関交研論文
- 2. -目次-
■ はじめに
■ 第一章 『先行研究の調査と課題の設定』
第一節 外国人の防災意識の調査
第二節 国によるガイドライン
第三節 各自治体の観光防災
■ 第二章 『南海トラフ地震を想定した大阪府の観光防災における問題点』
第一節 南海トラフ地震における被害想定
第二節 大阪における観光防災
第三節 三つの観点からの分析
■ 第三章 『課題の解決』
第一節 交通面における対策
第二節 言語面における対策
第三節 食事面における対策
■ おわりに
■ 参考文献
- 3. はじめに
先日、日本政府観光局は、平成 27 年 10 月 21 日時点において今年度の 1 月から 9 月に日
本を訪れた外国人旅行者数の数が前年同期比 48.8%増の 1448 万人になったことを発表した。
過去最高であった平成 26 年度の一年間の訪日者数である 1341 万人を、9 月時点で早くも
上回ったのである。この背景には、日本政府が中国や東南アジア向けのビザの発給要件を
緩和したことや、格安航空会社の普及で日本に来やすくなったなどという事がある。観光
庁によれば、「訪日客が減るという兆しは今のところ見られない」とし、これから先も長い
間訪日外国人観光客数の増加は進むことが予想されている。
このように、日本は着実に「観光大国」としての地位を確立していっているといっても
過言はないだろう。そこで問題になるのが災害対応であると我々は考える。東日本大震災
により災害関連報道が多数の外国においてもされた日本であるが、未だ「外国人に対する
災害時対応計画」には不完全な部分が多いように思われる。これは観光大国としてすぐに
改善すべき状況ではないだろうか。
そこで本研究においては、「日本にやってきた外国人観光客に対する災害時対応」に焦点
を置き、災害時の観光客の安全確保を目的とする「観光防災」を定義し、特に南海トラフ
の発生により甚大な被害が予想される大阪における観光防災計画の改善点・不足点を探し
出すことを目的とする。
第一章 『先行研究の調査と課題の設定』
第一節 「外国人の防災意識の調査」
研究に先立って、外国人の人々がどの程度日本の災害時対応に関心があるのかを調べる
ためにアンケートを行った。結果は以下のとおりである。
※73 名の外国人を対象としたアンケート。
- 5. 第三節 「各自治体の観光防災」
各自治体の防災対策には様々なものがある。中でも、東京都と沖縄県のものは独自性の
高いものであると言える。
まずは東京である。東京都は訪日外国人観光客の数が最も多い街であるという事もあり、
災害時に外国人旅行者が三日間待機できるよう一時滞在施設を確保するため、県立施設等
を活用して 7 万人分確保するとともに、補助金や税制優遇などの支援策により、民間事業
者の協力を得ることとしている。
次に沖縄である。台風などによる災害などの被害も多い沖縄県は観光客(外国人含む)
における危機管理マニュアルをシチュエーションごとにまとめた「観光危機管理計画」を
作成している。
このように、各自治体がその土地の状況に合わせた防災計画を策定している。では、
次の章では実際に南海トラフ大震災が大阪で起こった場合を想定し、その状況下において
発生する問題点を様々な観点から分析を行い、大阪に適した観光防災を作成するためには
どのような部分の改善が必要なのかを研究していく。
第二章 「南海トラフ地震を想定した観光防災における問題点」
第一節 「南海トラフ地震における被害想定」
南海トラフ巨大地震とは、フィリピン海プレートとアムールプレートとのプレート境界
の沈み込み帯である南海トラフ沿いで発生する巨大地震のことであり、近い将来に高確率
で発生すると言われている巨大災害である。
南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループの報告によると、この地震の最大マグ
ニチュードは 9.1 を想定しており、その被害範囲は近畿全域に震度 6 以上の大地震が発生す
るという。地震の揺れにより、約 62.7 万棟~約 134.6 万棟が全壊する。これに伴い、約
3.8 万人~約5.9 万人の死者が発生する。また、建物倒壊に伴い救助を要する人が約14.1 万
人~約 24.3 万人発生する。津波により、約 13.2 万棟~約 16.9 万棟が全壊する。これに
伴い、約 11.7 万人~約 22.4 万人の死者が発生する。また、津波浸水に伴い救助を要する
人が約 2.6 万人~約 3.5 万人発生する。延焼火災を含む大規模な火災により、約 4.7 万棟
~約 75 万棟が焼失する。これに伴い、約 2.6 千人~約 2.2 万人の死者が発生する。
以上のように、最大で 33 万人の死者、倒壊家屋は 238 万 6 千棟が想定されており、まさに
超巨大災害であると言えよう。
- 8. 在来線では 1,452 箇所、新幹線でも 22 箇所に被害が出ると予測されている。津波による被
