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1  sur  20
量子テレポテーションの
実験装置を作ってみた
2018/10/22
@量子計算・量子コンピューター概論(初学者対象)
2
自己紹介
・モフ猫
・NTTテクノクロス社のエンジニア
・趣味はPythonと猫
・最近は様々なIT関連の勉強会に顔を出してます
・転職考え中なので良い会社をご存知の方は
是非ぜひ紹介してください!
・連絡先
Twitter https://twitter.com/okn_yu
GitHub https://github.com/okn-yu/Nand2Tetris
・NO1 「0からコンピュータを作ってみた」
・NANDゲートでCPU〜VM〜コンパイラまで作成しました
・「ゆるゆるIT勉強会 feat.Reedex Vol.4」 の発表資料
・https://www.slideshare.net/YuuOkano/0-119311314
3
過去の発表資料
4
発表概要
・東京大学の量子情報物理の研究室で量子テレポテーション
関連の実験で10年前に卒論を書きました
・厳密に説明するとそれだけで量子論の専門書が必要なので当
時の卒論を読み直して簡略化してまとめました。
・量子情報処理を「いかにして物理的なハードウェア上で実現
するのか」に関するイメージが伝われば幸いです
・簡略化した部分も多いので詳細は専門書を!
5
量子テレポテーションの概要①
・量子もつれと古典通信を用いて量子状態を転送するプロトコル
・本実験では(スピン/偏光などの)離散量ではなく連続量を対象
・古典チャンネル(電気信号)を経由するため光速は超えない
・送信側から測定により「送信状態」の重ね合わせ状態は破壊されるが、受
信側でも「最初の送信状態が再現」される。
yin
yout
H0
A
0
B X P
H
量子もつれ状態の生成
ベル測定
古典チャンネル
送信状態
送信者
受信者
出力状態
6
量子テレポテーションの概要②
・量子もつれの生成制御やBell観測という重要技術を包含
・量子テレポテーションは単なる量子状態の転送以上
・量子計算機は複数のユニタリ変換の組み合わせ
・量子テレポテーションは恒等変換を行う量子計算機の一種!
yin
=U yout
y = I y
量子計算のモデル
理想的な量子テレポテーションのモデル
前ページの「量子もつれ〜Bell測定
〜変異操作」が恒等変換
7
主な実験装置(古典計算機との比較)
・古典計算機の内部
電子回路
電気信号
半導体素子
・今回の実験系
光学系
レーザー光(コヒーレント光)
光学素子
ミラー
ビームスプリッター
共振器
非線形光学結晶
電気光学変調器(EOM)…
8
主な実験装置(実験系全体)
・地面の振動の影響を防ぐためエアサスペンション付きの光学
定盤上に配置
・空気振動による影響を防ぐために風防を作成
9
主な実験装置(レーザー&ミラー)
・Ti:Sapphireレーザー
・波長860nm(赤外線なので可視光ではない!)
・実験室内ではゴーグル着用が必須
・出力が温度に依存するので実験室の温度は一定
・レーザー用ミラーを角度調整機構付きミラーマウントに着用
・赤外線用のビューワーでミラーを調整
MBR110
10
主な実験装置(共振器)
・スクイーズド光生成やレーザーのモード調整に利用
・中央に非線形光学結晶を配置(位相整合用に温度調整)
・4枚のミラーにより共振器長の調整が可能
・共振器長を一定にするためにピエゾ素子で共振器長を固定
オレンジ線:レーザー
ミラー非線形光学結晶
ピエゾ素子
11
量子テレポテーションの実験概要
yin
yout
H0
A
0
B X P
H
量子もつれ状態の生成
ベル測定
古典チャンネル
送信状態
送信者
受信者
出力状態
・①送受信者間で量子もつれ状態を共有
・②送信者は送信状態と自分の量子もつれに対しベル測定を実施
・③送信者は受信者に古典チャンネルで測定結果を通知
・④受信者は自分の量子もつれ状態に測定結果を作用させて送信状態を再現
12
量子もつれ状態の生成(電磁場の量子化)
・レーザー光は「短波長」/「高い指向性」「高い可干渉性」の特徴
・量子化された電磁場の「コヒーレント状態」として扱う
・消滅演算子の固有状態
・光子がポアソン分布に従う状態
・最小不確定状態
・バランス型ホモダイン測定(後述)にて各成分を測定
⌢
a a =a a
a = exp -
a
2
æ
è
ç
ç
ö
ø
÷
÷
an
n!
