣旨文から
(既存の議論)
 格差社会
 マイルドヤンキー
 学歴分断線
 スクールカースト
※これ以外:社会的排除論,分断
的労働市場論,など
 社会的に象徴的な出来事
 米国大統領選
 ネットでよく上がる表現
※差別用語多数含む
 ネトウヨ,サヨ,パヨク
 マスゴミ
 膿家
 ニート,ワープア
 ゆとり,老害
 宮廷,駅弁,MARCH,F欄
 陰キャ,コミュ障,DQN
※民族差別系は自粛
分断は社会的現実?
 客観的現実 vs 主観的社会認識
 Real vs Reality 現実 vs 現実感、と言い換えてもいいかも
 客観的現実:各種統計で確認できるもの(と暫定的に定義)
 主観的社会認識:統計とは無関係に、主観的に感じること
 実際には社会は分断なんてされておらず、そういう
感覚を持っているだけかもしれない
 TV・新聞などのメディア報道の影響?
 単にネットに籠もってる人が騒いでるだけ?
 いくつかの調査結果で確認してみます
階層帰属意識:ほぼ安定
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2013
2008
2003
1998
1993
1988
1983
上 中の上 中の中 中の下 下
統計数理研究所,日本の国民性調査
1人あたり県民所得:もとから大差
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4500
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京
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根
熊
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長
崎
宮
崎
鹿
児
島
鳥
取
沖
縄
1人当たり県民所得(平成25年度)(1,000
http://www.stat.go.jp/naruhodo/c1data/04_03_stt.htm
「東京」と「その他」
な状態は昔から同じ
「格差社会」記事数と実質経済成長率
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朝日 読売 実質経済成長率
2017年の記事数は9月30日まで,実質経済成長率は4~6月期のもの
マスコミでのブームは
リーマンショックより前
メディア別内閣支持率(解散報道前)
51.7
47.6
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24.1
42.9
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ニコニコ
産経
日経
読売
毎日
朝日
支持 どちらでもない 不支持
朝日・毎日・読売は2017年6月,日経・産経・ニコニコは2017年7月
暫定まとめ&本シンポジウムの趣旨
 社会全体で統計を取ると・・・
 社会の分断化の進展
 社会階層認識≒経済的生活への認識:変化無し
 政治(≒日常生活から遠いもの):メディアごとに大きな差
 その意味では、分断深化は社会的現実?
 他のデータではもっと見えるかもしれないが・・・
 ただ,実感を持つ人は多い(講演者含)
 これから定年して豊かな老後を迎えるセンセイ方には無縁
かもしれませんが・・・
 このシンポジウムで考えたいこと
 誰が分断の感覚(社会的現実)を持つのか
 なぜ、分断の感覚を持つのか
登壇者と話す内容
 小山友介(芝浦工大):つかみ&第3論者
 話のつかみ(ここまでの話)
 社会システム的に分断の感覚を解釈するモデルの考察
 八巻恵子(就実大学):第1論者
 観光学者として、都市部と地方部の間の分断について
 元々,自由発表のものをこちらで話してもらうことに
 砂川和範(中央大学):第2論者
 過去にヤン車の研究をした経験から、都市内での分断につ
いて
第3発表者として
用いたスライド
日本社会の「分断」に
関する考察
小山友介(芝浦工業大学)
古くて新しい問題としての「分断」
 日本社会の分断・階層構造:過去も存在
 経済学:日本経済の二重構造論
 マルクス経済学,労働経済学の研究蓄積
 社会学:階層研究の蓄積
 特に教育社会学:メリトクラシー論
→「何をいまさら」と言う言葉も分からないでもない
 過去から階層意識が変化していない以上,今なぜ問題視
されているのかが分からない,と言う意見も当然
 ここで,問題とすべきこと
 現在、「分断が強まってる」と感じる(人が増えた)理由
 事実も重要だが、「認識の変化」が重要
社会的分断のイメージと議論の難しさ
世代
学歴 居住地域
雇用環境
メディア環境
切る軸=議論の軸が錯綜
分断の定義も錯綜
どの軸(問題)で見るかで
分断の有無の見え方が変化
↓
一般的な議論が難しい
分断の強まりについて
 要するに、こういうことだと思うのですが・・・
1. 少数派な価値観・世界観が生存できるようになった
2. 生存できる価値観・世界観が増えた
3. 価値観の違う人たちの接触頻度が高まった
→人々が主観的に分断を感じる頻度が増えた
 コレで終わると一般論過ぎて意味が無い
 こういった状況が生まれるに至った背景と理論的議
論を詰めてみます
「分断」について
この発表での社会的分断の定義
「ある基準(軸)で分類した社会内の複数グループで、
別グループの人たちへの連帯的感情が弱いこと」
 連帯的感情:何らかの事象で想起
 社会的なニュース,事件・・・
 別グループ:社会的価値観,道徳観は異なる
 敵対心を持つことも
 あくまでも軸と事象を設定した上での分断
 同じ軸でも,事象が違えば連帯感が生じることもある
 オリンピック、W杯などはわかりやすい例
 全ての点で分断しているわけでは無い
分析の補助線
 複数帰属アイデンティティ
 職業、所属組織、出身校、出身地、世代・・・
 さらに言えば、そこでの役割期待
 人間のアイデンティティ:複数の帰属意識の束
 ある意味、承認(場所・集団)要求のバリエーションの数だけ存在
 こんなものが?というものもアイデンティティ(の一部)になる
 ネットでの○○板住民,陰キャ,喪女,・・・などはその典型
 分類軸(候補)
1. 性別,年齢,居住地域,経済要因などの客観指標
2. 集団と見なせる程度に多くの人が
アイデンティティ(の一部)として採用しうるもの
分断の認識
 あくまでも主観的
 テンポラリーに自分の所属(アイデンティティ)を設定し,
 自集団が他集団と分断(=連帯感の喪失)を感じれば
 そこに社会の分断は生じている
 認識:主観的だが根拠(事実と主張する何か)はある
 それがネグリジブルかどうかは主観性に依る
 当事者には大問題だが他者からはすごく些細なこともある
 セクハラ,いじめなどの問題をイメージするとわかりやすい
現代における分断の「軸」の例:多数
 客観指標を軸にできる分断
 空間の分断:都市と地方,都市内でも居住地の違い
 学歴の分断:大卒以上と高卒以下
 世代間の分断:生育環境が価値観形成に大きな影響
 同一空間内での分断
 正規雇用 vs 非正規雇用(正社員 vs 派遣)
 一つの社会的身分になりかかっている
 組織内ダイナミクスの結果(≒社交能力の差)としての分断
 スクールカースト,職場内カースト
 情報環境の分断
 オールドメディア(TV・新聞)愛好者とニューメディア(ネット)愛好者
暫定的まとめ(1)
 分断=複数グループ間での連帯感の喪失 と定義
 グループを作るための「基準=軸」:多数
 人間のアイデンティティ:複数要素から構成
 それぞれが分断を生起するための軸となり得る
社会化機能の低下
もしくは
社会化機能間の対立・齟齬
社会化(=価値観の同質化)
 社会化(Socialization)
 個人が属する社会・集団などの価値観を受容すること
 方法:大きく2種類?