害も推測されており、640 箇所で総延長 325km の区間に被害が出ると予測されている。す
なわち、鉄道網においても一部区間で断たれてしまう可能性がある。
ⅲ空港
空港における被害想定であるが、関西には「伊丹空港(大阪国際空港)」、「神戸空港」、「関
西国際空港」の関西三空港と称される、三つの主要な空港が存在する。それぞれについて
被害状況を見てみると、伊丹空港は内陸部に位置するため津波による浸水はないとされる。
しかし、空港の位置する兵庫県伊丹市は、南海トラフ地震では震度 6 弱の揺れが予想され
ている。阪神・淡路大震災の際に、滑走路に亀裂が入ったことがあるため、南海トラフ地
震の際にも同様に被害が起こることも考えられる。
神戸空港は、現時点での津波波高の想定では浸水の見込みはないとされている。しかし、
空港につながるポートアイランドへ渡るための橋やトンネルの出入り口が津波浸水地域と
予想されているため発災直後の運用が難しいと考えられるほか、地震による揺れで滑走路
やターミナルの破損の有無の点検等のために、一時的に閉鎖を余儀なくされることが考え
られる。
関西国際空港は、大阪府の被害想定では津波による浸水はないとされていたが、国土交通
省の航空局は、「南海トラフ地震で想定されている最大級の津波より 1m 高い場合、浸水の
可能性がある。」と公表している。2011 年の東日本大震災では、宮城県の仙台空港が想定外
の大津波により浸水し、5 日間閉鎖するという事態に陥った。巨大津波の発生が危惧されて
いる南海トラフ地震において、関西国際空港も使用できない状況になる可能性もある。
以上が現段階で予測されている交通機関の被害状況である。
また、南海トラフ地震で発生する津波の予想されている浸水地域は大阪府の想定では以下
の図のようになっている。
- 9. Figure 1 南海トラフ地震の津波による浸水想定地域
これによれば大阪駅や梅田駅の一帯が津波により 1m~2m 浸水する恐れがあることがわ
かる。
大阪・梅田の両駅およびその一帯は、近郊地域だけでなく他の国内地域への旅客輸送の関
西におけるターミナルという役割がある。
また上述したとおり、日本の玄関口である空港も被災により使用が難しいということが懸
念されているため、発災後すぐに大阪にいる訪日外国人を送還することは難しいと考えら
れる。
したがって、次の項目においては発災後に他地域と連携して訪日外国人を送還する方法を
推察する。
2.訪日外国人を輸送するにあたって
では南海トラフ地震が発生したのち、どのようにして大阪にいる訪日外国人をそれぞれの
国へと送還するのか。なお、ここでは各空港の再開時期を東日本大震災で被害を受けた、
仙台空港と同じ発災 5 日後と仮定する。
最初の課題は国内での輸送である。大阪の交通のターミナルである大阪・梅田一帯は前項
の図で示した通り浸水の恐れがあり、付近の道路は発災直後から数日間は通行不可になる
可能性がある。
しかし、東日本大震災で津波の被害を受けた三陸沿岸地区は震災発生から早い地域だと
2 日で道路啓開がなされた。大阪が被害を受けた際にこのように早い道路啓開がなされれ
ば、発災後早い段階で訪日外国人を輸送することが可能となる。
第二の課題は、国外への輸送である。南海トラフ地震は広範囲に被害を及ぼす予測がされ
ている。そのため、関西国際空港はもちろん、愛知県の中部国際空港も浸水するという予
測がされている。しかし、国際線を利用できる空港は距離という難点があるものの成田国
- 11. されると予想される。
災害時における外国語対応について
民間の三井住友海上火災保険会社は 2015 年 7 月17日から、自然災害が発生した際の避
難行動をサポートするスマートフォンアプリ「スマ保 災害時ナビ」の外国語版(英語、中
国語、韓国語)の提供を開始した。これはすべての外国人に対して、無料で地震等の自然災
害時に現在地周辺の避難場所を地図上に表示を行う、カメラ機能で避難所まで誘導するな
ど、災害時の安心・安全な行動をサポートするサービスである。
しかしこのサービスによって避難所に行けたとしても、総務省が東日本大震災時の検証
から、多言語対応を含め、平常時から多文化共生の役割を担う、専門的な人材の育成や外
国人キーパーソンの活用等が不十分としている。そのためきめ細かい外国人対応をするこ
とは限界がある。そこで今後、ボランティアに加え、地域の大学等の専門家をコアにした
翻訳・通訳の体制を確保することが必要である。また、災害時の多言語対応の限界を踏ま
え、外国人住民への情報発信についても、 多くの外国人住民が理解する「わかりやすい日
本語」を活用していくことが有効 である。 そして外国人住民に伝わる情報伝達手法とし
て外国人コミュニティ等への 電話・訪問等による情報提供や外国人住民に認知されている
媒体の活用が 有効ではないだろうか。 また国の災害関連情報は早く国の責任で速やかに
多言語提供できる仕組みを検討することが必要である。
第三節 『食事面における対策』
<周辺の避難所情報> <避難ルート案内>