n
n=0
¥
å
コヒーレント光の位相空間での表現
D ˆx
D ˆp
x
p
a
コヒーレント光の特徴
13
量子もつれ状態の生成(スクイーズド光)
・レーザー光から2段階でスクイーズド光を生成
・①第二次高調波発生
波長が860nm⇒430nmのポンプ光を生成(周波数が2倍)
・縮退パラメトリック増幅
②ポンプ光を元にスクイーズド光を生成
①コヒーレント光
860nm
KN結晶
③スクイーズド光
PPKTP結晶Ti:Sa レーザー
②ポンプ光
430nm
ダブラー OPO(光パラメトリック発振器)
14
ハーフビームスプリッター(HBS)
50%透過 / 50%反射
スクイーズド光A
スクイーズド光B
送信者用EBRビームA(量子もつれ状態)
受信者用EBRビームB(量子もつれ状態)
・HBSに通すと量子もつれ状態のEBRビームが生成
・送受信者がそれぞれでEBRビームを持っておく
・各EPRビームには以下の関係が成立
・スクイージングパラメータ(r→∞)で完全なEPR状態
量子もつれ状態の生成(EBRビーム生成)
ˆxA
- ˆxB
= 2e-r
ˆp2
(0)
ˆpA
+ ˆpB
= 2e-r
ˆx1
(0)
15
Bell測定(ホモダイン測定とは)
・量子状態を直接測定は熱雑音のノイズにより困難
・測定対象の信号光と同一周波数で強度の強いLO光とを干渉させ、2つの
フォトダイオードで干渉光の差分を測定
・LO光の強度だけ増幅する(光子検出にも適用可能)
・ラジオで利用されていた技術を量子光学に応用(差分は振動数のみ)
信号光
ーHBS
LO光
・信号光に比べて十分に強い
・信号光と同一周波数
I1
I 2
⌢
I2
-
⌢
I1
= 2 a y
⌢
x cosq + ˆp sinq( ) y
y
16
|
|
LO光LO光
送信者用EPRビーム
X成分の測定p成分の測定
yin
Bell測定(ホモダイン測定実験系概要)
・転送したい量子状態と送信者用EBRビームを干渉させる
・x成分とp成分それぞれに対してLO光を入射させホモダイン測定を実施
・各成分の測定結果がXとPの場合以下が成立する
xin
- xA
= X pin
+ pA
= P
17
|
|
yin
yin
送信者用
EPRビーム
受信者用
EPRビーム
ホモダイン測定
(x成分)
ホモダイン測定
(p成分)
・送信者側ではホモダイン測定により送信状態は破壊される
・受信者用EBRビームにホモダイン測定の結果に基づき変調をかけること
で送信状態が再現される
LO光LO光
古典チャンネル(実験系概要)
18
xA
- xB
= 0
xin
- xA
= X
xB
= xin
- X - xA
+ xB
xB
= xin
- X
xB
= xin
①. EBRビームのもつれ条件(r->∞と仮定)
②. Bell測定のx成分の測定値がX
③. ②式と同値
④. ③に①式を代入
⑤. 受信側のEBRビームに送信状態が再現
・Bell測定の結果を受信者に適用した場合の数式概要
・r->∞の状態の理想状態では送信状態が再現されることを示される
・p成分も同様にして示すことが可能
古典チャンネル(数式)
19
卒論のテーマ
「量子コンピューティングは暗号化技術を形骸化させるか―RSAのCTO
に聞く」(https://it.impressbm.co.jp/articles/-/16763)
20
卒論のテーマ
・研究室の同期のN君との共同実験
・以下のように系を安定化してスクイーズド光の生成に挑戦した
・系全体を従来の4インチから2インチに変更
・風防をビニール⇒ポリカーボネイトに変更
・共振器をシグマ光機社製からFMD社製に変更
・系全体をコンパクトに再設計
・当時研究室では最高のスクイーズド光の生成に成功(-9.55±0.03db)
・実験系の研究においては「歌って踊れないと」駄目
量子論 / 量子光学の理論的知識
各実験機器(電子回路)全般の動作原理の把握
測定機器を必要に応じて自作できるノウハウ
・純粋な理論系の研究よりも要求される範囲は広い…

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