 権威者からの強制,数による同質化圧力
 個々人の社会化への適応:おそらく3段階(+1)
1. 価値の内在化:通常の意味での社会化
2. 役割期待として納得:「タテマエ」として認識
3. 圧力への屈服:納得してないが、いやいや従う
4. (反発・不服従)
社会化機能の弱まり
 日本が行っている社会化の内容
 これ自体が議論/研究の対象ですが・・・
 本来なら、社会の分断を促すものではない(はず)
 ある意味、過去の日本人論が傍証
 当然、社会環境によって変更する必要あり
 社会の分断=既存の社会化機能が低下
 理由は様々だが、ここでは2つを考える
 ネットメディアの発達
 単純な多数決的同調圧力の説得力が低下
 社会環境・経済環境の激変
 対応・適応速度に差
マスメディア(特にネットメディア)の機能
 過去:民族意識の揺籃機能
 『想像の共同体』
 連帯感の涵養に役立つ
 現在:非物理的サード・プレイス
 マイノリティ・弱者の社会化に大きな影響
 日常的に接触するコミュニティ(家庭・地域・職場など)から
の社会化を拒絶しやすくなる
 特に、ネットメディア
 「自分の意見が多数派の場所」を見つける
 思想的・趣味的マイノリティの拠り所
社会環境の激変
 将来見通しの悪化&経済環境の悪化
 競争力低下,少子高齢化,地域の疲弊・・・
→既存の社会化内容の正当性・正統性が消失
 消費社会の爛熟化
 お互いの生活世界の会話が困難に
 環境変化の影響・適応速度:不均一
 影響・適応速度
 都市住民>地方民,若年>中高年,高学歴>低学歴
 環境への社会化の適応度合い違う人が混在→軋轢
 あえてネット用語を使って書くと・・・
 老害:過去の社会化の正統性が消失したことを認識できない人
 社畜:老害の価値観への過剰適応者
暫定的まとめ(2)
 社会化:価値観の伝達機能
 ある意味、強制的な連帯感醸成機能
 価値観:社会環境によって変更される必要あり
 環境変化に従って価値観を変更できるスピード:個人差・世代差
 メディア:今の場所が強いる社会化に抵抗する機能
 メディアが発達し、かつ、社会環境が激変中
 社会化の機能が低下&軋轢が発生
まとめ
もしくは暫定的結論
2つの視点
 研究者
 鳥瞰的視点
 統計データ=集計量ベースでの認識
 必要なら,自分で調査することも出来る
 複数の社会認識から社会認識を再構成できる
 (ある程度は)客観的認識
 市井の人←今回の議論対象
 虫瞰的視点+メディア情報
 自分に身近な人々を観察し,彼我の差を感じ取る
 メディアを通じた情報から,社会への解釈モデルを得る
 主観的認識
複数帰属と社会化
 社会化:それぞれの場所で実施
 人間の社会化の結果
 ある意味、社会化の「パッチワーク」
 虫瞰的視点での社会化
 各地での内容に違い
 地域や時代によっても変化
 当然、内容に矛盾・対立が存在する
地域
企業
家族・親戚
ジモト
の友人
大学時代
の友人
ネ
ッ
ト
趣味縁
ある人の社会化のイメージ
テレビ
新聞
暫定的結論
 複数帰属+メディア発達+環境変化+虫瞰的視点
1. 少数派な価値観・世界観が生存できるようになった
2. 生存できる価値観・世界観が増えた
3. 価値観の違う人たちの接触頻度が高まった
→人々が主観的に分断を感じる頻度が増えた
おまけ:中流意識安定のパラドクス
 以下の2つは両立しうる?
 社会での分断の間隔が強まること
 階層帰属意識がかなり安定していること
 こう考えると、(一応)両立しうる
 人々:虫瞰的視点で自分の準拠集団のみを観察し、自分の
ポジションを推定している
→準拠集団の構成員の同質性が高ければ、「中」意識が圧倒
的に多くなる
 時代とともに、社会が多様化し、その結果として、各人が意
識する準拠集団がどんどん小さくなっているとしたら?
→相変わらず、準拠集団の構成員の同質性が高ければ、
「中」意識が圧倒

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